鉄窓の南十字星 ~星になったウィッチたち~   作:多治見国繁

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この回は戦犯を逮捕した警察官の視点から


第2話

1954年、戦争が終わって1年が経過し戦争でボロボロになった扶桑でもようやく復興の兆しが見えてきていた10月のある日、神奈川県警察部鎌倉警察署刑事第一課の巡査部長、前田秀子は自分の机の上にどっさりと積まれた捜査資料の山を死んだ魚のような目で呆然と眺めていた。

前田が所属する警察は、扶桑が敗戦して以降、極めて多忙の日々が絶え間なく続いている。

いや、正確に言えば“超多忙”自体は戦時中から続いている。戦時中、戦況の悪化に伴い、若い男たちが次々と赤紙で戦場へ取られた。それは警察も例外ではなく、ついこの間、目の前の机にいた巡査が兵隊に取られたと思ったら、今日は左隣の巡査部長が兵隊に取られ、明日は右隣の警部補が兵隊にとられるといったようなことが繰り返し起こった。そんな具合で次々に兵隊に取られていき、若手の男性警察官は交番にも駐在所にも署にもどこにもいなくなって、前田のような女性警察官もしくは兵隊にするには歳をとりすぎてあまり役に立たない、40歳を超えた中年以上のベテラン警察官などしか残っていなかったのである。つまり、警察は慢性的な人手不足であった。それでも鎌倉は、横浜や東京、名古屋、大阪、神戸などと違って、B29による焼夷弾を使って街を焼き払った無差別絨毯爆撃のような空襲はなかったから他の地域に比べたら鎌倉警察署に所属する警察官の任務は焼死体の見分などの任務がない分、幾分楽ではあった。とはいえ、艦載機や硫黄島から発進してくる戦闘機といった小型機や米軍ウィッチによる機銃掃射を中心とする空襲は行われたから、防空体制の緩める余地など微塵もなかった。それに犯罪者たちは戦時中という非常時であることは御構い無しに犯行に及んでいた。戦時中だから自粛しようなどと考えてくれる奴らは犯罪者の中にはいない。むしろ戦争で人の心は荒み、犯罪が増えたとも言えた。それにも関わらず、著しく人員が足りないからその分のしわ寄せが残っている警察官にいくことは当然のことだった。

そうした状況の中、扶桑が敗戦してしまったのだ。敗戦と同時に、扶桑皇国という“国”は国民を統制する力を失った。戦争に負けたが故に扶桑は無政府状態寸前ともいうべき状態になった。その度合いは、酷いもので、国が発行した紙幣でさえ、何の意味も持たない単なる紙くずになってしまったり、敗戦直後、今まで抑圧してきた市民からの何かしらの報復を恐れた警察が警察署を捨て逃げ出し、もぬけの殻になってしまったりするくらいのものだった。そのような調子だから、扶桑社会の秩序が崩壊し、治安も悪くなるというのは当然であった。

国の権威が失われた状態での警察とはみじめで無力なもので、まったくと言っていいほど機能していなかった。いくら取り締まっても犯罪者とのイタチごっこだったのである。

1953年9月には進駐軍がやってきたから少しは事態が好転すると期待したが、むしろ逆で既存の国内の扶桑人による犯罪だけでなく、若い血気盛んな進駐軍の兵士が強姦をはじめ、様々な凶悪事件を起こすなど治安はますます悪化の一途をたどっていった。この頃の扶桑社会は窃盗や喧嘩といった小さな事件から強盗や殺人、強姦といった大事件まで、ありとあらゆる犯罪が多発していたのである。もちろんそうした混沌は鎌倉署の管轄内も例外ではなかった。

さらに、警察が頭を悩ませていたのは戦災孤児の存在だ。空襲で焼け野原になった東京や横浜から親を亡くした孤児たちが流入して国鉄鎌倉駅などに「駅の子」として住み着いたのだ。孤児たちは生きる為には仕方がないと同じ境遇の者同士で徒党を組んで窃盗団を結成したり、やくざの手伝いなどをしたりして暮らしている無法者の集団たちだ。

