「思った以上に手強いわね」
スコールは僅かに上がった息を整えつつ目の前にいるターゲットを見つめる。
《GNフラッグ》は紅の光刀を左手に持ち、頭部を覆うバイザーとマスクのわずかな隙間から覗く搭乗者の目が、まっすぐとスコールを捉えている。
装甲は掠り傷一つ見受けられず、日差しを浴びて鋭い光沢すら放っている。
対するスコールの乗機《ワトル》は花弁を模した四機の非固定ユニットの内二機を斬り捨てられ、本体も決して無傷とは言えなかった。
状況は圧倒的に彼女の不利。
それでも表情から余裕のある微笑は消えてはいない。
と、フラッグがゆっくりとビームサーベルの切っ先をスコールの喉元へと上げた。
「二度目になるが、あえて問おう。何者だ?」
「二度目になるけれど、私はスコール。それ以上でもそれ以下でもないわ」
「ならば質問を変えよう。目的はなんだ?」
「分かっていると私は思ったのだけれど?」
「生憎、私はそこまで万能ではない」
そう、とスコールは微笑をわずかに濃くする。
「それなら少しだけ教えてあげるわ」
スコールは右手を上げて掌にのっている小機械をグラハムに見せる。
「これを貴方に付けるのが、私の仕事なの」
「それは――」
「あら、知っているの?」
「欧州連合の軍事演習の際に、私を襲撃した男が持っていたものだ」
「軍事演習に……?」
グラハムの言葉に、スコールは微笑を浮かべてはいるがその中に驚きの色を滲ませていた。
その様子にグラハムもわずかながらに眉が動く。
(彼女たちは関与していないのか?)
嘘である可能性もあるがそれにしては言動が自然だ。
元々の洞察力の高さに加え、心眼を鍛えた経験のあるグラハムにはスコールの驚きようには裏がないと判断した。
だがそうなるとあの機械の存在が気にかかる。
勿論、スコールが知らないところで画策していたのかもしれないが、数少ないISを与えられるほどの立場にいる彼女がそれを知らないとは考えにくいことだ。
そうなると考えられるのは、サーシェスとスコールの属する組織と、あの男の裏にいたであろう組織が別物であるという可能性だ。
その組織から提供されたのか、はたまた第三の組織がいるのかまでは分からないが。
もっともサーシェスの属する組織から、スコールの属する組織へと提供された可能性もあるが。
むしろサーシェスの裏にいるであろう存在からしてそちらの方が可能性は高い。
そこでグラハムはそれ以上のめり込まないように思考を切った。
戦闘中に物思いに耽るのは愚の骨頂。
幸いスコールも考えていたらしく、あくまで仕切り直しという形で収まったが。
互いに語るべきものは語ったと言わんばかりに得物を構える。
(まずは自分に課せられた任務をこなすことが先だ)
そう思うが早く、グラハムはスラスターを吹かして地を蹴った。
ワトルから白の光線が十数本飛来するも、グラハムの操るフラッグには回避するのは容易であることはすでに幾度も証明されたことであり、今回もまた加速を緩めることなく潜り抜けていく。
一気に距離を縮める中で、フラッグの動きに変化が加わる。
スコールは思わず目を見開いた。
正面に捉えたと思っていたフラッグが突然消えたのだ。
だがセンサーに映る位置に変化はない。
まさか、と思い咄嗟に視線を上げると、
「ッ!」
いた。
空で両手でビームサーベルを握るフラッグの姿があった。
一瞬にして飛び上がったのだろう。
ビームサーベルを上段に構えたフラッグがすぐそばまで詰めていた。
「ハアッ!」
裂帛の気合いと共に振り下ろされた斬撃。
ほぼ反射的に後ろへと下がったスコールだが、肩から延びるバインダーを切り裂かれ、衝撃に身を揺さぶられる。
そこへ紅の光が眼前で鋭い弧を描く。
残ったバインダーとユニットで迎撃をとろうとするも、展開する間にもう一枚のバインダーを斬りつけられ、返す刀でユニットを破壊される。
スコールが動作を一つする間にグラハムは二発の斬撃を放ち、それでいて余裕があった。
残った一機のユニットからレーザーを放つも身を翻すことで回避される。
しかしそれぐらいのことは、スコールには分かっていた。
だからこそ、放ったのだ。
右手に持つ『リムーバー』と呼ばれる機械。
これを使う隙を一瞬でも作り出せればいい。
使えれば彼女の任務は達成できる。
そしてスコールの狙い通り、グラハムは回避をとった。
再び互いが正面で向かい合う。
「!?」
スコールの右腕が突き上げられた。
右腕をフラッグへと突き出した瞬間、蹴り上げられたのだ。
しかもマニュピレータ―を正確に捉えられ、リムーバーは宙へと弾き飛ばされた。
最後の賭けも敗れ、しかしスコールの顔は微笑をたたえたままだ。
違和感を覚えつつビームサーベルを振り上げるグラハム。
「ッ」
咄嗟に右腕にディフェンスロッドを展開し、GNフィールドを形成する。
直後、すさまじい衝撃と共に紅の光矢が飛来した。
