アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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 タイトルがラノベみたいですが、内容はいつも通りです。



第17話 一柳結梨、御台場女学校のリリィになる(1)

 

 白井咲朱が百合ヶ丘女学院の結梨のもとを訪れてから十日後、結梨は秦祀とともに東京へ向かう列車に乗っていた。

 

 列車は多摩川の広い河川敷の上を越え、稠密な東京の市街地へと緩やかにカーブした線路上を進んで行く。

 

 二人は普通列車のロングシートに並んで座り、窓の外を流れる景色に目を向けていた。

 

 品川か、それとも丸の内か、遠くに都心の高層ビル群が屹立しているのが結梨の視界に入る。

 

 旧市街地の大半が無人の廃墟と化している鎌倉から来た身には、いやがおうにも全く異なる環境に身を置くことになるのだと認識させられる。

 

 これまでにも何度か結梨は東京を訪れていたが、それはあくまでも作戦や休暇での一時的なものであって、東京で継続的に生活するというのは初めてのことだった。

 

 車内には数人の乗客が二人から離れた所にまばらに座っており、平日の午前十時という時間帯であることを考慮しても、閑散と表現していい状態だった。

 

「電車が空いていてよかったわね。

通勤時間帯の東京の電車なんて、絶対に乗りたくなかったもの」

 

 百合ヶ丘の制服を着た祀は、御台場の制服を着ている結梨を見て、穏やかに微笑みかけた。

 

「ロザリンデ様は結梨ちゃんに付き添えなくて残念だったわね。

その代わりに私が結梨ちゃんを御台場まで送ってあげられることになったから、役得なんだけど」

 

 少し悪戯っぽい笑顔になった祀に、結梨は率直に疑問をぶつけた。

 

「どうしてロザリンデは私と一緒に御台場へ行けないの?」

 

「ロザリンデ様が特務レギオンのリリィだから。

御台場のガーデンに無用な警戒心を持たれると困るのよ」

 

「そうなんだ……」

 

「鎌倉と比べると、この辺りはやはり大都市ね。

まるで市街地の規模が違うもの」

 

「私、祀は鎌倉の外には出ないリリィだと思ってたけど、そうじゃないんだね」

 

「私だって、相応の理由があれば国定守備範囲の外に出るのよ。

でも、百合ヶ丘のリリィからは偏屈な引きこもりみたいに思われているかもしれないわね」

 

 祀が地域第一主義者であることは、結梨も知っていた。

 

 そして、その原因が彼女のシルト候補だった幼馴染の戦死であったことも。

 

 考えてみれば、自分も表向きには戦死したことになっている以上、梨璃も祀と同様の境遇に置かれていると言える。

 

(梨璃、ごめんね。G.E.H.E.N.A.のことが解決したら、必ず逢えるから、それまでもう少し待っていて)

 

 ふと梨璃のことが頭に浮かび、結梨は祀に梨璃の所在を尋ねてみることにした。

 

「梨璃も今、一柳隊のみんなと一緒に東京に行ってるんだよね。

たしか、東京圏なんとか……会議で」

 

「東京圏防衛構想会議ね。

一柳隊は他の有力ガーデンと同じく、ルドビコ女学院で会議に参加しているの。

しばらくはルドビコのガーデンに滞在することになると聞いているわ。

 

知っての通り、ルドビコ女学院は新宿御苑の近くにあるから、結梨ちゃんが一柳隊と鉢合わせする心配は無いわよ」

 

「祀、それ『ふらぐが立つ』っていうんだよ。碧乙が教えてくれた」

 

「あの人、変な言葉ばかり、どこから仕入れてくるのかしら。困ったものね」

 

 並んで座っている二人の足元には、それぞれCHARMケースが立てて置かれている。

 

 それらはどちらも結梨のCHARMが収められており、一つはエインヘリャル、もう一つには咲朱とともに百合ヶ丘を訪れた琴陽から受け取った第3世代CHARM――トリグラフが収納されていた。

 

