アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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 前回の内容は設定の整合性にこだわるあまり非常に読みにくくなってしまい、大変反省しています。
 その割には説明しきれていない部分や描写不足の部分も少なからず残ってしまったように思います。
 今年いっぱいは新規の舞台も無く、ラスバレのメインストーリー更新もいつになるか分からないので、もう少し肩の力を抜いて続けていくつもりです。



第18話 ルドビコ女学院再訪(1)

 

「ヒュージ、全然出てこなくなっちゃったね……」

 

 よく晴れた日の放課後、御台場女学校の校舎の一角にあるLGコーストガードの控室。

 

 その室内では、1年生の岸田英がテーブルに頬杖をついて、窓の外を流れる雲を所在なさげに眺めていた。

 

「うん、せっかく二人で連携フォーメーションの特訓してたのにね」

 

 英の隣りに座っている結梨は、同じく手持ち無沙汰というか、肩透かしをくらったようなもどかしさを感じている。

 

 御台場女学校へ一時編入する前に百合ヶ丘のガーデンで受けた説明では、御台場では特殊能力を備えたG.E.H.E.N.A.の実験体と思われる特型ヒュージが一度ならず出現し、出撃の都度、その対応に苦慮しているとのことだった。

 

 そのため、御台場では休む間も無いほど頻繁に出撃が繰り返されるものと、結梨は覚悟していた。

 

 しかし、実際に御台場のガーデンへ来てみれば、少なくとも今のところはガーデンの周辺は全く静穏で、ヒュージの姿を見ることも、その気配を感じることも皆無だった。

 

 結梨が御台場女学校に一時編入して10日ほどが経過したが、その間ヒュージ出現の警報音がガーデンに鳴り響くことは一度たりとも無かった。

 

 それとは対照的に、都内各所、とりわけルドビコ女学院の周辺部では、特型ヒュージ・エヴォルヴの幼体とみられる個体が多数出現し、その抑え込みにルドビコをはじめとする近隣ガーデンのリリィが躍起になっていた。

 

 御台場でも、結梨の一時編入より少し前には、ドミネーターと名付けられた特型ギガント級ヒュージの出現があり、LGロネスネスが中心となって迎撃にあたった。

 

 その時の戦闘ではドミネーターを仕留めることができずに取り逃がしたものの、先日、レストアされた同一個体であるメイルストロムを房総半島にて撃破した。

 

 その後も、ロネスネスとヘオロットセインツは、国定守備範囲外への外征に頻繁に出撃していた。

 

 一方、結梨の一時編入以来、御台場のガーデン防衛を任務とするLGコーストガードに出撃命令が下されることは無く、いわば開店休業の状態が続いていた。

 

「あなたたち、ヒュージが出現しないのは良いことなのよ。

軍隊や警察と同じように、リリィが出動する機会が無い方が望ましいことに違いは無いのだから」

 

 後輩である英の手前、そう言ってはみたものの、コーストガードの隊長である2年生の弘瀬湊は、当然この状況を訝しんでいた。

 

「G.E.H.E.N.A.の『実験』が予定の区切りまで進んで一段落ついたのか、それともG.E.H.E.N.A.の内部で何かしらのトラブルが発生して、計画を一時中断しているのか……」

 

「せっかく百合ヶ丘からゆりちゃんが来てくれたのに、これじゃ宝の持ち腐れですね。

腕がなまっちゃいそうです」

 

「逆に、ゆりさんが来たからこそ『実験』が中断されているのかもしれないわ」

 

「それって、どういうこと?」

 

 頭の上に疑問符を浮かべているかのような表情で、結梨が湊に尋ねた。

 

 『北河原ゆり』が一柳結梨であることをガーデンから知らされている湊には、一つの仮説があった。

 

 結梨の一時編入以来、急にヒュージが出現しなくなった理由、それは御台場に一柳結梨と思しきリリィが加わり、防衛戦力のバランスが大きく変わったことだと、湊は考えていた。

 

「御台場に想定外の戦力が加わったことによって、G.E.H.E.N.A.は『実験』のシミュレーションに入力するパラメータの大幅な変更と再計算を余儀なくされた。

これについては、ほぼ確実でしょうね」

 

「はあ……何だか難しいお話ですね」

 

 英は分かったような分からないような曖昧な返事を返す。

 

「その結果、それまで準備を進めていた実験内容では、所期の目的を達成できないことが判明した。

だから今は、ゆりさんの戦力を追加したデータを新しい基準値として、実験内容の調整と変更を進めていると考えていいでしょう」

 

「そうなんですか……G.E.H.E.N.A.もいろいろと苦労してるんですね」

 

 何やら間の抜けた感想を述べる英だったが、それはいつものことなのか、湊は英の発言を咎めだてたりはしなかった。

 

「英、ゆりちゃんとの連携攻撃は上手く出来そうなの?」

 

「はい、いま取り組んでるコンビネーションが成功すれば、ノインヴェルト戦術を使わなくてもギガント級を倒せると思います。

でも、それはB型兵装を使うのが前提の戦術なので、一度の戦闘で一回しか使えないんです。

だから私がフィニッシュを撃った後は、ゆりちゃんが頼みの綱なんです」

 

「うん、私がフェイズトランセンデンスを使わなければ、マギを使い切ることはないから大丈夫だと思う」

 