その中にはウィッチの力を持った孤児たちもいるという。今のところ、鎌倉署の管轄範囲内でそうしたウィッチの力を持った戦災孤児は確認できていないが、東京ではウィッチの孤児が確認されているという。もしウィッチの力をもった孤児が鎌倉に出没したら大変なことになる。ただでさえ、力が強く、魔法力の制御を学んでいない可能性が高い孤児たちだ。何をしでかすかわからない。事件が凶悪化する可能性が極めて高いのである。治安の悪化によってただでさえ増えた犯罪が、そうした孤児たちによってさらに増え、なおのこと治安は悪くなるという最悪の悪循環だった。

もちろん、政府もそうした境遇の子どもたちを、戦争という災厄をもたらし、親を戦争の惨禍によって失わせしめた大人の責任として保護の方針をとっていたし、警察もまた積極的に協力して保護に努めていたが、なにぶん戦後の混乱により徹底せず実効性に乏しかった。

それに加えて、この時期の扶桑は、食料などほとんどすべてが配給制であった。その法律がしばらく生きていた関係上、警察は違法な闇市や買い出しの取り締まりもしなくてはならなかった。幸い、鎌倉のあたりは食料の供給地であったから、買い出しに行く者はほとんどいなかったが、東京などから買い出しに来る者がそれなりにいてそれを取り締まらなくてはならなかった。

こうした、各要因が複合的に相まって、前田を含めた警察官の仕事が次々と山積みになっていったのである。そして、そのうえさらに進駐軍はとんでもない爆弾を警察によこしてきた。ただでさえ、仕事が山積みなのに、進駐軍は、特高警察に所属していた警察官を公職追放、平たく言うとクビにすると言ってきたのだ。特高警察は、戦前の思想弾圧の旗振り役で、軍国主義を強制、洗脳し戦争を推し進めた組織だとして、進駐軍に目をつけられていたのである。前田からしたら、人の心までも軍隊と一緒になって操り思い通りにしようとしていたいけ好かない特高警察の奴らがいなくなること自体は大いに清々していたが、タイミングが悪すぎた。それによって、仕事はあふれかえっているのに、人員は大幅削減されるという悲劇が生じた。

こうして、警察は寝る暇もないほどのとんでもない激務となり、前田が死んだ魚のような目になって、茫然と終わりの見えない積み上げられた仕事を眺めているという現状に行きついたのである。

前田は、山積みになった仕事の捜査資料の一番上の山から一つの簿冊を取ると、紙の端を弄びながら、ぺらぺらと何頁かめくって、大きくため息をつくと、それを山のてっぺんめがけて放り投げ、山の中にうつ伏せに倒れこんだ。するとすかさず怒鳴り声と呆れが混じった声が前田の耳をつんざく。

 

「こら!そうやってすぐ寝ようとしない!前田先輩!またですか!?そんな風に眺めていても一生終わりませんよ!一生!」

 

前田が声のする方を振り返ると、いつの間にそこにいたのか、まだ幼さが残る少女のような刑事が腰に手を当ててぷりぷり怒りながら立っていた。同じく横須賀警察署刑事第一課の立石昌枝巡査だ。

立石は前田の後輩で、前田の3年後に警察に入り、刑事課へ来てまだ2年目だった。立石は、とても優秀で神奈川県警察部で同時期に警察に採用された中でも警察練習所でも指折りの成績を収め、交番勤務を経て、鳴り物入りで鎌倉警察署刑事課に配属された期待の刑事で真面目で良くできた後輩だった。立石も、刑事に憧れて、悪い奴を捕まえる立派な刑事になるのだと意気込んでいた。体格は課内で一番小さかったが、捜査技術はみるみるうちに向上し、本来ならもう一人前に捜査の最前線に出ていてもおかしくないほどなのに、仕事はなぜか前田のお目付け役。ある意味ではとても不憫な若手刑事だった。

事の発端は刑事第一課長で警部の寺本清の命令だった。いつも自由奔放に行動し、隙あらば、警察官でありながら署でも街でもいつでもどこでもサボタージュを企てるので寺本課長がついに前田への監視命令を発令したのである。そして、その役目の白羽の矢が立ったのが真面目な立石だったのである。真面目な立石と一緒にすれば、少しは先輩としての自覚が出るだろうと期待しての組み合わせだったが、前田はそのようなことどこ吹く風とばかりに平気な顔をして隙あらばサボタージュし、わざと立石を怒らせ、その反応を楽しんでいた。

