機動戦士フラッグIS   作:農家の山南坊

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忘れてましたがルビは激闘です。


#37 陽動

 午前十一時二十八分。

 浜辺に並び立った一夏と箒は目を合わせるとうなずき合った。

 

「来い、白式」

 

「行くぞ、紅椿」

 

 ISを纏った二人はそのまま宙に浮いた。

 

「じゃあ、よろしく頼むぞ、箒」

 

「本来なら女の上に男が乗るなどプライドが許さないが、今回は特別だ」

 

 作戦上、移動は全て箒が担うことになっている。

 一夏は箒の背に乗ることでポイントへと向かうことになる。

 そのことを知らされてから、さらに浮かれているようだ。

 それはグラハム以外にも分かるほど態度に出ていた。

 そんなことは露知らずといった雰囲気で表面上は嫌がりながらも背に一夏を乗せる箒。

 

『ミッションタイム、クリア!』

 

『はじめろ!』

 

 オープンチャンネルでの千冬の合図とともに箒は高度を上げ、飛び去って行った。

 

「………………」

 

 その様子をグラハムは不安をたたえた鋭い視線で見送った。

 ――何事もなければいいのだがな。

 どうしても彼のセンチメンタリズムが感知した危機感を払しょくできないでいる。

 そこにプライベートチャンネルが開かれた。

 

『エーカー、任務だ』

 

 千冬からだ。

 その声にはわずかに緊張が含まれていた。

 

『ここから北東約五十キロの沖合を通信遮断空間が移動をしている。このままいけば十分ほどで《福音》と織斑たちのいる空域に到達する』

 

 移動する通信遮断空間。

 このようなことができるのはGNドライヴ搭載機をおいてほかにいない。

 

「了解した。迎撃に向かう」

 

 グラハムは瞬時にISを纏う。

 

「千冬女史」

 

『なんだ?』

 

「念のために誰か二人を哨戒任務に当ててもらいたい」

 

『敵の動きが陽動だと言いたいのか?』

 

「行動があまりにも不可解だ。念を入れるに越したことはないさ」

 

『わかった。その通りにさせよう』

 

「感謝する」

 

 背部メインスラスターから光が漏れだす。

 

「グラハム・エーカー、出るぞ!」

 

 コーン型スラスターからGN粒子を放出し、一気に加速、高度100mを高速で飛翔する。

 機体の速度はすでに改修前の出せる最大速度を上回っている。

 だがグラハムはそれに浸る気分ではなかった。

 敵の行動の不自然さがどうしても頭から離れない。

 出現したタイミングからして敵は対《銀の福音》作戦が展開されていることを知っているだろう。

 だが作戦が行われているということは周辺海域を学園の教師陣や国防軍、海上保安庁による厳重な警備網がしかれていることも意味している。

 その隙間のないレーダー網の中を範囲的なジャミングを行いながら移動すれば逆に探知されることぐらいは理解しているはずだ。

 にもかかわらず敵はステルスモードを使用せずジャミングしながら低速で飛行している。

 まるでこちらに補足しろと言わんばかりだ。

 陽動である可能性もある。

 いや、その可能性が高いだろう。

 だがそれでもいい。

 一夏達が任務をこなせるように私も私の任務を果たすだけだ。

 出撃から約二分もたたずにグラハムの肉眼がISを捉えた。

 敵は案の定GNドライヴ搭載機。

 そしてその機体にはグラハムは見覚えがあった。

 それはGN-Xとスローネを合わせたような機影。

 

「成程」

 

 どうやら、貴様とは戦う運命にあるようだな!

 グラハムはリニアライフルを展開し、最大出力で放つ。

 敵も同時に射撃を行ったらしく蒼と紅の弾丸がぶつかり、エネルギーがはじけた。

 だがグラハムはその衝撃をものともせずに直進、左手にビームサーベルを出現させる。

 両者はぶつかりざま、ビームサーベルで激しく斬り結んだ。

 赤い粒子の光が迸る。

 

『久しぶりだなァ、グラハムさんよォ!』

 

 《スローネ・ヴァラヌス》からだろう。

 通信から粗野な男の声が聞こえる。

 やはりその声にも聴き覚えがあった。

 

「まさかな、よもや貴様に出会えようとはな! アリー・アル・サーシェス!」

 

『てめぇと殺り合いたくてやってきたぜ!』

 

 サーシェスはグラハムを弾き飛ばすとビームサーベルを横に払った。 

 グラハムはサブスラスターで瞬時に体勢を立て直すと彼は縦に得物を振るった。

 結果として上から叩きつけられる形でサーシャスの一閃は受け止められた。

 同時に両者は距離を開け同時に距離を詰める。 

 

「はぁ……!」

 

『おらぁッ!』 

 

