ある街角の一画に建てられた、
便利屋と言いながらも、事務所の
本来この店は、
そんな
「―― ホント、戻って来る気配......ゼロね」
ソファに寝転び玄関口や事務所内のあちこちに視線を送る【レディ】。
そんな彼女の呟きにもう一人が答える。
「―― まあ......そうね」
事務所のデスクに腰掛けながら、指先を妖艶に舐め取る【トリッシュ】。
メタルな曲をBGMとして事務所に流しながら、二人は
「ねえ、この事務所貰っていい? そろそろ何処かで腰を落ち着けようと思ってたの」
彼女が食べかけのピザを手に持ちながら店内を見渡す。
その後姿にそっと近づいてピザを取り上げるトリッシュ。
「ダメ。あげる位なら私が貰うわ」
「ちょっと!」
デスクに小走りで逃げるトリッシュをレディが同じ様に追いかける。
そんなじゃれ合いを繰り広げる彼女達の耳に扉を開ける音と、聞き慣れた男性の声が届く。
「おっと、お嬢さん達の夢を壊して悪いがそいつは無理な話だぜ」
扉から悠々と入って来た男性【J・D・モリソン】は笑みを浮かべてる。
「どういう意味よ、モリソン?」
彼の言葉に疑問を浮かべるレディ。トリッシュも同じく疑問に思いモリソンに視線を向ける。
彼女達の視線を無視し、椅子に腰かけながらデスクの上に足を組んで座る。その際に手に持った一枚の紙をひらひらと見せびらかしながら告げる。
「何故なら、この店の権利書は俺が持ってるからさ」
「っ」
「おっと!」
彼が見せびらかす紙こそがまさにその権利書だと判断し、レディが手を伸ばすが勿論くれてやるつもりがないモリソンは瞬時に引っ込ませる。
そんなやり取りを眺めてながらトリッシュが更に疑問を洩らす。
「貴方が、どうして......」
「
彼女の問いにモリソンは、ダンテから直接受け取ったと話す。
そしてダンテからは
「こうも言ってた。"頼むから事務所を守ってくれ、なんせあの鬼ババア共は......"」
モリソンの話はまだ続いていたが、そんな事は如何でもいいばかりにトリッシュとレディは互いに指差し始める。"アンタが鬼ババアよ"言葉にせずとも互いの視線と指だけで
そんな彼女達を放置しておくとコッチにまでとばっちりが飛んでくると考えたモリソンは即座に謝罪の言葉を述べながら笑みを漏らす。
「ババアはヒデェな、奴に代わって謝ろう。とにかく後は言わなくても大体分かるだろ?」
モリソンの言葉に一旦は喧嘩を止める両者。
ダンテが残した言葉に二人は互いの感想を呟く。
「......戻って来る気満々ね」
「みたいね」
デスクに二人で腰掛けながら何故か残念そうに告げる。トリッシュはそれ程でもないがレディの方は割と
「そんな事より仕事だぜ、お二人さん」
気だるげに座る二人にモリソンは仕事をしろと手招きする。
彼の言葉に彼女達は顔を見合わせ、仕方がないとばかりに玄関へ足を進めようとする。
すると ――
「―― モリソン。
玄関口で赤いコートを靡かせた男【ダンテ】は陽気に告げる。
彼の姿を視界に捉えた三者は同時に叫ぶ。
「「「ダンテッ⁉」」」
「よっ、お前ら元気そうじゃねえか」
彼等の反応を楽しみながら事務所に入場するダンテ。
スタスタと歩いてデスクに残されたピザを一口頬張る。
「ん~雑多な味わいだな。まっ、コッチもこれで美味いが」
ピザを片手に呑気に呟く彼に、留守?を預かっていたトリッシュが最初に口を開いた。
「貴方いつの間に戻って来てたの?」
「ついさっきだ。バージルも人間界に戻って来るまで一緒だったが、
ダンテと行動を共にしていたバージルは早々にその姿を消していた。
色々と言いながらも
ダンテの無事が確認されてレディは残念そうにする。
「あぁ~あ、折角アンタの事務所(遺品)を貰って上げようとしたのに」
「オイ、縁起でもねぇ事言うな」
言葉とは裏腹に笑みを浮かべるレディにダンテは冗談を言うなと返す。
しかし、彼女の言葉に若干本音が混ざっているのではと考える彼は、冗談で返しながらも今度は早めに帰還しようと心の中で誓っていた。
