アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第2話 還るべき場所(5)

 

 碧乙と伊紀は結梨の病室から出てきたロザリンデに足早に近づいて、結梨のことを尋ねようとした。

 

「そうね、立ち話ですむような内容ではないから、そこの待合室で座って話しましょう」

 

 三人は先ほどまで碧乙と伊紀が会話していた待合室へ戻り、ロザリンデを真ん中にして横並びの椅子に腰を下ろした。

 

「まず、何から話しましょうか」

 

「今の結梨ちゃんの体調はどうなんでしょうか。

外傷は無いように見えたんですが、内臓や脳にダメージがあったりは……」

 

 先にロザリンデに問いかけたのは伊紀の方だった。

 

「念のため一通りの検査は実施したけど、医学的な問題は見られなかったとのことよ。

ただ、体内のマギがほぼ尽きていて、その回復に数日から一週間程度かかるのではないか、と病室を訪れる前にシェリス先生から説明を受けたわ。

マギが尽きていた原因については、今のところ不明だそうよ」

 

「そうですか、じゃあマギが回復すれば普通に生活できるということですね」

 

 碧乙と伊紀はほっと安心した様子で胸をなでおろした。

 

 なお、ロザリンデがその名前を挙げたシェリス・ヤコブセンは、特別寮支配人、教導官、保険医、ロスヴァイセの管理人を兼務するガーデンの教職員である。

 

「退院後は結梨ちゃんはどこで生活するんですか?」

 今度は碧乙がロザリンデに質問した。

 

「今の時点で結梨ちゃんの生存を公にするわけにはいかないから、さしあたって特別寮で私たちと一緒に生活することになるわ」

 

「公にできない理由は……」

 伊紀がロザリンデに聞こうとしたその途中で、

 

「言わなくてもアレしかないでしょう」

 ロザリンデは溜め息まじりにわざと曖昧な言い方をした。

 

「G.E.H.E.N.A.か……あいつらさえいなければ、すぐにでも一柳隊のみんなに逢わせてあげられるのに」

 

 碧乙はそれが行儀悪い仕草だと分かってはいたが、舌打ちせずにはいられなかった。

 

 結梨の戦闘能力を知ったG.E.H.E.N.A.は、いや、正確にはG.E.H.E.N.A.の急進派は、結梨が生きていると分かれば血眼になって結梨の身柄を奪おうとするに違いない。

 それは火を見るより明らかだ。

 

「実は結梨ちゃんは生きてました。これからは一人のリリィとしてヒュージ打倒のため、百合ヶ丘のみんなと一緒に頑張ります!

めでたしめでたし……なんてすんなり行くはずないよねえ……やっぱり」

 

「その場合、G.E.H.E.N.A.はどうやって結梨ちゃんの身柄を確保するつもりなんでしょうか?」

 

「さあね、無理やり難癖つけてきて、この前みたいなことしてくるんじゃない?」

 

 碧乙は深く考えるのも面倒くさいと言わんばかりに、肩をすくめて両手の手のひらを上に向けた。

 

「また戦車や装甲車がうようよ集まって来るんですか?あんなの、もううんざりですよ」

 

 伊紀は顔をしかめて、ぶんぶんと首を横に振った。

 

「ふん、来るなら来いってなもんよ。

戦車砲くらいでリリィの防御を抜けるかっての。

本気で私たちを仕留めたいならICBMでも持ってきなさいってんだ」

 

「そんな挑発的なことを江戸っ子みたいな口調で……いけません、お姉様」

 

 伊紀が諫めるように碧乙に言ったが、実際のところ、万が一そのような事態になれば、大多数のリリィが碧乙と同じような感情を抱くだろうとロザリンデは思った。

 

 あの時は結梨をヒュージとして捕獲するという大義名分があったため、追跡にあたった百合ヶ丘や他ガーデンのリリィは、政府命令の形をとったG.E.H.E.N.A.の指示に大人しく従った。

 

 しかし、現在は遺伝子情報から結梨は人であると証明されている上に、あのギガント級ヒュージから百合ヶ丘のガーデンとリリィを守り抜いた英雄のような存在だ。

 

 その結梨をG.E.H.E.N.A.に引き渡すということは、言わば救国の英雄を敵国の人体実験に差し出すに等しい。

 

 そんなことを黙って見過ごすくらいなら、百合ヶ丘の全リリィが身命を賭して結梨を護ろうとするだろう。

 

 ガーデンとしては、そんな事態が訪れることは何としても避けたいのは間違いない。

 

 その上で、G.E.H.E.N.A.のこれまでのやり口を考えると、やはり軽々に結梨の存在を明らかにするわけにはいかない。

 

 結梨の生存が明るみに出てしまう可能性自体は想定しておかなくてはならないが、G.E.H.E.N.A.に引き渡さずに済む保証が確立するまでは、やはり未帰還死亡扱いのままにしておくのが妥当だろう。

 

 実にすっきりしない状態ではあるが、今のところはこれが「まだ一番まし」な選択肢だとガーデンも判断するだろうとロザリンデは予想している。

 

 

 

 

「ところで、結梨ちゃんが特別寮の外に出られるようにすることはできるんですか?」

 

 碧乙がロザリンデに尋ねると、ロザリンデは小さくうなずいて口を開いた。

 

「それについては、理事長代行と生徒会の三役と私とで対応を考えるつもりよ。

必要ならガーデン外の機関に協力を要請する可能性もあると思う。

もちろん最終的にはガーデンからの承認が必要になるけれど」

 

「ガーデン外の反G.E.H.E.N.A.勢力ですか、それはそれでキナ臭いことこの上ないですね」

 

「百合ヶ丘のガーデンも反G.E.H.E.N.A.主義ガーデンの筆頭ですよ、碧乙様」

 

「まあそれはそうなんだけど……相手の実像が分からないと、どうしても警戒してしまうしね」

 

「ただ、もし何らかの形で特別寮の外に出ることが可能になったとしても、結梨ちゃんと面識のある人とは逢えない可能性が高いと思うわ。

表向きは死亡したことにしておく必要があるから」

 

 結梨の生存をガーデン内に公表した上で、百合ヶ丘のリリィ全員に箝口令を敷き、外部には秘匿するというのは難しいだろう、とロザリンデは考えている。

 

 たとえガーデン内であっても、結梨が一般教室や校庭に姿を見せれば、外部から覗き見られる危険が常にある。

 

 とすれば、結梨が特別寮以外でその存在を隠さなくていい場所は、ガーデン外で、かつ顔見知りがいない所という条件でのみ可能になる。

 もちろん念には念を入れて、何らかの外見的変装は必要になるだろう。

 

 あとはガーデン外で何かの機会に身分確認を要求されたときの証明となるものが必要だ。

 そのことも考えておかなければならない。

 

 いかにも特務レギオンにふさわしい政治的難題ね、とロザリンデは苦笑した。

 

 

 

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