アサルトリリィ  LOST FLOWER   作:入江友

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第18話 ルドビコ女学院再訪(4)

 

「ガーデンの見取り図では、この先に戦闘時の指揮を執るための指令室があるわ。

入室できるのは職員のみで、生徒の入室は許可されていなかったの。

だから、私と来夢も指令室の内部がどうなっているのかは知らないのよ」

 

 先頭に立ってルドビコ女学院の廊下を進む幸恵が、すぐ後ろを歩いている葵と結梨に説明していた。

 

 ルド女崩壊後の指令室は、セキュリティゲートのロックが解除できないため、事実上の閉鎖区画になっているという。

 

 来夢は一行の最後尾で後方を警戒しながら、注意深く歩を進めている。

 

 今や四人が進んでいるのは、廊下というよりは通路と呼ぶ方が適切な様相を呈していた。

 

 通路の幅は人がすれ違えるほどしかなく、照明の間隔も広くなり、壁面には窓も無い。

 

 圧迫感に満ちた薄暗い通路を四人が無言で進んで行くと、やがて前方に彼女たちの行く手を塞いでいる扉が見えてきた。

 

 その扉は暗灰色の重厚な金属製で、上下から咬み合わさるような二枚の隔壁で構成されていた。

 

「これが、例のセキュリティゲート……」

 

 葵がつぶやくと、幸恵は扉の脇にある赤いランプの点いたセンサーを指さした。

 

「今は扉がロックされて、開くことができない状態になっているわ。

何らかの方法でセキュリティロックを解除しない限り、この中には入れない」

 

「鍵になるものが必要なんですね。

鍵穴が見当たらないってことは、電子的な方法で鍵が掛けられている……?」

 

「おそらく、そこのセンサーで何らかの認証を行って、ロックを解除するようになっていると思うわ」

 

「個人の認証方法というと、生体認証なら顔、指紋、指静脈、虹彩パターン。

それ以外の電子的な認証なら、IDカードあたりですか……」

 

「この長方形のセンサー形状を見る限り、生体認証よりもIDカードの方が可能性は高そうね」

 

「私たちが持っているIDカードというと、公的な身分証を兼ねたガーデンの学生証くらいですね」

 

 学生証には非接触型のICチップが内蔵されており、その情報を電子的に読み取って、個人の認証に利用することは可能だ。

 

 葵と幸恵の後ろで会話を聞いていた来夢と結梨は、制服の内ポケットからそれぞれの学生証を取り出した。

 

「やってみましょう、幸恵お姉様」

 

「そうだよ。少しでも可能性があるなら、試してみるべきだと思う」

 

 やや前のめりになっている二人に対して、幸恵はあくまで冷静にその意見を受け入れた。

 

「……分かったわ。

でも、何が起こるか分からないから、念のために全員CHARMをケースから出して、不測の事態に備えておいて」

 

 幸恵の指示に従い、各自がCHARMをケースから取り出して起動させる。

 

結梨と葵はトリグラフ、幸恵はフィエルボワとシャルルマーニュ、来夢は故人である姉の岸本・マリア・未来が使用していたアステリオン。

 

 全員のCHARM起動完了を確認した幸恵は、まず自分の学生証をセキュリティゲートのセンサーに軽く触れさせた。

 

 ――反応は無かった。

 閉ざされた扉は微動だにせず、センサー横のランプも赤色のまま変化しなかった。

 

「ロックは解除されていないようですね。次は私がやってみます」

 

 幸恵に続いて葵が試してみたが、やはり結果は先程と寸分も変わらなかった。

 

「葵さんのIDでも無効ね。来夢、お願い」

 

「はい、お姉様」

 

 来夢が進み出て、手に持った学生証をセンサーに当ててみたが、またしても反応は無かった。

 

 これで、まだ認証を試していないのは結梨のみとなった。

 

 結梨のIDでもロックが解除されなければ、別の開錠手段を模索しなければならない。

 

 幸恵と葵は既にそのための思考を巡らせ始めていたが、その矢先に二人の耳に聞き慣れない電子音が聞こえてきた。

 

 音のした方を見ると、結梨が学生証をセンサーに当てたところだった。

 

 センサー横のランプは、先程までの赤色から緑色に変わっていた。

 

 それと同時に、四人の行く手を遮っていた隔壁が、音も無くゆっくりと開いていく。

 

「開いた……」

 

 幾分呆然とした感じの声で、結梨がつぶやいた。

 

「どうして、ゆりのIDでだけロックが解除されたんですか?」

 

 思わず、葵は幸恵に半信半疑で尋ねた。

 

 幸恵は当惑した表情を浮かべながらも、目の前で起こった現実を理性によって辛うじて受け止めていた。

 

「それは……私にも分からないわ。

私たちの中で、ゆりさんだけが指令室への入室を許可されている、としか今は言えないわ」

 

「まさか、ゆりがG.E.H.E.N.A.側の人間なわけないですよね。

そんな策を弄するような子じゃないのは、私にだって分かるもの」

 

 なぜ自分一人だけが幸恵たちと違う結果を引き起こしたのか、結梨は自問していた。

 

 IDカードの名義は、御台場女学校1年生の「北河原ゆり」だ。

 

 理由があるとすれば、「北河原ゆり」が一柳結梨である可能性をG.E.H.E.N.A.が想定し、特別な権限を付与している――それ以外には考えられなかった。

 

 何のために? 自由に行動させてデータを収集するためか、それとも隙を見て懐柔や拘束を試みるためか、今はまだ見当がつかない。

 

「ゆり、どうする? この先へ行ってみる?

G.E.H.E.N.A.の罠かもしれないわよ」

 

葵の確認に、結梨は力強く答える。

 

「うん、行く。この先にあるものを確かめないといけないから。

そのために、私たちはここに来たんだから」

 

 たとえ罠が仕掛けられていようとも、それを自分たちの力でくぐり抜けなくてはならない。

 

 CHARMもレアスキルも、そのためにあるのだ。

 

 今度は結梨を先頭にして、四人のリリィがCHARMを構えつつ、セキュリティゲートの先へと進んで行く。

 

 来夢に代わって幸恵が殿(しんがり)を務め、後方から異状が発生しないか神経をとがらせている。

 

 一行が二十メートルほど先の角を曲がると、通路の向こうに先程の隔壁とは異なる一般的なドアが見えた。

 

 おそらくそれが指令室の扉であると思われた時、閉じられていた扉が静かに開き始め、そこから一人の人影が姿を現した。

 

 その人物は白衣を身に纏った成人の女性で、彼女は細身の体躯に似つかわしくない、大型の武骨な形のCHARMを携えていた。

 

 その姿に結梨は見覚えがあった。

 忘れようはずもない、その女性とは――

 

「先生……」

 

 薄暗い通路の先に佇む女性に、結梨のつぶやくような小さい声が聞こえたかどうか。

 

 彼女は結梨を視界に捉えると、知性と理性と、そしてごくわずかな狂気をにじませた微笑を浮かべた。

 

「こんな所まで入り込んでくるなんて、見かけによらず問題児なのね。

リリィとしての本分から外れた行動は感心しないわ」

 

 指令室から出てきた女性――以前、御台場女学校で校医として勤務していた中原・メアリィ・倫夜(ともよ)は、教師然とした口調で結梨をたしなめた。

 

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