 あの日の翌日、夕刻近くになって高松咬月と出江史房は特別寮を訪れ、結梨に御台場女学校への一時編入を要請した。

 

 その時のやり取りを、結梨は列車の不規則な振動に揺られながら思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今、何とおっしゃられましたか?」

 

「一柳君に御台場女学校への一時編入をしてもらいたい、と言った」

 

 ロザリンデの確認に、咬月は表情を変えずに同じ発言内容を繰り返した。

 

「では、昨夜の理事長と咲朱さんの話し合いは、咲朱さんの主張を受け入れる形で決着したのですね」

 

「最終的に、姉と白井君が同じ結論に達したとしか私には言えない。

二人が全く同じ考えを持っているとは思わないし、午前中に招集された緊急の理事会でも全会一致の議決とはならなかった。

 

理事の中にも出江君のような慎重論の持ち主は複数名いた。

それでも、大半の理事は理事長である高松祇恵良の提案を支持した。

その結果に従って、私と出江君がここに来たということだ」

 

「経緯は理解できました。

私も個人的な意見としては、史房さんの慎重論に近いと言わざるを得ません。

ですが、理事会の方々がリスクとリターンを充分に認識しておられるのであれば、それに従うのみです」

 

 複雑な表情を浮かべるロザリンデと史房の視線が交錯する。

 

 史房は無言で小さく頷いたのみだった。

 

「君や出江君の懸念を否定するつもりは無い。

未来は常に不確実だ。

何が最善の選択なのか、確信をもって答えられる者は誰も居ないし、もし居たとしたら、それは自ら情報を制限して視野を狭めた上での無謀な希望的観測だろう」

 

 咬月はロザリンデから結梨へと、少しだけ顔の向きを変えた。

 

「それゆえ、一柳君にこの要請を強制することはできない。

一柳君には議決結果への拒否権がある。

この要請を断っても、決して不利な扱いを受けることは無いと約束するが――」

 

「行く」

 

 咬月の言葉が終わるのを待たず、結梨は即答した。

 

「結梨ちゃん、今すぐに答えを出さなくてもいいのよ。

少し時間を置いてからでも……」

 

 結梨が意外と頑固な性格のリリィであることを、ロザリンデはよく理解していたがゆえの発言だった。

 

 だが、そのロザリンデの言葉を聞いても、やはり結梨の意思はいささかも変わらなかった。

 

「たぶん、時間がたっても私の考えは変わらないと思う。

御台場が今どうなってるか、私にはよく分からないし、私が御台場に行くことが本当に正しいのかどうかも分からない。

 

でも、私は御台場のガーデンがルドビコみたいになってほしくないし、そうならないように私が手伝えるなら、私は御台場へ行かないといけない。

 

ロザリンデ、心配させてごめんなさい。

必ず御台場のリリィと一緒にガーデンを守り抜いて、百合ヶ丘に帰って来るから、私を御台場に行かせて」

 

「……分かったわ。結梨ちゃんの意思とガーデンの判断が一致する以上、私と史房さんはそのバックアップを全力で務める。

 

――代行、口を挟んで申し訳ありませんでした。お話の続きをお願いします」

 

「君と出江君の心配はもっともだ。

ルドビコ女学院の崩壊後、御台場女学校周辺では特型ヒュージの出現する頻度が急激に増加し、ギガント級の個体も一度ならず確認されている。

 

今の所、それらの特型ヒュージがG.E.H.E.N.A.の手によるものだという確たる証拠は得られていない。

 

当然ながら、G.E.H.E.N.A.が今後具体的にどのような『実験』を実行しようとしているのかも不明だ。

 

そのような状況下に一柳君を送り出そうとしている以上、一時編入が実現すれば、一柳君の安全を最大限に確保することが大前提となる。

 

昨日、一柳君が戸田琴陽君から受け取った第3世代CHARMも、不審な箇所が無ければエインヘリャルとともに一柳君の装備品となる。

 

