アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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 新CHARM導入回です。オリジナルの機種ではなく、既に他メディアで登場済みの機種です。
 本当は洞窟再チャレンジまで進めたかったのですが、予想外に長文になったため、そこまでたどり着けませんでした。
 なお、途中でガンダムネタが少し入りますので、お嫌いな方はご注意ください。



第11話 江ノ島探索任務(5)

 

「天津麻嶺って、あの有名なアーセナルの?」

 

 碧乙が驚いた表情でロザリンデの方を見て言った。

 

 CHARMメーカー天津重工総帥の令嬢にして御台場迎撃戦の功労者、真島百由の知己で放浪癖のある天才的アーセナル。

 それが碧乙が知る天津麻嶺という人物の情報だった。

 

「CHARMケースらしき荷物を届けに来て、柳都女学館所属なら、本人に間違いないでしょうね」

 

「結梨ちゃん、そんな人と知り合いだったの?」

 

 今度は結梨の方を振り向いて、碧乙は尋ねる。

 

「うん。史房と一緒に御台場に行った帰りに、六本木の地下鉄の駅で出会ったの。

私にCHARMを作ってあげるって言ってたから、その荷物がそうだと思う」

 

「祀さん、天津麻嶺さんがこの荷物を――おそらくはCHARMでしょうけど――届けに来たのは、いつ?」

 

 ロザリンデはソファーの上に置かれたCHARMケースらしき荷物を横目で見ながら、祀に確認する。

 

「今から二十分くらい前だったと思います」

「移動手段は車だった?」

「いえ、駅から徒歩で来たようでした」

 

「結梨ちゃん、追いかけましょう。車を出すわ。うまくいけば駅までの道の途中で追いつけるかもしれない」

 

「このケースも持って行く?」

「そうね。説明を受ける時に、現物がある方がいいでしょうから。体の調子はどう?」

 

「ヒュージと戦うのは無理だけど、普通に動くくらいなら、もう出来ると思う」

「よかった。じゃあ一緒に行きましょう」

 

 祀たちに見送られて、結梨はCHARMが入っているであろうケースを抱えて、ロザリンデと一緒にミーティングルームを出ていった。

 

 地下の駐車場からガーデンの外へ出て、ロザリンデが運転するオリーブグリーンの高機動車は、江ノ電の鎌倉駅へ向かう。

 駅まであとわずかの所で、歩道を歩く女性の後ろ姿が目に入った。

 

 ロザリンデは緩やかに車を減速させ、女性の横に車を並走させた。

 助手席の窓を開けて結梨が顔を見せると、女性と視線が合った。

 

「ごきげんよう、麻嶺。久しぶりだね」

「あら、ゆりちゃん。ごきげんよう。もう任務から戻ったの?任務は上手くできた?」

 

「ううん、ヒュージはやっつけたけど、途中でガーデンに戻らないといけなくなって、まだ終わってないの。

CHARMも壊れちゃったし、次に出撃するまでには時間がかかりそう」

 

「そうだったの。それなら、ちょうどいいタイミングだから、私が持ってきたCHARMをさっそく使ってみる?

次に出撃する時までに操作に慣熟できれば、ヒュージとの戦闘は断然有利に進められるようになると思うわ」

 

「やはり、あの荷物はCHARMだったのですね。

あなたほどのアーセナルが製作したものなら、通り一遍の代物ではないと考えて構わないのでしょう?」

 

 停車した車からロザリンデが降りてきて、麻嶺に軽く会釈する。

 

「はじめまして、天津麻嶺さん。私は百合ヶ丘女学院3年生のロザリンデ・フリーデグンデ・フォン・オットーという者です」

 

「はじめまして、ロザリンデさん。あなたがゆりちゃんのシュッツエンゲルなんですか?」

 

「いいえ、まだ彼女には正式にシュッツエンゲルの契約を交わしたリリィはいません。それに私には既にシルトがいますので。

私は彼女の保護者のような立場だとお考え下さい」

 

「分かりました。私がゆりちゃんにCHARMを贈ることに何か問題はありますか?」

 

「ガーデンの審査は必要になりますが、あなたの評判は既に広く知られています。

百合ヶ丘のリリィにもあなたの作ったCHARMを使っている生徒はいますから、CHARMの承認については、まず問題なく認められると思います」

 

