俺はエヴァやダンテ、バージルの三人との記憶を思い出しながら目を覚ます。時間にしてみれば3時間程だろうか。凝り固まった身体を伸ばしながら起き上がる。
「はぁ、やっぱり我が家で寛ぐのは気持ちいいもんだ」
テラスの外に出て太陽と青空を眺める。幻覚の空間とはいえ、膨大な力を用いて創造された空は人間世界で体感できるモノと遜色がない。現にこの出来栄えに文句をつけた者はいなかった。
嘘です、ごめんなさい。見栄を張りました。
ぶっちゃけるとエヴァさんから結構ダメ出しを受けて、何回か作り変えた。だってあの人注文が多いんだもん。ガーデニング場所が欲しいとか、建物をもっとお洒落にしたいだとか。
この辺りの話は寧ろ同性である、ダンテやバージルの方が理解があった。アイツ等は遊べる空間さえあれば文句は言わなかったからな。
そんな他愛もない記憶を掘り起こすルシファーの下、魔界の随所に配置している
「ん、触手型の悪魔? ......あぁ、クリフォトの根の残りカスか」
複数の証言によると、魔界でクリフォトの根の残党とも呼べる存在が各地で暴れているらしい。大本はダンテ達が駆除したが、地中深くに残った根っこ共が最後の悪足掻きをしている様だ。別に放っておいても害はないが、確かめてみたい事があった為そいつ等の下に行ってみようと思う。
「久しぶりにギルガメスを使ったんだ。他の武器も偶には試してみるか」
「さて、ならどれで戦うか......」
眠る前はエヴァの事をどうするか考えていた彼だったが、如何でもいい些事に食いついて答えを先延ばしにする。それはルシファーの悪い癖であったが、彼にはどうしても決められずにいた。
ルシファーは自身の領域から魔界へと移動する。
”今はまだその時ではない”と自身に言い聞かせながら。
◇
という訳で、悪魔狩りに来たのだが。
「やっぱり、他の悪魔達も現れるか」
ルシファーの眼前には駆除対象のクリフォトの根以外にも様々な悪魔が姿を現す。
「入れ食い状態って奴か? まあ、如何でもいいか」
倒す敵が多いなら色々と試す事が出来るか。
なら先ずは数の暴力で制圧させていただこう。
「―― 来い、我が
俺の合図と共に周囲へ次々と
『■■■■■■⁉』
唐突な襲撃を受けて悪魔達から声なき悲鳴が轟くが、そんなの知った事ではないとばかりに俺の
久々に呼び出したが下級、中級悪魔に対しては十分な戦力として利用できると実感に満足する。
俺の手元に一体の
全体的に黒い色合いをした大型の両刃剣。一見、普通の武器を装っているが勿論違う。
刀身に走った赤色の線と
俺が手に握る
その姿は鳥。人間界の鳥類で例えるなら、カラスが一番見た目的には近いだろう。
これの名称は【グラディウス】。
剣に鳥型の悪魔を掛け合わせて生み出した人造悪魔であり、俺の
使い勝手もそこそこ良かった。
動きに関してだが、本来コイツ等に自我はなく
『■■■ッ‼ ■■■ッ⁉』
『ガァァァァッ‼』
悪魔達が何とかグラディウス達の猛攻を止めようと抗う中、グラディウス達はいつの間にか習得した声帯を用いて雄たけびを上げる。そして数十匹に及ぶ剣の雨を降らせる。
前、後ろ、右、左、空中360度、終いには地中を掘り進めて真下から飛び出してくる奴。
ありとあらゆる角度から悪魔達を攻め立てる。
―― 剣が高速で胴体に突き刺さり吹っ飛ばされる、
―― 召喚した部下の
―― 鎖が解かれて大きく開いた口内を蹂躙され絶命する、
―― 弱点の頭部をピンポイントで貫かれ為す術もなく消滅する、
―― 剣山と見間違える有様で息絶える、
今俺の眼前でグラディウスによる殺戮ショーが行われていた。
因みに目的だったクリフォトの根は、開始数秒でグラディウスに刈り取られた。
「......えっ、コイツ等怖すぎるんだけど。何この容赦のなさ」
自分の眷属達が生み出す地獄絵図に恐怖する。
主の考えなど知らぬとばかりに彼等は敵対する悪魔達を殲滅していく。
◇
自分達の存在意義とは何だろう。
彼等は元から自我が希薄な存在だった。
魔界に存在する悪魔の中でも特に脆弱だった彼等は、人間達に簡単に捕まり改造される。
弱肉強食の世界である魔界において、彼等の存在は塵芥以下。
下等種族と呼ぶ人間にすら勝てない弱い存在。
しかし、彼等にとって改造される事は別段如何でもいい事だ。
寧ろ新たな存在となって力を身に付けられるなら、悪魔の身としては最高だろう。
空を飛び回り敵へとその身を降らせる。
何十、何百と
力こそ絶対の掟。敵を打ち倒す事こそ悪魔の本懐。
人間の支配下にあってもそれは変わらない。
――
しかし、希薄となった意識の中でふと考える。
我等には
