アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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 今後しばらくの間は、舞台の情報のうち、アニメやラスバレの設定と矛盾しなさそうな部分を使ってストーリー展開していきます。
 (現状では各メディア展開の中で、舞台が最も先行して情報の更新が進んでいるため)

 また、上級生間の会話が中心となるため、結梨ちゃんをはじめ1年生のセリフが少なくなっていますが、決め所ではできるだけセリフを多くするつもりです。

 注)今回投稿分ではルド女レジスタンス編のネタバレがあります。



第12話 エリアディフェンス崩壊(4)

 

 木陰から現れた二人のリリィは、ゆっくりと琴陽と結梨の方へ歩き始めた。

 

「幸恵様に来夢さん。どうしてここへ?

ガーデンの防衛に当たっていたのではなかったのですか?」

 

 不思議そうな顔で尋ねる琴陽に、幸恵は幾分落ち着きを取り戻した声で説明する。

 

「ヒュージサーチャーに反応があって、新宿御苑の南方からヒュージの一群が侵攻しているのが分かったから、来夢と一緒にガーデンから索敵に出てきたの。

でも、御苑に着いた時には既にヒュージの反応は消えていたわ。

代わりにこの庭園で手合わせをしているあなたたちを見つけたというわけ」

 

 幸恵は琴陽の前に立つと、腕組みでもしかねない雰囲気で琴陽を問い詰めようとした。

 

「――さて、先日は御台場、今日は百合ヶ丘。

琴陽さん、あなたは一度ならず二度までも他校のリリィにCHARMを向けて、何を考えているの?あなたに風紀委員としての自覚は無いの?」

 

「すみません、幸恵様。強そうなリリィを見ると、つい体が勝手に動いて手合わせを挑んでしまうんです」

 

 琴陽は慌てて幸恵に謝ったが、あまり悪びれた様子も無く、姉に悪戯を見つかってしまった妹のような無邪気ささえ感じさせた。

 

「まったく、あなたという人は……」

 

 額に手を当てて困った様子の幸恵に対して、少し離れた所から碧乙の声が聞こえてくる。

 

「あなたのガーデンのリリィ、もう少しきちんと躾けておく方がいいんじゃない?」

 

 結梨と琴陽の手合わせが中断されたことを受けて、ロザリンデと碧乙が彼女たちの所へ歩いてきた。少し遅れて伊紀もその後に続く。

 

 幸恵は近づいてきたロザリンデたちに向かって謝罪の言葉を口にした。

 

「ルドビコのリリィがご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありません。

私たちは――この琴陽さんは違いますが――ルドビコ女学院の自主結成レギオン、アイアンサイドのリリィです。

私は2年生の福山・ジャンヌ・幸恵、この子は1年生で私のシュベスターの岸本・ルチア・来夢です」

 

 幸恵の隣りで成り行きを見守っていた来夢は、名前を呼ばれるとロザリンデたちに向かって軽く一礼した。

 

「ふうん、あなたがあの御台場迎撃戦で名を馳せた福山・ジャンヌ・幸恵さんなの……

しかもトップレギオン制のルド女で自主結成レギオンとは、色々と複雑な事情がありそうね」

 

 幸恵の名を聞いた碧乙は興味深げな視線でその姿を一瞥した。

 

「それについては私たちのガーデンの問題ですので、今ここで事情を説明するのは控えさせていただきます。ところで――」

 

 幸恵は視線を転じてエインヘリャルとゴーグルを装着した結梨の姿を見た。

 

「あなたも、まだ1年生みたいだけど、訓練以外でリリィ同士がCHARMを向け合って戦ってはいけないわ。

どんな理由があっても、必ず断らなければ」

 

「えっと……」

 

 幸恵に注意された結梨が何事かを口にしようとしたその時、ロザリンデが結梨と幸恵の間に入ってきた。

 

「これは私の判断で彼女に手合わせの申し出を受けるよう指示した結果です。

ですから、責任はすべて私にあります」

 

 ロザリンデは少しの迷いも無い口調ではっきり言い切ると、幸恵に深く頭を下げた。

 

