スタイリッシュな双子の兄貴になりました   作:クリカラ

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第13話 母親って面倒くさい

 

 

 

 

 ニーズヘッグを倒した後、俺は久しぶりに人間界へ降り立った。

 端末(こうもり)を座標に出た為、望み通りの場所へ出れたが辺りを見渡して溜息をつく。

 

「数年訪れなかっただけで、人間界は随分と変わるモンだな」

 

 降り立った所は近代化により高層ビルが多く立ち並ぶ街だったが、それがこの数年で更に進んだらしい。新たな建物がいくつも増えて、軽く視界に入れた景色だけとってみても前世(むかし)の技術水準(レベル)に到達、あるいは既に超えているのかもしれない。

 

 まぁこの世界は悪魔関係の技術も流出している関係、一部の技術では圧倒している。

 俺は日の当たる表街道から裏通りへ移動する。入り組んで迷路染みた道を歩く事数分、目的地である建物の前に到着。

 

 外観は雑居ビルである建物へ入っていく。内装は意外と綺麗に整っており、小奇麗な中小企業のホールを連想させる作りをしていた。

 受付カウンター席に座る受付嬢が建物に入って来た俺に対応する。

 

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか?」

 

 美人な受付嬢が要件を訪ねてくる。何度か足を運んだ事のある俺に対してこう言った事を聞いてくる辺り、恐らくこの子は新人なのだろう。実際、俺自身も見覚えが無かった。

 

「ルシファーが来た、と社長(オーナー)に取り次いでもらえるか」

「っ! かしこまりました、少々お待ちください」

 

 俺の名前位は聞いた事はある様だ。一瞬反応を示したが、何事もなかったかのように対応されてしまう。新人を揶揄うチャンスだと思ったが当てが外れてしまった。

 

 手持ち無沙汰になった俺は、壁に背凭れながら静かに待つ事にする。その間に内線で連絡を入れ終えた受付嬢が、チラチラとこちらを窺うが特に何も言わない。

 

「何か聞きたい事があるのか?」

 

 視線が気になったので俺の方から彼女に声を掛けてみる。

 こちらの言葉にビクッと身体を振るわせた後、恐る恐る問い掛けてくる。

 

「あっ、いえ......なら、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

「俺が答えられるモンならいいぞ」

 

 暇だったので彼女の話に付き合う事にしたが......何だろう。面倒な予感を覚える。

 俺の心配をよそに彼女は疑問を投げかける。

 

「貴方様が本当に、あのルシファー(・・・・・)様なのですか?」 

「あぁ。その認識で間違いないぞ」

 

 俺の返答にやはり答えを知っていても驚きがあったのだろう。息を吞むのが分かった。

 

「―― 貴方が、裏切り者(スパーダ)の息子......」

悪魔(アンタ)から見れば、確かにその認識で正解だな」

「......」

 

 受付嬢の女――悪魔(サキュバス)は俺の言葉に警戒心を覗かせる。

 予感が当たったと溜息を吐く。

 

「そんな警戒すんな。別に取って食いはしねぇよ」

「でも貴方、魔界では悪い意味で有名ですよ。悪魔狩り(デビルハンター)として......」

 

 口調がやや攻撃的になってきたが許容範囲だろう。ただ警戒している猫と一緒。

 こちらに攻撃をしないなら如何でもいい。俺は真実だけを話す。

 

「人に害なす悪魔だけ狩ってるだけだ。社長(お袋)の庇護下に入ってる奴は俺の管轄外だ」

「ではやはり、社長(オーナー)は貴方の......」

 

 彼女とのお喋りはそこまでだった。俺にとってなじみ深い気配が漂う。

 目を向けた建物の奥に続く扉が開き、一人の女性(あくま)が姿を現す。

 

「―― 坊や(ルシファー)、新人の子を口説くならもう少し優しくしてあげなさいな。スパーダから受け継いだイケメンが台無しよ?」

 

 豊満な胸を惜しげもなく晒すドレスを着こんで現れた美女【ネヴァン】。

 ウェーブがかかった真紅の髪に男を誘惑する魅惑の身体(ボディ)、妖艶な笑みがこれ程似合う女もそうはいないだろうと断言できる彼女こそ、我が母だ。長い年月が経っても相変わらずで溜息を吐く。

 

「......お袋、わざと遅れてきたな」

「ふふ、どうかしらね?」

 

 口元を隠して誤魔化してくるが、明らかに笑っている。

 また始まった思いながら俺は告げる。

 

