「織斑くん、エーカーくん、おはよー」
「おはよう」
「おはようという言葉を謹んで送らせてもらおう」
翌朝。
席に着いた二人にクラスメイトが話しかけてきた。
「ねぇ、転校生の噂聞いた?」
「転校生? グラハムが入ったばっかりなのにか?」
「そう、なんでも中国の代表候補生なんだって」
「中国……?」
グラハムの脳裏に先日出会った少女が浮かぶ。
(もしや、あの少女が?)
「おお、エーカーくんは興味ありのご様子ですぅ」
「気、気になるんですの?」
何とも形容しがたい髪型の女子の言葉になぜか反応するセシリア。
やはり、代表候補生としては気になるところなのだろう。
それに応ずるようにグラハムは大真面目に頷く。
「ああ。ここへ転入するにはかなり厳しい条件があると聞く。私は別として、転入できるとなると専用機持ちである可能性が高い。強く興味を惹かれるよ」
「確かにかなりの実力があるのは確かだろうね」
「だが二組の話だろう? 騒ぐほどの事でもあるまい」
ルフィナと箒も集まってきた。
セシリアはどこか安堵したような表情をして、会話から遠ざかっている。
なにやら独り言がいっているようだが誰も気にしない。
「どんなやつなんだろうな」
「お前も気になるのか?」
「ん? ああ、少しは」
一夏も興味があるようだ。
「今のお前に女子を気にしている暇はないだろう」
「そうですわ。 来月のクラス代表選は是非勝っていただかないと!」
「まあ、やれるだけ頑張ってみるさ」
「男たるものそのような弱気でどうする」
「織斑君が勝つとクラスみんなが幸せだよー」
「まあまあ、そんなに追い詰めないで」
セシリアや箒たちが口々にまくし立てるのをルフィナが宥める。
「気負いすぎるとパイロットとしての判断が鈍る。今ぐらいの方がむしろいいだろう」
「サンキュ、グラハム、ルフィナ。そう言ってくれるのはお前たちだけだよ」
一斉に一夏は箒たちから睨まれる。
どうやらこの場での味方は本当にこの二人だけのようだ。
「まあでも、今のところ専用機持ってる代表は一組と四組だけだから余裕だよねー」
「――その情報、古いよ」
教室の入り口から声が聞こえる。
その声に敏感に反応するのは一夏だ。
誰よりも早く彼の視線がドアへ向けられる。
「2組も専用機持ちが代表になったの。中国代表候補生のこの鳳鈴音が。そう簡単に勝つ事なんて出来ないから」
腕を組み、片膝を立ててドアにもたれかかっている少女。
「!? 鈴……? お前、鈴か!」
「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」
「成程」とグラハムは驚く一夏と昨晩の少女、鈴音を見て呟いた。
やはりこの少女が中国の代表候補生。そしてあの時不機嫌になった原因は一夏の可能性がある。
何故かは知らないがな。
そんなことを思いながら一方でグラハムは鈴音に疑問を得ていた。
(以前とはだいぶ話し方……いや、雰囲気そのものが違うようだが)
ふっと小さく笑う鈴音の姿はあのときの子供らしい感情に素直な少女と似つかない。
「……何恰好つけてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!? なんてこと言うのよ、アンタは!」
先程の堂々とした雰囲気が一瞬で消え失せる。
やはりこちらが地か、とグラハムは頷く。
こうやって気取りたがるのもまた若さか、とも。
「おい」
「なによ!?」
バシンッ!と声のした方に向いた鈴音に強烈な打撃が入る音が響く。
この学園でその音を響かす人物はただ一人しかいない。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ。邪魔だ」
「す、すみません……」
鈴音の顔色が変わり、ただでさえ小柄な体が委縮する。
やり取りから千冬とも面識があることがうかがえる。
だが、いや間違いなく千冬を恐れている、そうグラハムは感じた。
「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
まるで千冬から逃げるかのように二組のほうへ走って行った。
クラス中の視線が一夏に集まっていく。
「………………」
「っていうかアイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った」
何気ない一夏の言葉を機にクラスの大半が彼に質問をこれでもかと浴びせる。
そんな中、先が見えていたグラハムやルフィナといった数人は席に着いた。
そして、千冬の出席簿が一夏と周りの女子達に振り下ろされる。
「席に着け、馬鹿ども」
「しかしなんでまたこう知り合いとばっかり再開するんだろうな。人生っていうのは不思議なもんだなぁ」
女子達が頭を抱えつつ席に着く中、一番に回復した一夏は首をかしげる。
「君が乙女座ならこういうのをセンチメンタリズムな運命というのさ」
「――俺はてんびん座だ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
昼休み。
「グラハム、食堂行こうぜ」
「私は構わないが。あの少女はどうする?」
「まあ大丈夫だろ。あいつも昼飯食べてから来るだろうしな」
「なら、行こう」
もちろんこの注目の二人組だけということはなく、箒やセシリア、ルフィナ他数名の女子が食堂までついてきた。
彼らは食券を買いそれを引き換える。
一夏は日替わりランチ、箒はきつねうどん、セシリアは洋食ランチ、ルフィナはスパゲティという塩梅だ。
そしてグラハムは……
「なあ、グラハム」
「何かね?」
「なんでいつも和食ランチにマッシュポテトとソーセージなんだよ」
グラハムの盆にはサバの味噌煮定食の隣に山盛りのマッシュポテトとチョリソーが載っている。
「人呼んで、グラハム・スペシャル!」
「ただ好きなもの載せただけじゃんかよ……」
「ふっ、そうとも言うな」
「そうとしか言わねぇ」
そんな風に座る場所を探していると、
「待ってたわよ、一夏!」
鈴音が長テーブルに座っていた。
周りには空席が幾つかある。
「おお、鈴。席いいか?」
「え? ま、まあ好きにすれば?」
「じゃあ座ろうぜ」
一夏達十人近い人数がどやどやと席に着く。
「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年になるのか。元気にしてか?」
「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」
「どういう希望だよ、そりゃ……」
「で、いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかしないでよ。アンタこそ、なにIS使ってるのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
およそ一年ぶりの再会に会話に弾む二人に箒が棘のある声を上げる。
どうやら疎外感を持ったようだ。
他のクラスメイト達も興味津々とばかりに頷く。
「……もしかして、一夏はこの人と付き合ってるの?」
少し顔を赤らめながらルフィナが尋ねる。
「べ、べべ、別に私は付き合ってる訳じゃ……」
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」
「…………………」
「? 何睨んでるんだ?」
「えーと、一夏が悪い気がするんだけどな」
「?」
ルフィナの控えめな突込みにも一夏は意を介さない。
「幼馴染? 箒のことではないのか?」
グラハムが箒と鈴音を見比べるようにしながら聞き返す。
明らかにこの二人は初対面だとその場にいる全員がわかっていた。
「それはだな。箒が引っ越したのが小4の最後で、鈴は小5の始めに来た。そこから中2の最後に鈴が国に帰るまで一緒だったんだ」
「つまり、入れ違いだったというわけか」
「まあ、そういうことだ。で、こっちが箒。前に話しただろ? 小学校からの幼馴染で、俺の通っていた剣術道場の娘」
「ふうん。これからよろしくね」
「ああ。こちらこそ」
そう言ってにこやかにあいさつを交わす二人。
だが、その二人の目は決して笑ってはおらず、火花が散っている。
そしてそこから放たれる恐ろしいまでの威圧感。
間違いなく何かが起きるとその場にいた一夏以外が確信した。
……非常に重い空気での食事となった、そう誰もが思った。