「ゆりちゃん、それ『ふらぐ』っていうんだよ」

 

「碧乙もそれ言ってた。

『ふらぐ』って英語のflagのことかな」

 

「すごーい。私、英語苦手なんだ。

今度のテストの範囲で分からないところ教えてほしいな……」

 

「いいよ。明日の放課後に図書室で一緒に勉強しよう」

 

「あなたたちの会話を聞いていると、とてもここが対ヒュージ防衛の最前線とは思えなくなってくるわね」

 

 苦笑いする湊の横で、結梨と英はあれこれと話を進めている。

 

 今日も何事も無く一日が終わるかと思われたその時、控室のドアをノックする音がした。

 

 入室を促した湊の声に応じて入ってきたのは、LGヘオロットセインツの小柄な1年生リリィ、河鍋薺だった。

 

「ごきげんよう、湊様。

少しお邪魔させていただいても構わないでしょうか?

先日は、あまりゆりちゃんとお話しできずに終わってしまったので」

 

 薺の手には、やや大ぶりの銀色の魔法瓶が抱えられている。

 

 それを見た湊は、猛烈に不吉な予感に襲われた。

 

「ええ、それはいいけど、薺さん、その手に持っているものは――」

 

 湊の質問に、薺はあっさりと答えた。

 

「ハーブティーが中に入っています」

 

 予感は的中した。湊は更に質問を続ける。

 

「……それは、あなたが自分で淹れたものかしら?」

 

 薺の返事しだいでは、丁重にお引き取りいただかなければならない。

 

 どうすれば薺を傷つけずにお茶の招待を断れるだろうかと、湊が頭の中で方便を巡らせていると、薺の方が先に答えを口にした。

 

「いえ、最初は自分でブレンドしたものを淹れようとしたんですけど、桂が必死の形相で止めたので、結局、燈に淹れてもらいました」

 

 いかにも残念そうに溜息をつく薺とは対照的に、湊は心の中でほっと胸を撫で下ろした。

 

 自分の事はともかく、1年生の英と結梨に悪魔的な調合センスのハーブティーを飲ませるわけにはいかなかったからだ。

 

 しかし、その気持ちを顔に出すわけにもいかず、湊は薺に調子を合わせて沈みがちな口調で声をかけた。

 

「そうだったの。それは残念だったわね。

私たちは今日はもう予定は無いから、燈さんのハーブティーを堪能させていただこうかしら。

英、戸棚から御茶菓子とティーカップを出してちょうだい」

 

「はい、ちょっと待ってください」

 

 湊の指示を受けて、いそいそと英が戸棚の方へ歩き出した時、校内放送の短いメロディーが控室の中まで流れてきた。

 

「1年生の北河原ゆりさん、至急生徒会室まで来てください。

繰り返します、1年生の……」

 

「――私が呼ばれてる、行かなきゃ」

 

 座っていた椅子から立ち上がり、ドアの方へ向かおうとした結梨の脳裏に、稲葉檀から呼び出された先日の校内放送がよぎった。

 

 また罠かもしれないと結梨は一瞬疑ったが、生徒会室であれば檀はいないだろうし、最悪の場合、縮地S級で瞬間移動すれば脱出できると判断した。

 

「ゆりちゃんが戻ってくるまで待ってるから、大丈夫だよ。

早く行かないと、生徒会の人たちを待たせちゃうよ」

 

 薺が手に抱えていた魔法瓶を軽く持ち上げて結梨に示すと、振り返ってそれを見た結梨は軽く微笑んだ。

 

「ありがとう。なるべく早く戻ってくるから、少し待ってて」

 

 足早にコーストガードの控室を出た結梨は、そのまま生徒会室へと直行した。

 

 生徒会室の前まで来て扉をノックすると、中からよく知っている声が聞こえてきた。

 それは生徒会長の月岡椛の声だった。

 

 安心した結梨が扉を開けると、室内には椛と副会長の川村楪の姿があった。

 

「よっ、久しぶり。調子はどうだい?」

 

 以前に会った時と変わらない軽いノリで楪が声を掛けてきた。

 

「うん、どこも調子は悪くないけど、ヒュージが全然出てこないの」

 

「それは日頃の行いがいいんだな。結構なことだよ」

 

 軽口を叩く楪の横で、対照的に落ち着き払った様子の椛が言葉を発した。

 

「ゆず、私から結梨さんに、ここに来てもらった用件を伝えてもいいかしら」

 

「ああ、構わないよ。

私はその用件とやらを聞かされてないけど、まだ結梨は御台場のリリィになって日が浅いんだから、そんなにややこしい話じゃないんだろ?」

 

「それが――」

 

 椛は少し困ったような素振りで言葉を詰まらせ、楪と結梨を交互に見た。

 

「椛、私は気にしないから、話してみて。

どんな内容でも、私はそれを自分で受け止めないといけないから」

 

 他の多くのリリィと同じく、既に何度も戦場にその身を置いてきた結梨の精神は、椛の言葉を待つ心構えができていた。

 

 その意志を見て取った椛は、少し間を置いた後、努めて平静に話し始めた。

 

「そう……ではお伝えするわ。

――結梨さん、あなたに防衛軍から出頭要請が来ているの」

 

 椛の言葉はごく無機的に生徒会室の壁に反響し、その後には静寂だけが室内を満たしていた。

 

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