「いや、先に端末(こうもり)で連絡しといただろ。態々新人を配置して遊ぶな」

「可愛い我が子を想って、母はうら若き乙女で貴方を出迎えてあげようと思っただけよ」

「あぁそうですか。ありがとうございます」

 

 母の言葉は嘘だと分かるので適当にあしらう。

 俺が真面目に打ち合わない事に立腹して、母は僅かに頬を膨らませる。

 

「はぁ......私の可愛い坊や(ルシファー)は一体どこに行ってしまったの?」

「目の前に居るだろ」

「母を蔑ろにする息子なんて、私は持った覚えはないわ」

 

 機嫌を損ねてしまいすっかり拗ねてしまった。

 更に面倒くさい状況を作り出した事に己のバカさ加減を痛感する。

 何とか宥めようと言葉を洩らす。

 

「大げさだな。別に蔑ろにしてないだろ」

「いいえ、坊や(ルシファー)にとって私はただ都合がいい女ってだけでしょ」

「言い方! それじゃあ俺がただの畜生野郎じゃねぇか」

 

 ジト目で母を見つめるが、逆にそれ以上の視線で返される。俺は何故そんな目で見られなければならないのか疑問に思う。

 

「他の母親(エヴァ)に入れ込んで、実母(わたし)を蔑ろにしてるのに違うっていうの?」

「ウッ⁉ いや、それは......そうだけさぁ......」

 

 痛い処を突かれて正直参った。言い訳のしようがない正論をぶつけられる。

 俺が困った顔を覗かせると母は仕方がないとばかりに助け舟を寄越す。まあ、俺にとってそれが助け舟になるかどうかはまた別の話だったが。

 

買い物(デート)で手打ちにしてあげるわ」

「はっ?」

 

 疑問に思う間もなく母は出口へと足を運ぶ。

 こちらを一瞥し言葉少なに告げる。

 

「ほら、早く行くわよ」

「ちょ、待てよ! お袋!」

 

 俺はスタスタと歩き始める母の後ろを慌てて追いかける。

 こうして二人は市街地へ買い物(ショッピング)に繰り出す。

 

 そんな親子のやり取りを近くで眺めていた受付嬢は ――

 

「―― 伝説の悪魔狩り(デビルハンター)も、自身の母には勝てないって事かしら」

 

 表情を穏やかにしながら二人を見送る。

 今度ルシファーと会った時は、もう少し心穏やかに接せるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流石、私の息子ね。()避けにこれだけの効果を発揮するのは純粋に嬉しいわ」

「......お袋なら人間(おとこ)が数人がかりでも余裕だろ」

「あら、か弱い乙女(わたし)がそんな荒事仕事なんてする訳ないじゃない」

「......」

 

 俺は死んだ目で母を見つめる。

 出会い頭の大胆なドレスからカジュアルな服装へ、姿を変えた彼女を伴って街中を闊歩する。

 

 高いヒールを履いて高身長の俺と横並びに歩く。

 服は黒デニムにグレー色のキャミソールの上に白のジャケット。

 

 最初より随分とマシになった。当初の格好で一緒に街中を歩くなど考えたくもない。

 それでも色香に誘われて男どもが何度も近寄ってくる。それを番犬代わりの俺が睨みを利かせて追い返す。そしてその対応にご満悦する母。

 

 母は俺を連れ添って買い物(デート)を楽しむ。

 人間界に降り立った時に稼いだ金が秒単位で吹っ飛んでいく。一着が数十万の服とかバックとか買っていくの止めませんかね?

 

 その後も色々と連れ回されて正直疲れた。

 悪魔を狩ってる方が精神的に気が楽って......俺は戦闘狂じゃないんだがな。

 

 オープンテラスのカフェで休憩を取る間、俺は正直に思った事を告げた。

 

「お袋、丸くなったよな」

「あ゛?」

 

 言い方が悪かった所為で殺気をぶつけられた。

 その視線で男達を追い払えばいいのにな......じゃなくて。

 

「体型じゃなくて性格の話だよ!」

「あら、私ったらつい早とちりしちゃったわ」

 

 瞬時に殺気を散らせた辺り、解っていたんじゃなかろうか?