 激突する。

 パワーで分のある《ヴァラヌス》の豪快な一撃をしかしグラハムは機体の各所に搭載されたサブスラスターを瞬間的に調整し吹き飛ばされることなくなんとか受け止める。 

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

『ずぇりゃああぁぁ!!』

 

 交差する紅の光剣を軸に幾度となく立ち位置を入れ替え、遠心力と互いの剣裁にわずかな間が開く。

 一閃。そして間をおかずしてまた一閃がぶつかる。

 互いに息もつかせぬ程に繰り出される数十合におよぶ応酬。

 その剣戟の間を縫うように蒼と紅の軌跡が幾重にも飛び交う。

 そしてまた刃が交わる。

 今度は相手の一撃の勢いに合わせてスラスターを吹かして身を横へと飛ばし、右手に持ったプラズマソードを叩き込む。

 

『ちょいさぁ!』

 

「ぐっ!?」

 

 だがサーシェスは飛び上がりざまにグラハムの右手を蹴り上げていた。

 プラズマソードが弾かれる。 

 センサーが警告を発した。 

 咄嗟にグラハムは後ろに飛ぶと目の前を粒子ビームが走る。

 さらに数発が海面に水柱を上げさせながら段々と彼の方へと近づいてくる。 

 グラハムはわずかな軌道修正を繰り返しそれらを回避しようとするもそれを読んでるかのようにビームの掃射を振り切ることができない。

 その間にサーシェスはビームを放ちながらこちらへと距離を詰めてくる。

 回避行動を止め、右腕にディフェンスロッドを出現させてビームを弾きながら左腕を振りかぶる。

 ビームの雨が止む。

 直後、粒子がはじける。

 

「あえて問おう! 何が目的だ!?」

 

『答える義理はねェなァ!』

 

 だが、とサーシェスの腕に力が籠められる。

 

『そんなに聞きてェんなら、オレをとっ捕まえてみるか? え、フラッグファイターさんよォ!!』

 

 サーシェスが力任せにグラハムを退けようとする。

 その力の流れに逆らうことなくグラハムはあえて弾かれた。

 相手の動きが大きい。

 ビームサーベルを大きく振り切った時を狙って飛び込もうと構えた。

 

『甘ェンだよ!』

 

 だがサーシェスは咄嗟の動きで左手のビームライフルを構えた。

 グラハムはディフェンスロッドで粒子ビームを弾き返しながら距離を取る。

 

『おらおらどうしたァ!』

 

 ビームを放ちながら『瞬時加速』で間合いを詰めたサーシェスの鋭い蹴りが腹部に叩きこまれる。

 わずかに体勢を崩したグラハムへとビームサーベルを叩きつけるように振り下ろす。

 咄嗟にグラハムは右手にプラズマソードを逆手に出現させ受け止める。

 ビームにプラズマの出力が浸食されていく。

 

「はぁっ!」

 

『なにッ!?』

 

 グラハムはあえてプラズマソードを振りぬく。

 ソニックブレイドが焼き切れ、プラズマも消滅する。

 遮るものがなくなり、ビームサーベルが振り切られた。

 そのままグラハムは右手を振るうように身を回し、振り下ろされたビームサーベルの上から回し蹴りをヴァラヌスの頭部に叩き込む。

 

『チィッ!』

 

 サーシェスはわずかにのけ反った身を一瞬で翻し、ビームサーベルの一閃を避けた上で間合いを取る。

 そこで互いの動きが途切れた。

 両者はまるで息を整えるように睨み合っている。

 グラハムは額に汗を浮かべていた。

 ここまでほぼ互角の戦いを繰り広げているが流れは敵にある。

 勿論、機体性能にも差があるのだろう。

 だが同時にサーシェスの実力の高さにも舌を巻いていた。

 正確無比な射撃もそうだが、近接戦闘においても私に引けを取っていない。

 かつて近接戦闘を極め、右に並ぶものなしとまで言われた私とだ。

 間違いなく、今まで戦ってきた全てのパイロットの中でも三指には入るだろう。

 以前刃を交えたとき、敵は全力ではなかったに違いない。

 そうでなければ今彼とは剣を交えることはできなかっただろう。

 そして今、グラハムは自分に死の気配が忍び寄ってくるのを感じていた。

 一瞬でも判断を間違えれば、例えISを纏っていても命を落とすだろう。

 そんな耐え難い緊張感に思わず片頬が吊り上る。

 ――やるか。

 《GNフラッグ》のGNドライヴが左肩に移動した。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「たまらねえなァ」

 

 ヴァラヌスの頭部アーマーの中でサーシェスは狂笑を上げていた。

 今回の任務は陽動。

 本命が自由に動き回れるように注意をひきつけてそいつら相手に戦う。

 正直、量産機に乗った教員が出てくるものばかりサーシェスは思っていた。

 それが現れたのは以前いた世界で《フラッグ》と呼ばれたMSによく似た全身装甲のIS。

 このときばかりはサーシャスも神に感謝した。

 なにせもっともやりたかった相手が来たのだから。

 しかもGNドライヴを背負ってきたのだ、これほど楽しいことはない。

 本当にたまらねェ。

 すでに何十回と剣戟を繰り返したがその中で何度も死の予感を覚えた。

 この感覚こそサーシェスが戦場に、戦争に浸る理由だ。

 殺すか殺されるか。

 このシンプルな答えこそサーシェスを戦争へと駆り立てる。

 そして今、久しく味わっていない戦争の甘美な感覚に酔いしれている。

 ソレスタルなんとかのいない世界でこれほどの戦場に出てこれるとはなァ。

 見れば、フラッグのGNドライヴが移動していた。

 ――なんだァ?

