ルシファーは海上の空を飛びながら、サタンと名乗る人物について思案する。
半人半魔のダンテやバージルと異なり、純粋な悪魔であるルシファーは人型を保った状態で飛行する事が出来る。傍から見れば人が空飛ぶ怪奇現象だが、肉眼で捉えきれない高度で飛行する彼を視認する事はほぼ不可能。
自由に空飛ぶ彼だが、空の旅を楽しむでもなくこれから対面する輩に思いを馳せる。
「......」
思いを馳せる、といっても勿論良い感情で考えている訳ではない。彼も好き好んで変態に思考を割く程、神経は図太くない。こういう手合いは
ダンテに聞かせれば”ふざけんなっ‼”と愛銃のエボニー&アイボリーが火を噴くだろうか。彼は真面目に考えるが馬鹿馬鹿しくなり、眼前に映るマレット島跡地へ降り立つ。
「島の原型はもう無いな。古城の残骸が海から顔を出してるだけか」
マレット島は人間界と魔界の境界が薄い場所であった様で、封印から復活した魔帝ムンドゥスが人間界侵攻の拠点として使用していた無人島である。しかしダンテの手によってムンドゥスが再度封印された際、脱出時の爆発で見るも無残な有様へ変わった。
ルシファーが言葉にした通り、昔の領主などが建設した城や島に配置された施設は軒並み残骸と化していた。島としての機能は最早欠片たりともない。
「さて、奴は何処だ?」
残骸だけの島を見渡し、溜息を吐く。どう見ても人が住んでいる気配が感じられない。
「まんまと図られたのか。それとも本当にこんな所に生きた施設が在るのか」
暫く辺りをうろついていると突然気配を感じる。
気配がした方角を見れば、あの男――サタンが立っていた。
「―― お待ちしておりましたルシファー様。態々のご足労、感謝の言葉もありません」
芝居掛かった動きで仰々しく頭を下げるサタン。
その姿に何となく違和感を覚えるが、どうでもいいかと切り捨てる。
「そっちから招待しておきながら出迎えもろくに出来ないのか」
「これは痛いところを突かれましたね」
軽口に軽口で返される。やはり何かおかしい感じる。
レッドグレイブで会った時と若干違っている気がするのだ。
「それがお前の素なのか」
「はて、どういう事でしょうか?」
質問の意図が読めないのだろう。こちらの言葉に疑問で聞き返してくる。
「変態性が薄れているぞ」
「......つまり、私の愛を前面的に押し出していけという事ですね?」
「すいません止めて下さい。俺の精神が死んでしまう」
言葉って凶器になるんだなと気付いた。気付きたくなかったな......。
こちらの反応に満足したのか、サタンは自身の横に魔法陣を出現させる。
「戯れもここまでにしましょう。さあ、私の居城へお越しください」
「転移魔法陣か。まっ、階段を降りて来いなんて言われるよりマシか」
特に気負った雰囲気も見せずにルシファーは魔法陣の上に移動する。
その姿にサタンは多少の驚きを見せる。
「私が言うのもアレですが、罠などを張り巡らしている可能性を考慮しないのですか?」
「罠なら正面から打ち破ってお前を斬る。大体、此処に来た時点でそういうのは最初から考慮して然る可きだろう。それだけの事だ」
当然だ。明らかに敵である相手に警戒心を抱かない訳がない。これから敵の懐に飛び込むのだ。なら気持ち的に戦場へ向かうのと変わらない。だが負けるつもりはない。
「どんな罠でも張ってろ。それを食い破ってお前の首に剣を叩き込んでやるよ」
ルシファーは転移で身体を消しつつも己の勝利を疑わず、その場に残っていたサタンに手で首を斬るジェスチャーを披露する。消えていった彼を見てサタンは薄い笑みを浮かべる。
「えぇ、是非私の下まで辿り着いて下さい」
―― 我が、大願成就の為に
◇
正直、楽勝だと考えていた。
力を
事実、サタンが仕掛けた悪魔は何の苦労もなく撃破して終わった。まぁその悪魔の姿が
自分を阻めるものなど存在しない。
慢心していたのかと言われれば、していたのだろう。いや、していたと断言しよう。
