アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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 小説版では呪いの装備的な扱いだったエインヘリャルの、実戦での運用モデルを描写してみました。
 小説以外の媒体でも登場してほしいのですが、他のCHARMとリリィの出番を全部食ってしまうので、可能性はほとんど無さそうです。
 なお、この作品は結梨ちゃん全肯定ストーリーなので、見せ場を遠慮なく総取りしています。



第12話 エリアディフェンス崩壊(2)

 

 巡航速度で飛行するガンシップの丸い窓から、東京の街並みが眼下に広がってきたのが結梨の目に見えた。

 

 広大な市街地の至る所から黒煙が立ち上り、その光景は既に都内各所でヒュージによる破壊と戦闘が行われていることを告げていた。

 

 数週間前にこの地を史房とともに訪れ、帰途に六本木でヒュージの襲来に巻きこまれた時は、この下で右往左往する避難者をかき分けて戦場へ向かったのだ。

 

 あの時に自分とすれ違った何十人、何百人の人々が、今また生命の危険にさらされている。

 

 東京全体では数百万の人間が、この空の下で逃げまどっているのだ。

 

 自分一人の力で全体の戦局を変えるのが不可能なことは、途方も無い市街地の広さを見れば嫌でも理解せざるを得ない。

 

 しかし、自分が全体の戦局を変える力の一部になることはできる。

 

 司令部から支援要請を受けた区域のヒュージを殲滅し、百合ヶ丘のガーデンから命じられた任務を果たす。

 

 エリアディフェンス爆発現場の確認、ルドビコ女学院崩壊の真相、いずれも一般的なレギオンには無縁の調査対象だ。

 

 そして、それらのどちらにもG.E.H.E.N.A.が関わっている可能性がある。

 

 自分を生み出した主体であり、自分を人ではなくヒュージあるいは生体兵器として扱おうとする存在、それが結梨にとってのG.E.H.E.N.A.の定義だった。

 

 毒親という俗語を、何かの機会に耳にしたことがある。

 

 G.E.H.E.N.A.から救出されて百合ヶ丘に在籍しているリリィにとっては、誰もが縁を切ってしまいたいと願ってやまない毒親、それがG.E.H.E.N.A.なのだろう。

 

 いつかはG.E.H.E.N.A.が自分たちの脅威でなくなる日が来るのだろうか。

 

 一体、それは何をどうすれば可能になるのだろうか。

 

 梨璃や夢結やロザリンデたちと一緒に、自由に、平和に生きていける日は――

 

 

 

 

 

 

 

 

「結梨ちゃん、どうしたの?何か気になるものでも見えるの?それとも飛行機酔い?」

 

 無言で窓の外を見つめ続けていた結梨に、ロザリンデが心配そうに尋ねかける。

 

 そのロザリンデに向かって、結梨は軽くはにかんで返事をする。

 

「ううん、ちょっと考え事をしてただけ。もうすぐ新宿に着くんだよね」

 

「ええ、さっき多摩川を越えたところだから、もう間もなく新宿御苑の上空に差しかかるはずよ。

離陸前に言ったとおり、素顔が直接見えないようにゴーグルをしておいてね」

 

「うん、パラシュートも準備できてるし、いつでも降りられるよ」

 

 やがて、窓の外に特徴的な形の都庁舎が見えてきた。

 

 ガンシップの後部座席に搭乗しているオペレーターの声が、結梨たちがいるカーゴブロックのスピーカー越しに聞こえてくる。

 

「現在、新宿御苑とその周辺にミドル級以上のヒュージは確認されていません。

パラシュートでの降下は可能と判断します。

ただし、南の方角から接近中の群れがあります。

降下完了後はただちに戦闘態勢に入ってください」

 

「了解。その群れにギガント級はいるの?」

 

 ロザリンデがマイクを使って問い返すと、オペレーターは否定の返事をした。

 

「いえ、現時点でギガント級の存在は確認されていません。

ラージ級が12体、各個体にそれぞれ十数体のミドル級とスモール級が随伴しているとの情報が、臨時統合司令部から入っています」

 

「一個レギオンで相手をするには少々骨が折れるわね。

まともに正面から交戦したら、掃討に1時間以上は必要だわ。

周辺に私たち以外の戦力は無いの?」

 

「ルドビコ女学院のリリィが展開中ですが、ガーデン周辺を防衛することに専念しているようです。

ガーデンの司令部が実質的に機能していないため、積極的な作戦行動ができないものと思われます」

 

「やはり、ルドビコの戦力をあてには出来ないということか……」

 

「目的地の上空に到達しました。降下を開始してください」

 

 ガンシップ後部のカーゴドアが開き、ロスヴァイセのリリィが各自のCHARMを携えて、順次空中へダイブしていく。

 

 新宿御苑の上空に次々とパラシュートが開き、合計10名のリリィが広大な敷地の東寄りにある整形式庭園に着地した。

 

 着地後、ただちにパラシュートを身体から脱着し、陣形を展開可能な状態に集合する。

 

「今のところ、この近くには私たち以外のリリィはいないみたいですね。

降下前に聞いた情報では、もうすぐ南方面からヒュージの群れが現れるはずですが……」

 

