少女は空を眺めていた。
一夏は少女へと近づいていく。
「呼んでる……行かなきゃ」
「え?」
誰が、と問おうとしたとき、少女の姿は消えていた。
きょろきょろと左右を見るが、人影が見当たらない。
「―――力を欲しますか?」
「え?」
声がしたほうを振り向くと、膝下まで海に沈め、白の甲冑を身に纏い、大剣を逆手に海に突き刺す騎士がいた。
背後には何かを従えている。
だがそれはあまりにも強い光を纏っており、何なのかを見ることはできない。
騎士の顔は下の部分しか見えず、表情が伺えないが、女性である事だけは分かる。
「力を欲しますか……? 何のために……?」
「んー? 難しい事聞くなぁ」
そうだな、と一夏は答えた。
「仲間を……守るために」
「仲間を……」
「何ていうか、世の中って色々と戦わないといけないだろ? 単純な力勝負じゃなくってさ」
一夏は自分でも驚くほど饒舌に語った。
「道理のない暴力だって結構多し、そういうのから出来るだけ仲間を助けたいと思う。この世界で一緒に戦う、仲間を……」
「そう……」
騎士は静かに、頷きで答える。
呼応するように光がわずかに動く。
「だったら、行かなきゃね」
「えっ?」
後ろから声がした。
そこにはさっきいなくなったはずの少女がいた。
少女は一夏の手を掴む。
「ほら、ね?」
「ああ……」
頷いたとき、彼の周囲を光が包んだ。
その光の向こうにいる女性。
一夏はあることに気が付いた。
――似ている。
あの白い騎士に。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
グラハムは砂浜に出ていた。
先に出撃した六人の保護と《銀の福音》の撃墜。
任務は当初よりもはるかに難しいものになっていた。
だが、とグラハムは海へ向かって苦笑する。
私も大概だな。
仲間の危機にも関わらず強敵との邂逅に期待をはせているとは。
これだけはどうにもならんな、とISを装着しようとした。
「グラハム!」
後ろから聞こえてきた声に意識を乱され思わず振り返る。
そこには今の今まで意識の戻らなかった一夏の姿があった。
「……一夏」
グラハムの声には驚きと安堵の色が混在していた。
「悪い、心配かけたな」
「そんなことよりも、私は君が動けていることが不思議で仕方がないな」
グラハムの言うとおり、一夏はひどい重傷を負い、例え目が覚めてもすぐには起き上がれない怪我だったはずである。
「ああ、大丈夫だ」
そう言う一夏の表情は無理をしているという印象をグラハムは受けなかった。
快調とまではいかないだろうがひとまずは元気を得た一夏に笑みを向けると、すぐにその表情を引き締めた。
「では、私はシャル達の援護に向かわねばならない。君はいざというときに備えていてくれ」
グラハムの言葉に一夏はまっすぐと彼を見た。
「俺も行く」
「なんと!? 正気か一夏!?」
「さっき言った通り、俺はもう大丈夫だ。だから、頼む」
「………………」
何かしら反論をしようとした時だ。
『行かせてやれ』
「千冬女史……」
プライベートチャンネルを介して届いた千冬の声にグラハムはわずかに目を細めた。
『こうなったらこいつを止めることはできん』
「織斑先生……」
『命令を下す。お前たち二人で馬鹿どもを助け、《福音》を落とせ』
「はい!」
「了解した」
千冬への返答とともに二人はISを纏った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ルフィナはその惨状に言葉を失った。
「そ、そんな……」
第二形態となった《銀の福音》が薙ぎ払うように放った荷電粒子砲は一撃でセシリア、鈴音、ラウラの三人を落とした。
なんとか回避を取った箒、シャルロット、ルフィナも無事ではなく、それぞれがどこかしらの装甲を掻き毟られた。
荷電粒子砲を放った福音は残った三人のうち、最も近い箒へと飛びかかった。
箒を庇うように飛び出したシャルロットをそのシールドごと翼に包み込んだ。
そして零距離で打ち込まれるエネルギー弾雨には四つのシールドはもはや意味をなさなかった。
鉄壁のカーテンを貫かれ、その身にもろに受けたシャルロットは海へと堕ちた。
「シャルロット!」