そして、今日も立石は自分の仕事をしつつも、前田の監視をしていたら、今日も書類の山の中に消えていく前田を目ざとく発見し、厳しく指摘したというわけである。前田は勢いよく立ち上がって自らの机にうず高く積まれた捜査資料を指差して立石に反論した。

 

「そんなこと言っても……無理だよ……!見てよこの書類の山……!敗戦で治安が悪くなる一方だから扶桑人の犯罪は数倍に増えるし、東京や横浜から戦災孤児はなだれ込むし、その中にウィッチがいるかもしれなくて凶悪化するかもしれないし!そこに刑事事件がこんなに!その上で更に進駐軍のバカがあばれているんだよ!?私を殺す気!?カローシするよ!」

 

しかし、何度も前田の言い訳を聞いてきたある意味歴戦の猛者である、立石にはそのような言い訳は通用しない。大体、ここまでため込んだのは、まったく仕事をしようとしない、前田がすべて悪い自業自得なのだ。立石は小さな体を精一杯伸ばして、両腕両脚をぶんぶんと振り回しながら前田の言い訳を封殺する。

 

「あんなにサボっておいて何言っているんですか!?もとはといえば先輩の所為でしょ!?はあ!?カローシ?!笑わせないでください!過労死っていうのは私みたいな人を言うんです!前田先輩が!やらないから!私にしわ寄せが来るんです!先輩のせいで3週間泊まり込みですよ!?先輩がやらないから!いいですか?!先輩と違って私は寝る暇すらないんです!先輩が隙があればごろごろしているところを私は現場に出ていますからね!今日は絶対に絶対に絶対に終わるまで帰しませんからね!課長命令ですから!それに私、今日こそ帰りたいですからね!今日こそ家に私を帰してくれないと一生恨みますよ!」

 

立石は厳しく腕と脚をいっぱいに広げて断固として前田を逃がさない構えだった。

 

「ううっ……酷い……わかったよ……」

 

前田は悲しそうな声を出し椅子に座って諦めて真面目に仕事に取り組むフリをした。あくまでフリだ。隙あらば逃げ出すつもりだった。しかし、何度も前田に逃げられてきた立石は怖い顔で腕を組み厳しい視線を向けている。絶対に今日こそ逃がさない覚悟のようだ。こうなったら強行突破しかない。幸いにも立石はとても小柄だ。だから、強行すれば簡単に突破できる。タバコを吸いに行くことにして逃げ出そうと思いついたように不意に立ち上がる。予想通りすかさず、立石の厳しい声が飛ぶ。

 

「どこ行くんですか!?まだ少しも終わってないじゃないですか!」

 

前田は立石に少しムッとした。少し立ちあがれば便所に行こうと、たばこだろうと厳しく問い詰めてくるのだ。もちろんそれは今までの前田の行動をみてきたからこそであり、自業自得ではあるのだが口煩くて鬱陶しく感じ、苛ついてくる。

 

「もう!うるさいよ!さっきから!タバコを吸いに行くだけだよ!少し頭をスッキリさせないとこんなに難しいの終わらないよ!」

 

前田はつい怒鳴ってしまった。立石は顔色を変えて悲しそうな顔になった。立石は別に意地悪で言っているわけではなく、前田のためを思ってこうして厳しく接しているだけだった。なのに「うるさい」だなんて。立石の顔が下を向く。その一瞬の隙を前田は見逃さなかった。

 

「えへへへ!隙あり!」

 

前田は立石の横を目にも留まらぬ速さですり抜けていく。立石が気づいた頃にはもう前田は刑事第一課の部署から出て行こうとしていた。

 

「あっ!逃げた!逃げられた!待ってください!誰か!前田巡査部長を捕まえてください!」

 

「えへへへ。警察に待てと言われて待つ者はいないよ!」

 

 

しかし、運は立石に味方していた。前田は丁度入ってきた誰かにぶつかって弾き飛ばされてひっくり返った。

 

「あなたも警察でしょ!?あ!そこの人!その人捕まえてください!」

 