 伊紀が隣りに立つ碧乙の顔を見ると、碧乙は南の空を眺めながら、不敵につぶやく。

 

「噂をすれば何とやらで、おいでなさったみたいよ」

 

 碧乙が見つめる御苑南側の林の遥か向こうから、巨大な生物がうごめく気配がわずかに漂い始めた。

 

 同じくその気配を感じ取ったロザリンデは、レギオンの全員に戦術の指示を出す。

 

「群れが御苑に入ってくるのを待たず、その手前で縦隊になっている状態を叩きましょう。

大きな群れであっても横方向に展開できなければ、先頭の個体から順に各個撃破できるわ」

 

「分かりました。それではロスヴァイセは御苑の外へ出て、片側三車線の都道418号線でヒュージを迎え撃ちます」

 

 主将である伊紀がロザリンデに答え、ロスヴァイセの9人のリリィと結梨は御苑東側のメインゲートを通って敷地の外に出た。

 

 目の前には既に走行する車も歩行者も無く、無人の状態となった都道418号線が南北に走っている。

 

 周囲の建物には破壊の後は無く、まだここまでヒュージは侵攻していないことがうかがわれた。

 

 あらためてロザリンデが全員に対してフォーメーションの確認をする。

 

「BZとTZのリリィは結梨ちゃんを中心に輪形陣を形成。

ラージ級はすべて結梨ちゃんがエインヘリャルで攻撃する。

碧乙は結梨ちゃんの隣りでヒュージの動きを予知してテレパスで伝達。

私と伊紀はAZでミドル級以下の個体が近づかないように排除する。

討ち漏らした個体は直掩のBZとTZが迎撃して」

 

 その指示に従って、結梨を中心とした新しいフォーメーションが整然と展開され、ヒュージの出現を待つ。

 

 すると200メートルほど先、緩やかに道路が左にカーブしている所から、群れの先頭を進むラージ級の巨体が現れた。

 

 その周りには、大小十数体のミドル級とスモール級が群れを成している。

 

「レギオンには近寄らせない」

 

 結梨はエインヘリャルのマギビットコアをベースユニットから分離させ、前方のラージ級を含む群れへ向けて飛翔させた。

 

 ベースユニットから分離した五つのマギビットコアは、スラスターの出力を絶え間なく変化させ、ジグザグの不規則な軌道を描きながら、ヒュージの群れをめがけて急速に接近する。

 

 それに対して、ヒュージがエネルギー弾を射出してマギビットコアを撃ち落とそうとしても、標的の小ささと動きの不規則さのため、ほとんど狙いを定めることができない。

 

 何体かのヒュージが対空砲火のようにエネルギー弾を発射したが、照準合わせが全く追い付かず、弾は虚しくマギビットコアの遥か後方に飛んでいく。

 

 そうしている内にも、マギビットコアは先頭のラージ級ヒュージを包囲するように距離を詰めていく。

 

 結梨は目を閉じて、隣りにいる碧乙のファンタズムによる予知イメージに従ってマギビットコアを操っている。

 

 そして五つのマギビットコアが攻撃配置につき終った瞬間、結梨の目が豁然と開き、発射されたビームがラージ級の四本の足を集中的に攻撃した。

 

 上下左右360度あらゆる方向から変幻自在に発射されるマギビットコアのビーム攻撃に、ラージ級は全く反応できない。

 

 瞬く間に四本の足すべてを繰り返し撃ち抜かれ、ラージ級の動きが停止する。

 

 そこへマギビットコアは胴体の中心を狙って、五方向から一斉にビームを発射した。

 

 そのすべてが正確無比にラージ級の急所を貫き、一瞬の後にその巨大な体躯は轟音とともに跡形も無く爆散した。

 

 後に残ったのは、ラージ級の周囲を猛禽類のように飛び回っていた五つのマギビットコアのみ。

 

 攻撃開始から撃破完了まで、要した時間はわずか十数秒。

 

 一機のCHARMで一隊のレギオンに匹敵する性能を持つと天津麻嶺が豪語したエインヘリャル。

 

 その驚異的な攻撃力を目の当たりにして、ロスヴァイセのリリィたちは茫然と立ちすくんだ。

 

「何あれ、CHARMにあんな攻撃ができるの?まるで人が蜂の群れに襲われてるみたいだった……」

 

「あれが第4世代CHARMの能力……今までの機体とはまるで別物だわ」

 

 眼前で展開された一方的な戦闘を、輪形陣の一端から眺めていた1年生の小野木瑳都は、結梨の隣りに立っている碧乙に話しかけた。

 

「あのCHARMが本格的に実戦配備されれば、リリィに対するヒュージの数的優位を劇的に逆転できるのではないですか、碧乙様」

 

 瑳都の言葉に振り向いた碧乙は、「そう上手くいけばいいんだけどね」と肩をすくめて苦笑いした。

 