「あなた方が臨時統合司令部からの要請で支援に来られた百合ヶ丘女学院のレギオンですね。

その連絡はルドビコのガーデンにも届いています。

私たちの都合で他校のリリィに負担を強いてしまって、申し訳なく思っています」

 

「お気になさらず。私たちは百合ヶ丘のロスヴァイセというレギオンのリリィです。

私は3年生のロザリンデ・フリーデグンデ・フォン・オットー、こちらは私のシルトで2年生の石上碧乙です」

 

 先程の来夢と同じく、姉としてのリリィから名前を呼ばれた碧乙は、だが、来夢とは違って礼はしなかった。

 

「お姉様、幸恵さんの言う通り、私たちは不足しているルド女の戦力を補うためにこの場所に派遣されたんですよ。

しかも、その戦力不足の原因は、おそらくルド女内部の問題から生じているものです。

さっきの手合わせだって、元はと言えば向こうから先に仕掛けてきたも同然じゃないですか。

向こうから頭を下げられこそすれ、お姉様が頭を下げる理由なんて、これっぽっちも無いと思いますよ」

 

 自らの敬愛するシュッツエンゲルが親G.E.H.E.N.A.主義ガーデンのリリィに頭を下げた事に、碧乙は承服しがたい感情を抱いていた。

 

「そもそも、ガーデンに所属する教導官が同僚を殺して指名手配されるなんて、前代未聞の不祥事を起こしておいて、恥ずかしくないのかと思いますね」

 

 碧乙のその発言を聞いた来夢は、思いつめた口調でその内容を否定しようとした。

 

「海堂先生を殺したのは、泉先生じゃありません。

泉先生は、ガーデンのやり方に逆らって無実の罪を着せられたんです」

 

「はぁ?あなたたちのガーデンは一体何がどうなってるの?

現役の教導官が殺されたこと自体とんでもない大事件なのに、その罪を別の教導官になすりつけるなんて。

教育機関でもあるガーデンで殺人、その上に冤罪まで起こしているなんて、言語道断にも程があるわ。

その挙げ句に、今回の事態に充分な戦力を展開できなくなってる始末じゃない」

 

 憤懣やるかたない碧乙の剣幕に、幸恵と来夢は悄然として、うなだれることしかできなかった。

 

「そう言われると返す言葉もありません。

私たちのガーデンの問題で他のガーデンにまでご迷惑をおかけしてしまって、本当に申し訳ありません」

 

碧乙たちに深々と頭を下げる幸恵。その姿を見た来夢は耐えられず、涙目になりながら碧乙に訴えた。

 

「幸恵お姉様は何も悪くありません。悪いのは全部ルドビコのガーデンとG.E.H.E.N.A.なんです」

 

「碧乙。幸恵は悪い人なんかじゃないよ。私には分かるもん」

 

「そうですよ、碧乙様。幸恵様ほどの優れたリリィでも、ガーデンの一生徒であることに変わりはありません。

この顛末の責任を問うのは酷というものです」

 

「まあ、それはその通りだけど……」

 

来夢、結梨、伊紀の三人の1年生から懇願とも非難ともつかない目で見つめられた結果、碧乙は両手を挙げて降参のポーズをとった。

 

「……はいはい、分かったわよ。揃いも揃って純真な目で私を見つめないでよ。

これじゃ、まるで私が底意地の悪い姑みたいじゃない」

 

 まだ碧乙たちに頭を下げたままの幸恵に、ロザリンデが気遣わしげに声をかける。

 

「幸恵さん、顔を上げてください。彼女たちが言うように、あなたにルドビコで起きた問題の責任があるわけではありません。

まして自主結成レギオンを作ったということは、あなたたちも泉教導官と同じく、ルドビコのガーデンに従わない道を選んだのではないですか?

