機動戦士フラッグIS   作:農家の山南坊

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#13 強襲

 クラス対抗戦当日。

 第二アリーナで行われる第一試合は織斑一夏と凰鈴音。

 注目の組み合わせであることからアリーナはまさに満員御礼という状態だ。

 すでに二人はアリーナの中心で開始の時を待っている。

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

 山田の合図に二人は距離を五mまで縮める。

 一方のグラハムたち一組の専用機持ちに箒を加えた四人は管制室にいる。

 山田と千冬が画面前の椅子に座り、その後ろに立って試合を見ることになっている。

 三人の視線が一夏に向くのに対してグラハムだけは鈴の方を見ている。

 先日の件もあるが何より鈴の纏う専用機に目を奪われていた。

 中国の開発した第三世代型IS『甲龍』。

 赤黒い装甲に特徴的な非固定浮遊部位を持つ機体。

 中国と聞くとどうしても鈍重な人類革新連盟のMS『ティエレン』を浮かべてしまうグラハムは優美さすら見受けられるISに、同じ国とは思えないそのギャップに魅了される。

 何故か緑色であってほしかったとか腕が龍を模していないことに違和感を覚えてしまうがそれは気にしないことにする。

 視線を一夏に移す。

 違うISを操縦する二人だが共通点があった。

 ――いい目をしている。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「一夏、この間の約束……覚えてるよね?」

「ああ。勝った方が負けたやつになんでも言うこと聞かせられるってやつだろ?」

 

 アリーナの中心で対峙する二人は前日に決めた賭けについて確認をしていた。

 グラハムの話を鈴は数日間考えていた。

 そして思いついたのがこの賭け。

 鈴は勝てたら二人だけで話せる時間と場所を要求するつもりでいた。

 ただ、何を話すかまでは決めてはいないが。

 

「俺が勝ったらこの間の意味を説明してもらうからな」

「わ、わかってるよ」

 

 頬を赤らめて頷く鈴。

 その様子に一夏は首をかしげるだけだった。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 管制室にいる山田の合図に合わせブザーが鳴り、二人は武器を構える。

 一夏は太刀『雪片弐型』を。

 鈴は両刃の青龍刀『双天牙月』を。

 飛び出したのはほぼ同時。

 初動がわずかに早かった鈴の斬撃を一夏はなんとか受け止める。

 そのまま押してくる鈴の勢いにあわせて距離をとる一夏。

 後方へと飛ぶ一夏に対して鈴は前へ前へと得物を振るう。

 鈴は両端の持ち手に刃がついたような青龍刀と呼ぶにはいささか異形な武器をまるでバトンのように軽々と弧を描くように扱い、途切れることのない連撃を浴びせる。

 対する一夏は様々な角度からまるで流れるような動きで斬り込む鈴に、その攻撃をさばくことしかできない。

 今のところはなんとかすべてを弾くことに成功しているもののこの状態が続くのは決して一夏に有利に働くものではない。

 

 (ここは、一度距離をとって――)

 

 鍔を双天牙月の中心にぶつける。

 鍔迫り合いに近い形をとる。

 このまま一気に下がれば、と一夏は飛ぶ。

 が、

 

「――甘いっ!!」

「!?」

 

 空間が爆発するような衝撃に一夏は吹き飛ばされる。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「あれは!?」

 

 何もないはずの空間から吹き飛ばされる一夏に箒が声を上げる。

 

「『衝撃砲』と呼ばれる第三世代兵器だよね、確か」

「衝撃砲?」

「空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃を砲弾として打ち出す兵器ですわ」

「つまり、不可視の砲撃ということか?」

「ええ」

 

 三人の話にグラハムは表情を強ばらせる。

 砲身が見えないということは射角から射線を予測することができないということだ。

 幸いISのセンサーは空間の歪み値と空気の流れの変動を感知することができる。

 だが、それらが発生しているということはすでに射出されているということ。

 回避は難しいだろう。

 さらに鈴のパイロットとしての実力が一夏の状況を悪くする。

 たとえ回避したとしても下手な方法では双天牙月による連撃を受ける結果となる。

 先の近接戦闘を見る限り一夏が優位に立てることはありえない。

 モニターを見る限り、先の一撃の後一夏はなんとか衝撃砲を上手く回避できているようだ。

 やはり白式の機動性はなかなかのものだ。

それでもこのあたりで起死回生の一手を撃たなければ敗北は必至。

 だが、その一撃を持っている一夏なら勝機はまだある。

 ――あえて言うぞ一夏。ここが正念場だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

 

「よくかわすじゃない」

 

 衝撃砲『龍咆』を次々と放ちながら鈴は余裕の表情を見せる。

 上下左右さらには真後ろまで制限なく放たれる龍咆。

 それを最初の一撃以外すべて一夏はぎりぎりで回避する。

 一夏の表情には余裕などない。

 そんな中で彼はあるタイミングを見計らう。

 雪片弐型を握りしめ、思い出す。

 それは試合の一週間前に千冬から学んだこと。

 『瞬時加速』からの『バリアー無効化攻撃』。

 『瞬時加速』とは、後部スラスター翼からエネルギーを放出、それを内部に再度取り込み、それを圧縮して放出することにより一瞬で最高速へと到達する加速方法。

 『バリアー無効化攻撃』は雪片弐型の能力で、その名の通り相手のバリアーを完全に無視した攻撃により強制的に『絶対防御』を発動させることでシールドエネルギーを一気に削ることのできるまさに必殺の一撃。

 代表決定戦において一夏がルフィナに勝てたのもこの一撃をあてられたからだ。

 その攻撃を確実に当てるために瞬時加速との併用を試合間までの一週間ひたすら一夏は練習した。

 だが、これは一度相手の目に触れさせれば警戒され次からは通用しにくくなる。

 それ故に一夏は一回で決めるべくひたすら回避行動の中でタイミングを計る。

 鈴が龍咆を放つ。

 地面ぎりぎりで上方に飛び、避ける一夏。

 衝撃砲が地面で爆発、放たれた衝撃により砂塵が舞う。

 砂塵により視覚を一瞬奪われる鈴。

 ――今だ!