「だといいんですけど。今回作ったCHARMは、かなり尖がった機体なので、承認されるまでにはそれなりに時間がかかるかもしれません。

だからそれを見越して、百合ヶ丘のガーデンにはCHARMの仕様書と安全性についてのテスト結果を先行して送ってあります」

 

 麻嶺の話を聞いた結梨は、後部座席に置いてあるCHARMケースを見た。

 アステリオンやグングニルのものに比べて一回り大きいケース。

 まだその中に収められているCHARMの本体を確認してはいない。

 

「麻嶺、ここでケースを開けてみてもいい?」

「どうぞ、自分の目で確かめてみて」

 

 だが、ロザリンデはそれを制止した。

 

「ここは人目につくわ。いつも訓練に使っているガーデンの裏山まで移動して、そこで確認しましょう。麻嶺さん、ご一緒願ってもいいかしら?」

 

「はい、特に急いでいるわけでもなし、構いませんよ。でも、人目を避けるということには何か理由が?」

 

「私たちは専ら機密性の高い任務を担当するレギオンのリリィです。

そのため、いたずらに装備品を第三者の目に触れさせることは避けないといけないからです。

それが最新の装備であれば、なおさらです」

 

「そうだったんですか。それであの時、ゆりちゃんは御台場の制服を着ていたんですね。御台場のリリィとして行動する必要があったから」

 

「そういうことです。では車に乗っていただけますか?ここから15分ほどで到着できると思います」

 

 空いている後部座席に麻嶺が乗り込んだのを確認して、ロザリンデはゆっくりと車をUターンさせて、先程来た道を引き返し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 三人を乗せた車は、百合ヶ丘のガーデンの北方約1キロメートルの山中にある、開けたスペースにたどり着いた。

 周囲に人の気配は全く無い。

 

 CHARMケースを持って車を降りた結梨は、背の低い草むらの上にケースを置いてロックを解除する。

 ゆっくりとケースを開くと、中に収められているCHARMが姿を現した。

 

 そのCHARMを見た時、結梨はそれがこれまで見てきたどの機種とも似通っていないことに、すぐに気づいた。

 

「これ、CHARMなんだ。ユニットがいっぱいある」

 

 ふと横からケースの中をのぞき込んだロザリンデの表情が、急に緊張をはらんだものに変わった。

 

「このCHARMは――まさか」

 

 振り向いたロザリンデの視線を正面から受け止めて、麻嶺は小さく頷いた。

 

「そう。元々は百合ヶ丘の工廠科で開発がスタートし、一度は実戦テストまでこぎつけた後、諸般の事情で棚上げ状態になっていた第4世代の精神直結型CHARM、エインヘリャルです」

 

「なぜ、百合ヶ丘以外のガーデンがこのCHARMを作っているの?」

 

「エインヘリャルの開発を天津重工でも進められるように、以前から百合ヶ丘との間でカスタマイズ込みのライセンス契約を結んでいたんです。

この機体は、その完成した第1号機です。

もちろん量産なんてまだまだ遠い将来の話だけど、圧倒的な性能を持つ第4世代CHARMの開発自体は進めておかなければいけませんから。

百合ヶ丘では、現在は別の第4世代CHARMであるヴァンピールの開発を優先させていると聞いています。

おそらくはエインヘリャルよりヴァンピールの方が扱いやすい機体であることから、そちらに開発リソースを投入しているのでしょうね」

 

「第4世代のCHARMは使用者の精神に大きな負担をかけると聞いているけど」

 

「その点については、私も重々承知しています。

百合ヶ丘の開発初期段階の機体では使用者が重大な後遺障害を負ったり、その後の改良版でも精神薬を服用した上で実戦テストを行った記録があることも知っています。

だから、このエインヘリャルの開発を天津重工で引き継ぐに当たっては、安全性と安定性を最優先させて、内部の設計を大幅にリファインしてあります。

第1号機のこの機体は、可能な限りの安全マージンを持たせて、ドが三つ付くくらいのフラットな設定でセッティング済みです。

それに加えて、使用者の脳波の状態を常時モニタリングして、異常な値を記録した時には、出力のスロットリングおよび緊急停止を実行するモジュールを追加しています」

 