前田がぶつかった人はリベリオン軍の軍服を着ていた。よく見るとその人は、刑事課の人間なら見慣れた女性兵士だった。メアリー・オノという名の扶桑系のリベリアンでリベリオン陸軍の少尉だ。彼女は細身ながら筋肉質の大きな体であっという間に前田を捕まえてしまう。最近はいつも運悪くメアリー少尉がやってきて逃走を阻まれる。そして、今日も首根っこを掴まれてあっという間に確保されてしまった。メアリーは後ろに控えていたミリタリーポリスに声をかけて手錠を受け取るとあっという間に前田を後ろ手にして手錠をかけようとした。刑事課の刑事なのにまるで犯人かのような扱いに驚いて暴れる。

 

「うわっ!出た!オノ!ちょっ!ちょっと!急に何するの!?な、何で私にワッパかけようとしてんの!?」

 

しかし、体の大きなメアリーにはさすがに勝てない。前田は倒されて腹ばいにされる。メアリーは前田の腰のあたりに跨って押さえつけた。いつも、前田のサボりぐせに困らされていた刑事第一課に歓声が上がる。メアリーは腹ばいにされている前田の腰の上から退いた。

 

「Hey!Ms Maeda!Ms Tateishi ヲコマラセテハNoデス!Escapeスルト、Ms Maeda.you are Expulsion of public office……Ah……コーショクツイホー?デス!」

 

メアリー少尉はリベリオンなまりのブリタニア語が混ざった片言の扶桑語で前田に迫る。

 

「うう……わかったよ……あと少しで逃げられたのに……もう絶対に逃げないからワッパ外して……」

 

前田は悔しそうに地団駄を踏んだ。彼女は前田の天敵だ。メアリー少尉はなおも疑いの目を向けて前田を見ていた。

 

「Really?」

 

ねばりつくような目で見つめるメアリーに怯みながら、前田は首を縦に何度も降った。

 

「Yes!Yes!」

 

すると、メアリーは肩をすくめ、前田に立ち上がるように促し、手錠を外して、外したその手を離さないようにしっかりと握ると確実に立石に引き渡した。立石は今度こそ離さないようにしっかりと前田の腕にしがみつく。

 

「前田巡査部長を捕まえてくれてありがとうございます。Ah……Thank you Ms Mary.前田巡査部長、いつも逃げだすのです。いっそのこと、公職追放した方が良いかもしれないですね。」

 

立石は粘りつくような視線を前田に向けた。

 

「そんなあ……酷いよ……そんなこと言わないでよ……」

 

前田は顔に両手を当ててシクシクと泣くふりをしていた。しかし、もうだまされないとぴしゃりと厳しい口調で立石は言った。

 

「酷いなんて思う暇があったらもっとしっかりしてくださいよ!泣き真似したって無駄です!もう誤魔化されませんからね!次、逃げ出したりしたら今度こそ課長にクビにしてもらいますからね!」

 

前田と立石はまるで漫才師のようだった。二人はなんだかんだ言っても最高の相棒同士だった。そんな二人は陰鬱としがちな刑事第一課を笑顔に包んでくれている。それは、進駐軍のメアリーも例外ではない。メアリーは二人の掛け合いを見てゲラゲラと大笑いしていた。

 

「Ahahahaha!フタリヲミテルトhappyナFeelingニナリマス!」

 

「あははは……お恥ずかしいです……」

 

立石は恥ずかしそうに顔を赤らめて頰を指で掻く。前田は口をとがらせてそっぽを向いていた。

 しばらく、げらげら大笑いしていたメアリーだったが、やがて静かになり、今度は悲しそうな険しい表情になった。

 

「but,Very sad today……Ah……キョウハトテモカナシイヒデス……」

 

メアリーは悲しそうに口ごもりながらつぶやいた。本来、米軍のメアリーが警察署を訪れるときは、決して前向きな話で訪れることはない。

メアリーの態度で、前田も立石も、メアリーが何を言わんとしているのか、よく理解していた。

 

「つまり……それは……」

 

立石がぽつりとつぶやく。メアリーは悲しそうに首を縦に振った。

 

「Yes……Arrest order of war criminalデス……」

 

“Arrest order of war criminal”扶桑語に訳すると、その意味は戦犯逮捕命令。1953年の9月から警察では、GHQの命令に従って、戦犯の逮捕を執行していたのである。

