ラスバレメインストーリーの裏側でこんなことがあったかもしれない、くらいのつもりで書いています。
なので、ガチ考察的な内容としては読まないでください。
なお、後半部分でルド女舞台のネタバレ(?)らしき内容がありますので、ご注意ください。
特別寮のロスヴァイセ専用ミーティングルーム、その室内には、百合ヶ丘に帰投したロザリンデ、碧乙、伊紀、結梨、それに理事長代行の高松咬月、生徒会長の出江史房、秦祀、内田眞悠理の八名が集合していた。
「江ノ島の洞窟でケイブ発生装置の可能性がある機器を発見したとの報告を、先ほど出江君から聞いた。
これについては、速やかに現地から百合ヶ丘へ当該の機器を移動し、ガーデン内にて分析を行う。
報告では重要部品に欠品があり、作動不可とのことだが、出来る限り機能を復元することを目指す。
この件に関しては、ロスヴァイセに課せられた任務は現時点を持って完了とする。
以後は解析科と工廠科による分析の結果待ちとなる。
ご苦労だった、ゆっくり休んでくれと言いたいところだが――」
そこで咬月は一旦言葉を切り、斜め向かいのソファーに座っている史房の顔を一度見た。
「あいにく、休む間もなく次の任務を君たちに告げなくてはならなくなってしまった。
出江君、君から説明してもらえるかね?」
「はい、ガーデンに戻るまでに簡単に事情は話しましたが、改めて状況を説明させていただきます」
そう言って史房は東京で発生した「エリアディフェンスの崩壊」について説明を始めた。
その内容は以下のようなものだった。
今から数十分前に、新宿の都庁に設置されているエリアディフェンスシステムの基幹設備が突如「爆発的事象」を起こし、機能を停止した。
現時点では「爆発的事象」の原因は不明、まだ現場からの報告は入っていない。
そして、エリアディフェンスの機能停止によってケイブの発生を抑制できなくなったため、都内にはヒュージが至る所で出現を始めている。
しかし、東京および鎌倉府の主要ガーデンの外征レギオンは、そのほとんどが他地域への外征に出撃中であり、それらのレギオンをただちに呼び戻すことは困難な状況にある。
エリアディフェンス崩壊時点で機動的な作戦行動が可能なレギオンは、西東京防衛構想の会議に出席するため新宿にいた一柳隊、ヘルヴォル、グラン・エプレの3レギオンのみ。
それ以外のレギオンは、各所属ガーデン周辺のヒュージ迎撃に手一杯で、広範な部隊展開が出来ない状態にある。
臨時に編成された統合司令部からは、以上の事情を踏まえ、支援戦力として出撃可能なレギオンの派遣要請が百合ヶ丘に来ている。
「……で、私たちロスヴァイセにお呼びが掛かったというわけですか。
しかし、どうして世界に冠たる百合ヶ丘女学院の外征レギオン群が、よりによってこのタイミングで空っぽになってるんですか?」
ロザリンデ、伊紀とともにソファーに腰掛けた碧乙は不満たっぷりの表情で、少し離れたソファーに座っている史房に嫌味っぽく問いかけた。
アールヴヘイム、ローエングリン、レギンレイヴ、サングリーズル。
いずれのレギオンも遠隔地への外征に出撃中で、すぐに東京へ向かうことは出来ない状態にあった。
史房は碧乙の嫌味を気にする様子も無く、涼しげな顔で碧乙の疑問に答えようとした。
もっとも、それが内心の動揺を隠し、平静を装ったものでない保証は無かったが。
「由比ヶ浜ネストが討滅されて、このガーデンにSSSクラスのレギオンを常駐させておく必然性が無くなったからよ。
散発的に発生するケイブから現れるヒュージに対応するだけなら、そこまでの戦力は必要無いわ」
「しかし、SSクラスのレギオンなら、ロスヴァイセでなくとも他に幾らもあるでしょうに。
他のレギオンではなく、私たちが選ばれた何がしかの理由があるんですね?」
「そう。さっき説明したように、鎌倉府の他のガーデンや東京のガーデンでも、主要な外征レギオンはほとんど他地域に外征中という連絡が臨時統合司令部から入っているの。
御台場女学校、イルマ女子美術高校、聖メルクリウスインターナショナルスクール、どこも百合ヶ丘と似たり寄ったりの状況よ。
ルドビコ女学院については、別の事情で戦力は期待できないし」
「確率としては全くあり得ないことではないけど、それにしても間の悪い事この上ないわね……なんて答えを期待しているわけではないのでしょう?史房さん」
