TS転生した先は女同士で子供が作れる世界だった 作:6万点差でもなんとかしてしまいますよー
「テンパる」って言うのは麻雀が語源
TS転生した。
この一言だけで全てが伝わる今は良い時代だと思う。一応説明しておくと、TSとはトランスセクシャルの略称で、性転換のことを意味する。
まあつまり、元々は男だった俺は精神はそのまま可愛らしい姿を得てしまったという訳だ。
転生先は俺の知る限り「前」と変わらない平和な現代。強いて違う点を挙げるならば、麻雀という競技がかなり一般的になっていることか。
雀荘に年齢制限なんてものは無く、インターハイの競技にも認定されている。JSである俺も今まさに近所の麻雀教室に向かっている所だ。
ちょっと何を言ってるかわからないと思う。俺もわからなかった。
「せんせーこんにちはー」
「はい、こんにちは桜ちゃん。皆待ってたわよ」
麻雀教室に到着し、先生に挨拶をする。
先生は見たとこ20代の女性で、前世だったらとても麻雀なんか出来るようには思えない。
俺だって精神こそ男ではあるものの、“木村 桜”なんて可愛らしい名前が付いた立派なJSだ。口調が男のままなのはご愛嬌。
このようにJSだろうが爺さんだろうが同じ卓につくのがこの世界なのである。初めて少女が麻雀をやっているのを見た時は世も末かと思ったものだ。
「それじゃあ一番奥の卓で皆と打ってあげてくれるかしら」
「はーい」
言われた通りの卓までとてとてと小さな足を必死に動かして行く。この小さな体にも最初は困らされたが、もう慣れたものだ。
今では可愛らしい笑顔を浮かべておじさん共に小遣いをねだったりと、ぷりてぃーるっくを存分に利用させてもらっている。
そして、意外と広い教室を駆けていった先には既に3人の少女が緊張した様子で座っていた。
どうも俺がお目当てのようで、随分と待ってくれていた感じである。緊張をほぐす様に優しく声をかける。
「じゃ、早速打つか」
「は、はいっ」
対面の少女が震える手で自動卓のスイッチを押す。……あまり効果は無かったようだ。
とは言うものの、彼女たちの緊張の原因には心当たりがある。
自分で言うのもなんだが、俺は麻雀が結構強い。いや、嘘吐いた。メチャクチャ強い。
転生特典だか何だか知らんが、確率の壁を越えて勝利を重ねることが出来る。事実、この世界に生を受けて以来一度も麻雀という競技において敗北したことはない。
前世の凡人の感覚を持っている俺からすれば、自分で自分のイカサマを疑う位のものだ。
彼女たちの緊張はそんな俺の実力を知っている故であろう。
「顔に全然見覚えないけど……ここに来るの、初めて?」
「は、はい。私たち、この教室にすっごい強い子がいるって聞いて……」
小学生向けの大会に幾つか出て全て優勝を掻っ攫い、地元の新聞に記事を載せてもらった経験を思い出す。俺も結構有名になって来たということか。何だか嬉しくなってくる。
「それじゃ、俺も期待に応えられるように頑張るから楽しんで打ってけよ」
そう言いながら、俺は一つ目の牌を切り出した。
◇◇
「それロン。
「は、はい」
明らかな危険牌を切って来た対面から出和了する。これで一人がトビ、俺が1位で終了だ。まあ、小学生なんてこんなもんだろう。オリ*1なんて存在すら知らず全ツッパ*2が基本だ。一周回ってヤケになったオッサンが辿り着くような思考をしている。
「じゃあ、ありがとうございました」
「あ、ありがとうございました……」
打ち終わり、3人の少女は意気消沈した様子で肩を落とす。残念ながら、とても楽しそうには見えない。
その辛そうな様子に、俺は思わず顔を顰めてしまう。初めて俺と打った奴は、大体
当然、そんなのを見せられる俺は気分が悪い。……それも、努力とかで身に着けた実力ではないのだから余計に。
「あー、ほら。俺の捨て牌さ、萬子が全然無いだろ? そうすると、俺は萬子で待っている可能性が高い訳だ。つまり、お前の最後の四萬は滅茶苦茶危ないんだよ」
そう言うと、そんなことわかっていると言わんばかりに睨まれる。まあ、これだけの点差があったら全ツッパするしかないと言うのもわかるものだが……。
彼女の所へ向かい、
{四六七②②⑥⑦⑧24678} {八}
「まあ、聞けって。お前がこれで四萬を持ったまま行ったとして……」
そう言いながら少女がツモる筈だった牌を持って来る。すると、三巡先でまた聴牌になった。
{四六七八②⑥⑦⑧44678} {五}
「ほら、聴牌だ。で、そうすると……」
その更に一巡先に俺がツモる三萬を持って来ると、少女は目を見開いた。
「ローンっ! ってワケ。相手の和了牌を持つっていうのは和了を妨害するだけじゃなくって、その周りで待つわけだから相手から出和了る可能性も高くなるんだぜ」
そうやって回し打ちの理論を教えると、目に見えて彼女たちが元気を出す。
俺の実力が技術に裏付けされたものであると考えたようだ。
「あ、あの……もう一回、打ちませんかっ!」
「もちろん」
「……っ!」
彼女の言葉にとびっきりの笑顔を浮かべながら答えると、対面の少女は照れたように顔を背ける。確かに今の俺は超絶美少女だ。気持ちはわかるが、この世界、レズが多過ぎやしないだろうか……?