 俺は母に疑いの眼差しを向けつつも、自分から振った話題を続ける。

 

「俺を産んだ時、人間界(にんげん)に興味なんてなかっただろ。それが今は現世で大きな生活基盤を築いて、俺より上手に人間達の中で暮らしてる。ぶっちゃけ意外だった」

「そうかしら?」

 

 何でもない様に母は言うが、本当に俺は驚いている。

 当初の彼女は人間に対して攻撃的ではなかったが、友好的とも言いずらい距離感を保っていた。それが今や曲がりなりにも人間社会の一部に収まり、人間達の間で過ごしている。

 

 自身と同じ特性を持つ悪魔(サキュバス)連中を集めての商売。

 夢の中で気持ちよくしてくれる健全(クリーン)なお仕事で正直、バカに出来ない稼ぎを叩きだしている。(ヤク)なんかよりよっぽど幸福感を味わえるそうだ。その筋から一度聞いた事がある。

 

 お偉いさん達も相手している為、色々と権力的な意味でも凄いらしい。

 ......裏から人間界を支配しているなんて言われるのも頷ける。だが、母は至って常識の範囲内で人間界で活動している。

 

「―― 正直、何時かは俺の手で引導(けり)をつけなくちゃならなくなると想ってた」

 

 今まで考えていた事を言葉にして母に伝える。

 それに対して母は笑みを浮かべるだけだ。

 

「あら怖い」

「茶化すなよ。こっちは真面目に話してんだ」

「ふーん」

 

 俺の言葉に真実味を感じないのか、呑気に返事をする。

 今日何度目かの溜息を吐きながら俺は席を立つ。

 

「今日はもうこのくらいで良いだろ。また今度、ちゃんと相手をするからさ」

 

 俺の懇願に一時思案顔を見せた母は頷く。

 

「ん~まぁいいでしょう。今回はこの程度で許してあげるわ」

「ありがとうございます!」

 

 素直に感謝の言葉が出る。問題解決の近道は素直が一番だな。

 小躍りしたい欲求を抑えて自然を装いつつ、その場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―― 今度は変な言い掛かりでもつけて、一日中連れ回そうかしら?」

 

 私は坊や(ルシファー)の後姿を眺めながら次の悪戯を計画する。

 頼んだコーヒーを飲みながら、ふと先程の話題を思い出す。

 

「―― 私の性格が丸くなった? そんなの当たり前でしょ、バカな子ね」

 

 可愛い我が子に親を討たせる酷い仕打ちなど、誰がさせたがるものか。

 ネヴァンは今一つ考えを巡らせない息子を小馬鹿にする。

 

「まあ、そんな抜けた所も坊や(ルシファー)の魅力の一つと数えましょう」

 

 久々の息子との会合に笑みをこぼす。

 そんな彼女の胸元から電話の着信が届く。胸元、というより谷間からスマホを取り出して電話に出る。近くを通行していたカップルの男性側がその光景に鼻の下を伸ばし、彼女に怒られているがネヴァンは気付きもせずに通話する。

 

「もしもし? ......ええ、解ったわ。なら迎えの車を寄越して頂戴」

 

 ネヴァンは通話を終え、カフェを後にする。

 懇意にしている取引先からの電話に先程までの笑みは鳴りを潜め、妖艶なモノへと変じていた。色気を醸し出しながら車が来れる場所まで足を運ぶ。

 

 そんな彼女に釣られて ――

 

「なあアンタ。俺達と楽しいコトしないか?」

「俺の一物で気持ちいいコトしてやるぜ」

「ひゃはははは!」

 

 彼女の道を阻むかの如く典型的なバカが姿を現す。

 日本だったら昭和時代の漫画の一コマを彷彿とさせる場面だろうか。

 

 ルシファーがいなくなった事により手を出しやすくなったと判断し、甘い蜜に集まるハチが如く男達が寄ってくる。しかしそんな彼等を視界に収めても歩みを止めず。

 

「邪魔よ」

「「「ッ⁈」」」

 

 目にも止まらぬ足技で三人の男の意識を容易く刈り取る。

 道端に無様に倒れ伏した男達に視線を向けながら一言告げる。

 

「―― あの人(スパーダ)私の息子(ルシファー)レベルのイケメンなって、出直してきなさい」

 

 結構な無茶を要求しながら、彼女はその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地方都市レッドグレイブ市は、クリフォトにより壊滅的な被害を受ける。

 既に復興作業が行われており、被害が大きい部分を除いて交通の便に不可欠な道路の緊急工事。水道電気等の生活に必須となるパイプラインの復旧作業。家などを失い路頭に迷う人達の、当面の生活を援助する国からの支援活動。

 

 痛々しい現場を眺めながら俺は歩を進める。

 既に割り切った事だが、改めて悪魔の被害を突き付けられると遣る瀬無い気持ちを懐く。

 

