ジャイアントトード、2匹目の討伐を終えた俺たちは、ひとまずギルドに戻るために帰路に就く。まだ昼を少し回った程度だし、俺としてはクエストの期限が明日までというのもあり、急ぎたい思いもある。しかし、戦力が実質俺一人なのだ。ここで急いでも、いい結果にはならないだろう。
歩きながら、今後の予定をシャーリーと決めいていく。
「とりあえず、明日はパーティー参加希望者を昼まで待つぞ。それまでに来なかったら、あきらめて2人で行く。そん時は、マジで囮役をやってもらうからな」
女性への要求としては最低レベルだが、シャーリーは特に不満を言わない。
「はい! 了解です、リーダー!」
どちらかというと喜んでいる。
あれだろうな、今まで仮パーティーしか組んだことないから、テンションが上がってんだろうな。先程から、機嫌よさそうに鼻歌まで歌ってる。
正直、こうして楽しそうに笑っている分には、俺としてもうれしい。最初の申し訳なさそうな態度よりも、断然こっちのほうが素敵だ。
だが、今後のためにもいくつか言っておこう。
「おい、そのリーダーって呼ぶのやめろ」
「えっ!? あっ、すみません……。迷惑でしたよね……」
そういってさっきの元気はどこへやら、顔をうつ向かせ始める。
「おい、やめろ。お前、俺が嫌がることをやる天才かよ。そんな落ち込むな。別に嫌だったとかそうゆうわけじゃあない」
「えっと………じゃあ、どうしてダメですか?」
どうやら彼女はわかっていないようだが、そんなの決まってる。
「単純に小っ恥ずかしいんだよ、そうゆうの。あと、別にリーダーをやる気もないしな」
昔からキレると自制が出来ずにいた。直そう直そうと思っているが、未だにこの癖は抜けない。ジョジョ4部の主人公、仗助みたいに強かったら問題ないんだろうが、俺はむしろ弱い部類だ。誰かが上にいて、制御してもらってたほうが、ちょうどいい。
もっとも、シャーリーはそんな風に思っていないようで、
「でも…………私は、ジョウジさんがリーダーになったら、素敵なパーティーになると思いますよ」
そう言って満面の笑みで俺を見る。
………………。
「なあ、お前のそれって天然? それとも狙ってる?」
「へ? えっと……何がですか?」
「あっ、いいやなんとなくわかった」
シャーリーはこちらの質問の意図に気づかず、首をかしげて不思議そうにしている。
この子、あれだ。男だろうと距離を詰めてやさしく接して、そういう態度をとられるもんだから「あれ? ひょっとしてこいつ、俺のこと好きなんじゃね?」と、勘違いさせるタイプだ。実際、俺も中学生ぐらいだったら勘違いしてた自信がある。
(まっ、性格に問題のあるやつよりかはずっとましか)
これが金にがめつかったり、欲望に忠実だったりしたらパーティーは、絶対に組まなかった。そうこうしているうちに、アクセルが見えてくる。
「ひとまず、シャーリーはその汚れを落としに、風呂に行ってこい。その間にカエルの買取は済ませておく」
町を入って早々に、シャーリーと別れる。未だにカエルの粘液は全身についたままだ。この状態で街を歩かせるのは、女の子には酷だろう。俺も何か言われるかもしれないし。下手したら変態扱いだ。
「お気遣いありがとうございます。では、また後程」
シャーリーも特に異論はないようで、速足で去っていく。
(しかし、これからどうしたもんか)
ギルドに向かう途中でいろいろと考えてしまう。
現状、問題は山積みだ。シャーリーのことは、戦闘については問題ない。あの性格なら、活躍の場面は少なくてもお荷物になることはないだろう。
正直、どちらが足を引っ張るかと聞かれたら、現状俺のほうだ。シャーリーが今回カエルに食われたのだって、無理に攻撃をしようとしたからであって、逃げに専念してくれれば、あの足の速さだ。やられることはないだろう。
(そうなってくると、やっぱ俺のレベル上げが急務だよな)
俺が強いスタンドを発現させる、つまり使える奴だという証明ができれば、希望者だって殺到するはずだし、レベル上げも楽になる。
…………さすがに本人の前では言えないが、シャーリーが入ったことで希望者はますます来なくなるだろう。単純に報酬も減るし、一人楽をしているようにも見られるかもしれない。
やはりここは、俺がもっと強くなるしか希望者は来ない。
当初の『レベル上げのためにメンバー追加』から『メンバー追加のためにレベル上げ』と、目的が逆転しているがしょうがない。これも、魔王討伐に向けて必要なことだ。
(しかし、まさかこんなにも苦労することになるとは)
転生してから2週間程度しかたってないが、ここまで想定と現実の差が大きいと、流石に凹む。
本来であれば、こんな思いしないですむ特典を持っているため、なおさらだ。
…………まあ、誰が悪いかとなれば、運の悪い俺なのだが。
こんな強い特典を貰っておいて、未だ進展なし。やはり、女神様も怒っているのだろうか。別に心の底からあの人を信仰している訳ではないが。
ただ、こうやって第2の人生を謳歌するという、本来ありえない体験をしているのは、紛れもなく、あの女神様のおかげなのだ。
あの時、早く済ましてほしいとか言っていたから、仕事でやっていただけなんだろうが、こんな機会をくれたんだ。恩返しはちゃんとしたい。
「とは言っても、今は直接会って、謝罪したい気分だ」
叶わぬと知りながら口に出す。もし会えるとしたら、俺が死んだときだろうか?
