スタイリッシュな双子の兄貴になりました   作:クリカラ

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第6話  記憶(記録)の断片

 

 

 

 

 限りある生に祝福を、終わりあるからこそ美しい最期(ラスト)を。

 多くの者が願う幻想。儚い夢に終わる夢幻。

 

 あぁ、人の世は何とも残酷だ。

 百年にも満たない生を享け、不幸な最期を遂げる者の多さ。

 

 高度な知性を持ちながら、強者と弱者を生み出してしまう愚かさ。

 何と救いようがない、度し難い生き物であろうか。

 

 自分達が他者(セカイ)を食い物にしている事すら理解せず、傲慢で自分勝手な夢ばかりを観る。

 まるで空想上の悪魔(・・)だ。人間達(オマエら)は悪魔より悪魔らしい。

 

 愚かにも悪魔と契りを結んだ人の娘(エヴァ)よ。

 許さざる咎を背負った人間(ヒト)よ。

 

 お前はこれから先、地獄など生易しい世界を知る事となろう。

 覚悟など持たなくともよい。滅びの運命からは逃れられないのだから。

 

 人と魔が、愛し合うことは罪なのか。

 その通りだ。悪魔を愛した女よ。

 

 貴様の終わり(はじまり)は、これからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢の中で何かが囁いたような気がする。

 気のせいだったかもしれない。夢ですら無かったかもしれない。

 

 それは呪いだった。

 確定事項を告げるかのように、覆らない運命を定められたかのように。

 

 あの人(スパーダ)と私達の可愛い子供達(ダンテ、バージル)

 四人の日常が数年続いただけでも奇跡だったのか。これ以上の幸福を求めていけなかったのか。ただ、普通に暮らしたかった。夫と他愛もない会話をするのも、子供達に美味しいお菓子を作ってあげる事も、父と子の団欒を傍らで眺めるのも、全て分不相応だったのだろうか?

 

―― いえ、ダメなんて事は絶対にない

 

 スパーダとの出会い。

 愛おしいダンテとバージルの誕生。

 

 彼等との想い出(キズナ)を、誰でもない私自身が肯定する。

 意地汚いと罵られても構わない。私は、私が夢想する幸せを掴んでみせる。

 

 悪魔と人間の夫婦だからって、幸せになれないなんて誰が決めた?

 半人半魔の存在だからと不幸せにしかならないと誰が言った?

 

 私達自身の幸せを決めるのは私達で、子供達を幸せにするのも私達。

 なら顔を上げなさい、(エヴァ)。俯いている暇なんてないわ。

 

 ()ってしまったあの人(スパーダ)の分まで、私が二人を守り抜くの。

 

―― そんな、(エヴァ)の儚い願いは、あっけなく終わりを告げる

 

 悪魔の襲来。

 スパーダが大昔に封印した魔帝ムンドゥスの手下達によって齎されたそれは、未だ幼い子供達と人間のエヴァにとって最悪のモノだった。

 

『こっちに来て! ここに隠れているのよダンテ! 何があっても出て来ては駄目!』

 

 悪魔達の襲撃で屋敷が燃え、酸欠状態で倒れていたダンテを見つけるエヴァ。彼女はすぐ近くにあったクローゼットにダンテを隠し、未だ行方知れずのバージルを捜しに行こうと彼に最後になるかもしれない言葉を告げる。

 

『バージルを探してくる、すぐに戻るわ。でも、もし戻ってこなかったら貴方一人で逃げるのよ、いいわね?』

 

 これがエヴァと最後(わかれ)になるのだと子供ながら感じ取ったダンテが、今にも泣きそうな顔で彼女を見つめる。彼の不安な表情を安心させようと精一杯の微笑みを顔に浮かばせ一度抱きしめる。

 

『そんな顔しないで。よく聞いて、貴方なら大丈夫、頑張れるわよね?』

 

 小さく頷く彼を今度は彼女の方が不安げ気に一瞬見つめる。しかし事態は一刻の猶予もない為、無理矢理に真剣な表情作りダンテに今後の事を伝える。

 

『逃げたら、名前も過去も別人として生きていきなさい。新しい人生を始めるの、いいわね?』

 

 こちらに手を伸ばそうとするダンテをクローゼットの扉を閉めることによって静止した彼女は、もう一人の我が子を捜して燃え盛る火の海へと飛び出した。

 

『バージル! バージル‼ どこにいるの⁉』

 

 火の中を突き進みながら周囲一帯に呼びかけ続けるエヴァ。

 そんな格好の獲物を仕留めるの事なんて、悪魔達にとったら容易かっただろう。

 

 彼女が気付いた時、既に悪魔の攻撃がその身を切り裂こうとしている直前であった。

 

(―― ダンテ、ごめんなさい。バージル、どうか生き延びて ――)

 

 愛しい家族に別れを。

 最後に彼女が出来た事は、心中で子供達に別れを告げる事だけだった。

 

 そんな最後を迎える彼女を ――

 

『うわぁぁぁぁぁぁぁっ‼‼』

 

 幼い声を張り上げながら、息子(バージル)が救出する。

 