 麻嶺の説明を聞いたロザリンデは幾分その表情を緩めたが、まだ全面的に気を許したわけではなかった。

 

「安全対策に万全を期していることは分かったわ。

でも物事に絶対は無い。万が一の事態が起こった時はどう対処するの?」

 

「このエインヘリャルが異常な動作をしたにもかかわらず停止できなかったり、使用者の心身に明らかな異状が見られた場合は、その場でCHARMそのものを破壊してもらって構いません。

CHARMはまた作り直せるけど、人はそういうわけにはいかないから」

 

「承知したわ。その時は遠慮なく壊させてもらいます。

でも、私のCHARMは修理中だから、もう一人ここにCHARMを持って来てもらうわ」

 

 そう言うと、ロザリンデは通信端末を取り出して、碧乙に連絡を取り始めた。

 

「碧乙、ガーデンの北にある演習場まで、あなたのアステリオンを持って来てくれる?目的?実は、今から結梨ちゃんが新型CHARMの試運転をするの。

……いえ、そんなに慌てて来なくても逃げたりはしないから、落ち着いて。

あと、念のために史房さんに連絡を入れておいてくれるかしら」

 

 通話を終えたロザリンデに、結梨がエインヘリャルについて尋ねる。

 

「ロザリンデは、このCHARMのこと知ってるの?」

 

「ええ、実物を見たのは今日が初めてだけど、情報としては以前から知っていたわ。

脳波コントロールによる無線誘導の飛行ユニットを備え、遠隔操作での複数同時攻撃を可能にした次世代型のCHARM、それがこのエインヘリャルよ」

 

「そうなんだ……ケースから出してみてもいい?」

「そうね、先に内容を確認しておきましょう」

 

 二人がケースから取り出したエインヘリャルのパーツ構成は次のようなものだった。

 

 まず、腰の周囲に装着する流線型のプレートのようなユニットが五つ。

 

 うち一つはマギクリスタルコアが取り付けられたメインユニット、残りの四つはサブユニットで、五つのユニットすべてにマギビットコアまたは単にビットと呼ばれる分離型の飛行ユニットが備わっている。

 

 マギビットコアは剣の刀身のような形をしていて、その後部に推進用と姿勢制御用のスラスターが複数存在する。

 

 これらとは別に、手に持ってビームブレードとして使用するサブユニットが一つと、頭の左右に装着する脳波コントロールユニットが二つある。

 

「全部で八つのユニットか……脳波による無線誘導システムといい、やはり既存のCHARMとは完全に別物と考えた方がよさそうね。

装備する前にCHARMとの契約をしておきましょうか」

 

 結梨は右手の中指に嵌めた指輪を、メインユニットのマギクリスタルコアに触れさせた。

 マギクリスタルコアの表面に結梨のルーンが浮かび上がり、CHARMのOSが起動する。

 それを見た麻嶺が結梨に声をかける。

 

「CHARMの契約はもう済んだ?それなら各ユニットを実際に装備してみましょう」

 

 ケースから取り出した大小八つのユニットを、結梨は麻嶺に手伝ってもらいながら一つずつ装着していく。

 

「このCHARM、全部装備するのにちょっと時間が掛かるね」

 

「そうよ。だからどんな状況でも対応できる潰しの利くタイプじゃないってこと。

アステリオンやグングニルならケースから出してすぐに戦えるけど、このエインヘリャルには、それほどの即応性は無いわ。

理想としては準備万端の状態で、見通しのいい広い場所で全てのマギビットコアを自由に飛ばして戦うのが、このCHARMの性能を最も発揮できる環境ね。

その環境なら、大げさじゃなくエインヘリャル1機で1個レギオンに匹敵する攻撃力が出せる。

だからと言って、それ以外の場面で全然使えないわけじゃないけど」

 

「たとえば洞窟の中とかは?」

 

「狭い場所だと全部のマギビットコアをビュンビュン飛ばすのは難しいから、そこは工夫が必要ね。

逆に言えば、敵も多数を同時に展開できないから、ビット一つでも充分に攻撃できるはずよ」

 

