紫電改のマキ ミシラ飛行隊 ミッシングsam 作:紅の1233
目の前の照準機に映るのはかつての友でありライバルであった彼女、こっちを目を見開いて見ている。
「ごめんね...」
私は引き金を引く。
13.2ミリと20ミリ、それぞれの弾薬が真っ直ぐ彼女の機体に向かっていくのがはっきり見えた。
機体の機首、プロペラからエンジン付近に当たる。
たとえ防弾性がよくてもこれだけ至近距離なら意味がない。
エンジンカウルに飛び込んだ弾はエンジンブロックをグチャグチャにして、機能を停止させる。
プロペラが急激に止まる。
その横をアオイは通過する。
風防越しに彼女の顔が見えた、悔しそうなあの顔だ。
自衛隊の頃から、いやそのずっと前から見慣れたあの顔だ。
彼女の機体が傾きながら、黒煙を吹きながら降下し始める。
落下していく機を目で追う、機体は真っ直ぐヌコヌコ沼へ水没した。
突然爆発音が聞こえ、前を向くと“穴”に爆弾を満載にしたハゴロモ丸が突っ込んだ瞬間だった。
黒煙に混じって、ハゴロモ丸の艦長のドードーと副艦長のサネアツが赤トンボに乗って脱出するのが見えた。
穴は周りの煙、ハゴロモ丸の残骸を吸い込んで消滅し始める。
アオイもその穴へ吸い込まれる。
「戻るんだ...あの世界へ...」
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波の音が聞こえる場所、後ろにはイサオの乗っていた震電改もいる。
アオイは空を飛ぶ大型の飛行機を見て愕然とし力が抜け、その場に座り込んでしまった。
「この世界は...私が戻りたかった世界じゃない...!!!」
波の音だけは前いた世界と変わらない音を奏でていた。
だがその音に何が混じる。
雑音が...
うるさい...
世界が崩壊する...━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ジリリリリリリリリリリリリリ
「...」
リリリリリリリリリリリリリリ
「...うるさい」
バシッ
目の前で叫び狂っていた目覚まし時計を止める。
布団から抜け出し手早くたたみ、ベット横に積み重ねる。
横から見ると切ったサンドイッチの断面図のようにきっちりとだ。
「はぁ...」
アオイは見ていた夢には少々うんざりしていた。
ただの夢なら何て事ないがはっきり見えていた、おまけに撃った感覚までしっかり覚えている。
なのに罪悪感もないし小さな虫を殺すよりも軽い気持ちしかない。
だからうんざりしていた。
夢なのか現実なのかはっきりしてくれた方が気が楽になる。
「あぁもういやになる...」
窓の外は陽がすっかり揚がっていた。
今の自分の制服に手を伸ばす。
“石神女子のセーラー服に”
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部屋を出る。
1階と2階が吹き抜けになったバーを改装して作った女子寮。
ミシラ飛行隊専用の寮。
変わらない。
見慣れた光景だ。
1階を見下ろすと調理場でエプロン姿のオルカとミュラが弁当を作っていた。
なんか妙に似合っている。
赤、青、黄、緑、紫、黒、銀、白。八色の弁当箱をテーブルに並べる。
「よしそろそろ出てくる頃だな」
「そうね」
カンカンカンカン
1階の奥の部屋で鐘のような音が鳴る。
ドタドタドタドタ
バァン!
「...」
「皆さん準備はいいですか?!」
「あっスカーフの結び間違えた!」
「レム、学校についたら宿題見せて」
「リュー何で昨日の内にやっておかないのさ」
「化学の教科書入れたっけ?」
「ちょっと待って革靴が上手くはまってないです!」
「今日は立川のほうだっけ?」
機長のヒルファ、副機長のカグマ、モメガ、リュー、レム、ニッパ、ラウ、キプシロンが慌ただしく出てきた。
そして、それぞれ自分の弁当を掴むと風のような勢いで女子寮から出ていった。
しばらくすると、外で大きなエンジン音がしてくる。
アオイは階段をかけ降りてドアの外を見る。
寮の前は滑走路だ。
滑走路から離陸していく四発エンジンの爆撃機。
アメリカのB-17フライングフォートレスに似た陸上攻撃機。
連山だ。
操縦席でカグマがこっちに手を振っている。
『おーい!アオイさーん!』
それどころか、各乗員が持ち場からアオイに向かって手を振ってくれている。
アオイもつい手を振り替えした。
人間の性と言う感じだ。
アオイは手を振り連山を見送った。
滑走路の端に目を移すと見慣れない銀色無地の双発戦闘機と、
「零戦三二型が二機、流星に、彗星。あれはローズね。」
一通り揃っていた。
そして、繋ぎ姿のローズが整備していた。
「それにしても連山とはね」
「ようお見送りご苦労さん、アオイ。」
後ろからオルカは爽やかな笑顔を送ってきた。
「あぁおはようオルカ」
「顔を洗う前にエリとリエを起こして来てくれるか?」
「わかったわ」
アオイは中へ入る。
オルカは手をメガホンにして
「ロォーズ!!もぉーすぐ朝ごはんだぁー!!」
「わかったよぉ~」
滑走路向こうからローズが返事した。
「アオイ、エリとリエを起こしてきてくれるか」
「わかったわ」
アオイは二階へ昇り自室から、一つ飛んで隣の部屋の扉を開ける。
『エリ・リエ』と書かれた看板がドアでカラカラと鳴る。
部屋の中は真っ暗だ。
アオイは窓のカーテンを勢いよく開ける。
エリとリエが寝るベットを向いた時、時が止まったような感覚になった。
綺麗な長い朱色した髪をした美少女が二人。
綺麗な白いシーツのベットにお互い手を取り合って、顔を向き合った状態で。
二人仲良く裸で、う?裸?