そう言って、ロザリンデは意味ありげな視線を史房に送る。
「お察しの通りよ。それぞれが非常に低い確率でしか起こりえない二つの状況、それらが同時に発生する確率は限りなくゼロに近い。
現在の状況が自然に発生したものであると考えるのは、それこそ余りにも不自然だと言えるわ」
「つまり今のこの状況は、人為的に仕組まれたものだということですね」
その結論を口にしたのは、碧乙の隣りに座っている伊紀だった。
「ええ。単なる事故が元でエリアディフェンスが機能停止したのなら、対ヒュージ戦闘を任務とする通常のレギオンを派遣するのが適当よ。
でも、そうではなく何者かがこの状況を作り出し、何かの目的に利用しようとしているのであれば、そういうわけにはいかないわ」
「回りくどい言い方はお止め下さい、史房様」
それまで黙っていた眞悠理が、ぽつりと囁くように史房に言った。
「今の日本でこんな大掛かりな企み事、いえ、計画的テロに等しい事を実行できるのはG.E.H.E.N.A.以外に存在しません。
全国各地にヒュージを同時多発的に大挙出現させて、主要ガーデンの外征レギオンを残らずそちらに振り向けさせる。
その上で、首都のエリアディフェンス設備の破壊を計画するなんて、一朝一夕に出来ることではありません。
おそらく相当入念に時間をかけて準備してきたのでしょう。
奴らは手薄になった都内に無差別にヒュージを出現させ、何らかの『実験』と呼ぶべきものを行おうとしているはずです。
これまでにも、東京では不自然なヒュージの出現がたびたび確認されていると聞きます。
その現象にG.E.H.E.N.A.が関与しているのは、百合ヶ丘のガーデンでも把握しているのではないですか?」
眞悠理はソファーの肘掛けに左肘をつき、足を組んだ不遜な姿勢で咬月を見やる。
咬月は目を閉じて一つ息をつくと、正面から眞悠理を見据えて重い口を開いた。
「断定はできないが、これまでに防衛軍から寄せられた情報として、ギガント級を含む大規模なヒュージ群との戦闘が発生した際、その上空にG.E.H.E.N.A.の救命輸送機が飛行しているのが複数回目撃されている。
通常の治療では救命不可能な致命傷を負ったリリィをG.E.H.E.N.A.ラボへ搬送し、強化処置を施して蘇生させるということが頻繁に行われているようだ。
それ自体はリリィの命を救うための止むをえない措置だと考えることもできるが――」
「意図的に強力なヒュージとリリィを戦わせ、致命傷を負ったリリィを強化リリィへと作り変える。
こうすれば合法的かつ本人の承諾なしに、強化リリィを『生産』できるというわけですね」
眉間にしわを寄せて、苦々しげに吐き捨てるように、眞悠理は咬月の言葉を引き継いだ。
「ロザリンデ、G.E.H.E.N.A.は東京で何をしようとしてるの?」
二人掛けのソファーに祀と並んで座っている結梨は、憂いを帯びた瞳でロザリンデの顔を見て問いかけた。
「そうね……一つには眞悠理さんと理事長代行の指摘のように、強化リリィをまとめて確保しようとしている可能性があるわ。
でも、膨大な準備コストをかけて、東京という大都市圏のインフラを大規模に棄損させてまで実行するほどのことでは無いと思う。
それよりも、強力なレギオンがその場に存在しない環境を作り出して、ヒュージを用いた重要な『実験』を邪魔されないようにしたいのではないかしら」
「でも、そんな事をしたら、巻き添えで人がいっぱい死んだり傷ついたりするよね」
「G.E.H.E.N.A.にとって、自分たちの役に立つ者以外の命は、鳥の羽根よりも軽いわ。
それが言い過ぎだとしても、彼らが達成しようとしている目的のためには、その程度の犠牲は容認できると考えている。
当然、彼ら自身はその犠牲に含まれない前提で」
「G.E.H.E.N.A.って、本当に悪い人たちだね」
結梨は頬を膨らませて純粋な感情のみで怒っていたが、ロザリンデは複雑な表情で、結梨に諭すように自らの考えを言葉にする。
「地獄への道は善意で舗装されている、と言うわ。
表向きは、彼らは人類のために良い事をしているつもりなのよ。
その裏側に隠れている支配欲や権力欲、残忍さを自覚しているかどうかは別として」
ロザリンデの発言の後、重苦しい沈黙がその場を支配した。