―― だからこそ、
「......最後に、何か言いたい事はありますか?」
「――――――」
身体に力が入らない。瞼が重く、凄く眠い。思考が定まらない。こんな無様な姿を晒したのは、何百年ぶりだろう。昔過ぎて覚えていない。
這い蹲って満足に喋れなくなっている事に今気付いたのか、サタンは申し訳なさそうにする。
「すいません。世界最高峰の力を持つルシファー様を打ち負かすには、
そう言ったサタンの傍らに
それの光景を視界に収め、定まらなかった思考を無理やり覚醒させる。
「何で、彼女が此処に......?」
「分かりますよ、その気持ち。私が貴方の立場だったら同じように思うでしょう」
サタンは倒れたルシファーの身体に方陣を刻みながら答える。
「理解していると思いますが、此処に居る彼女は
改めて言われるまでもなく理解している。だから俺は無様に地へ伏せているのだ。解せないのはそこではない。魔界の、それも俺の領域に匿っていた彼女をこんな場へ引っ張りだせたのか。
「どうやって、俺の領域に......」
「―― 永い時を要しました。テメンニグル、デュマーリ島、城塞都市フォルトゥナ、そして此処マレット島。貴方様や弟君達が多くの悪魔達と相対した数々。
そう告げたサタンの傍らに誰かが現れる。
それは、
人造ルシファーを皮切りに、次々と彼が手掛けた
腹違いの双子ダンテとバージル、甥にあたるバージルの息子ネロ。
「貴方の領域に入る為の条件を特定し、実行に移すのは思いの外簡単でした。しかし、様々な柵で今まで実行する事が出来なかったのです。ですがレッドグレイブの一件で遂に我が夢が実現段階に至ったのです!」
歓喜するサタンの姿を視界に収めて、俺は表情を歪ませる。
この段階に至っても一向に打開策が浮かばない自分に苛立ちを隠せない。
「そろそろ限界ですね。種明かしもこれ位でいいでしょう」
サタンの方陣が完成したのか、辛うじて保っていた意識が急激に薄れていく。
何の抵抗も出来ずに、深い意識の底へ堕とさせる。
意識がなくなったルシファーを愛おしそうに眺め、サタンは告げる。
「―― さよなら、
◇
その日、ネロはいつも通りの生活を送っていた。
ニコが移動式事務所であるバンを駆って目的地に彼を送り、現場では悪魔相手にネロが愛用する駆動大剣『レッドクイーン』と六連装の大口径リボルバー『ブルーローズ』が無双する。
ネロはダンテと異なり悪魔退治専門の便利屋でなく、通常の便利屋としても業務も行う。今回は下級悪魔を討伐する比較的簡単なモノ。寧ろ、楽勝過ぎて不完全燃焼すら感じ程だ。
「あ~ぁ、下級悪魔じゃあ素材にもなりゃしねぇな」
ネロが片手間に蹴散らした悪魔を見やりながらニコが言葉を洩らす。
彼女の呟きを聞き流しながら、ネロは車内に戻り助手席へ乱暴に腰を下ろす。
「文句言うんじゃねえ。仕事があるだけ、ありがたく思えよ」
「ハイハイ、真面目君は言う事が立派だねぇ~」
バンを運転しながらネロの言葉を流すニコ。
そんな彼女の軽口にも随分と慣れたとばかりに座席に背を預けるネロ。
何時の光景と変わらない。少なくとも、この時までは。
最初に異変へ気付いたのは、ネロではなく以外にもニコの方だった。
「おい、ネロ」
「何だよ。やっと寝つけそうだったのに......」
「いいから! 黙って辺りを見渡せよ」
助手席でうつらうつらとしていたネロは、ニコの言葉で不機嫌ながら起きる。
そんな彼の文句を受け入れず、辺りを確認しろと忠告する。
何時の彼女よりも真剣だった為、注文通り移動する車内から外の景色を眺める。
車内から観た風景は市街地を横切っているモノで、別段に違和感を覚えるモノではない。ネロは眠りを妨げられた影響で不機嫌な表情になり、再度文句を垂れる。
「ニコ、俺は眠いんだ。用もなく起こすな」
「外をじっくり観察しろってんだ、バカ。お前の目は節穴かよ?」
感が鈍いネロにニコが毒吐く。
「あぁ? 普通に住宅街を進んでるだけだろ......いや、これは......」