考えは続かない。すぐに自分達は壊れて、また新しい自分達が生まれるのだから。
こんな考え、無意味なのだ。
結局、自分達は
ただの弱者が、人間に使い捨てにされる弱者に変わっただけ。
なんて事はない。自分達はこのままただ使い潰される。そこに意味はない。
しいて言えば、人間に利用されるバカな悪魔と魔界の連中から言われるだけ。
そんな折、自分達の前に一人の
彼はこちらの攻撃を華麗避け、思案顔で呟く。
「―― うん、コイツ等使えるかもな」
彼はその身から蝙蝠を出現させ、その場に存在する自分達を
抵抗する個体もいたが、等しく彼の蝙蝠に呑まれる。
そして、
我等は個体で自我を確立し、
今までの希薄な意思ではなく、各々で考え行動できる悪魔へと変貌を遂げたのだ。
力も今までの比ではない。
複数の個体で倒すのがやっとだった悪魔ですら、一個体で倒してしまえる強さ。
そして我等は思考を
これこそ、我等に力を与えて下さった
世界を制するに値する覇王の器を持つ御方。
この様な矮小の身にも恩恵を授けてくれる。
正に神に相応しい、いや神すら凌駕する慈愛に溢れた御方だ。
我が主よ。我が創造主よ。この身は貴方に捧げます。
我等一同、この身が果てるまで貴方様の覇道を切り開きます。
何人たりとも貴方様の道は阻ませない。
例え、どの様な悪魔が相手でも粉砕します。塵一つ残しません。
ですので、どうかこの身をお使いください。
我等の存在理由、我等の存在意義は、貴方に仕える事それだけなのですから。
◇
「―― 来い、我が
久しぶりに戦場へ呼ばれた。
主へ勝利を捧げる為に全力を振り絞ろう。
「ガァァッ!(主の命令だ! 先ずはその根を絶滅させろッ!)」
応ッ!と仲間達が承諾し、一斉突撃で根を一つ残らず切り裂く。
次に主を前にして首を垂れない
「ガアッガアッ‼(根絶やしにしろッ! 一匹たりとも残すなッ!)」
また応ッ!と承諾し、仲間達は連携を取りながら殲滅していく。
自分は周囲を飛びながら戦場を観察する。
戦場の悪魔達は中級クラスが精々といったところで自分達で十分殲滅できる敵だった。
主がわざわざ手を下すまでもない。我等だけで十分。
そうこうしているうちに主から一体下りて来いと連絡が入る。
主の近場の個体がその命令に応じて降下しようとするが ――
「ガァァァァァッ‼‼(それは私の役目だッーーー‼‼)」
「ガァ⁈(えッ⁈)」
私は降下する個体を撥ね退け、主の下へ飛んでいく。
結構な速度で降下したにも関わらず、主は難なく私を掌に収める。流石です、我が主!
撥ねた個体があらぬ方向に飛んでいったが大丈夫だろう。
そんな事よりも、我が主が私を見つめている事が重要案件だ。
剣の形になった私をじっくりと観察する、我が主。
愛されていると実感して私の気分が上がる。
一通り、私(ここ重要)を眺めた主は私を宙へ投げる。
主の下から去るのは名残惜しいが、鳥へ変化した私を優しげな眼(個人の感想)で見つめる主の想いに応える為、私は心を修羅へと変えて戦場に戻る。
「......(......)」
「カァ?(ん? どうした?)」
「......(......)」
「(まあいいか、それより主の敵を駆逐しなければ!)」
さっき私に吹っ飛ばされた個体が何か言いたげに見つめてくるが特に問題はないだろう。
さあ、最後の仕上げと行こうじゃないか!
「ガァァッ!(総仕上げだ! 全員で掛かれッ!)」
『......(......)』
「カァ?(ん? どうした?)」
私は先程と同じ様に周囲の個体に問い掛ける。彼等は私の指示に応えず黙って私を見つめる。
何やら殺気立っているが、如何したのだろうか?
そんな私の気持ちに応えてか先程の個体が背後へと忍び寄り、一言告げる。
「ガァァァァッ‼(テメェが行って来いやオラアァッ‼)」
彼はなんと私を敵へと吹っ飛ばしたのだ。
この行為に驚いたが、私は何とか踏み留まる。
そして彼に対して抗議する。
「ガァァガァァ‼(これはとんでもない裏切りである、そうだろう皆!)」
私の気持ちに皆も応えてくれる筈だ。
そう思い、周囲に存在する仲間達に問い掛ける。
『ガァァァァッ‼(テメェが行って来いやオラアァッ‼)』
「ガァァ⁈(エェェェ⁈)」
最初の個体が吹っ飛ばした要領で数十体の個体が私を連鎖的に吹き飛ばす。
為す術もなく吹き飛ぶ最中、私は理解した。
「(―― あぁ、皆は主様が大好きなのだな)」
私と同じ様に皆、主様を敬愛しているのだ。
私の蛮行に憤りを覚えるのも無理はない。これは私への罰なのだ。
心の中で私は猛省する。
「(それはさておき、この戦闘が終わったら主に可愛がってもらおう)」
この固体、文字通りの鳥頭なのであった。