一体それは、いつになるのだろうか…………。
この調子なら、案外早く出会ってしまいそうだ………………。
「えぇ……」
いや、確かに直接会いたいとは願ったけども、
「ああああああああああああああああああああーっ!!」
「お、おいっ! ちょっ、やめろ! 離せ!」
目の前で、男につかみかかる女神様を見て、困惑するしかなかった。男のほうはジャージ姿だし、おそらく俺と同じ転生者だ。
だが、なぜ女神様も一緒にいるんだ?
2人は大声で言い合うものだから、会話は自然と聞こえてくる。
「わかった! わかったから離せ! じゃあもういいよ、あとは一人で何とかするから。お前はもう帰っていいぞ」
「ちょっとあんた、何言っちゃてるのよ! 帰りたくても帰れないから困ってるんでしょ! ああ、もうどうしよう……。これからどうしたらいいのよ……」
座り込んで子供のように泣き始めた。どうにも女神様がここにいるのは、本意ではないらしい。もっとも、あの男が何か非道な行いをしたというわけでもなさそうだが。
本来、こんな道の往来で叫んでる人間なんて声をかけたくないが、今回はそういうわけにもいかないだろう。
「あの、すいません。ちょっといいです?」
俺に気づいたジャージ姿の男がこちらを見てくる。女神様は、今も膝を抱えて泣いたままだ。
「ん? えっと……どちら様ですか?」
「すいません、突然。ただその、こっちの女性と話がしたくて」
俺が女神様を指さしてそういうと、男も察したらしい。
「もしかして、あんたも日本人か?」
「はい。女神様、お久しぶりです」
女神様は俺の言葉を聞いて、顔を上げてこちらを見る。こっちをじっくりと見て数秒。
「…………あんた誰?」
「えぇ……」
2週間ほどしかたっていないのにもう忘れられていた。
「あの……俺です俺。あなたに特典でスタンド能力もらって転生した、スズキジョウジです」
女神様は立ち上がり俺のほうをじっと見てくる。…悔しいがやっぱり美人だこの人。
「……? …………あっ、ああいたわねそんな人。ごめんなさい、すっかり忘れてたわ!」
一瞬キョトンとしたが、思い出したらしい。俺を送り出したときは勇者扱いしていたが、あれも適当に言ってただけなのだろうか。
……やっぱこの人、敬う必要無いのかな。
「…………まあ、思い出していただいたようでよかったです。それで、女神様はいったい何でここにいるんですか?」
「そお! それよ! ちょっとあんた聞いてよ! このヒキニートが、どれだけひどいことを私にしたか!」
「おい、やめろ! 初対面の人にわけわからん造語を使って話すな! あっ、えっと、俺が説明するよ」
俺は男から死んでから転生するまでの話を聞いた。
「なるほど、つまりこの人を特典として連れてきたと」
「まあそうだけど、……何だよその目」
しまった。ついじろじろと見てしまった。しかし、別に悪い意味で見てたわけじゃあない。
「いや、素直に感心してるんだよ。その発想は思いつかなかった」
「ちょっと、あんた! なに感心してるのよ! 私無理やり連れてこられたんですけど!」
まあ、女神様の主張ももっともだ。正直、俺がそれやられたらキレまくって何回か殴ってる。しかし、どうにか気を静めてもらえないだろうか。さっきから通行人にちらちら見られてる。
とりあえず、話をそらすのが手っ取り早いだろう。俺のことも忘れてたし、案外この怒りもすぐ忘れるだろ。
「まあまあ、落ち着いてくださいよ。そういえば、ちゃんとした自己紹介をしてなかったな。俺はスズキジョウジだ。おなじ転生者同士、仲良くやってこうぜ」
そう言って男に右手を出して握手を求める。初対面で少し慣れ慣れしいかもと思ったが、男も右手を出す。
「おう、俺はサトウカズマだ。よろしくな。早速で悪いんだが、ギルド的なところに案内してくれないか」
すごいな、俺がこの世界に来たときは、本当にギルドがあるかどうかも不安だったが、カズマはあるのが当たり前という風に聞いてきた。
どうやらこういう世界観については、ある程度理解があるようだ。見たところ不安がってる様子もないし、もしかしたら俺より知識があるかもしれない。
「いいぜ、じゃあついてきてく「ジョウジさーん!」れ、って」