逮捕を執行する側である、前田や立石にとっても、この任務はとてもつらい。ようやく、命からがら帰還して、平和な日常を取り戻していたのに戦争の惨劇が容赦なく追いかけて、また、家族を戦争へと連れ去ってしまうのだ。また、BC級は復讐裁判だといわれ、一夫的かつ形式的な、極刑や終身刑といった過酷な刑が相次いでいるという。

立石は涙目で、前田もうつむき唇をかみながら言った。

 

「そう……ですか……やっぱり……」

 

「戦犯か……Ms Mary.Please give me the War criminal list. 」

 

メアリーは前田にGHQより逮捕命令が出ている戦犯のリストを手渡した。前田が、リストをめくっていくと、そこには、100名ほどのABCの並び順で戦犯容疑者の名がアルファベットで記されていた。前田はリストを数枚めくって、確認しながらため息をつく。

 

「また、嫌な仕事が増えた……」

 

逮捕命令が出ている戦犯のリストを渡すと、メアリーはすぐに帰っていった。いつもメアリーはリストを渡したらすぐ帰るのが習慣だった。メアリーとしても、悲しく重い空気の中にいつまでもいたくないのであろう。メアリーも戦犯の運命はよく理解している。メアリーの姿が見えなくなると、前田はリストを放り投げた。

 

「ねえ、立石。今の警察に正義なんてあるのかな?」

 

立石はゆっくりと首を横に振る。この哲学者のような問いはもう何度も繰り返された問いだ。前田は、いつも戦犯逮捕命令の書類を受け取ると決まって、立石に同じことを聞くのだ。「警察に正義はあるのか」と。

前田が、そのように何度も同じ質問をするのには訳があった。

敗戦以降、社会には様々な変化がもたらされた。敗戦によって、社会のありようが大きく変わっていったのだ。それは、正義と悪の概念においても同じだった。敗戦によって、今まで、悪だったものが正義に、正義だったものが悪へと転換を遂げたのである。それは警察も例外ではなかった。警察は戦時下、戦争に積極的に加担した。国の一組織であるから、加担するのは当たり前ではある。

しかし、警察は組織も警察官も戦争に加担した過去など忘れてしまったかのように今やGHQの言いなりになって戦犯容疑者を平気な顔をして逮捕に出かけているのだ。戦時下では市民を厳しく監視し、少しでも怪しい動きがあれば、捕まえて厳しく尋問、ほとんどの場合拷問までして撲殺寸前の状態にしたり、戦争が嫌だと逃げ出した徴兵忌避者を血眼になって草の根分けてでも探し出したりしてこれまた、重罪だとして刑務所に叩き込み、兄、弟、父、夫を容赦なく戦争へと駆り出す手伝いをしていた警察がだ。

前田はどうしてもそれに納得できなかった。そして、生きていくため、命令であるとはいえ自らもまた、戦犯の逮捕に出かけているという事実が許せず、やる気が起きずにいたのである。

しかし、やはり前田も自分の首をかけられるほど勇敢ではなかった。命令ならばやらなくてはならない。前田はあきらめて、再び、戦犯逮捕リストを手にとった。

まずは、戦犯の中に神奈川県の出身者がいないか確認していくと100名のほどリストのなかから10名ほどに絞られた。その中から、鎌倉出身者をまずは絞り込んでいく。すると5人だけになった。その名前を1つずつ確認していく。すると突然、前田が体を震わせて何かをぶつぶつ言い始めた。

 

「うそ……なんで……どうして……こんなの嘘だよ……ありえない……」

 

前田は、今まで見せたことのないような顔で茫然としている。その尋常ではない様子に立石も嫌な予感を感じ取った。立石が、前田の持っているリストを覗き込む。

 

「どうしたんですか……?前田先輩……」

 

「立石……これ見てよ……ここ……」

 

立石がリストを覗き込む。するとそこにあった名前は扶桑の英雄、鎌倉の誇りといわれ、とんでもない魔力で欧州を解放したといわれる伝説のウィッチといわれた一人の元ウィッチの名がアルファベットで記されていた。

 

“Yoshika Miyahuji”

 

宮藤芳佳元海軍中尉だった。

 

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