その沈黙を破ったのは、咬月の声だった。
「現時点ではG.E.H.E.N.A.がエリアディフェンスの崩壊に関与している証拠は無い。
しかし偶然に発生した事故であると断定するには、不自然な点が多いことも事実だ。
それゆえ、臨時統合司令部からの支援要請に応じる形で、特務レギオンであるロスヴァイセを現地に派遣する。
そして戦力支援の任を果たした上で、今回の『爆発的事象』が人為的なものかどうか、そうであればG.E.H.E.N.A.が関与しているのかどうかを確認してもらいたい」
次いで、史房が手元の資料に目を落として、要請についての説明をする。
「その臨時統合司令部からの支援要請の内容は、新宿御苑およびその周辺地域に対して重点的な戦力投入を求めています。
その理由としては、山手線の内側にまでヒュージが入り込んでいて、近傍に位置するルドビコ女学院のリリィだけでは抑えきれない可能性があるため、とのことです」
その時、碧乙が何事かを思い出したように史房の方を見た。
「そう言えば、史房様が以前ルド女を訪問された際の報告書にもありましたね。
教導官が多数欠員の状態になっていて、現在は複数のレギオンを有機的に連動して運用できない旨の説明を受けたと」
「そのルドビコの教導官欠員についてですが、もう少し詳しい情報が入っています。
史房様、私から説明してよろしいでしょうか」
史房は説明の許可を求めた祀に対して黙って頷き、肯定の意を表した。
「では説明します。ルドビコ女学院が実質的に崩壊したという情報を得る少し前の時点で、泉・ローザ・莉奈という教導官が、殺人事件の容疑者として全国に指名手配されていたことが分かりました」
「はぁ?殺人ですって?……ひょっとして、ルド女が崩壊したっていう情報は、その泉って教導官が関係してるの?
とても無関係とは思えないんだけど」
にわかには信じがたいという表情で、碧乙が祀に食って掛かった。
その碧乙に祀は困惑気味に答える。
「そこまでは何とも……分かっているのは、ルドビコの教導官が多数欠員となっていて、その大部分は何らかの理由で死亡したと思われることよ。
そのためにガーデン全体での指揮統制が困難になり、現在はガーデンの周辺に限定した戦闘しかできなくなっていると考えられるわ」
「まさか、容疑者の教導官が同僚を何人も殺して逃亡したっていうの?
めちゃくちゃな話ね。何をどうしたら、そんな事になるの?推理小説じゃあるまいし」
「いえ、指名手配時の一般公開情報では、被害者は海堂・ベアトリス・千春という教導官一人だけよ。
背中にCHARMで攻撃されたような傷があり、それが致命傷になったと。
それ以外の欠員となっている教導官については消息不明、おそらく死亡していると百合ヶ丘では見ているわ。
一方で、泉教導官が最近ルドビコのガーデン内で目撃されたという未確認情報もある。
この件については、かなり情報が錯綜しているようね」
「……まともに考えようとすると頭が変になりそうだわ。
今はルド女のことは置いておいて、話を新宿御苑防衛の任務に戻しませんか?史房様」
その時、碧乙の発言に続けて、ロザリンデが史房に確認の言葉を重ねた。
ただし、碧乙の意図とは逆の方向で。
「そういうわけにはいかないのでしょう?史房さん。
ルドビコ女学院の実質的な崩壊にも、G.E.H.E.N.A.が関わっている可能性がある以上は」
またしても意味深な目で史房を見るロザリンデに、碧乙が意外そうな表情をする。
「もしかして、ルド女が親G.E.H.E.N.A.主義ガーデンだから、その内部でG.E.H.E.N.A.が関与して生じた問題が原因でルド女のガーデンが崩壊したと、お姉様はお考えなのですか」
「その可能性は大いにあると見ていいわ。
危険な実験に失敗して多数の死傷者を出したか、あるいは仲間割れを起こして大規模な殺人事件に発展したか……すぐに思いつくのはこれくらいだけど」
「どれだけトラブルメーカーなのかしら、あの組織は」
あきれた顔でため息をつく碧乙とは対照的に、史房は不敵な笑みを浮かべて白い歯を見せた。
「その意味でも、臨時統合司令部が新宿御苑周辺を担当区域として百合ヶ丘に支援要請してきたのは、僥倖だったと言えるわ」
「実はそれも何者かの思惑が介在した結果じゃないんですか?
