碧乙は伊紀に話しかけられた事にもすぐには気づかず、「絶対に許さない」「お姉様に言いつけてやる」「決闘を申し込む」などと、ぶつぶつと不穏な台詞をうなだれながら口にしていたが、ようやく気をとり直して、
「え、ええ……そうね、亜羅椰さんには私から直接クギを刺しておかないと。
それでも耳を貸さないようなら、実力行使に出るしかないか。
で、あの時の結梨ちゃんのことね」
と、顔を上げて伊紀の方に向き直った。
「確かにいま思い出しても、あの時の結梨ちゃんのフィニッシュアタックは凄かったよね。
ネストのマギを利用してあんなウルトラ必殺技みたいな攻撃をしたんでしょ?
撃破後の退避方法さえ確立できれば無敵じゃない?
海岸からマギのビームサーベルがバッチリ見えるレベルだったもん。
いや、あれはもうビームサーベルを通り越して、ほとんどイデオンソードだったよ」
「あの、イデオンソードって何ですか?そんな名前のレアスキル、私は聞いたことないんですが……」
興奮気味に話し続ける碧乙に、おずおずと伊紀が尋ねた。
「準古典映像文化概論まだ履修してないの?あれ選択科目だけどオススメよ。
昔の超面白いアニメとか漫画の資料がいっぱい見られるから。
で、イデオンソードっていうのは、その講義の資料動画でイデオンが使ってた超絶必殺ウェポンのことよ。惑星だって真っ二つにしちゃうんだから」
「はあ……」
伊紀はまだ碧乙の話についていけない。
「そんなことも知らないの?」
碧乙は半ばあきれ顔で伊紀に尋ねた。
「知りません」
伊紀は実に素っ気なく答えた。
「じゃあ、イデオンガンもAメカBメカCメカも重機動メカも知らないっていうの?」
「全然知りません。大体イデオンって何なんですか?まずそこが分からないです」
「もう、仕方ないわね。一から説明してあげるから耳をかっぽじってよく聞いておきなさい」
妙に張り切って鼻息を荒くしている碧乙は、わざとらしく咳払いをしてから意気揚々と説明を始めた。
「えへん、そもそもイデオンというのは、かつて第六文明人が無限精神エネルギーとしてイデの力を」
「やっぱり遠慮しておきます。いろんな意味で聞かないほうがよさそうなので」
伊紀は何か聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような複雑な表情で、即座に碧乙の話をさえぎった。
「ええー、イデオン超面白いのになー、ちぇっ」
いかにも残念そうな様子で、碧乙は話を続けることを諦めた。
「たぶんそれは万人受けしない面白さだと思いますよ、お姉様」
それに対して、何とも気の毒そうな調子で伊紀はそう言った。
(どうやら最近の碧乙様は、前世紀に映像表現が全盛期だった頃の作品群に魅了されているようですね。
当時の言葉でサブカルチャーと呼ばれていた副次的文化の一部みたい。
うーん、私が知っているニ年生の中で、この手の話が合いそうなのは、百由様くらいかしら。
でも、百由様なら確実に結梨ちゃんのCHARMを魔改造して、
「どうかしら、バリバリにカスタマイズした結梨ちゃん専用グングニル、名付けてイデオンソードモデルよ。追加オプションで真っ赤に塗ってツノも付けておいたわ。これで普通のCHARMより三倍速く動けるわよ!」
とか言いだしそうでちょっと怖い)
そんな事をとりとめもなく伊紀が考えていると、十メートルほど先の結梨の病室のドアが開いて、中からロザリンデが出てきた。
今回までコメディー回となりました。
次回から平常進行のシリアス回に戻ります。
追記:百由様を一年生として誤記していたので訂正しました。大変申し訳ありませんでした。