臨海学校も二日目を迎えた。
専用機持ちたちは一般生徒とは別の場所に召集された。
彼らは新装備のテストを行うことになっている。
「さて。では始めるぞ」
一列に並んだ八人の前に千冬が立つ。
「あの、一ついいですか?」
一夏が恐る恐る手を上げる。
「なんで、箒も呼んだんですか?」
召集された際、一夏は箒を呼んでくるように指示を出されていた。
だが彼女は専用機を持っていない。
そのことは誰もが疑問に思っていた。
「それはだ――」
「ちぃぃぃぃぃぃちゃぁぁぁんっ!!」
千冬の言葉を遠巻きに聞こえてきた声がかき消した。
一人の女性が砂煙を巻き上げて向かってくる。
「会いたかったよ、ちーちゃん! さあ、ハグハグしようっ! 愛を確かめあぼっ!?」
女性は千冬に飛び込むがその顔に指が食い込んだ。
「うるさいぞ、束」
千冬はアイアンクローをかけていた。
「相変わらず容赦のないアイアンクローだね」
女性はそのアイアンクローをすり抜けて離れた。
「やぁ、箒ちゃん!」
箒を見つけるとにこやかに手を振った。
「……ど、どうも」
対する箒は明らかに表情が硬い。
「うんうん本当に久しぶりだね。何年振りかなぁ? 大きくなったね……特におっぱいが……」
「殴りますよ」
どこから出したかはわからないがその手には日本刀が握られていた。
「ひ、ひどい! 殴ってから言った!」
頭を押さえながら涙声で女性は言うが、血の一つも出てない。
先のアイアンクローといい恐ろしく頑丈である。
その様子を男子二人はどこか呆れた風に眺め、女子達はポカンとして眺めていた。
「束。自己紹介ぐらいしろ。生徒が困っている」
「え~、めんどくさいな~。天才の束さんだよー、はろー」
それを聞いて女子達はようやく目の前にいる女性がISを開発した天才科学者、篠ノ之束だということに気付いた。
驚きを隠せない女子達には目もくれない束は今度は男子二人の方を向いた。
「お久だね、いっくん~」
「お、お久しぶりです」
「そしてハムくん、しばらくぶり~」
「お元気そうで何よりです、プロフェッサー」
「あれ? グラハム、束さんと知り合い?」
「ああ。少しあってな」
グラハムの言葉に束はそうだよ、とくるりんと回る。
「知らない仲じゃないのに堅苦しいハムくんはらぶりぃ束さんと呼んでくれないんだよ~」
「それは誰も――」
「それよりも、頼んでおいたものは?」
箒が話に介入してきた。
ふっふっふっ、と束の目が光る。
「束さんに抜かりはないのだ~。さあ! 空をご覧あれ!」
天をまっすぐ差した指に従って全員が空を見上げる。
上空から何かが降ってきた。
ものすごい勢いで地面に落下してきたのは金属大きな箱とでも言うべきもの。
皆が視線をコンテナに移した瞬間、二つに割れた。
「じゃじゃーん!これこそ箒ちゃんの専用機、《紅椿》だよ! 全スペックが現存するほぼ全てのISを大きく上回っている超高性能機だよ!」
コンテナから現れたのは真紅のIS。
紅椿はその場で膝を付くと、装甲を展開して操縦者を受け入れる体勢をとった。
「さぁ箒ちゃん!今からフィッティングを始めようか!すぐに終わるよ」
「……それでは、お願いします」
箒は束に素っ気無く返事をして、紅椿に手足を入れる。
「一夏」
こそ、とグラハムが小声で話しかける。
「なんだ?」
「プロフェッサーと箒はいつもああなのか?」
「いつも、ていうか何年も会ってないみたいだけど。ISが開発されてから転校しなくちゃならなくなったとかでそれ以来こうみたいだな」
「そうか」
グラハムは納得したようにうなずいた。
そうこう話しているうちにISの調整を終えたようだ。
再び一夏達の方へ束が来た。
「いっくん、白式のデータ見せて♪」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
束が《白式》と《紅椿》いじりに入ってから約三分後。
千冬の指示で専用機持ちがそれぞれ装備のテストを行っている。
グラハムも《GNフラッグ》を展開し、空に上っていた。
