TS転生した先は女同士で子供が作れる世界だった 作:6万点差でもなんとかしてしまいますよー
その少女は美しく、鮮烈で、気品高く、そして何より――
――恐ろしかった。
◇◇◇◇
「……エゲツねェな」
見慣れぬ金髪の少女が和了った海底撈月*1で見事他の3人全員が同時にトビとなり、終局が訪れる。そして静寂を保っていた観客たちが各々口を開き出す中、俺はただひたすらに彼女のことを見つめていた。……いや、見つめる以外の行動が取れなかった。
そんな中、気になる言葉が聞こえて来たことでようやく俺の体は動き始めた。
「ねえオジさん、エゲツないってどういうこと?」
「ん? ああ、桜ちゃんか。桜ちゃんは、さっきここに来たって感じかい?」
「うん、そう。最後の海底を和了った瞬間しか見てないから、何もわかんない」
そう言うと、オジさんは難しい顔をした。俺が見ていない間に、あの金髪の少女は何かしたのだろうか? もしかすると滅茶苦茶に挑発とかしてたのかもしれない。あんなに可愛い子がそんなことをするとは思えないけど……。
ともかく、知りたい。あの少女について。
「いや、なに。その、何だ……。調節、してたんだよあの子は……」
「?」
言っていることがよくわからない。首を傾げていると、異変は起こった。
「う、う……」
突如上がった呻き声に顔を向けると、あの少女と同卓していた内の一人の少年が下を向いて怯えた表情をしていた。
「だ、大丈夫か?」
当然、観客たちは彼に声をかける。
その内の一人が彼の肩に手をかけると、彼はビクッと体を震わせた。
「うわあああああああ!」
その叫び声に思わず一歩後ずさる。しかし彼は、そんな周りの反応など見えていないかのように教室を走り去って行った。
そして残る二人の子も、それに追随するように怯えた顔で逃げ去って行く。
それを見た一人残る金髪の彼女は、つまらないとでも言いたげに少しだけ悲しそうな表情で足をブラつかせていた。
余りのことに、ポカンと口を開けたまま固まってしまう。
「あの子は、よ……もっと前に他の子をトバせたんだ。でも、そうしなかった。見逃して、狙い撃ちして、時にはワザと点数を安くして……三人一気にトバす機会を窺ってたんだよ」
その言葉に、周りの人間たちも頷く。彼らがあの少女へ向ける感情には、少なくともプラスのものは見受けられなかった。
なんだそれは。そんな打ち方はそもそも常人に出来ることではないし、出来たとしてやるようなことではない。
俺だってよく手加減をしたり真面目に打つことは少ないが、それでも人を甚振るような打ち方はしない。
怒るべきだ。そんな打ち方をした彼女に、怒るべきだ。今までの人生で形成されてきた倫理観がそう告げるが、俺の心は全く別の感情を抱いていた。
怒りという感情なんかより、そんなことより何よりも、彼女のあの和了が、敵を絶望に叩き落すあの和了が、ひどく残酷なあの和了が、美しく見えてしまったのだ。
今の話を聞いて、よりその思いは高まる。
彼女は、強いのだ。そうやって遊んで抵抗を楽しむくらいに、強過ぎるのだ。
「なあ。なあ、君」
気付けば、俺は彼女に声をかけていた。
気持ちが抑えられない。あの和了の美しさを、叫びたい。
つまらなかった。
今まで、誰一人として相手にならなかった。
子供であろうと大人であろうと、まるで赤子の手をひねるかの様に勝利した。
挑んでくる者もいた。立ち塞がる者もいた。その全てが、小さな俺にひれ伏していった。
まるで話にならない戦いの数々は、
挙句の果てには、相手の心が折れぬように配慮する始末。
そんな中、初めて自分を超えるかもしれない輝きを見た。
色を失いつつあった世界に、鮮烈な光を放ちながらやって来た。
俺と同じなのだろうか。そうだったらいいな。彼女の光を失った瞳を見つめて、やっとの思いで言葉を吐き出す。
「俺と一局、打ってくれ」
その言葉に彼女はひどく驚いた顔をし、そして数瞬の後、笑顔で口を開いた。
「無論だ!」
◇◇◇
対局を始めるのには、案外時間がかかった。
というのも、金髪の彼女―天江 衣と言うらしい―の対局を見ていた人たちは、全員が全員彼女との同卓を嫌がったのだ。
そのおかげで、わざわざあの対局を見ていない奴らを連れて来ることになった。
カラカラカラ、とサイコロが自動卓の中心で転がる。
親が決まり、手牌を揃えていく。
親が最初の牌を捨て、対局が開始する。
俺の対面が衣。他の二人は、ハッキリ言って数合わせだ。申し訳ないが、俺の視界には余り入っていない。
対面の顔はよく見える。
最も、表情に頼るまでも無く
一人の同卓者を挟んで、俺の手番がやって来る。
引いた牌を、見ずにツモ切り*2する。盲牌の技術は持っているが、
「ポン」
対面の衣が、俺の捨てた九萬を鳴く*3。
彼女は、少しばかり驚いた表情をしていた。衣も俺と同じく、来る牌がどこで来るべきなのかがある程度わかるのだろう。本来ならば、出ないはずであった所から出て来たのだ。
もう一度、衣と俺を挟む少女の番が終わり、俺の番がやって来る。
そして俺は、もう一度ツモ切りを行う。
「ポン」
もう一度。全く同じ状況の焼き増しだ。俺が捨て、衣が鳴いたのは一索。
眼前の彼女は聴牌している。それも、大物手どころの話じゃない。本来なら、もっと後でそうなる筈であった。
かつてない位に場がよく見える。
三度目のツモ。
ああ、想像以上に俺は拗らせてたんだな。思ってたよりずっと、負けを求めてたみたいだ。
三度目の捨て牌は一筒。
しかし、ここ一番ではツッパらなきゃいけない。それも
そして、今は「ここ一番」だ。
俺が河に牌を放るのと、彼女が手牌を倒すのは同時であった。
「――ロン! 32000!」
東一局。一度も親が流れることなく、一本場に入ることすらなく、無敗の少女は敗北した。
◇◇
マイナス7000点。この世界に来てから相手に表示させることは多くとも、自分の手前で表示されるのは初めてであった0を下回る数字を感慨深く眺める。
深く、深く息を吸い、久々の敗北を噛み締めながら、顔を上げる。
そこには、俺を打倒せしめた輝く少女が不安そうな表情で佇んでいた。
本当に僅かな時間であったが、打っている内にわかった。
彼女は、俺の様に敗北を求めている訳ではないが、俺に似ている。
彼女の世界は、色を失いつつある。
衣は、負けを欲しがる我が儘な俺と違って、ただ一緒に卓を囲む相手が欲しかっただけなのだ。
それならもう、かける言葉は決まっている。俺の世界に、色を取り戻してくれた彼女。ならば彼女の色も取り戻してあげよう。
「――楽しかった、楽しかったよ衣」
「!」
俺の言葉に、彼女が笑顔になるのを見て、本当に嬉しくなる。
先程かけていた椅子にしっかりと座り直し、牌を持つ。
「もう一局、打ってくれ」
「――無論だ!」
◇
「それでな、それでなハギヨシー! そのあと衣は初めて麻雀で1位以外を取ったのだー! あ、無論その後に王座を取り返しもしたのだぞ? 勝ったり負けたり、龍虎という奴だな!」
「そうですか。それは、本当に――本当に、良かったですね、衣様」