また、万が一の際には一柳君の判断で御台場を離れ、百合ヶ丘のガーデンに帰還することができるよう、御台場側と交渉する予定だ」

 

「私が御台場のリリィになるって、御台場のガーデンは知ってるの?」

 

 結梨の質問に、咬月は肯定の返事で答えた。

 

「今日の朝一番で、姉から御台場の理事長に話は打診してある。

結果、その場で御台場の理事長の賛同は得られたとの連絡を姉から受けている。

 

君が一時編入に同意した旨が御台場に連絡されれば、理事会が一柳君を受け入れるための調整に入るだろう」

 

「では、具体的な日程や段取りは、この後で順を追って決めていくことになるのですね」

 

「そうだ。こちらにも向こうにも、相応の準備が必要となる。

様々な事態に対処するためのシミュレーションも含めて、緊密に連携していく必要があるためだ。

いきなり明日から一柳君が御台場のリリィというわけにはいかない」

 

「分かりました。後はG.E.H.E.N.A.側の動きがどうなるかですが……

『北河原ゆり』の名で編入したとしても、年度途中での編入生となれば、目に留まることは間違いありません」

 

「一柳君が御台場に編入する目的は、第一に御台場のガーデンがG.E.H.E.N.A.の『実験』によって崩壊するのを防ぐことだ。

 

その上で、もし校医の中原・メアリィ・倫夜以外のG.E.H.E.N.A.関係者が御台場のガーデンに入り込んでいた場合は、必ず報告を上げてほしい。

 

中原校医もしくはその人物が一柳君に危害を加えるような兆候が確認された場合は、即座に御台場のガーデンを離脱するための対応を取る」

 

「あの先生もやり方を間違えてるだけで、本当は悪い人じゃないかもしれないと思う。

もし、もう一度先生に会えたら、もっと話をしてみたい。

……あ、でもG.E.H.E.N.A.の人は、私とそういうことをするのは禁止されてるんだね。残念」

 

 心配そうなロザリンデと史房の視線を浴びながらも、結梨は御台場に編入してからのことをあれこれと考えるのに余念が無い様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 祀と結梨は御台場女学校の最寄り駅で下車し、そこから徒歩で御台場のガーデンに向かった。

 

 ほどなくガーデンの校舎が視界に入り、二人は前回史房と結梨が通った来賓用の入口からガーデンに足を踏み入れた。

 

 両側を木々に挟まれた人気の無い道を数十メートル歩くと、その先に見覚えのあるエントランスが現れた。

 

 前回の訪問時は、そこにヘオロットセインツの隊長である月岡椛が二人を待っていたが、今は守衛の男性が一人立っているのみだった。

 

 自分たちが百合ヶ丘女学院からの訪問者であることを祀が告げると、守衛の男性は愛想よく答えた。

 

「百合ヶ丘女学院からの一時編入生の方ですね。

ガーデンから連絡は受けています。どうぞ中へお入り下さい」

 

「失礼します。この子は私の自慢の娘なんですよ。うふふ」

 

「はあ……」

 

 返事に困っている守衛を後にして、祀と結梨は校舎の中へ入り、無人の廊下を奥へと進んで行く。

 

 やがて結梨の目に、記憶に残っている重厚な木製の扉が見えてきた。

 

 扉の前まで来ると、「北河原ゆり様控室」と印字されたプレートが二人の目に入った。

 

「ここ、前に史房と一緒に来た部屋だよ。ここに入ったらいいのかな」

 

「そうみたいね。では失礼しましょうか」

 

 祀が扉を軽くノックすると、室内から入室を促す女性の呼びかけが聞こえた。

 

 やや強気にも聞こえるその声に、結梨と祀は聞き覚えがあった。

 

 ゆっくりと扉を開けた二人が見たのは、それぞれが異なる御台場の制服を着た三人のリリィだった。

 

「ようこそ。武のガーデン、御台場女学校へ。

……そろそろこの口上も手垢が付いてきましたわね」

 

 軽く苦笑いしながら、船田純は二人に歓迎の言葉をかけた。

 

 

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