「そうなんだ……じゃあロザリンデが先頭で、そのすぐ後ろは私と碧乙のどっちがいいのかな……」

 

再び訪れることになる江ノ島の洞窟での戦い方を、結梨が頭の中でシミュレートしていると、ロザリンデが結梨の肩に手を置いた。

 

「それは後でゆっくり考えればいいわ。今はこのCHARMがうまく動くかどうか、そのことだけに集中しましょう――ああ、碧乙が来たみたいね」

 

 ロザリンデが見た方向を結梨が振り向くと、アステリオンを持った碧乙が廃道同然の林道から走り出てきた。

 

「結梨ちゃん、お待たせ。うおっ、それが新しいCHARMなの?

SFメカと魔法少女を足して二乗したみたいな感じね。ひょっとして空を飛べたりするの?」

 

「結梨ちゃん自身は飛べないけど、CHARMの一部が分離して、それが脳波コントロールで飛行できるようになっているの」

 

「しかも脳波コントロールできる!フハハ怖かろう――ってやつですか。最高ですね」

「?」

「結梨ちゃん、碧乙の言うことは気にしなくていいわ。たぶん過去の映像作品でよく似た兵器が登場するんでしょう」

 

 ロザリンデは少々あきれた様子で碧乙の戯言を受け流すと、優しく結梨の手を取った。

 

「マギの状態はどんな感じ?CHARMを使えるくらいまで回復してる?」

「まだレアスキルは使えなさそうだけど、軽く動き回るくらいならできると思う」

「もし少しでも変な感じがしたら、無理をせずにすぐにCHARMを停止するのよ」

「うん、分かった」

 

 そうして間もなく、八つあるエインヘリャルのユニットすべてが結梨の体に装着された状態になった。

 

「よし、これで全部のユニットを装備できたわ。さっそくマギビットコアを動かしてみましょう。

ゆりちゃん、頭の中で腰のベースユニットからマギビットコアが分離するイメージを描いて。

脳波がうまくCHARMと同調すれば、ベースユニットとのロックが外れて、マギビットコアのスラスターが作動開始するから」

 

「うーん……」

 結梨が地面を見つめて眉を寄せる。その数秒後にカチッという小さい音がして、ユニットのロックが解除された。

 

 腰に装着した五つのベースユニットからマギビットコアが分離して、地面から数十センチメートルの高さを頼りなげにふらふらと漂っている。

 

 マギビットコア後部のスラスターからは、ビットに推力を供給している青白い噴射炎のようなものが、わずかに見えている。

 

「すごい、浮いてる」

「頭が痛いとか、気持ちが悪いとかは無い?」

「うん、別に変な感じはしてないよ」

 

 ロザリンデの問いかけに、結梨は気負いのない自然な表情で答えた。

 

「こんなに異質なCHARMなのに、すんなり馴染んでるみたいね」

 

 ロザリンデは結梨とエインヘリャルの親和性の高さに感心した様子で、宙に浮くマギビットコアを眺めた。

 

 だが、まだ結梨がエインヘリャルの操作に慣れていないためか、マギビットコアの動きはぎこちない。

 

 五つのビットは相変わらず不規則な動きで結梨の周りを漂っているが、それを見つめる麻嶺は満足げに小さく頷いた。

 

「マギビットコアの方はまずまず問題なさそうね。

今はまだ使い始めで上手くコントロールできないでしょうけど、練習を重ねれば段々スムーズに動かせるようになっていくから」

 

「このCHARMは、どうやってヒュージを攻撃するの?」

 

「いま目の前に浮かんでいるマギビットコアがビームの発射装置を兼ねているの。普通のCHARMはトリガーを指で引けば弾が発射されるけれど、このエインヘリャルは使用者のイメージで装置が作動するわ」

 

「頭で考えるだけで撃てるの?」

 

「そう、体を動かす必要は全くない。マギビットコアの操作は、すべて使用者の脳波で行えるようになっているの」

 

「まさか現実にファンネルが動くのを、この目で見られる日が来ようとは……生きててよかった」

 

「碧乙、ファンネルって何?」

 結梨はきょとんとした顔で碧乙を見ている。

 

「ふふ、後でたっぷり説明してあげるから、楽しみにしていて」

 