親G.E.H.E.N.A.主義ガーデンに所属している者が、ガーデンの方針に反旗を翻すことが、どれほど危険なことかはよく分かります。

下手をすれば命を狙われる恐れさえあったはずです」

 

「それは……確かにおっしゃる通りです。

でも、ルドビコのガーデンが隠していた真実を知ってしまった以上、それに目をつぶり続けるわけにはいきません」

 

「反G.E.H.E.N.A.主義のガーデンに所属するリリィとして、私たちはあなたたちのような人と話し合いたいことがあります。

先程ヒュージサーチャーに捕捉された群れは、私たちのレギオンが全て掃討しました。

しばらくはこの周辺にヒュージが出現する可能性は低いでしょう。

よろしければ、少しお話をさせていただく時間を取らせてもらえませんか」

 

「はい、琴陽さんがご迷惑を掛けた件もありますし、お断りする理由はありません」

 

「ありがとうございます。――でも、その前に」

 

 ロザリンデは言葉を切って琴陽の方を振り向く。

 

「琴陽さん、あなたの希望には答えられたと思う。今日はこれまでということにしていただけるかしら?」

 

「はい、承知しました。幸恵様に見つかってしまった以上、続きをするわけにもいきませんから」

 

 琴陽は横目でちらりと幸恵を見てから、ロザリンデに答えた。

 

「では、約束は守ってもらえるわね」

「はい、もちろんです」

 

 琴陽はすっきりした表情でロザリンデにそう言うと、結梨に歩み寄って顔を近づけた。

 

 そして結梨以外の者には聞き取れない小声で、そっと琴陽はささやいた。

 

「私を経由して『御前』に連絡を取る方法は、後日私から結梨さんにお知らせします。

少し時間はかかるかもしれませんが、必ず約束は守りますので、それまで待っていてください」

 

「うん、分かった。ありがとう、琴陽。

手合わせ面白かったよ。琴陽ってすごく強いんだね。また会えるといいね」

 

 屈託の無い笑顔を見せる結梨に、琴陽は嬉しそうに頷いた。

 

「こちらこそ、私のわがままに付き合ってくださってありがとうございました。

次は水を差されない所で、マギが尽きるまで続けたいものです。

それでは失礼します。ごきげんよう」

 

 琴陽は結梨と握手した後、ロザリンデと幸恵たちに一礼してその場を去って行った。

 

 その後ろ姿を見送ってから、あらためてロザリンデは幸恵に向き直った。

 

「では、先程の話の続きをしましょうか。

相当に機密性の高い内容になると思いますので、人払いをした上で、あなたたちお二人と私で話し合いを――」

 

 言葉を途切れさせたロザリンデが自らの手元を見ると、結梨がロザリンデの制服の袖を軽く引っ張っていた。

 

「ロザリンデ、私も一緒に話を聞いていたい。いい?」

 

 少しだけ考え込んだ後で、ロザリンデは肯定の返事を口にした。

 

「――いいわよ。G.E.H.E.N.A.と親G.E.H.E.N.A.主義ガーデンがしようとしていることについて、あなたには知る権利がある。

それに、お互いの信用のためにも、こちらから一方的にルドビコの事情だけを聞くわけにはいかない。

私たちも同じように自分たちの抱えている事情を、幸恵さんたちに話しておく必要がある。

そのためにも、あなたに同席してもらうのは、とても重要なことに違いないわ。

おそらく、私たち二人と幸恵さんたちは相似的な関係にあると思う。

――幸恵さん、すみませんが少しここでお待ち願います。

必要であれば、幸恵さんたちもアイアンサイドの本隊に一時離隊の連絡を入れておいてください」

 

 ロザリンデは碧乙を連れて少し離れた所へ行き、これから自分と結梨が幸恵たちと話をする間、ロスヴァイセは交代で小休止と周辺の哨戒を行うように指示を出した。

 

「少し話が長くなるかもしれない。もしヒュージサーチャーに反応が出たら、すぐ私に連絡して。臨時統合司令部から連絡が入った場合も同様」

 

「分かりました。ところで、幸恵さんと一緒にいる1年生は、来夢と名乗っていました。

ということは、あの時『御前』が言及していた人物の一人ですよね。

予備知識なしだと、どこにでも居そうな単なる新米リリィにしか見えませんね」

 

「それは結梨ちゃんも同じよ。望むと望まざるとにかかわらず、他者から背負わされた特別な能力を持っているだけで、それ以外は何も変わらない普通の女の子なのだから」

 

 碧乙と別れたロザリンデは幸恵たちのいる所へ戻り、薔薇の植え込みに囲まれた芝生の方を指さした。

 

「お待たせしました。そこの芝生で私たち四人でお話しする形でよろしいでしょうか」

 