そんな彼の胸の内を知ってか知らずか、タイミング好くモリソンが話しかけてくる。
「今回はお前さんにしては偉く時間が掛かったな? 俺の予想だともっと早く帰って来るもんだとばかり思ってたぜ」
「あぁ......まぁ、色々あったんだよ」
諸々の説明を行うと自身のバカさ加減が露呈すると判断した彼は、曖昧に返事をし言葉を濁す。
皆の会話が一段落ついたと感じたトリッシュが、何気なくダンテに尋ねる。
「ねぇダンテ、少し聞きたい事があるんだけど?」
「ん? どうした」
嫌な予感を覚えながらもダンテは彼女へ聞き返す。
彼はこの返答を即座に後悔する事となる。
「―― 私達の事を鬼バb」
「よしモリソン悪魔は何処だ何やってるさっさと行くぞ‼」
トリッシュが言い終える前に捲し立てながらモリソンに詰め寄る。玄関口近くに立っている彼に近づけば自然と逃げられると瞬時に判断したダンテは足早と歩を進める。
途中でレディが言葉を引き継ぐようにダンテへ話しかける。
「ねぇダn」
「モリソン何してんだ悪魔は待っちゃくれねぇぞ⁉」
レディの言葉が耳に聴こえていないとばかりにダンテは言葉を告げる。
しかし、そんな対応で納得できる彼女達ではない。
レディはいつの間に取り出したハンドガンでダンテの足元を撃ち抜き、トリッシュは電光石火の如く玄関口に先回りして扉を鍵で確り閉める。
二人はとびきりの笑みを浮かべながら再度ダンテへ語り掛ける。
「「ダンテ......?」」
まるで
ダンテは内心
「はい、何ですか......?」
この場にルシファーとバージルが居たら、大笑いする事間違いなしの低姿勢を披露するダンテ。
だが彼女達と対面しているダンテにとっては笑い事ではない。ここでの対応をこれ以上間違えば死すらあり得るかもしれないのだ。寧ろ死しか存在しない。
「「
「ハイ」
二人の言葉に忠実に従い、嵐が過ぎ去るのを待つしかないダンテ。
そんな三人の茶番を傍らで眺めていたモリソンが呟く。
「―― えっ? ひょっとして
口は災いの元。
◇
「――――――」
ダンテが愉快な状況に陥ってる事など知らないバージルは、自身が目的地に定めている場所へと赴いていた。建物の陰に隠れるように身を潜めた彼は、とある一つの建物に視線を向ける。
「―― ふざけんな‼ だからそうじゃねぇって言ってんだろ‼」
「―― 黙れこのフニャチン野郎‼ 天才たる私がそれ位把握してねぇとでも思ってんのか‼」
バージルが見つめる
―― 女性の名は【ニコレッタ・ゴールドスタイン(通称ニコ)】
容姿で最初に目に付くのは褐色肌に所々に彫られたタトゥーだろう。次に黒髪のドレッドヘアと眼鏡、それと腰にぶら下げた大量の工具。勝気そうな見た目と合わさった口汚い罵詈雑言の嵐。
ニコがどういった人間か、これで大体把握出来るだろう。
―― 男性の名は【ネロ】
銀髪を短く整え青を基調とした服で身を包んだ彼は、何処となくバージルと顔立ちが似ていた。それもその筈、彼はバージルの実の子なのだ。諸々の事情がありルシファー以外は知らなかったが
そんなネロとニコは、意見の食い違いにより喧嘩を繰り広げていた。
「だから、これじゃすぐに壊れちまうだろ‼ もう少し耐久性に振ってだな......」
「ド阿呆‼ それじゃ肝心の威力が低下して元も子もないだろうがッ‼」
「材料だって無限じゃねぇんだぞッ‼ もちっと考えて作成しやがれッ‼」
「私の手に掛かれば最高の作品になるんだぞッ⁉」
「最高も結構だが、俺は最良の方も考えろって言ってんだよッ‼」
「ハッ! 技術屋が最高を目指さないなんざ、あり得ねえんだよッ‼」
互いの主張を曲げずにぶつかり合う二人だが、結構な頻度でぶつかり合っている為、この光景は日常茶飯事だった。バージルもこの一年で何度も同じ光景を見てきた為、アイツ等またやってるな位にしか思っていなかった。
そんな喧嘩し合う二人は眺めるバージルに、コッソリ近づいてくる人物が居た。
無論、彼はその気配を察知していたが特に反応する事はなかった。寧ろ、バージルがここに来た理由が向こうから来てくれる事に無駄な手間が省けたと考えていた。
