「――――――」
ルシファーがコツコツと周囲に音を反響させながら螺旋階段を下りていく。
ハウスの一室から地下へ繋がるその階段を下りる彼は、先程まで彼の弟達と穏やかに接していた時と違い、幾らか気難しい表情を覗かていた。
階段を下り終えたルシファーは視界に入る頑丈そうな壁へ歩を進める。壁の前に立った彼が手を壁へ翳すと、壁一面に魔力を帯びた幾何学模様が描かれる。
壁に模様が描かれたのは一瞬で、次の瞬間には眩しい程の魔力光は消え失せ、最初の頑丈そうな壁へ戻る。ただ初めと違い壁の一部に穴が開き、出入り口に相当するモノが出来上がっていた。
ルシファーは壁に開いた穴へ足を進める。内部の光景は研究室を彷彿させるモノだった。内部にある置物は調度品などではなく、実験で使用する器具を皮切りに様々な機器が存在。
そして、部屋の中心に位置する場所で女性が一人浮かび上がっていた。
正確に状況を説明すると、筒状のガラスに覆われて内部で重力を感じないかのようにプカプカと浮遊する女性 ――
「..................」
エヴァは瞼を閉じ静かに浮かんでいた。ルシファーと彼女が出会ったのは既に30年以上前の事であるが、彼女の見た目に年月の老いは感じ取れなかった。まるで彼女の時だけが止まってしまったように美しさを保ったまま、彼女は眠り続けている。
「はぁ、
エヴァに愚痴る様に言葉を洩らすルシファー。勿論、彼女からの返答はない。
だが一度言い出すと、堰を切ったように口から言葉が溢れ出す。
「ダンテとバージルの二人は相変わらず元気にしてたよ。さっきまで家に居たんだが顔も見せずに帰っちまった。薄情......とは言えないか。アイツ等はもう
言いたい事は、まだ沢山あった。
しかしこれ以上喋った所で返事が返ってくる訳でもない為、虚しくなり話を切り上げる。
「―― つい、昨日の事のように思い出す」
ルシファーは様々な感情をのせて続きを話す。
「―― 30年、
ルシファーは、エヴァが双子と戯れている光景を思い出す。
気分屋のダンテや普段は仏頂面のバージルでさえ、彼女と一緒に居れば満面の笑顔をしていた。
「―― 俺は、諦めが悪いのかねぇ……」
その光景を、家族が揃って笑う光景をもう一度、見たいと願うのは、間違っていたのだろうか。ルシファーは自身に問い掛ける。そして、いつも答えは出なかった。
眠る彼女を少しばかり眺めたルシファーは、用が済んだとばかりに踵を返す。壁の穴は彼が通り抜けると同時に勝手に閉まり、何の変哲もない頑丈な壁へと戻る。
その後、何事もなくハウスまで戻って来たルシファーは、ダンテが座っていたソファーに深々と座り瞼を閉じて就寝の体勢に移行する。純粋な悪魔である彼に睡眠は必要無いが、昔からの習慣と考えを整理したい際などに眠りにつくよう心掛けていた為、程無くしてルシファーは深い眠りへと誘われる。そして彼にとって懐かしい記憶が、夢の
◇
ルシファーが創り出した異空間で、彼は幼い双子と対面する。
この頃から
だが、未だ幼い二人には力が必要と判断した彼は、二人に修行をつけようとしていた。
「これから、お前達を鍛える。厳しくいくから、覚悟しとけ」
「「..................」」
ルシファーのそんな言葉を、ダンテとバージルの双子は冷めた目で見ていた。
彼等にそんな視線を向けられたルシファーは冗談気に言葉を発する。
「お前等、俺がカッコ良すぎるからって見つめ過ぎだぞ?」
「「..................」」
彼の寒いギャグにすら反応せず双子は冷たい目で見つめる。寧ろ更に視線がきつくなる。
ルシファーは我慢できず双子へ問い掛ける。
「オイお前達、一体何が気に食わないんだよ」
「「―― 全部だよッ!」」
照らし合わせたかの様にダンテとバージルは声を上げる。
ルシファーは二人が綺麗に”ハモった”なと内心で思っていたが、そんな事は如何でもいい二人は今までの無言が噓だったかの様に話始める。
「まず此処だよ、オッサン」
「つーか何者だよ、オッサン」
「あの化け物は何なんだよ、オッサン」
「俺達の家はどうなったんだよ、オッサン」
「「―― なあ、オッサンッ!」」
矢継ぎ早に質問を浴びせる両者。しかし、それも仕方がない事だろう。
彼等がムンドゥスの襲撃を防ぎ次に訪れた場所が此処であり、此処に訪れる有無の確認を行ったのは双子の母であるエヴァだけであった。
二人にしてみれば襲撃から逃げた場所がバカンス地など、ふざけているとしか言いようがない。
子供相手でもきちんと説明を果たせと、彼等は当然の主張をしているのだ。
彼等の言い分を聞いたルシファーは、色々と言いたい事があったが先んじて二人に伝えなければならない事があると感じる。
それは ――
「―― まずそのオッサン呼びを止めろ、クソガキ共」
見た目的にお兄さんで良いだろうと言う、
あの後、ルシファーは流石に連れて来られてすぐに修業は無理だったかと判断し、二人を伴ってハウスへ場所を移していた。その際に彼等には現在の状況及び、ルシファーや双子自身の関係性についても教えていた。
「バージル以外の兄ちゃんねぇ......」
「化け物の正体は、悪魔か......」
「「そして、俺達もあの悪魔と同じ存在......」」
一度に情報を教えた所為で双子は軽く
彼等三人の他に母であるエヴァもそこには存在していたが、ルシファーが会話を始めた際も特に止める気配はなく静かに静観していた。大まかな説明はルシファーに任せ自身が双子に伝えるべき事は何なのかをまず考えた彼女は、自然と謝罪の言葉を口にしていた。
「ダンテ、バージル。ごめんなさい、大切な事を貴方達に黙っていて......