「やっと気づいたか、お間抜け野郎」
ニコが言いたかった事は理解し、ネロは外の景色を凝視する。
彼女は運転しながら自身の見解を話す。
「どう見ても私等、同じ場所をグルグル回っているよな」
吐き捨てる彼女の言葉に同意する。
ネロは自身も言葉で現在の状況を確認する。
「正確には似たような場所を行ってんのか。道を変えてみても同じ結果か?」
「あぁ、何度も車線を変更しても結局似たような場所に出ちまう。ご丁寧に車から出られない様にロックも掛かってやがる。窓をぶち壊そうにも防弾ガラスもビックリの耐久性能を発揮してるし、正直お手上げだ」
そう言いながら車を右へ左へ道を変更する。しかし結局先程の市街地内を走行する結果に戻る。車を止めて扉を開けようとするも開かず、窓を勢いよく殴りつけるもビクともしない。
面倒くさくなってポケットから取り出した煙草に火をつけて吹かしだす。煙草の煙を嫌うネロはいつもの癖で窓を開ける。すると、先程から何をやっても開かなかった窓がすんなりと開く。
「ッ⁈ ゴホッゴホッ、ウェッ‼」
「オイ! 吐いたりすんなよ⁉」
ネロが開けた窓に驚き、煙草の煙で咽る。
そんな彼女の姿を嫌そうに眺めらながら、ネロは空いた窓から身を投げ出す。
別に嗚咽する彼女から逃げた訳ではなく、周囲を確かめる為に外へ飛び出したのだ。
ネロは異様となった周囲に気配を配りながら、索敵する。
「(今の所は悪魔の気配は感じないが、十中八九悪魔絡みで間違いないだろう)」
こんな異常事態を起こせるのは、超常の存在たる悪魔をおいて他に居ないだろう。逆に考えればこの異常事態の解決策も自ずと解る。
「オイ! この糞ったれな状況を創った奴! 観てるんだろ! さっさと出てこいよ!」
ネロは視界に収めた人物の姿に驚きと戸惑いを示す。
驚いたのは彼にとってその再会が約5年ぶりのものであった為だ。戸惑いは何故その彼が此処に居るのかという単純な疑問。
「何でアンタがこんな所で出てくるんだよ、ルシファー」
「可愛い甥っ子に会いに来ちゃ駄目だってのか、ネロ坊」
ネロの傍まで歩いてきたルシファーはニヤッと笑みを浮かべ問い掛けてくる。
彼の言葉に面倒くさそうにネロは顔を背ける。
「坊って言うの止めろよ。そんな年でもねぇし、俺はその呼び名に納得してねえぞ」
「おいおい、そう照れるなよ」
「照れてねぇし。後その絡みウザいぞ」
彼は自身を子ども扱いするルシファーに対し、若干の苦手意識を持っていた。
その事が相まって彼に対面せず、背を向け周囲を窺いながら聞く。
「さっきの質問だが、何でアンタがこんな所に居るんだ」
「ん~捜し
「捜し
「そっ、捜し
背を向けるネロに近づきつつルシファーは告げる。
近づく彼の気配を感じながらネロは今の現状について問い掛ける。
「なら、この変な現象を起こしたのかアンタなのか? だったらすぐ解放してくれ。こっちは仕事終わりで早く家に帰らなくちゃいけないだ」
そこまで話してネロは自分とニコが乗っていた車が跡形もなく消えている事に気付く。
”ニコの奴どこに行ったんだ”と、考えながらルシファーの方へ振り返る。すると腹部にとんっと軽い衝撃が走る。
「―― あ?」
ネロは自分のお腹を見て動揺する。何せルシファーが笑いながら彼が得意とする魔力剣で自身の腹部を貫いているのだから。訳が分からず、驚愕の表情で見つめる。
「な、何が......どう、して......?」
「―― ふふっ、ふふふっ、ふははははっ......‼」
口の端から血を流すネロを見やり、ルシファーは笑みを浮かべる。
嬉しそうに、楽しそうに、愉快そうに、只々嗤う。
―― それは今までネロが見たこともない程、狂気を含んだ笑みだった
マジで調子が出なくて、今回の話も自分が納得できる仕上がりに出来ませんでした
物書きの才能ってやっぱりより多く書いていかないと培われませんね......
今後はこの位のペースで投稿する事になるかもしれませんがご容赦ください