 そう思ったサーシェスにセンサーがフラッグが左手に持つビームサーベルの出力が格段に上がったことを告げる。

 粒子の輝きを増したビームサーベルを両手に握り、正眼の構えをグラハムはとった。

 その堂々たる姿に背筋が震えた。

 最高だ。

 ニヤリ、と表情が歪む。

 いいぜ。来いよ!

 サーシェスは快哉を叫んだ。

 

「やっぱ戦争は、こうでなくっちゃ!!」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 グラハムは正眼の構えからビームサーベルを振り上げた。

 GN粒子の供給量の大半を回して形成されたそれは刀身が一回り大きくなり、濃い紅色をしている。

 その一方で、推力はコアから直接供給されている腰部と脚部のサブスラスターに頼らなければならない。

 だがグラハムにはそれで十分だった。 

 サブスラスターにエネルギーを収束させる。

 MSにはなくてISにはあるその機能はメインスラスターの出力を補うには十分だった。

 フェイス部分のパターンが発光する。

 そして『瞬時加速』を作動させた。

 敵も応ずるように『瞬時加速』を使用してきた。

 互いに高速。

 勝負は一瞬で決まるだろう。

 

「切り捨てェッ! 御ォ免ッ!!」

 

 だが、二人の間を巨大な粒子ビームが駆け抜けた。

 

「何!?」

 

『ああッ!?』

 

 意識外からの不意打ちにグラハムは咄嗟に脚部スラスターの角度を調節、機体を反転させることで回避した。

 ビームサーベルの出力が元の状態へと戻っていく。

 咄嗟にグラハムは発射源へと視線を走らせた。

 

「ガンダム!?」

 

 海面から全身装甲のISが出現した。

 世界から『天使』と呼ばれ恐れられた《0ガンダム》だった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 浮上してきた0ガンダムがゆっくりとサーシェスの元へと高度を上げてきた。

 

「邪魔すんなよォ!」

 

 サーシェスは苛立った声でプライベートチャンネルを開いた。

 せっかくいいところだったのを水差されたのだ。

 彼の声には並大抵の人間ならば震え上がり足が竦むであろう威圧感が内包されていた 

 だがそれをものともしない冷静な声が答えを返した。

 

「撤退だと!? そりゃどういうことだ!?」

 

 サーシェスに与えられた任務の完了時刻までまだ十分はあった。

 それなのに撤退命令がなされたのだ。

 しかもそれを伝えてきたのは本命をまかされた奴だ。

 理由を問いただす。

 その回答を聞いたとき、彼から激昂が消えていた。

 むしろ笑いをその表情はたたえていた。

 

「はははッ! 成程なァ、そいつァ面白れぇ!」

 

 狂笑を漏らし、視線を《フラッグ》へと向けた。

 

「悪ィな。この続きはまたにしようぜ!」

 

『どういうつもりだ!』

 

 《フラッグ》のパイロットが当然の疑念を吐いた。

 

「すぐにわかるぜ。すぐになァ!」

 

 サーシェスは高笑いしながら『瞬時加速』を発動、二機そろって一瞬にしてその場から去って行った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 どういうことだ?

 サーシェス達が去った後、グラハムは内心でも同じ言葉を呟いた。

 敵が突如として撤退していった。

 追いかけようにも残りのエネルギー残量からして追撃は無理だ。

 だが、なぜ――?

 

『グラハム、聞こえるか』

 

 千冬からプライベート通信が入った。

 どうやら、敵のGN粒子散布によるジャミングが消えたようだ。

 

「ああ、聞こえている」

 

『すぐにポイントJ3987へ向かえ』

 

 指定されたポイントにグラハムの眉がわずかにひそめられる。

 そこは一夏達が《銀の福音》と交戦しているポイントだった。

 

『二人が《福音》に撃墜された』

 

 グラハムの嫌な予感が現実となった。




今回は、グラハムさんVSサーシェス をお送りさせていただきました。
難しいですね、戦闘描写。
特にISの戦技を使わせるのを忘れてしまいます。
次回は原作にいったん戻ります。
誤字脱字、意味の分からないなどのご指摘がありましたらよろしくお願いします。


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