今日も快晴といっても差支えのない天気だが、彼の心は薄雲がひろがっていた。
(簪は間に合わなかったか……)
専用機持ちが集合した中で簪がいなかった。
グラハムが最後にあったのは水曜日。
徹夜の作業に入る直前だったと記憶している。
あのときは本音と二人で《打鉄弐式》の整備をしていた。
話ではなかなか順調のようで駆動系統は完成したと聞いていた。
だがやはり武装関連のプログラムが終わらなかったのだろう。
口惜しいが、彼女は自分の道を切り開こうとしている。
いずれ素晴らしい機体を完成させるだろう。
(楽しみにさせてもらおう、簪)
共に空を飛ぶ日を思い、グラハムの心が晴れる。
左手にGNビームサーベルを出現させ、幾度かふるってみた。
柄尻にはケーブルは接続されていない。
一応、手から粒子供給はできるように装甲も改良が加えられている。
とはいえ出力はプラズマソードより高い程度なのでビームサーベル同士の打ちあいとなればGNドライヴからの直接供給は必要となる。
と、ハイパーセンサーが上昇してくる機体を認識した。
表示された座標へと視線を向ける。
グラハムから距離を空けたところで箒が束の指示に従って《紅椿》を駆っている。
刀身からはエネルギー波を繰り出している。
近接戦闘型に見えて遠距離にも対応した万能型のようだ。
左手の刀型ブレードを振るい、数本の針を形成したエネルギーが射出されミサイルをすべて撃ち落した。
「ほう」
すばらしい性能だ。
グラハムは性能の高さを感心していた。
だが紅椿の性能とは裏腹に箒の動きに鋭さがないようにも感じた。
言うならば機体に振り回されているような印象を受ける。
彼の目には学年別トーナメントで《打鉄》に搭乗していた時の方が高い技量を有していたように見えていた。
拡大して箒の表情を見る。
その表情はどこか浮き立っているようだ。
だがその表情を見たグラハムの表情は厳しい色を得た。
機体の性能に魅了されているだけではなく強大な力に呑まれている。
そんな顔をしていた。
『どう? ハムくん。《紅椿》の性能は』
プライベートチャンネルから束の声が聞こえてきた。
「心奪われそうですよ」
『ふふ~ん♪ そうでしょそうでしょ。 GNドライヴにも対応させてるし、もっともっと強くなるよ』
エッヘン、と地上で胸を張っているのが見えた。
だがグラハムは束の言葉に疑問を抱いた。
「載せていないのですか?」
『まぁね。束さん一個しかもっていないし。でも、二個目ができたらすぐに着けちゃうけし、今のままでもいい線いくんじゃないかな~?』
成程、とグラハムは声に出して呟いた。
この世界における最高位の天才、篠ノ之束をもってしてもGNドライヴを思うように製造できていない。
その事実がGNドライヴの技術の高さを示しており、同時にこれを複数、切り捨てられるだけの個数を保有している敵の強大さもグラハムは感じた。
(それにしても大きく出たな)
束はGNドライヴ未搭載の紅椿でもガンダムと十分に戦えると言った。
おそらくグラハムの《カスタムフラッグ》の戦績からその自信を得たのだろうがそれは安直だとグラハムは思った。
確かに『機体の性能差が勝敗を分かつ絶対条件ではない』はグラハムの持論だ。
だが、と向けられた視線の先では箒が、
「やれる、この紅椿なら!」
再びミサイルを撃墜した。
表情を見る限り、ガンダムには勝てない、そうグラハムは判断した。
『専用機持ちは全員集合しろ!』
突然、千冬から通信が入ってきた。
緊急の案件だろうか、いつもより声が鋭い。
「了解した」
グラハムは即座に機体を降下させ、すでに千冬の前に来ていた一夏の真横に着地する。
一夏を挟んで反対側に箒が降りてきた。
チラっ、と顔を覗く。
嫌に自信に溢れた顔にグラハムは一抹の不安を覚えた。
紅椿のスペックは00世界で例えるならばどのくらいなんでしょうか?
私はカスフラやタオツーのような旧世代機の最高クラスだと思うのですが皆さんはどう思いますか?
因みにですがこの作品では上記のようなクラスとしてしばらくは扱います。
誤字脱字その他ご指摘がありましたらお願いいたします。