「碧乙、あまり自分の趣味に走った知識を押し付けては駄目よ」

 

 以前に一晩中その類の話を碧乙から聞かされ続けた経験のあるロザリンデは、碧乙に釘を刺したが、どこまでそれが効力を発揮するかは甚だ怪しかった。

 

 その会話を隣りで聞いていた麻嶺が、山の方を指さして結梨に指示を出す。

 

「次は、あの崖の中腹にある大きな岩を目標にして、射撃してみてくれる?全力全開で」

 

「思い切り撃っていいの?」

 

「ええ、まず100%の出力で、どれくらいの威力が出るかを確認しましょう。

そこから力をコントロールして、必要に応じて適切な出力で射撃できるように訓練していくの。

と言っても、今はチューニング無しの完全にフラットな設定になってるから、大した威力は出ないかもしれないけど」

 

「どうやって目標を狙ったらいいのかな」

 

「まずビットが目標の方を向くようにイメージして、角度を調整して……そう、そんな感じでいいわ。じゃあ撃ってみて」

 

「えいっ」

 

 結梨が目を閉じて間もなく、エインヘリャルの五つのマギビットコアそれぞれから純白に輝く光線が発射され、200メートルほど離れた直径約15メートルの巨岩に命中した。

 

 その瞬間、五本のビームが直撃した巨岩は瞬時に融解・蒸発して大爆発を起こした。

 

 発生した爆風と衝撃波がたちまち結梨たちのいる場所まで到達し、その場にいた全員が身を守るために慌てて地面に身を伏せた。

 

 爆散した岩石の破片が周辺一帯にばらばらと降り注ぎ、爆発音が何度も周囲の山々に木霊して響き渡る。

 

 しばらくして衝撃が収まり、結梨たちが伏せていた顔を上げると、巨岩のあった場所には直径数十メートルのクレーターのような穴が空き、煙は数百メートルの高度まで立ち昇っていた。

 

「……何これ?さっきのCHARMの攻撃でこうなったの?」

 

 崖の方角を見ながら、茫然とした表情で碧乙がつぶやく。

 

 麻嶺は驚きの表情を隠せずに結梨の顔を見た。

 

「これほどの威力が出るとは予想してなかったわ。

体内のマギをエネルギーとしてエインヘリャルのユニットに伝送する効率が、際立って高くなっているようね。

ゆりちゃん、もしかして、あなた強化リリィなの?」

 

「……どうしてそう思うの?」

 

「このエインヘリャルに限らず、精神直結型である第4世代のCHARMは、第3世代以前のCHARMに比べて、普通のリリィよりも強化リリィの方が適性が高く出る傾向があるの。

いま頭痛がしたり、気持ち悪くなったりはしていない?」

 

「別に変な感じはしないけど……」

 

「それなら、やっぱり強化リリィ並み、あるいはそれ以上の適性があるのは間違いないわ」

 

「この子はちょっとその辺りの事情が特殊なので、あまり突っ込まないでもらえると助かるのだけど」

 

 ロザリンデが二人の会話に割り込む形で、麻嶺の発言にストップをかけた。

 

「分かりました。そういうことなら、使用者に起因する理由をこれ以上考えるのは止めておきます。

それに、このレベルのCHARMをデフォルトの設定で問題なく使えているのなら、大幅なチューニングは必要ないでしょうし」

 

 麻嶺はあっさりと言って、それ以上の原因追究を中止した。

 

 その時、碧乙の通信端末が振動し、誰かが連絡を取ってきたことを示した。

 

 碧乙が制服のポケットから端末を出して通話を開始すると、史房の上ずった声が結梨やロザリンデの耳にまで聞こえてきた。

 

「ちょっと、あなたたち一体何をしでかしたの?

物凄い爆発音が生徒会室まで聞こえてきたわよ。

裏山の方からキノコ雲みたいな煙も上がってるし、まさかCHARMのテスト中にヒュージが出現してノインヴェルト戦術を使ったの?」

 

「いえ、結梨ちゃんが新しいCHARMの試射をしただけで、それが少しばかり威力が強すぎたようです。ご心配には及びません。

このエインヘリャルが量産の暁には、ギガント級なぞあっという間に叩いてみせますよ」

 

「――今、エインヘリャルって言った?本当にあのエインヘリャルを使ったの?