「じゃ、じゃあ山を崩して……」
照れ隠しのように牌を崩す彼女に追随して皆も山を崩す。そこに、先程のような暗い顔は見られない。他の二人も完全に元気を取り戻してくれたようだ。
今回も上手くいった。
そう思いながら、牌を卓に流し込むと、俺が三萬の一つ前にツモる予定だった牌が裏返る。その牌は、俺の和了牌である四萬。
◇
「よし、それじゃあそろそろ終わるか」
「あ、ありがとうございました!」
半荘*3を3回。その全てにおいて俺はトップに立ち続けた訳だが、その内容は先程とは全然違う。1位と2位の差は精々が1万点程。
僅かな時間での変化に、少女たちは喜び舞い上がる。例えそれが、意図的に作り出された変化であったとしても。
最後には笑顔で、別れることが出来た。俺もきっと、笑顔だったと思う。
「……誰か、もっとつえー奴はいないのかな」
少女たちが卓を離れると、思わず口からそんな言葉が漏れる。
「転生特典」なんていうズルに頼っている俺をもっと純粋な力で越えてくれる存在に、出会いたい。
それが、ここ数年の俺の願いである。
ハッキリ言ってしまうならば、今回は期待外れだった。俺の噂を聞いてやって来たと言うのだから、もしかすると強いのかもしれない、と少し本気を出してやった結果が南場に入る前にトビで終局。オブラートに包まずに言うなら話にならない。
もうずっとこの教室では人に教えるということしかやっていないのだ。先生とも一度だけ打ったことがあるが、結果は他の皆と同じ。
昇り始めた月を眺めながら、溜息を吐く。
「あー、やめだやめだ。こんなこと考えてても何にもならねえ」
首を振って暗い思考を頭から追い出す。そもそも地元大会優勝がなんだ。こんな長野なんていう片田舎で威張っていたって大したことは無いだろう。中学に入ってインターミドルに出れば本当の天才ってヤツがズル野郎なんてけちょんけちょんにしてくれる筈だ。
「よし、そうなりゃ一局打つか!」
気持ちを入れ替えて立ち上がる。実際、俺は麻雀自体は大好きなのだ。前世だと大学の頃は一日中やっていたと言っても過言ではないし、賭け麻雀もよくやった。
「さて、誰かいないか……と」
相手を探して辺りを見渡すと、不思議なことに皆が入り口の方の卓に集まっているのが見えた。面白そうな卓に観客が集まるというのはよくあることだ。実際、俺が打つと人が集まることも稀ではない。
……しかし、それにしても集まっている量が異常だ。この麻雀教室にいるほとんど全員が集まっている。いつもなら誰かに付きっ切りで教えている先生までもが観客の一人になっているのだ。
珍しい。そう思った俺は、一局打つのはやめて大勢いる観客の中に入ることにした。
そこで感じたのは、確かな違和感。いつもならこの観客たちは無遠慮にガヤガヤと好き勝手喋っている。それなのに、ここでは呼吸の音とただ牌を打つ音しか聞こえない。
誰もが沈黙している。誰もがこの一戦に魅入っている。
近くまで来てわかった観客たちの余りの密集度に観戦はやめようかと思ったが、ここまで集中しているとなると内容がとても気になる。
手加減しているとはいえ俺の無双を見慣れている奴らがこうまでなっているのだ。並みの打ち手じゃないのだろう。
小さい体を活かして観客の隙間に潜り込み、何とか内容を見ようと奮闘する。
そしてようやく一番前に出たと思った時、俺は運命に出会った。
「――ツモ。海底撈月」
空には、満月が浮かんでいた。