機動戦士フラッグIS   作:農家の山南坊

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#39 リベンジ

 教師陣や専用機持ち用に急遽準備された整備場。

 グラハムはそこでもう三時間近く《GNフラッグ》の整備をしていた。

 先のサーシェスとの戦闘で切り裂かれていた装甲を自己修復機能に任せず、学園側が用意してくれた予備の装甲に取り換えた。

 これだけなら大して時間はかからない。

 だが両腕のガントレットに異常が見られたために、その換装に大幅な時間を費やすことになってしまった。

 バーニアの出力などの微調整を繰り返し、なんとか実戦投入は可能な状態となった。

 ほかにも高出力のビームサーベルを使用した際に焼き切れた粒子供給ケーブルも別のものに変えてある。

 それらの作業の中でもグラハムには不安要素が頭を駆け巡っていた。

 箒がここで折れるようなことはないとは信じている。

 だからこそ懸念があるのだ。

 まだ箒やシャルロット達とは帰投してから会っていないが彼女たちが映像を見てどう結論を出すかグラハムにはある程度の予想ができていた。

 だからこそ、二人に忠告したのだ。

 ――感情的に、無策で動くなよ。

 そこに千冬が入ってきた。

 

「グラハム」

 

「……出撃か」

 

「やはり、察していたか」

 

「現状、対処できるのは私しかいない以上、予想するまでもないさ」

 

 グラハムが念入りに整備を行っていた理由。 

 それはフラッグの対《銀の福音》作戦への投入を予期してのことだった。 

 《白式》、《紅椿》の両機が使用できない今、ビームサーベルという高火力武装を持ち、高機動性を誇るGNフラッグに撃墜任務が回ってくることは当然の流れ。

 そう判断したからこそ三時間にも及ぶ修理をしていたのだ。

 それ以前に彼の機体はこの場にあるISにおいて単純な出力では他の追随を許さぬものを有し、技量も誰もが認める実力を持っている。

 では何故彼は最初の作戦に名乗りを上げなかったのか。

 単純に撃墜するだけならばグラハムには容易なことだっただろう。

 だが相手はIS。 

 MSとは違いパイロットを外しながら機体に一撃で致命傷を与えるのはほぼ不可能といってもいいだろう。

 しかも敵は多数の砲を持つ射撃型なうえに一撃で落とすとなれば高出力でのビームサーベルしかない。

 全ての攻撃をかわしながら搭乗者に重傷を負わせないともなればグラハムでも容易ではない。

 だからこそ、機体の絶対防御を強制発動させる『零落白夜』有する白式を要とした作戦を支持したのだ。

 

「搭乗者の殺傷を問わない。すでに上層部もこの件は了承している」

 

「了解した」

 

 グラハムは短く答え、愛機を待機状態に戻す。

 そのまま千冬に従い、整備場を出ようとした時だ。

 

『織斑先生! 大変です!!』

 

 千冬とグラハムにオープンチャンネルを通して山田の声が聞こえてきた。

 かなり焦っているようだ。

 

「どうした?」

 

「専用機持ちたちが!」

 

 それだけで何が起きたのか知るには十分だった。

 おそらく、いや間違いなく全員が銀の福音の元へ出撃したのだ。

 

「……馬鹿どもが」

 

 千冬は唸るように呟いた。

 その後ろに控えるグラハムも表情が鋭くなっていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『………………』

 

 海上200メートル。そこで静止していた銀の福音は、まるで胎児のような格好でうずくまっている。

 膝を抱くように丸めた体を守るように頭部から伸びた翼が包んでいる。

 

『――?』

 

 不意に福音が顔を上げる。

 次の瞬間、上空から大口径の蒼弾が四発飛来、二発が着弾した。

 衝撃に福音が揺れる。

 そのすぐそばを高機動形態(クルーズポジション)の《ガスト》が駆け抜けた。

 機体の脚部に装着された高出力テールスラスターによる高機動形態の超高速化。

 人型形態でしか使用できない武装の代わりに、大型反重力翼の付け根と背部に搭載された計四門のリニアキャノン。

 さらに対地攻撃用に大型ミサイルポッドを腕部から腹部装甲にかけて取り付けていた。

 対地対空戦を超高速機動でこなすことをコンセプトとした専用パッケージ『ランサーイーグル』である。

 通常装備で使用されるスラスターを姿勢制御に回すことで海面すれすれで大きく旋回、再び高空へと飛翔する。

 

『敵機Aを認識。排除行動へ移る』

 

 福音がすぐさま迎撃を行おうとする。

 だがそこに別方向から飛来した砲弾が直撃する。

 それは爆発を伴うもので福音はその動きを阻害された。

 ルフィナはすでに高度800メートルにまで上昇していた。

 