とにかく、すぐに今いる場所から離れなさい。

どこからどんな野次馬が集まってくるか分かったものではないわ」

 

「分かりました。ただちに撤収します」

 

 碧乙が史房との通話を終えて結梨たちの方を見ると、既に結梨はCHARMのOSをシャットダウンして、体からユニットを外しているところだった。

 

「CHARMを外し終わったら、車に戻ってガーデンに向かいましょう。

隠し通路から特別寮地下の駐車場に入るわ。

麻嶺さん、連れ回してすみませんが、その後で駅までお送りします」

 

 一礼するロザリンデに対して、麻嶺は小気味の良い微笑を浮かべて返答する。

 

「気になさらなくて構いませんよ。今日はこのエインヘリャルの思っていた以上の性能を見ることができて幸運でした。

 この状態のままでも充分に実戦に耐えると思いますが、いずれ機会を見つけて、少しずつチューニングを進めて行きましょう」

 

 百合ヶ丘のガーデンへ戻る途中の車中で、麻嶺はエインヘリャルのメンテナンスについて説明を始めた。

 

「この機体は基本的な整備や軽修理なら、百由レベルのアーセナルじゃなくても標準的な能力のアーセナルなら誰でも出来るように、極力シンプルな構造にしてあります。

 整備マニュアルはケースの中に同梱してありますので、後で確認しておいてください。

もちろんオーバーホールや脳波コントロールに関係する部分の重修理は無理だから、そのレベルの整備が必要になった時は、天津重工に現物を送ってください。

整備期間中は代品の機体をそちらに送るので、別のCHARMを使う必要はありません」

 

「それは助かります。私たちのレギオンのCHARMは、特定のアーセナルにしか整備を任せることを許可されていませんので」

 

 特務レギオンの作戦は極めて機密性が高い。そのため、その戦闘データが記録されているCHARMの整備は、ガーデンが指定した専任のアーセナルが担当している。

 

 現時点では百由は結梨の生存情報を開示されていない。

 この機体が百由でないと整備できない難易度であれば、頭を悩ませなければならないところだったのだ。

 

「今日はありがとう、麻嶺。このCHARMでうまく戦えるように頑張るよ」

 

「さっき見た限りでは、毎日訓練すれば1ヶ月もかからずに実戦でヒュージと戦えるんじゃないかと感じたわ。

ただし、近接戦闘ではサブユニットのビームブレードひとつだけしか武器が無いから、懐に入り込まれないように気を付けてね。

ロザリンデさん、くれぐれもその点はサポートが行き届くようによろしくお願いします」

 

「分かりました。戦闘時には必ず直掩のリリィを随伴させるようにします」

 

 やがて車は特別寮の地下にある駐車場に到着した。

 結梨と碧乙はドアを開けて降車し、車内に残っている麻嶺に結梨が声をかける。

 

「またね、麻嶺。いつか私も麻嶺のガーデンに行ってみたいな」

 

「アールヴヘイムが一緒に戦ってくれたおかげで、佐渡のヒュージネストも討滅できたことだし、外出許可を取ってぜひ一度来てちょうだい」

 

 別れの挨拶を終えた麻嶺を助手席に乗せて、ロザリンデの運転で車が走り出す。

 それを見送った後で、碧乙は結梨の肩を抱いて不敵な笑みを浮かべた。

 

「さて、それじゃあこのエインヘリャルを使って、あの洞窟をどう攻略するか、じっくりと作戦を考えましょうか」

 

 




 今回、麻嶺様が持ってきたエインヘリャルは、2冊目の小説版に登場する機体を改良したものとして設定しています。
 どうしてもエインヘリャルを装備した結梨ちゃんを描きたかったので、かなり強引な形で実現させました。
 ただ、小説版のエインヘリャルをそのまま使用するのは危険すぎるので、麻嶺様が大幅に改良するという形で導入しました。
 また、小説とアニメは別の世界線であるという認識が一般的なようなので、エインヘリャルに関する過去のトラブルについては、個人名を出さずにぼかした表現にしてあります。
 この点については、後で記述を変更または削除するかもしれません。
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