「問題は、現時点でエインヘリャルを実戦レベルで扱えるリリィが、結梨ちゃん以外に存在しないことよ。

他のリリィがあのCHARMを使おうとすれば、強烈な頭痛や目まいに襲われて、最悪の場合は廃人になりかねないわ。

今は安全装置が多重的に追加されているから、そこまでの事態にはならないけど、マギビットコアを起動させるだけでも殆どのリリィには出来ないでしょう。

だから、あのエインヘリャルは事実上の結梨ちゃん専用ユニークCHARMと考えておく方がいいでしょうね」

 

 最優先の攻撃目標であったラージ級を撃破した結梨は、休む間も無く、その周囲を取り巻いていたミドル級とスモール級に攻撃の矛先を向けていた。

 

 直上数十メートルの死角から落雷のようにマギビットコアのビームが降り注ぎ、ミドル級とスモール級は回避運動も取れないまま次々と撃ち抜かれていく。

 

 ビームの直撃を受けた個体は跡形も無く爆発四散するか、その場に崩れ落ちてそのまま動かなくなるかのいずれかだった。

 

 一斉射につき確実に5体のヒュージを屠っていくエインヘリャルの攻撃によって、片側三車線の広い車道は見る見るうちにヒュージの死骸で埋まりつつあった。

 

 エインヘリャルの攻撃から運よく逃れたわずかな個体も、AZの底で待ち構えていたロザリンデと伊紀に全て駆逐され、輪形陣の近くまで辿り着いたヒュージは皆無だった。

 

 先頭の群れを完全に壊滅させたことを確認すると、結梨はマギビットコアをその後ろの群れにいるラージ級に向かって再び突入させていく。

 

 数十秒後に先程と同じ光景が展開され、ラージ級は満足な反撃一つできないままに爆散し、ミドル級とスモール級は天から稲妻のごとく降り注ぐ純白のビームに貫かれて、次々と屍を路上に積み上げていく。

 

 戦闘開始から30分を待たずして、12体のラージ級と、その十倍以上に上る数のミドル級とスモール級ヒュージは全滅した。

 

 そのほとんどは、わずか一機の新型CHARMによって為す術も無く蹂躙されるだけの存在でしかなかった。

 

「お疲れさま。想定通りではあったけど、いざ実際に攻撃するところを見せつけられると圧巻ね。

体調に変化は無い?マギはどのくらい残ってるか分かる?」

 

 マギビットコアを腰のベースユニットに戻した結梨に、碧乙がその肩に手を置いてねぎらいの言葉を掛けた。

 

「ちょっと疲れたけど、気持ち悪くなったり頭痛がしたりはしてないよ。マギもまだ半分以上はあると思う」

 

 一騎当千の活躍をした割には、余りにもあっさりとした返事を結梨は碧乙に返すのだった。

 

 一方、AZを担当するロザリンデと伊紀は、結梨と碧乙を囲む輪形陣から数十メートル離れた所に立っていた。

 

「今現在、ヒュージサーチャーに反応はありません。このあたりのヒュージは先程掃討した群れ以外にはいないようです」

 

「では司令部に状況の終了を連絡、次の指示を――」

 

 ロザリンデが伊紀に言いかけた時、突然、彼女たちの耳に拍手の音が聞こえてきた。

 

 その場にいた全員が拍手の聞こえてきた方向を一斉に見ると、グングニル・カービンを携えた一人のリリィが、ゆっくりとロスヴァイセの輪形陣に近づいてくる姿が目に入った。

 

 そのリリィは、輪形陣の中心にいる結梨の姿をまっすぐに見据えていた。

 

「ヒュージの群れを追ってみれば、随分と面白いCHARMを使うリリィがいるみたいですね。それに、とてもお強い。

――是非、この私と手合わせをお願いします」

 

 結梨の隣りにいた碧乙が一歩前に進み出て、結梨の姿を隠すように立ちふさがった。

 

「その制服、ルドビコ女学院のものね。戦場でヒュージとの戦闘そっちのけでリリィ同士の手合わせを挑んでくるなんて、親G.E.H.E.N.A.主義のガーデンにふさわしい不作法ぶりね」

 

「いえ、これはガーデンの校風とは関係ありません。純粋に私個人の意思に基づく行動です」

 

 そのリリィは一歩も退くことなく、堂々とした態度で碧乙に相対した。

 

 ただならぬ雰囲気に気づいたロザリンデと伊紀が、結梨たちの近くまで走り寄って来る。

 

「手合わせですって?この非常時に何をふざけた事を――」

 

 その見知らぬリリィの姿をはっきりと視界に捉えたロザリンデは、一瞬にして表情をこわばらせた。

 

 ルドビコ女学院の制服、頭に装着されたヒュージサーチャー、得物のグングニル・カービン、髪型、顔立ち、背格好……そのすべてが史房の報告にあった特徴と一致していた。

 

「戸田・エウラリア・琴陽……!」

 

 『御前』が代理人に指名した当の人物を目の前にして、ロザリンデは上ずった自分の声を抑えることができなかった。

 

 




 御台場の舞台を配信で視聴しましたが、とんでもない登場人物が一人いて衝撃を受けました。
 今後の御台場絡みのエピソードは一から考え直しになりそうです……
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