「はい、構いません。行きましょう」

 

 ロザリンデ、幸恵、来夢、結梨の四人は芝生の上に二人ずつ向かい合って座る形になった。

 四人の中で、最初に口を開いたのは来夢だった。

 

「あの、そちらのリリィはどなたでしょうか?たぶん私も幸恵お姉様も会ったことは無いと思うんですが……」

 

 来夢が結梨を見てどことなく不安げな表情で尋ねると、ロザリンデが結梨に話しかけた。

 

「結梨ちゃん、もうゴーグルを外しても構わないわ」

「本当にいいの?」

「ええ、それが今は必要なことだと思うから」

「分かった。じゃあ外すよ」

 

 ゆっくりと結梨がゴーグルを外し、素顔が現れると、来夢より先に幸恵が気付いた様子で目を見開いた。

 

「あなたは確か、以前に捕縛命令が出ていた――」

 

「はじめまして。百合ヶ丘女学院1年生の一柳結梨です」

 

 結梨は幸恵に自らの名前をはっきりと名乗って、ぺこりと頭を下げた。

 

「あの時は突然に命令が取り消され、その後の情報は何もガーデンからは知らされていませんでした。

素顔を隠していたということは、何か事情があってのことなのですか?」

 

 幸恵が結梨とロザリンデを交互に見て問いかけ、その質問に答えたのはロザリンデの方だった。

 

「彼女は捕縛命令の取り消し後、突然出現したギガント級ヒュージと交戦の末、未帰還で生死不明の状態になり、百合ヶ丘のガーデンからは死亡扱いとされました。

しかしその後、幸運にもガーデンから離れた海岸で倒れていたのを、私たちのレギオンが発見したのです。

その状況を利用し、公には死亡したものと思わせて、G.E.H.E.N.A.の目から隠しているのが事の真相です」

 

「やはりG.E.H.E.N.A.が関与していたのですね。であれば賢明な判断だと思います。

この子――来夢の父親である岸本教授も、今はG.E.H.E.N.A.から身を隠して潜伏していると泉先生から聞きました」

 

「その人もG.E.H.E.N.A.に追われるような立場だったのですか?」

 

「はい、岸本教授は或る強化実験のプロジェクトに関わっていて……この事はまた後でお話しします。

でも、どうして私たちに結梨さんの事を明かしたのですか?

この場に同席してもらわずに、秘密にしておいた方が良かったのではないですか?」

 

「それは、これから話し合いをする上で、あなたたちに私たちを信用してもらうためです――こちらが隠し事をしていない事実を示すことによって。

また、彼女が自らの存在をはばかることなく、自由にあなたたちと話し合うことが出来るようにするためでもあります。

その方が彼女自身の存在を肯定することにもなると考えたからです」

 

「分かりました。そこまでの秘密を打ち明けられたからには、私たちもそれに応えなければいけませんね」

 

 幸恵はジャケットの襟を正すと、落ち着きのある口調で静かに説明を始めた。

 

「ルドビコのガーデンはG.E.H.E.N.A.と結託して、生徒であるリリィに不当な強化実験を繰り返していました。

ある者には強化の処置以外では救命できない致命傷を故意に負わせ、また別の者には自ら進んで強化実験を受けざるを得ないように仕向け、様々な策を弄して強化リリィを生み出していたのです。

強化実験には常に失敗のリスクが伴います。

強化の過程で命を落としたり、理性を失いヒュージとして処分されたリリィも少なくありません。

G.E.H.E.N.A.の手先となって働いていた教導官たちの言い分では、強化実験はより強いリリィを作り出し、ヒュージに対して優位に戦うことを目的としていると。

しかし、その実態は犠牲を厭わない非人道的な人体実験そのもので、多くのリリィに悲惨な末路をたどらせる結果になりました。

私たちのレギオンであるアイアンサイドにも、複数の強化リリィがいます。

いま私の横にいる来夢も、その強化リリィの一人です」

 

 幸恵は複雑な面持ちで、黙って自分の隣りに座っている来夢の横顔を見た。

 

 その来夢は、これまでにルドビコで起こった事件の数々を思い出しているのか、重苦しい表情で視線を芝生の上に落としていた。

 

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