 瞬時加速を発動させる一夏。

 直線方向に急激なGがかかる。

 その勢いに身を任せ、一気に鈴の懐へと飛び込む。

 振り下ろされる刃が鈴をまさにとらえようとした時だ。

 

 ズドオオオオオオオオオ!!!!!

 

 すさまじい衝撃がアリーナを襲った。

 同時にステージ中央から発生した炎と粉塵が爆風に巻き上げられ辺り一面を覆う。

 その中に奇妙なものを一夏は見た。

 

「なんだ、あれ?」

 

 アリーナの上からまるで夕焼けのような鮮やかな小さな光がいくつも舞い落ちてくる。

 状況が呑み込めずにいた一夏に鈴から通信が入る。

 

『一夏、試合は中止よ! すぐにピットに戻って!』

 

 声から察するに鈴にも想像できなかったような事態が起きているようだ。

 いったい何が、と思う間もなくハイパーセンサーが緊急通告をしてきた。

 

『ステージ中央付近に熱源。数は三。所属不明のISと断定。ロックされています』

「なっ――」

 

 アリーナの遮断シールドとはISのシールドと同等以上の堅牢さを誇っている。

 それを破るほどの攻撃力を有するISに一夏は狙われている。

 その事実が一夏を大きく動揺させた。

 

『一夏、急いで!』

「お前はどうするんだよ!?」

『何やってんの! 早く!!』

 

 こちらの通信が届いていない。

 オープンチャンネルが完全にジャミングされているのだ。

 プライベート・チャンネルでしか通信ができない。

 それはプライベート・チャンネルを新規に開けない一夏にとって大きな問題となった。

 そのとき、粉塵に見える影が揺れる。

 

 「あぶねえっ!!」

 

 間一髪で一夏が鈴音を抱かかえ攫う。さっきまでいた空間を赤い粒子の塊が通過していた。

 

「ビーム兵器かよ……。 しかも、セシリアのISより出力がはるかに上だ」

 

 ハイパーセンサーの簡易分析によって提示されるデータに一夏は背筋が凍るような感覚に襲われる。

 ――あんなのまともに喰らったらISを纏っててもやばい。

 

「ちょっ、ちょっと、馬鹿! 離しなさいよ!」

「お、おい! 暴れるな。――って馬鹿! 殴るなよ!」

 

 おそらく一夏には何の問題も、他意もないだろうが、鈴音にはあった。

 彼女は今、一夏に抱きかかえられている。

 つまりお姫様抱っこをされているのだ。

 あまりの恥ずかしさに、たまらず一夏を殴りつける。  

 

「う、うるさいうるさいうるさいっ!」

「だ、大体、どこ触って――」

 

 鈴音の言葉をかき消すような風切り音とともに侵入者が姿を現す。

 

「なんなんだ。こいつら……」

 

 姿を現したのは全身装甲(フル・スキン)のIS三機。

 その『全身装甲』こそ、一夏に異形なものを見せた。

 本来、シールドエネルギーの存在からISは部分的な装甲しか必要としない。

 たとえ装甲が多くてもフラッグのように動きを妨げないよう関節部には持たない。

 それ故に全身に装甲を持つISの存在を一夏は信じ難かった。

 不気味な頭部の形、そして光る二つの目がさらに三機のISの異様さを醸し出していた。

 その巨体は一夏や鈴音たちの優に1.5倍以上はあるだろう。 

 非固定浮遊部位を持たず、背部からオレンジ色の粒子を放出していることも尋常ではないことを物語っている。

 そして黒のISの右肩に持つランチャー砲、緋色のISが手に持つ大剣、そしてワインレッドのISが背部に形成している光の翼。

 いずれをとっても普通のISではありえない存在だった。

 

「お前ら、何者だよ」

『………………』

 

 一夏の問いにも敵は答えない。

 当然だよな、と一夏は呟く。

 

「やれるな、鈴」

「だ、誰に言ってんのよ。そ、それより離しなさいってば!」

 

 悪い、と一夏が腕を離すと、鈴音が自分の体を抱くように離れる。

 心なしか顔が赤いようだが、それを気にする間はない。

 敵のISの内の一機、緋色のISが大剣を振りかぶって突進してきた。

 二人は余裕をもって回避する。

 ふん、と鈴音が鼻を鳴らす。

 

「向こうはやる気満々みたいね」

「みたいだな」

 

 緋色のISはその緑の目で二人を一瞥すると他の二体のところへと後退した。

 それに対するように二人は横並びに得物を構える。

 

「一夏、あたしが衝撃砲で援護するから突っ込みなさいよ。武器、それしかないんでしょ?」 

「その通りだ。じゃ、行くぞ!」

 

 互いの武器の切っ先を当てることを合図に一夏と鈴が即席ではあるがコンビネーションで飛び出していった。


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