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ロザリンデが眞悠理に語った問題点は大きく次の二つだった。
一つは、なんらかの理由で結梨の生存がG.E.H.E.N.A.に露見した場合の対応。
もう一つは、結梨をG.E.H.E.N.A.から隠し通せたとして、いつまで結梨がG.E.H.E.N.A.の目を逃れて生きなければならないのか、どうすれば梨璃や夢結たちと逢えるようになる日が来るのか、ということだ。
「一つ目の問題については、そんなことは決して起こって欲しくはないけれど、やはり万が一の事態に備えた善後策は必要だと思う。
起こって欲しくないことは想定しない、なんてどこかの無能な政治家みたいに考えることは愚劣極まりない行為だから」
「まったく同感です。常に最悪の事態に備えた想定はしておくべきです。
G.E.H.E.N.A.も一枚岩ではないし、穏健派も一定数は存在しているようですが、だからと言ってそんなものをあてにするわけにはいかないでしょう」
「G.E.H.E.N.A.相手に性善説で対処してハッピーエンドが待っているとは、まったく思えないものね。
だから、結梨ちゃんの存在をG.E.H.E.N.A.の急進派が嗅ぎつけ、武力を行使してでも身柄を確保しようとした時に、私たちがどう対応するかということを考えておかなければいけない」
「しかし、G.E.H.E.N.A.あるいはその傀儡を相手に一戦交えるわけにもいかないでしょう。
リリィと一般の人間、およびリリィ同士の武力衝突は回避しなければいけません」
「そうね、だからそうなった場合、G.E.H.E.N.A.の手が百合ヶ丘に伸びる前に、結梨ちゃんはガーデン外に逃がすつもりよ。
たとえガーデンが包囲されたとしても、特別寮の地下にある隠し通路からガーデン外の廃道に出ることができる。
それに実際には正式な手順を踏んで強制捜査しようとすれば、相応の手続きが必要になるし、ましてや大部隊を展開するにはかなりの時間を要する。
こちらはその間に悠々と結梨ちゃんを逃げさせることができるわ」
「三十六計逃げるに如かず、というわけですか。
ではG.E.H.E.N.A.が正規の手続きを取らず、少人数の強化リリィを特殊部隊として突然に強硬突入させてきた場合は、どうするのですか」
「令状なしにG.E.H.E.N.A.の強化リリィがガーデンに入れば、それは立派な不法侵入として成立するから、れっきとした犯罪行為として百合ヶ丘は対処できる。
飛んで火に入る何とやら、ガーデンのリリィ総出で迎撃してやればいいわ。
もちろん、あくまでも正当防衛の範囲内でね」
そう言い終えたロザリンデの顔には不敵な笑みが浮かんでいた。
「そして結梨ちゃんを逃がすと同時に、ガーデンに結梨ちゃんがいた形跡を完全に抹消するわ。
所持品だけでなく毛髪や指紋に至るまで、その何もかもすべてを」
「始めから結梨ちゃんは未帰還のまま、百合ヶ丘にはいなかったことにする。
それは適切な判断だと思います。
しかし逃亡に成功したとして、他の反G.E.H.E.N.A.主義のガーデンや機関が、必ずしも結梨ちゃんをかくまってくれる保証はありません。
その場合はどうなさるおつもりですか」
「そうね、海外の反G.E.H.E.N.A.主義国家に亡命する選択肢も無いわけではないけれど、空港や飛行機の機内で待ち伏せされて包囲されてしまう危険を考えると、その選択は極力避けるべきだと思うわ。
もちろん、それ以前に偽造パスポートを用意できるかどうかの問題も当然あるでしょうし。
それよりは山岳ゲリラのように人目につかない所に潜んで、G.E.H.E.N.A.内外の状況が変わるまで長期持久を続けるほうが、G.E.H.E.N.A.から身を隠し通せる可能性は高いはずよ」
「ゲリラですか、それはまた何とも古典的というか前時代的というか」
「今でも国や地域によっては、そういった反政府勢力が実質的に支配している所は珍しくないわ。
戦術としては現在においても限定的ながら有効な手段よ。
そして絶対に発見されたくなければ、普通の人間が入ってこられないような所まで逃げなければいけない」
「まさか、ロザリンデ様がお考えになっているのは……」
「そう、ヒュージの勢力圏ならリリィ以外は立ち入ることはできない。
特にラージ級以上が出没するような所は」
長期持久を想定する以上、CHARMが使えないような状況でも、結梨がラージ級から身を守れるレベルにまでしておきたいとロザリンデは考えていた。
と言っても、何もラージ級を倒す必要は無く、足止めをしてその場から離脱できればそれでいいのだ。
眞悠理はロザリンデの話を半ば呆れ、半ば感心して聞いていた。
「第二次世界大戦の際に、旧軍の情報将校で終戦後もフィリピンの小島に長期間潜伏し続けた人がいたそうですが、まさにそれを地で行くことになるわけですね。
となると、単純な戦闘能力だけではなく、常人離れした精神力と生存能力が必要になるでしょうが、それは結梨ちゃんに可能だと思われますか」
「それについては私が責任を持って、結梨ちゃんに必要な技術を身につけさせるつもりよ。
むしろそういった内容こそ、特務レギオンの本領が発揮できる分野だと考えているわ。
どちらかというと、難題なのはもう一つの『結梨ちゃんはいつまでG.E.H.E.N.A.から身を隠せばいいのか』ということね」
そう言うと、ロザリンデの顔からそれまでの不敵さが消え、憂いと深刻さを帯びた表情へと変わっていった。