「おじちゃん、その先は行ったら駄目なんだよ?」

 

 通行止めの看板や仕切りなどがある区画を通ろうとした時、声を掛けられる。声の方向に視線を向けると、小さな女の子が俺に向かってダメだよと教えてくる。

 

 近くに彼女の親らしき存在しない。恐らく少し先の軍の支援基地から抜け出してきたのだろう。注意する意味も込めて俺は言葉を掛ける。

 

「お嬢ちゃん、君の方こそこんな危ない所に来ちゃダメじゃないか。早くお父さんお母さんの所に戻りなさい。きっと今頃心配してるぞ?」

 

 出来るだけ怖がらせない様にしゃがみ込んで言葉を告げる。

 しかし、彼女は俺の言葉に暗い表情を覗かせる。

 

「......お父さんとお母さん、どこかに行っちゃったから今はいないの」

「......そうか。なら早く帰ってくるといいな」

「―― うん!」

 

 暗い表情が明るいものへと変化する。嬉しそうな笑み、明るい未来を信じて疑っていない顔だ。

 彼女の笑顔に顔が歪みそうになるが何とか耐える。

 

 恐らく彼女の両親はもう......死んでいるのだろう。

 周りの大人達が彼女にどういった説明をしたのか容易に想像がつく。

 

 こんな小さな子に現実を教えるのが酷なのは分かっている。

 非常事態のこの時に態々小さな子を混乱させる必要がない事も理解している。

 

「―― 遣る瀬ないわなぁ......」

「ん? どうしたのおじちゃん」

「いや、何でもない」

 

 俺は彼女に真実を告げる事が出来なかった。

 もしかしたら、彼女の親は本当に生きているかもしれない。感動の再会を果たすかもしれない。そんなあり得ない妄想を想い浮かべて言葉を濁す。

 

「さあ、君は帰りなさい。ご両親が帰って来て君がいなかったら心配するぞ」

「そうだね! 私がいなくなったら、お母さん達が困るもんね!」

 

 先程と似たような言葉になってしまったが、彼女は先程の表情とは違ってウキウキした感じで、こちらの言葉に頷いている。彼女は両親との再会を想像したのだろう、元気が出たようだ。

 

「じゃあね、おじちゃん! もうその先に行ったりしたら駄目だからね! またね!」

「......あぁ、忠告ありがとう。またな」

 

 元気よく駆け出した彼女の後姿に軽く手を振りながら別れを告げる。

 彼女が支援基地へ入っていくのを確認し、俺は通行止めの先へと足を踏み入れる。

 

 無性にぶん殴りたい気持ちを抑えながら、ルシファーはクリフォトの発生源に向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おじちゃんにちゃんと駄目だって伝えてきたよ!」

「―― ええ、ありがとうございます。お嬢さん」

 

 支援基地に戻った少女はある男性の下へ駆け寄り、自身が果たした役目の完了を告げる。

 彼女の言葉に男性は微笑みながら感謝の言葉を贈る。

 

「でもおじちゃんにアナタの事を教えなくて良かったの?」

「私は恥ずかしがり屋さんですので、これで良かったんですよ」

「ふーん」

 

 納得した感じで頷く少女だったが、意味は余り分かっていなかった。

 そんな彼女に男は朗報を教える。

 

「貴方のお父さんとお母さん、先程こちらにいらしてましたよ」

「ッ⁉ お父さんとお母さんが帰ってきたの⁉」

「ええ、あちらの方にいると思いますよ」

 

 そう言って男は相談所の天幕がある場所を指さす。

 

「お父さん! お母さん!」

 

 少女は全力で駆けだしていった。

 男は遠目で彼女が両親らしき人物達と抱き合う姿を確認してその場を後にする。

 

 軍の施設から抜け出し、ルシファーが向かった方角へ顔を向ける。

 

「―― ぁぁ」

 

 男の頬が自然と緩む。

 表情全体もだらしなくなり、他者が見たら気持ち悪いと評するモノへと変わっていく。

 

 ルシファーや彼の弟達程ではないが男の顔は整ったモノだ。

 しかし、それを台無しにする笑みを浮かべながら告げる。

 

「―― もう少し、後もう少しで全てが揃う......」

 

 狂気染みた男は自身の身体を抱きしめながら謳う。

 自分の野望を果たす為にその身を狂気で包む。

 

「―― 救世主(ルシファー)様、私と貴方が一つとなる時が遂に......」

 

 

 

 

 

アハハハハハハハハハハッッッ‼‼

 

 

 

 

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