司令部の中に反G.E.H.E.N.A.か親G.E.H.E.N.A.どちらかの軍人や官僚がいて」
すっかり陰謀史観に囚われた碧乙は、すべての成り行きが何者かによって仕組まれたものであるかのように思われてきた。
一方、史房は何者かの意図が背後にあったとしても、それを利用して、むしろこの状況に積極的に介入していくべきだと考えていた。
「それは今の私たちには分からないわ。
でも、もしそうであったとしても、この好機を黙って見過ごすわけにはいかない。
突然の大規模なヒュージの出現で、おそらく現地は混乱を極めているはず。
その隙に乗じて、平時では近づくことが不可能なレベルの情報を、できる限り集めておくチャンスと捉えなさい。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、よ」
「生徒会長は虎穴に入らずにすむから、そんな事を言えるんですよ。
虎穴に入る方の身にもなってくださいよ」
段々と前のめりになって来た史房に、幾分辟易した様子で碧乙は文句を言った。
一通りの情報共有が終わったことを見届けて、咬月が改めてロザリンデたちに任務の目的を説明する。
「君たちロスヴァイセに下される直命の内容は次の二点だ。
一つはエリアディフェンス設備の『爆発的事象』の現場を訪れ、それが事故なのか、人為的に破壊されたものかを確認すること。
人為的なものであった場合、可能ならば、G.E.H.E.N.A.の手によるものか特定できる証拠を確保すること。
もう一つはルドビコ女学院が実質的に崩壊した経緯と現在の状況について、可能な限りの情報を得ること。
当然ながら、臨時統合司令部からの支援要請任務を果たした上でのことだ。
また、直命の任務は機密扱いとなるため、一柳隊およびヘルヴォル、グラン・エプレとの接触は一切禁止する」
「それほどの内容となると、逐一ガーデンに連絡を取りながら許可や承認を求めていては、機を逸することになりかねませんが」
「それについては、君たちに現場での判断を一任する。
その結果に対してはガーデンが全責任を負う。
君たちが罰せられることは無いと保証する」
「分かりました。現地への移動手段はどのように?」
ロザリンデの質問に答えたのは、咬月ではなく史房だった。
「外征用のガンシップを出すわ。空路で新宿御苑上空まで移動し、敷地内に直接パラシュートで降下してもらいます。
あなたたちも定期的に訓練は受けているでしょう?」
「私たちロスヴァイセは特務レギオンであって、空挺部隊じゃないんですけどね」
碧乙は少なからずうんざりした口調で史房に皮肉を言ったが、史房はそれを全く意に介さない様子だった。
「ガンシップは二十分後に離陸させます。各自それまでに出撃の準備を完了させておくように」
「結梨ちゃん、必ず無事に戻って来てね。本当に危なくなったら、私に直接連絡しても構わないからね。何だったら無理を言ってでも、私も一緒に出撃させてもらおうかしら」
「祀様、それはいくらなんでも困ります……」
あながち冗談とも言い切れない祀の言葉に伊紀は困惑し、結梨の方をちらりと見る。
「大丈夫、今度はロスヴァイセのみんなと一緒だし、私の力がみんなの助けになるなら、私は行かなくちゃいけない。
だから、祀は心配せずに百合ヶ丘で待ってて」
過保護な母親のように結梨を気遣う祀に、結梨は祀の目を見て毅然とした態度で決意の言葉を告げた。