「ほら、この奥のカウンターが冒険者が利用する受付だから、基本、俺たちはここな」
俺は今、シャーリーと一緒にギルドの案内をしている。
アクアのほうは特に目を引かれるものはないのか、黙ってついてきているが、カズマは視線をあちこちに向けて目を輝かせている。
「うおー、すげえ! まさにゲームの世界って感じだな! やべえ、ワクワクしてきた!」
……さっきからこの調子だ。どうやら元の世界では、なかなかのゲーマーだったようでファンタジー世界の道具や人種を見るたびに大喜びしている。俺もこの世界に来たときは興奮したが、ここまでではなかった。カズマはこういった世界の知識があるから、より一層心躍るのだろう。
ちなみに、シャーリーに異世界だのなんだのを聞かれたらまずいのではと思ったが、さっきから温かい目で見るだけで何も言ってこない。
…………どうやらアクアと一緒に、カズマもかわいそうな人認定されたようだ。カズマには悪いが、そっちのほうが都合はいいので黙っていよう。
「ほら、さっさと済ませようぜ」
まだ昼過ぎだが、クエスト2日目、シャーリー加入、カズマとアクアに出会ったりと、もうすでに疲れた。
早く買取を終わらせようと、カウンターの空いてるところに行こうとしたら、カズマはわざわざ列に並んだ。
「おーい、別にどのカウンターでも大丈夫だぞ」
「いや、ここに並ぶべきだ」
カズマに教えてやったのだが、カズマ曰くその列がいいらしい。てっきりどこに行けばいいのかわからず、一番人のいるところに行ったのかと思ったが、どうやらわざと並んだようだ。
「ちょっと、カズマさん。もしかして受付が一番美人だから並んでるの? いくら憧れの異世界に来たからって、その考えはドン引きなんですけど」
アクアのその発言で、受付の人を見るとルナさんが対応していた。ルナさんは、ウェーブのかかった金髪をした巨乳の女性で、受付時にも笑顔で接してくれたり、男性冒険者に非常に人気の人だ。
…………正直、カズマの行動が理解できてしまった。ここまであからさまな行動はしたことないが、俺だって全部の列が空いてたら、美人の人を選んでしまう。
カズマの行動に納得したのだが、カズマが言うにはそういうわけでもないらしい。
「あのな、美人の受付のお姉さんってのは、いろいろなフラグがあったりするんだよ。元凄腕冒険者だったり、めちゃくちゃ身分が高かったり、あっと驚く隠し展開が待ってるって訳だ」
やけに自信満々に言うカズマ。確かにそういった設定はゲームだとありがちだ。ゲームならだが。
カズマのその発言にシャーリーがカズマ達に聞こえないよう小声で聞いてくる。
「あの、本当にそんなことあるんでしょうか?」
「いや、たぶんないと思うぞ。てか、もしそうだとしてもルナさん若すぎんだろ」
別にルナさんの年齢は知らないが。しかし、アクアはどうやら納得したようで、
「……確かに、ゲームとかでもそういった展開があるわね。ごめんね、素直にここに並ぶことにするわ」
……神でもゲームとかするんだな。
アクアを味方につけたカズマの意志は固いようで、その列から動こうとしない。
…………まっ、本人が並びたがっているのだし、別にルナさんも悪い人ではないのだから大丈夫だろう。
「じゃ、こっちは先に済ませちまうから、またあとでな」
とりあえず、カズマに一言言って買取の手続きを済ませる。買取の手続きは残ったモンスターの死体の、大体の位置を伝えるだけなのですぐに終わる。
…………途中でシャーリーが「私たち2人でやりました」とかそんなことを、ドヤ顔で言うもんだから、ちょっと時間使ってしまったが……。
受付の人、若い人なのに孫娘の話を聞くおばあちゃんみたいになってるのが気なる。やめろ、やさしく笑いかけるな。俺は別に保護者でも何でもないんだ。
報告を終えた後、俺たちは近くのテーブル席に座りカズマのほうを見ると、ちょうどこれから説明を受けるところだった。
「カズマさんって、ジョウジさんと同郷って言ってましたけど、出身ってどこなんですか?」
……しまった、シャーリーに聞かれたが何と答えればいいのだろう。正直に言えば日本だが、言っていいのだろうか? 異世界の地名なわけだし、やはりここは黙っていたほうがいいのだろうか?
「えっと……まあ、この辺の人じゃ知らないような辺境の田舎だよ」
意味ないのかもしれないが黙っておいた。後々調べられて、存在しないとわかったら不審に思われるかもしれない。
「へ―、でも最近は魔王軍の活動も活発化してきて、そういった辺境の村は壊滅しているのがほとんどですけど、ジョウジさんの故郷は大丈夫だったんですか?」
…………やっぱ変に隠そうとしないほうがよかったか。
「いや、俺の故郷のほうはたまたま魔王軍に狙われなくてな、なかなか連絡取れてないけどたぶん大丈夫だろ」
とりあえず誤魔化せただろうか? 昔からこういう嘘ついたり誤魔化したりというのは苦手だった。
(やっぱり、俺には頭使ったりっていうのは向いてねえや)
「なあ……ジョウジ…………」
「おお、カズマ。やけに早かったな、って、どうした?」
カズマに声を掛けられこれで話を逸らせれると思い、嬉々として振り向いたのだが、顔をうつ向かせ意気消沈といった様子だった。
「いや…………登録手数料が払えなくてな」
そういえば、俺も最初に払ったな。確かに俺も、そんなものなくても登録できると思ってたから面食らったのを思い出す。
しかし、払えなかったというのはどういことだろう?