「離脱確認。続けて砲撃を行う!」

 

 五キロ離れた場所からの砲撃。通常使用とは異なりレールカノンを左右に1つ、正面と左右には4枚の物理シールドをつけられた《シュヴァルツェア・レーゲン》。それは砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備した姿だった。

 砲撃により福音は目標をルフィナからラウラへと変更、その超高速でラウラへと接近する。

 その速さはラウラの想像を上回っていた。

 すでに両者の間は1000メートルを切っている。

 その間にも砲撃を続けるも半数以上は福音の翼から放たれるエネルギー弾によって撃ち落されていた。

 機動性を犠牲にしたラウラに対して、機動力に優れる福音。

 優劣は明らかだ。

 300メートルを切る。

 福音はさらに加速し、一気に間合いを詰める。

 右腕がラウラへと突き出された。

 避けることはできない。

 だが状況に反してラウラの表情には余裕がある。

 

「――セシリア!」

 

「狙い打ちますわ!」

 

 セシリアが垂直軌道で急降下しながら大型BTレーザーライフルを構え、福音に向けてレーザーを放った。

 手を弾かれた福音は瞬時に身を反転、続く二発三発を回避する。

 強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』。

《ブルー・ティアーズ》最大の特徴である六機のビットを腰部にスカート状に接続、それらを射撃ではなくスラスターとして装備している。

 その分低下した火力を二メートル以上あるライフル『スターダスト・シューター』によって補うのが基本運用である。

 また時速500キロを超える速度下での戦闘補助の為、バイザー上のハイパーセンサー『ブリリアント・クリアランス』を頭部に装着しており、その超高感度により最高速での急降 下から即座に反転、レーザーを放った。

 放たれた四発目のレーザーは見事に福音を捉えた。

 

『敵機Cを確認。排除行動に移す』

 

「遅いよ!」

 

 高速射撃を行うセシリアに対して回避行動の中から突出しようとした福音。

 それを妨げるようにさらに真後ろから別の機体が襲い掛かった。

 それは先程の突撃時にセシリアの背中に乗っていた、ステルスモードのシャルロットの攻撃だった。

 ショットガン二丁による近接射撃を背中に浴び、福音は姿勢を崩す。

 だが一瞬で立て直し、四機目の敵機に対して『銀の鐘(シルバー・ベル)』による反撃を開始した。

 シャルロットは二枚ずつの実体シールドとエネルギーシールドをまるでカーテンのように前面に展開、放たれた光弾を遮る。

 それが《リヴァイヴ》専用防御パッケージ『ガーデン・カーテン』の機能である。

 防御の間にもタイミングを見計らいシャルロットは『高速切替』での武装の切り替えによる攻撃を加える。

 結果として、福音は三方向からの射撃の回避と防御によってわずかながらに消耗をはじめる。

 

『優先順位を変更。現空域からの離脱を最優先に』

 

 福音が三人から距離を置くため、全方向にエネルギー弾を放ち、次の瞬間には全スラスターを展開、強行突破を計る。

 

「させるかぁ!!」

 

 海面が大きく膨れ上がる。

 飛び出してきたのは《紅椿》とその背中に乗った《甲龍》。

 福音へと突撃する紅椿。

 その背中から飛び降りた鈴音は、機能増幅パッケージ『崩山』を戦闘状態へ移行した。

 パッケージによって龍砲が2門から4門に増設されている。

 それらが一斉に火を噴いた。

 放たれたのは通常使用の不可視の弾丸ではなく赤い炎を纏った弾丸。

 瞬時に離脱した紅椿の直線状に紅蓮の弾雨が福音へと次々に着弾する。

 だがそれを受けても福音の動きは止まらない。

 

『『銀の鐘』最大稼働――開始』

 

 両腕を広げ、翼を外側へと向ける。

 

「させない!」

 

 エネルギー弾が一斉に放たれたその瞬間に、急降下してきたガストからミサイルが射出された。

 ミサイルは空中で破裂し、一発につき内部の数十個もの小型ミサイルが福音に降り注ぐ。

 子弾は放たれたばかりのエネルギー弾へと直撃、爆発とともに次々と撃ち落す。

 わずかな撃ち漏らしはあるもののそれらの着弾を防ぐことは五人には容易なことだった。

 ミサイルを打ち切ったルフィナはポッドをパージ、リニアキャノンを撃ち、いまだ放たれるエネルギー弾を牽制する。

 それに応じるように鈴音、セシリア、ラウラの三人がそれぞれの火器で残ったエネルギー弾を撃ち落しつつ福音へと連射を浴びせる。

 

「はぁっ!」

 

 福音へとまっすぐに急降下するルフィナは背部のリニアキャノン二門もパージ、同時に人型形態(スタンドポジション)へと姿を変える。

 ――『グラハム・スペシャル』!