後ろから名前を呼ばれたので振り向くと、シャーリーが小走りでこちらに来ていた。
「よかった……間に合った…」
俺のそばまで来ると、立ち止まり、膝に手をついて息を整え始める。どうやら急いできたようだ。
「シャーリー、そんな急いでこっち来なくてもよかったぞ」
「いえ、せっかくなら一緒にギルドに報告したいじゃないですか! 私たちパーティーの初クエストなんですから!」
「いや、まだクリアしたわけじゃないから。ただの買取だから」
さっきからずっっっとパーティーについて強調してくるなこの子。果たして何回パーティー加入を断られたんだろう……。
「あっ、紹介するよ。この子は俺のパーティーメンバーのシャーリーだ」
「はい、ジョウジさんと
強調するのやめろ。みっともないから。ドヤ顔もするな。別にパーティーを組むことなんて珍しい事でもないんだから。
「で、こっちがさっき出会ったばっかなんだが、俺と同郷のカズマだ」
「よろしくな」
「んでこっちが……………………えっと…」
ここでふと、女神様をなんて紹介すればいいか疑問になる。仮にも女神という存在だ。もしかしたら、この世界ではアクアという名前も伏せたほうがいいのだろうか?
自分で答えを出せそうにないので、女神様とアイコンタクトをとる。
「ちょっと、何よさっきからこっちのことじろじろ見て。この女神アクアに向けてそんな視線を送るだなんて、すごく失礼なんですけど」
うん。だめだこの人、せっかくこっちが気を利かせて女神のこと黙ってやったのに。
「……女神?」
ほら、やっぱり。女神という言葉を聞いて不思議そうにしている。どう誤魔化そうかと考えていると、カズマが女神様に聞こえないように答えてくれた。
「気にしないでやってくれ。自分のことを女神と勘違いしてるかわいそうな子なんだ。たまにこういった事を口走るけど、そっとしてあげてくれ」
その説明を聞いたシャーリーは、ひどく憐れんだ目を女神様に向けた。
シャーリーは女神様…………もうアクアでいいな。呼び間違えたら面倒だし。アクアに近づいてやさしく語り掛ける。
「初めまして、アクアさん。あなたに何があったかは存じませぬが、大丈夫です。ゆっくり治していきましょ」
「ちょっとあんた!? なに患者を見るような目で見てくるのよ! 私、本当に女神なんですけど!」
どうやらアクアの治療に取り掛かったらしい。まあ、本気で女神だと思って騒ぎにでもなれば面倒だしな。あの性格と口調じゃあ、ばれることもないだろう。
「おい、やっぱりすごいな異世界」
二人が話しているのを見てると、カズマが小声で話しかけてきた。なぜ小声なのかわからないが、俺も小声で会話をする。
「なにがだよ? 地毛が金髪の子が当たり前にいることがか?」
「いや、まあそれもそうだけどよ、お前のことだよ」
「は、俺?」
何なんだろう? 別にまだ能力も見せてないし、この世界について教えてやったわけでもない。特に感心されるようなことなんてないはずだが。
「お前、もうハーレムの1人目確保してんじゃん。しかも、あんなかわいい子。やっぱり、異世界ってこうゆうもんなんだよな」
ん?
「いやー俺も楽しみだぜ。これから俺、チートに目覚めたりしてさ。んで、お前みたいに、かわいい女の子たちとパーティー組んで、冒険とかしちゃったりするんだろ。マジ楽しみだぜ!」
そう言って、カズマは嬉しそうにこちらを見てくる。
どうしよう……。こいつ、この世界にめちゃくちゃ期待しちゃってるよ。えぇ……どうしよう、教えてやったほうがいいのかな。何かと世知辛いこの世界について。教えてやったほうがいいんだよな。
…………でも楽しそーだな、こいつ。
……。
「ん? どうしたジョウジ、俺の肩に手、置いて」
「……………………気をしっかり持てよ」
「は?」
どうせすぐわかるんだ。もう少し夢を見させてあげよう……。
まえがきでも書きましたが、皆さん本当にありがとうございます!
感想の方ですが、優しいコメントばかりで、私としても嬉しい限りなのですが批判でもバッチコイです!ぜひこの作品に対して思ったことを自由に書いてください!
投稿ペースも、もう少し早く投稿できるよう頑張っていきますので、今後もどうかよろしくお願いします!