機動戦士フラッグIS   作:農家の山南坊

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#12 歩む

「………………」

「………………」

 

 黒と青のIS。

 向かい合ったまま動かない。

 互いに無手。

 ISの踏み込みならばすぐに埋まるであろう距離。

 その距離を互いに埋めることなく、しかし互いにその間合いへ踏み込もうと機会を窺っている。

 時間ばかりが流れていく。

 

「……!」

 

 最初に動いたのは黒のIS。

 振りかぶった左手にプラズマソードが瞬時に展開される。

 青のISへと一閃する。

 だが青のISも即座にブレードを展開、プラズマソードを受け止める。

 完全な鍔迫り合い。

 動いたのはやはり黒。

 後方へと飛びつつ横薙ぎに得物を払う。

 その最初の飛びに合わせて前へとブレードを振るう。

 火花が散る。

 再び間合いを取った両者。

 静かな空間にはその荒い息遣いのみが聞こえる。

 やがてその音も収まっていく。

 静寂。

 

「………………」

「……………!」

 

 青のISが飛び出す。

 迎え撃つように青い光が振るわれる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「またわたくしの負けですわ」

「フラッグファイターの意地というやつさ」

 

 制服姿の男女二人がアリーナから出てくる。

 放課後、グラハムとセシリアはアリーナで自主訓練をしていた。

 グラハムの疑問をセシリアが答えるという形での操縦法のレクチャー。

 互いに直すべきところを指摘しあいそれを練習。

 最後に模擬戦をこなすというのが主な流れである。

 

「それにしても、こうも早くものにするとは。さすがは候補生と言わせてもらおう」

「い、いえ。グラハムさんのアドバイスのおかげですわ」

 

 照れたのかセシリアは赤くなっている。

 

「だがこれで近接戦闘の不安も減るだろう。あとは実戦あるのみだな」

 

 最近の訓練の主題は『近接武器』だった。

 グラハムは両手を使わない展開。

 セシリアも声に出さずすぐに展開することを主眼において訓練を行った。

 そして今日、二人とも片手で瞬時に近接武器を展開できるようになったのである。

 

「グラハムさんもかなり上達なさいましたね。完全にフラッグを乗りこなしているように見えましたわ」

「ふっ、まだまださ」

 

 MSのようにはいかない、そう言いかけてグラハムは止めた。

 どうしてもMSの事を相手に話してしまいそうになる。

 MSを知らない相手に。

 やはり比較してしまう。MSを駆っていた頃の自分と。

 それがさらなる高みへの渇望につながるのであれば良いのかもしれない。

 だがそれでいいのだろうか。そうグラハムは思った。

 ……いずれ、この気持ちにも区切りをつけねばなるまい。

 気持ちを切り替え、今の愛機の待機状態に目をやる。

 腕時計の指す時間はすでに七時を回っていた。

 

「そうだ。夕食はどうする?」

「わたくしは一度部屋に戻ってからにしますわ」

「そうか。なら、私は先に行かせてもらおう」

 

 グラハムは食堂へ、セシリアは寮へと別れる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「おや?」

 

 焼き魚定食にマッシュポテトとチョリソー、トマトのスライスを載せた盆を持ったグラハムはものすごい勢いで掻っ込んでいる少女を見つけた。

 ――あのツインテールは確か……。

 

「あ。アンタ」

 

 顔を上げた鈴音と目があった。

 鈴音がグラハムを手招く。

 招かれるがままに向かいに座る。

 

「確か凰鈴音、だったか」

「鈴でいいよ。堅苦しいの嫌なんだよね」

「ならば鈴と呼ばせてもらおう」

「ホントに堅苦しいやつねぇ……」

 

 苦笑する鈴音。

 やはりそういうのは気にしない性格のようだなとグラハムは思った。

 そんな彼女だが、

 

「ここ数日姿を見なかったがどうかしたのかね」

「ああそうだった」

 

 パン、と鈴音が手を叩く。

 どうやらグラハムに用があったらしい。

 

「一夏は反省した?」

「反省?」

「だから、あたしを怒らせて申し訳なかったなーとか、仲直りしたいなーとか、そういうの言ってなかった?」

「その手の話は一切なかったが」

「ないの!? あんなことしといて放っておくわけ!?」

「落ち着け。まるで意味が分からんぞ」

 

 いきなり怒り出した鈴をグラハムは至って冷静に宥める。

 

「何があった?」

「それがさ――」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 三十分後。

 

「ほんっとに信じられないよね、一夏の奴!」

「………………」

「何が『毎日酢豚おごってくれる』よ! 何が!!」

「………………」

「それで放っておいてって言ったら放っておくとか、ありえないでしょ!」

「………………」

「っとにもう!」

 

 一気にがっつく鈴音。

 山盛りの酢豚がみるみる内に無くなっていく。

 これが自棄食いかとグラハムは少女の動向を見つめる。

 だが御蔭で情報を整理できる。

 どうやらあの昼食の日の夜、一夏の部屋で一悶着あったようだ。

 そこで鈴との約束とやらの意味を一夏が理解できていなかったらしい。

 それに対して鈴は怒り、彼が謝ってくるのを待っていたようだ。

 だが意味を理解できていない一夏はいつも通りに過ごしていた。

 そのせいでここまで鈴を怒りに駆り立てているというわけか。

 まさか、三十分も要するとはな。

 女性の話は長い、と内心苦笑するグラハム。

 だがこれは一夏だけに非があるとは言い難いな。

 

「あんたもそう思うでしょ!?」

 

 見ると鈴音の皿はきれいに空になっていた。

 ちなみにグラハムの盆は鈴音の三十分にも及ぶ話の中で空になっていた。

 

「……私見だが、鈴にも非があると私は思う」

「な、なんでよ!?」

「約束というものがあまりにも抽象的だ。一夏の性格を考えればそれをそのままの意味でとらえかねないことぐらい幼馴染の君なら考えられたはずだ」

「……だけどっ!」

「確かに一夏にも非がある。だが、君にも想定できたはずの事柄で彼を怒鳴り、絶交にまでいきかねない一方的な行動は少々自分本位ではないかね?」

「…………………」

「……分かりあうというのは難しいことだ。だがまずは一歩、歩み寄ることが大事だと私は思う」

「歩み寄る……」

「そうだ。どう一歩踏むかは君次第だがね」

「………………」

 

 グラハムは席を立った。

 ああそうだ、と立ち去ろうとした足を止める。

 

「今度のクラス対抗戦初戦の組み合わせは君と一夏だ」

「え!?」

 

 驚いて顔を上げる鈴。

 見上げるグラハムの顔は微笑んでいた。

 

「これを生かすも殺すも君次第だ」

 

 そう言い残し今度こそグラハムは立ち去って行った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「わたくしを放っておいて凰さんと夕食だなんてひどいですわ!」

 

 帰り道に出会ったセシリアになぜかグラハムは怒鳴られてしまうがそれはまた別の話である。

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