 理論上は可能でもルフィナは行ったことのない高速移動中の空中変形。

 想像以上のGを身体に受けつつもその目は福音を捉えている。

 ソニックブレイドを右手に展開、福音へと斬りかかる。

 

『――!?』

 

 咄嗟に避けようとするが間に合わず、すれ違うようにしてルフィナは福音の右の翼を斬り裂いた。

 福音に対して下を取ったルフィナはすぐさま身を反転、脚部のリニアキャノンを至近距離から撃ちこもうとする。

 

「きゃっ!?」

 

 だが福音の動きの方が早かった。

 片翼だけになりながらも瞬時に体勢を立て直し、反撃の蹴りを浴びせた。

 スラスターにより勢いを得た蹴りにルフィナは海へと叩きつけられる。

 だが叩きつけられる直前に放たれた青い光弾が福音へと直撃する。

 

『箒!』

 

「落とす!」

 

 箒は両の手に刀を持ち、福音へと斬りかかる。

 ルフィナの一撃を浴びせられた福音は紅椿の急加速に一瞬反応が遅れる。

 その右肩へと刃が食い込んだ。

 ――獲った!

 そう思った刹那、福音が刃を握った。

 

「なにっ!?」

 

 信じられない動きに箒は目を見開いた。

 紅椿の二振りの刀『雨月』、『空裂』はその刃にエネルギーを纏っている。

 それを握ろうというのであれば当然ただではすまない。

 福音の腕の装甲が焼き切れるがそれでも刃から手を離そうとはしない。

 そのまま最大限にまで腕を広げられ、刀を握る箒も無防備な姿を見せる。

 その眼前に左の残った翼が砲口を展開し突き付けられた。

 

「回避しろ!」

 

 ラウラが叫ぶが箒は武器を手放さなかった。

 ここで引くわけにはいかない。

 瞳に宿る強い意志がそれを物語っていた。

 眼前で光が溢れだす。

 エネルギー弾が放たれる。

 

「何のための力だ!」

 

 箒の声に意志に反応したのか、脚部装甲前部にスラスターが展開されその噴出の勢いで身を回した。

 そして踵の装甲も展開、エネルギー刃を発生させる。

 

「たああああっ!!」

 

 裂帛の声とともに踵落としの要領で斬撃を放つ。

 それは見事に左の翼を斬り落とした。

 ついに両の翼を失った福音は、崩れるようにして海面へと堕ちていった。

 箒は肩で呼吸しながらその姿を見た。

 

「箒!」

 

 福音が堕ちた位置から少し離れたところからルフィナが上がってきた。

 咄嗟に身をかばったのだろう。

 蹴りを受けたと思われる左腕の装甲が砕けていた。

 

「大丈夫か?」

 

「なんとか、ね」

 

 苦笑を口端に浮かべるルフィナの声を聞きながら呼吸をゆっくりと落ちつけていく。

 

「やった、のか?」

 

 二人は改めて海面を見る。

 すでに堕ちたときの波紋は消え、ただ波打つだけの静かな海。

 

「私たちの――」

 

 私たちの勝ちだ、と誰かが言おうとした瞬間、海面が突如として現れた光の珠によって吹き飛んだ。

 蒸発した海面はその場に新たな海水の存在を許さず、埋めようとするたびに姿を消した。

 その絶対的空間の中心、青い雷を纏った福音が自らを抱くかのようにうずくまっている。

 

「まずい!? これは――『第二形態移行(セカンドシフト)』だ!!」

 

 ラウラが叫んだ瞬間、まるでそれに反応したかのように福音が顔を向ける。

 無表情なバイザー状の顔。

 しかし明らかな敵意を彼女たちは感じ取った。

 

『キアアアアアアッ!!』

 

 まるで獣のような咆哮とともに、翼を失った頭部にエネルギー状の翼が生える。

 その翼は箒たちに向けられ、エネルギーを両翼の中心たる頭上へと収束、圧縮する。

 あまりのエネルギー量に各ISが搭乗者に警告を発した。

 だが、すでに遅かった。

 福音は圧縮されたエネルギーを箒たちへと放った。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ザザァン…ザザァン…

 

「ここは……?」

 

 一夏は見知らぬ浜辺に立っていた。

 彼は聞こえてくる波の音に誘われるように歩く。

 そして海の方を見ると少女がいた。

 波打ち際、光を受けた眩いほどの白い髪とワンピースを風にたなびかせている。

 綺麗な声で歌う少女を一夏はただただ見つめていた。




 次回
『夢の先に』

仲間の為に少年は飛ぶ
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