アオイは一瞬で顔が暑くなるのを感じた。
「あんた達何で裸なのよ!!?」
『うぇ?』
二人同時に寝ぼけ眼体を起こす。
白いシーツが胸の所を絶妙に隠す位置で止まり、何とも言えないいやらしさを出していた。
「裸ん坊で寝たほうが」
「気持ちが良いもんね」
『ねー』
「ねー、じゃないわ!!」
アオイは洋服かけにあったセーラー服をエリとリエにぶん投げた。
「もうすぐ朝ごはんが出来るから早く準備しなさい!」
『へーい』
エリとリエはのろのろと動き、枕元に置いた下着を取り着替え始めた。
「エリのブラこれだっけ?」
「違うよそれリエのブラだって」
「リエはもう少しおっぱい小さいからこんなにきつくないもん。」
「双子なんだから違う訳ないよ。リエだってDカップだったじゃん。」
てな感じでトロトロやってるもんだからアオイはちょっと苛ついてきた。
「遅い!私がやるわ!」
アオイはもう二人に割って入る。
「ほら!万歳して、後ろ向いて!結んであげるから、そっち手が開いてるなら靴下はく!」
あっという間にセーラー服に着替えさせられたエリとリエ。
アオイはどっと疲れが出た。
「毎朝こんなんじゃ気が滅入るわ、ほら行くわよ」
『はーい』
三人は部屋を出る。
「大体もう高校生になるんだからもう少ししっかりしてよね!」
『はーい』
「なんだか今日のアオイお姉ちゃん」
「ものすごいイライラしてるね」
「なんでだろうね?」
「女の子の日が近いとか?」
「あーもう少しだもんね」
最後の一言でさすがにアオイもキレた。
「何であんた達私の周期を知ってるのよ!!それにまだ先よ!!」
てな感じのやり取りをして三人は一階へ降りる。
寮奥の手洗い場で顔を洗い、戻ると丸テーブルに料理が並べられていた。
味噌汁、納豆、どんぶり飯、鮭、ヒジキ、きんぴらごぼう、たくあんと漬物、以上。
一般的な朝の定食が六人分並べられていた。
ミュラはもう食べ始めていてもう食べ終わりそうだ。
ミシラ飛行隊面々が席に座り。
『いただきます!』
「アオイー、醤油取って」
「はい」
「ありがとー」
「エリ、リエ。食器をあまりカチャカチャ鳴らさない。行儀悪いわよ。」
『はーい』
「いっけね納豆にネギ入れ忘れてた。冷蔵庫に切った奴あったかな?」
「冷蔵庫行くならぁカラシも取ってきてぇ。」
「あいよ」
本当に平均的な朝ごはんの光景だ。
しかし、何か足りない気がする。
「あのさぁ」
アオイが何か聞こうとした時、
「ごちそうさま」
ミュラは早々に席を立つ。
食器を流しに起き、テーブル脇に置いてあったカバンを持ち。
「じゃあ私の方でも色々捜索しておくからね」
「おう頼んだミュラさん!」
「頼むねぇ~」
『いってらっしゃーい』
ミュラは手で降りながら出ていく。
出ていった後、滑走路にはあの銀色無地の双発戦闘機が離陸していくのが見えた。
「ローズ、あの双発戦闘機は」
「あぁあれね、キ108。ちょっと前にぃレストアが終わったぁ奴。」
川崎キ108試作高々度戦闘機。
まゆ型与圧カプセルを設けた高々度戦闘機の試作機だ。
双発戦闘機好きのミュラらしいチョイスだ。
だが、ふとある疑問が起きた。
「キ108って搭乗ハッチを外からボルトで固定するはずだったけど...」
「内側から明け閉め出来るように改造しといたよ!」
さすがローズ、抜かりない。
「ついでにぃエアコンも付けてとか始動用のセルモーターも付けてとか、色々大変だったよぉー。」
「ミュラさんらしいわね、ところでアニラは?」
そうさっきから聞こうと思っていたがアニラの姿がなかった。
皆少し顔が曇り、うつむく。
「?どうしたの?」
「...先に食っちまおうぜ」
「うん」
『そうだね』
アオイは状況が呑み込めていなかった。
皆無口で食べ始める。
食器の後片付けも終わり。
身支度を終え、寮を出る。
滑走路を横断しそれぞれの機体に向かう。
零戦三二型二機、流星、彗星、零戦五二型がイナーシャを回さずにエンジンを始動させる。
「ねぇオルカ!ちょっと!」
流星に乗ろうとするオルカを引き留める。
「何でアニラがいないの!?ちゃんと説明してよ!」
オルカはアオイの肩を両手で勢いよく掴む。
「どうしたのオルカ?そんな怖い顔して...」
オルカの目は憎しみでいっぱいな目だ。
「姉貴はなぁ...ヤタガラスに着いちまったんだよ!」
「ヤタ...ガラス...?」
一瞬アオイの脳内は真っ白になる。
何も考えられない。
エンジン音と風の音だけが妙に響いていた。