悲痛な表情で語る彼女の姿に、二人は複雑そうにしながらも納得はしていた。
「黙っていた事についてはもう良いよ、母さん」
「そうだよ。こんな話されたって、普通は簡単に信じないし」
そう告げる二人の姿に今度はエヴァが複雑そうにする。
「でも、貴方達には正直に伝えるべきだったわ。少なくとも、あの人がいなくなった時点で......」
もしあの襲撃で自分が死んでいたら、彼等に真実を伝える手段が途絶えていたかもしれない。
そう考えるだけで、エヴァは身を震わせる思いだった。
少なくとも彼女があの場で死んでいたら、双子は自分の身一つで生きてゆかねばならなかった。それに加えて、魔帝の刺客や悪魔達からの襲撃もあっただろう。とてもじゃないが安全に暮らしていける保証はどこにもない。
エヴァは目に見えて落ち込んでいた。そんな彼女に双子は元気に答える。
「俺達は
「三人とも無事だったんだからもっと明るくなろう! 俺は笑ってる母さんの笑顔が見たいな!」
「―― 貴方達......ありがとう」
空元気でもなく本心から告げる二人に、エヴァは少し元気を貰う。
そんな、家族温まるやり取りを眺めていたルシファー。
「もう、話をしても大丈夫か?」
ルシファーの言葉に三人は彼へ視線を向ける。
エヴァはともかくバージルが向ける視線にきついモノを感じながら、ルシファーは彼等に今後について説明をする。
「まず、お前達は俺の庇護下に入ってもらう」
「......ひごか?」
「彼に助けてもらうって意味よ、ダンテ」
言葉の補足をしたエヴァは彼へ問い掛ける。
「私達は、これからも悪魔達に狙われるのね?」
「当然だな。魔界の裏切り者である親父殿の血を引いた俺は勿論、アンタの双子も悪魔達の格好の獲物だ。無論、親父殿の伴侶であるアンタ自身もだぞ」
「やっぱり、そうなるのね。分かっていた事だけど......」
ルシファーの言葉に落胆を禁じ得ないエヴァ。彼女の心境を考えたら仕方ないが、嘘を言っても慰めにもならない為、簡素に告げていく。
そんな二人の会話にバージルが唐突に口を挿む。
「―― 断る」
「?」
最初、何に対して断っているのか理解できなかったルシファーは首を傾げる。
彼の姿にこちらの言い分が伝わっていないと正確に判断したバージルはもう一度告げる。
「アンタの庇護下には入らない」
「何だと?」
「アンタは信用できない。俺達の兄になる人、いや悪魔だとしても俺はアンタを信用できない」
「バージル? 一体どうしたの?」
エヴァの疑問も勿論、ルシファー自身も疑問を浮かべる。
何故、ここまでバージルが彼に対して敵対心を懐くのか。それは、次の一言に集約されていた。
「
「いや、だからそれは......」
「
バージルはいつの間にか手に持った閻魔刀の鞘を掴み、縁頭をルシファーへ向ける。
未だ悪魔の力を覚醒していないにも関わらず、若干赤色に光る瞳を見せながら告げる。
「―― 俺が守る。父さんの代わりに、俺がダンテと母さんを絶対に守るんだ」
「バージル......」
バージルの姿にエヴァは言葉を失う。何が彼をここまで駆り立てるのか理解できなかった。
ルシファーもバージルの反応にどう返していいのか困っていた。
そんな困惑する大人二人と違い、一人状況を観ていたダンテがある提案を投げ掛ける。
「―― なら、勝負で決着つけようぜッ! いつもみたいにさ!」
―― 兄弟対決の第一回目は、こうして幕を開くのだった
投稿に間に合わせる為に、ちょっと急ぎ足で書いので後から大幅な加筆をするかもしれません
その際はご容赦ください