爆発の衝撃とともにフィールドとビームが相殺される。
グラハムはすぐさま後退し、右手にリニアライフルを展開して空へと構える。
銃口の先、粒子ビームが飛んできた方角から数十発というミサイルが迫ってきた。
リニア弾を連射し、十発ほど撃ち落すと右腕のディフェンスロッドを再展開して衝撃に備えた直後、ミサイルが降り注いだ。
軌道から着弾点を見抜き、直撃を免れたグラハムだが、周囲からの衝撃を幾重にも受け身動きを一瞬とはいえ封じられる。
爆音の収束と共に黒煙を切り裂き、辺りに油断なく意識を配るもすでにスコールの姿はなかった。
「逃げられた、ということだろう」
グラハムは逃げたスコールよりもそれを手助けした存在が気になっていた。
最初に放たれた粒子ビーム。
センサーが提示してきた威力は《スローネアイン》のビームランチャーよりも高い。
下手にディフェンスロッドのみで受けようとしたらただではすまなかっただろう。
だが彼が引っ掛かりを覚えたのは敵の姿だった。
わずかな時間ではあったが視認できた機影は人型ではなく飛行機のソレ。
それと気になるのはISの反応がなかったことだ。
ステルスモードである可能性もあるが、無人航空機である可能性も否めない。
むしろ形状からして後者の方が高いだろうとグラハムは思った。
「グラハム!」
空から声がしたかと思うとルフィナが隣に降りてきた。
急いできたのか息が荒い。
「大丈夫?」
「ああ。それよりも」
グラハムが言わんとしていることが分かったのか、ルフィナはモニターを投影する。
提示されるのは学園の地図で、その上に稼働しているISが点で示されている。
すでに学園側の全ISが動いており、その大半が三つの点を追っていた。
その三つの点は二つと一つに分かれ、それぞれ学園の外へと動いている。
やはり先程の航空機のようなものの反応はないようだ。
だがその一方で位置が全く動いていないISもいる。
学園所属を表す三つの青い点ともう一つ、未確認機を表す紅の点。
フラッグのセンサーにはその機体の名称が表されていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《ヴァラヌス》が振るったビームサーベルはタイミングこそ完璧だった。
だが機体の低調が響いた。
GN粒子の生成も十分に行えなくなったことでビームサーベルの形成も満足にできなくなったのだ。
千冬の一閃に光刃を中ほどから断たれ、サーシェスはもろに斬撃を浴びた。
「やってくれるじゃねえか」
サーシェスは新たな機体の損傷を知らせる表示を見て口元を歪める。
ヴァラヌスの左肩から腰にかけての装甲が切り裂かれ、内部から覗く赤いパイロットスーツがまるで血のように見える。
何重にも展開されている警告文の奥、それらを透かした先で千冬がバスターソードを油断なく構えていた。
《GN打鉄》は脚部をはじめ、いたるところにダメージが見て取れるが、その堂々たる姿はやはりサーシェスの内で決して眠ることのない戦争の虫を疼かせる。
煙を上げるビームサーベルを投げ捨て、左腕にシールドを展開する。
その動作に彼の背後でビクッと動揺が走ったのを感じ取るも無視した。
すでに《白式》はサーシェスの興味の中での順位を下げ、戦況としてこそ意識されているものの彼の最大の獲物はまた千冬へと戻っていた。
しかし同時に彼の傭兵としての思考が勝率を計算し、撤退を促してきた。
いまだに続く機体の不調、粒子をまともに確保できない上に唯一の実体武装が失われていることなど、状況は悪い。
さらにセンサーが接近してくる機影を表示する。
その方向にツインアイを向けると、フラッグが拡大するまでもなく確認できるほどに迫ってきていた。
「二体一か。さすがに分が悪い」
グラハム・エーカーと織斑千冬。
この二人を同時に相手取るのは危険だということぐらい、考えるまでもないことである。
「命あっての物種だからな」
サーシェスは最後っ屁とばかりにビームランチャーをビルへと放つ。
轟音を立てて一瞬にしてビルは瓦礫の山へと変貌した。
崩れ落ちる瓦礫で攪乱すると身を翻して戦場を離れる。
正直、敵前逃亡は癪に障る。
だが、最低限の仕事はしたし、勝算の薄い戦いをするのは馬鹿のすることだと彼の傭兵である部分が告げる。
それにまだ始まったばかりなのだ。
彼の望む戦場はまだこの先にいくらでもある。
「ククク……」
口端から狂笑を漏らしつつサーシェスは空を見上げる。
ブリュンヒルデも、フラッグファイターもこの時点では知らない。
遥か空の上でも戦いは起きていたことを。
今日、1.5ガンダムのプラモを買いまして、
素組みしてるときにふと思いました。
1.5でアイズ(I.S)と読ませてるわけですが、そうなると00的にこの作品名は
機動戦士フラッグ15(アイエス)
の方がいいんでしょうか?
次回
『蒼き亡霊』
何のために飛ぶのか