「―― お義父さん、いらしてたんですね」
「―― あぁ、久しぶりだな」
バージルに近づいて来た女性【キリエ】は笑みを浮かべて彼を歓迎する。バージルも言葉少なに返事をするが、彼の兄弟達が今の状況を観たら仰天するだろう。何せ、いつも仏頂面しか見せないバージルがはっきりと笑みを浮かべ、優し気に話をしているのだから。
キリエはそんな彼の姿しか拝んだことが無い為、別段驚くといった事はなく普通に接していた。
―― 改めて、彼女の名前は【キリエ】
手入れが行き届いた綺麗な髪を腰まで伸ばし慈愛に満ちた笑顔を浮かべる彼女は、ここ城塞都市フォルトゥナで孤児院の経営し、身寄りのない子供たちの世話を行っていた。ネロとは恋仲であり既に籍を入れ夫婦として共に生活を送る。バージルは事実、彼女の養父となる存在だった。
キリエは喧嘩をし合う二人を困った子供を見つめる様に眺め、バージルに話を振る。
「ごめんなさい。あの二人いつもあんな感じで......」
「いや、構わない」
バージルは二人から視線を外してキリエを見つめ、懐から封筒を取り出し彼女に渡す。
彼女はそれが何なのか理解し、受け取れないとバージルへ封筒を押し返す。
「ダメですよ、お義父さん! こんなの受け取れません!」
「ダメだ、黙って受け取れ」
彼女の手に強引に持たせるバージル。
キリエは眉を八の字に曲げて不満顔を見せる。
「お義父さんは強引すぎます......」
「お前が黙って受け取らないからだ」
「こんな
彼女は私怒ってますと可愛らしい態度で示すが、バージルはどこ吹く風とばかりに流す。
それに彼の方にも幾つかの言い分があった。
「お前だって、毎回俺が
「うっ......」
図星を突かれて押し黙るキリエ。
バージルはそんな彼女を見つめて溜息を吐く。
「責めている訳じゃない。お前が孤児院の運営に苦心している事は、理解している。身寄りのない子供を見捨てられない優しい性分なのもな。それに、
「......はい」
バージルの言葉にキリエは自身のお腹を押さえながら頷く。
「なら、
「......ありがとうございます、お義父さん」
複雑そうにキリエは受け取った封筒を仕舞う。
そこで疑問に思ったバージルは彼女に質問する。
「この事について
「いえ、まだ話していません」
「なら、いつか話してやれ。お前に隠し事をされたら後悔するだろうからな」
「......はい、いつか必ず」
心苦しそうに話す彼女をバージルは見る。
用事は済んだと彼は早々にその場を後にしようとする。
しかし最初よりも元気がなくなったキリエを視界に収め、つい言葉を洩らす。
「――
「ッ⁉」
ハッと彼女が顔を上げれば既にバージルは歩き出していた。
去り行くバージルの背にキリエが声を掛ける。
「―― お義父さん! 今度は手ぶらで来てください! 美味しい料理をご馳走しますから!」
「―― あぁ、またな」
振り返らずに手を振って、別れを告げるバージル。
彼の姿が見えなくなるまでキリエは見送ると、自身の頬をパチンッと叩く。
「ッ!」
思いの外痛かったが、その痛みが今の彼女には有難かった。
暗くなっていた気持ちを切り替えようと自身を鼓舞する。
「私、一体何をやってるんだろう。でも、お義父さんの言葉通りよね」
一度視線を下に向けて次に顔を上げた時、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
その笑みこそ、彼女を彼女たらしめるものであるかの様に。
「―― まずはやる事は、二人の喧嘩を止める所からかな?」
いまだ喧嘩が終わらない二人の元へキリエは駆けていく。
いつも以上の笑み浮かべて。
余談だが彼女の笑みを見た二人は、即座に喧嘩を止めたそうだ。
ネロによると、いつもより凄みを感じたのだとか。
ちなみに作中で書かなかったお金の出所ですが、アレは正真正銘バージルのモノです
用心棒や荒事の仕事をこなして得たモノなので法などには触れていないのでご安心下さい