 バージルが振るった閻魔刀で斬られ、崩れ落ちる悪魔。

 周囲が火に包まれる中、彼女は唖然とした表情で自身を救ったバージルの背中を視界に入れる。

 

『......バージル?』

 

 母親(エヴァ)の声ではっと我に返るバージルは、すぐさま彼女に駆け寄り無事を確かめる。

 

『大丈夫、母さん⁉ 怪我は無い⁉』

『え、えぇ......大丈夫よ?』

 

 バージルの問いに未だ状況が読み込めないエヴァを戸惑い気味に応える。

 彼女の戸惑いに気付かなかったバージルは、彼女が無事だという事実だけ認識し安堵する。

 

『よかった......‼ 本当によかったぁ......‼』

 

 涙を零しながら告げる彼の姿に漸く自身が助かったのだと実感するエヴァ。

 彼女は涙を零す彼をそっと抱き寄せる。

 

『―― バージル。無事で......無事で本当によかった......!』

『俺は大丈夫だよ、母さん......!』

 

 二人は互いの無事を確かめ合う。

 そんな彼等の耳に甲高い音が響き、次に猛烈な突風が辺りに巻き起こる。

 

『キャーッ⁉』

『ウワァッ⁉』

 

 親子は異常事態に目を瞑り、互いに叫び声を上げるが風は一瞬で消滅する。

 二人が次に目を開けた時、辺りを支配する様に蔓延っていた火が全て消えていた。エヴァは何が起こっているのか解らなかったが、バージルはこの元凶に当たりを付けて言葉を発する。

 

『オイ、オッサン‼ やるなら一言言えよ(・・・・・・・・・)⁉』

『オッサン言うな。心持ちは若いままでやってんだから』

 

 第三者の存在に初めて気づいたエヴァは、声の方へ顔を向ける。

 そこには ――

 

あなた(スパーダ)......?)

 

 伝説の魔剣士(スパーダ)を想わせる、英雄の子(ルシファー)の姿が在った。

 しかし、よく見てると違う事に気付く。

 

 そこで彼女は夫から聞いた事の一つに、彼にそっくりな息子が一人いるという話を思い出す。

 確か名前は ――

 

『ルシファー?』

『ん? 親父殿から俺の事は聞いてたみたいだな。なら話は早い、助けに来たぞ』

 

 彼女の疑問に気軽に応えるルシファー。

 彼の救援にエヴァが何かを言う前に、バージルが彼へ近寄り怒鳴り散らす。

 

『オッサン、何でさっきは母さんを助けようとしなかったんだよ⁉ 死ぬところだったんだぞ⁉』

『......面目ないとは思ってる。でも、仕方なかったんだ』

『そんな事で納得できると思ってんのかよ‼ 最初に助けてくれるって言ったじゃん‼』

『(―― どう説明しろっていうんだよ⁉ 俺自身でも半ば信じがたい事だってのに‼)』

 

 二人が揉めるそんな中、エヴァはハッと気づく。

 

『ダンテ‼ ダンテのところに行かないと‼ バージル、行くわよ‼ 貴方(ルシファー)も来て‼』

 

 バージルの無事が分かった今、ダンテの所に戻る事が先決だと考えた彼女は、ルシファーと言い争ってるバージルの腕を引っ掴みダンテの元へ走る。

 

『ちょっ⁈ 母さん待ってよ‼』

 

 ルシファーとの口論を中断し、彼女に引っ張られる形でダンテの元へ向かうバージル。

 二人の後姿を確認しながらルシファーは周囲を見渡す。

 

『......まっ、(ダンテ)の魔力は感じ取れるし無事なのは分かってるけど、母親なら自分の目で確かめたいだろうし、言わなくてもいいか。バージルにも火を吹き飛ばす事と外から魔物が入ってこられなくする結界を張るって事前に説明しといたから、大丈夫だろ』

 

 策を練って救援に赴いたルシファーは、ゆっくりと二人を追う。

 バージルが悠長に彼と会話をしていたのもその説明がされていた為だが、そんな事全く知らないエヴァはダンテを心底心配し助けに行ったのだ。

 

 ルシファーはバージルが斬り捨てた悪魔達の前で足を止める。

 何の変哲もない下級悪魔である残骸を見つめ無造作に幻影剣を突き刺す。何の抵抗もせずに刃は残骸を真っ二つにする。

 

(―― バージルを連れて来たのは、賭けでもあったが何とかなったな)

 

 自分以外(・・・・)だったらあの干渉(ノイズ)は発生しないのでは考えた彼の賭けは、一応の結果を示していた。

 干渉(ノイズ)を後々調べようと考えていた彼だったが、幾らかの予想は既に立てた。

 

 しかし今は ――

 

(―― 今は、親子三人の無事を喜ぶか)

 

 彼の視界に、先程の光景と同じ様にエヴァとダンテをが抱き合いながら泣いていた。

 近くで観ていたバージルがその状況に貰い泣きを起こし、親子三人でわんわん泣き続けた。

 

 そんな彼等を少し離れた場所で微笑ましく眺めるルシファーの姿が在った。

 

 

 

 

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