箒は自分を守るようにして倒れた仲間の名を叫んだ。
再び箒へと襲い掛かろうとした福音。
そこへ咄嗟に瞬時加速を発動したルフィナが膝蹴りを叩き込み、同時に脚部のリニアキャノンによる一撃を放った。
だが青い光をエネルギーの塊が阻んだ。
「!?」
見れば、福音は胸部、腹部、背部に持つ装甲がひび割れ、小型のエネルギー翼を生やしていた。
光弾は胸部から生えたエネルギー翼によって受け止められていたのだ。
そして大小全て翼からの一斉射撃。
それをなすすべもなく浴びせられ、ルフィナは力なく宙へと吹き飛ばされる。
「よくも!」
箒は雨月を振るい赤色のレーザー光を次々に放った。
福音はそれを軽々と掻い潜り、箒へと迫る。
応じるように箒も加速する。
交差する直前、展開装甲によって軌道を変え、身を翻すように福音の正面を取る。
「そこだっ!」
箒は両腕を振るい、自分を飛び越えていく構図になった福音を斬りつける。
刃の速度と福音の飛翔速度によって切れ味を増した刀が小型のエネルギー翼をいくつも斬り捨てた。
だが即座に残った翼から福音はエネルギー弾を連射する。
スラスターを吹かしながらそれらを紙一重に避ける箒。
後退と同時に二刀からエネルギーを放つ。
両者がエネルギーの撃ちあいをしていると、
「はあああああっ!!」
福音の背後を突くようにルフィナが突っ込んできた。
だが様子がおかしいことに箒は気づいた。
その目には明らかに負の感情が宿っている。
まるで仇敵へと向けられるような殺気のこもった眼。
いつもの穏やかなルフィナからは想像ができない表情だった。
しかし戦術も何もない単純な突撃が通じるような相手ではない。
ソニックブレイドによる斬撃は瞬時に反転した福音の右腕によって受け止められた。
そして光の翼がルフィナの身を抱く。
直後、エネルギー弾の零距離斉射を全身にダメージを受けたルフィナは真っ逆さまに海へと堕ちていった。
「うおおおおっ!」
急加速とともに接近した箒は両の刀で連撃を繰り出した。
展開装甲とブースとの併用による回避と斬撃。
福音との間で高速度での格闘戦を繰り広げる。
幾度かの攻防の末、出力で分のある紅椿に福音が押され出す。
――これで、決める!
そのときになって箒は気づいた。
福音の翼、その先端をこちらに向けていることを。
「っ!?」
咄嗟に回避しようとしてわずかに攻撃の手が鈍る。
それを見逃すことなく福音は箒を蹴りとばした。
「ぐっ!?」
そこへ荷電粒子砲が放たれ、箒に直撃する。
「ぐあっ!!?」
吹き飛ばされる箒を瞬時加速により福音は一気に追い詰め、右腕が首を捉える。
首に走る衝撃に声にならない音が漏れる。
だがそれ以上の音すら許さないかのように福音は首を締め上げる。
さらにはエネルギー翼が紅椿を完全に包み込んでいた。
――不甲斐ない。
翼が光を増していくのを目にし、ここまでかと思った箒の脳裏にはただ一つの事だけが浮かんでいた。
それは今もなお眠っているであろう少年。
彼に会いたいという想いが溢れ出る。
これ以上ないほどの輝きを得た翼に、覚悟を決めて瞼を閉じる。
彼の笑顔が浮かび上がってくる。
「一夏……」
自分でも気づかないうちに少年の名を口にしていた。
そのとき。
突然、福音が箒を掴んでいた手が離される。
福音が強力な荷電粒子砲に吹っ飛ばされたのだ。
ゆっくりと目を開ける箒の前にいたのは、
「俺の仲間は誰1人としてやらせやしねぇよ」
今までとは違う姿の《白式》を纏った一夏だった。
「い、一夏?一夏なのか!?」
「ああ、待たせたな箒」
「もう動いて大丈夫なのか!?き、傷は…?」
「大丈夫だ、それより箒も大丈夫か?」
「あ、ああ」
「よかった。それとリボン焼けちゃったな。でもちょうどよかったかもしれない」
そう言って一夏はリボンを箒に渡す。
「これは…?」
「誕生日おめでとう。今日はお前の誕生日だろ」
「あっ…」
箒が声を漏らす。
昨晩、彼女は不安だった。
だが彼は覚えていたのだ。
七月七日。
箒の誕生日を。
「じゃあ……俺は行ってくる。まだ決着がついてないからな」
ウイングスラスターを噴出し、一夏は飛び出していった。
一夏と箒のくだりに違和感あるのは間違いなく私の文才のなさのせい。
次回
『雪羅』
それは少年の望んだもの