「それなら、たぶんズボンのポケットに入ってると思うぞ」
「え!? ………………いや、入ってないぞ」
カズマは必死にポケットをまさぐったが本当にないようだ。どういうことだ? 確かに俺の時にはちゃんと千エリス入っていたのに。
俺とカズマはこの中で唯一、転生事情を知ってるアクアに目を向ける。
「なによ? 一応言っておくけど私のせいじゃないわよ! 転生の時に担当者が変わるなんて初めてだったんだから、不備があったってしょうがないじゃない!」
カズマはその言葉に不満そうな表情を浮かべたが、思うところがあったようで何も言わなかった。暗い表情でうつむいているその姿は非常に不憫だった。
…………こいつも、俺と同じで不運なのかな。
「………………あー、クソ。ほらよ、これでちょうど二人分だ、返さなくていいぞ」
「え?」
カズマの視線の先には、俺が出した二千エリスが置いてある。確か一人千エリスだったからこれで足りるはずだ。
「いやいや、いいのかよ!? 大体俺たち、今日初対面だぜ? こんなことする必要ないだろ」
カズマはどうやら俺の行動が理解できなかったらしい。まあ、俺がされても同じ反応するだろうが。
「うっせえ。お前、あいつ大丈夫だったかな、とか考えて夜寝付けなくなるだろうが。黙って受け取れ」
そもそもさっき会った時、仲良くしようぜとか言ったしな。そんな奴が無一文でスタートすら切れないとか、心配しちゃうだろうが。
「…………ほんとにいいのか?」
「俺は黙って受け取れって言ったぞ」
その言葉でカズマもようやく理解したようで、深く頭を下げる。
「…………本っっっ当にありがとう! 助かった! あと、絶対に返すから!」
「……黙って受け取れって言ったただろうが、この馬鹿」
どうやらカズマは人の話を聞かないらしい。あと、アクアも聞かないらしい。
「ちょっと、何よ! 出してくれるならさっさと出しなさいよ! あんた、なかなか見どころあるわね! いいわ、特別にこの私自ら、私を崇める信者になることを許可し、痛い!」
カズマがアクアの後頭部を叩く。
「やめろ、この馬鹿! これ以上ジョウジに迷惑かけんじゃねえ! ほら、とっとと行くぞ!」
「ちょっと、何すんのよ!? ちょっ、痛い! わかったから、引っ張るのをやめて!」
カズマはアクアの腕をつかんでカウンターの方へ向かっていった。……やっぱり、アクアを女神として敬う必要はないな。てか敬える点が全くない。
結局、俺とシャーリーの二人に戻った。視線を前に戻すと、シャーリーが優しげな視線で俺を見てくる。
「…………何だよその目」
「いえ。ただ今日一日で、ジョウジさんが優しい人というのがわかりました」
そう言ってシャーリーは笑う。
なんだこいつ? 囮で使ってやるとか言ってる奴を、何でそんな風に評価できんだ。
「何だよ急に。言っておくが、俺はやるといったらやる男だからな。そうやって褒めてれば、もしかしたら優しくしてくれるかも、なんてクソみたいな考え持つんじゃねえぞ」
妙なことを考えないよう、くぎを刺す。そもそも優しい人っていう評価も間違ってるが。
「大丈夫ですよ、最初からそんな風には考えていないので。あと、照れると口が悪くなるのも気づきました」
「……クソが」
こいつ、だいぶ遠慮がなくなりやがった。
「というか、本当にジョウジさん達ってどこから来たんですか? 千エリスも持っていないなんて」
「うっ」
カズマのおかげで話をそらせると思ったのだが、結局、疑問が増す結果に終わってしまった。
物価の多少の差はあれど、この世界では一エリス一円換算で千エリスは千円相当ということだ。元の世界基準だが、千円なんて小学生でも持っていたくらいだ。そこそこ成長した男女が持っていないというのは、かなり違和感があるのだろう。
(やべぇ、今度こそどうやって誤魔化そう)
もういっそのこと、本当のこと話してしまおうかと思ったが、
「あのー……パーティーメンバーの募集って……まだやってます?」
後ろから話しかけられた。
振り返ると弓と矢筒を背負った女性が立っていた。黒髪をまとめた長いサイドテールと、赤い瞳が特徴的で、女性としては高身長でおそらく170センチほどだ。身を縮こませて話す様子から、どこか幼い印象を受ける。だが、整った顔とモデルのような体系から、大人の色香を感じる。おそらく、二十歳前後の美女がそこにいた。
女冒険者は美人じゃないとなれないのだろうか? 正直、アクアやシャーリーで美人に慣れていなかったら、この人とまともに話せている自信がない。
……いや、正確には今もつい見惚れてうまく話せない。
幸いにも、シャーリーが彼女の相手をしてくれた。
「はい! まだまだ募集中です! ささ、どうぞこちらにお座りください!」
「へ!? あの……はい、よろしくお願いします……」
シャーリーは女の人にぐっっと距離を詰めて話しかける。あまりの勢いに女の人も引き気味だ。……やはり、こういったところは直していってもらおう。そのうち余計なトラブルを作りそうで怖い。
女の人が席に着いたところで、シャーリーから名乗り始める。
「初めまして! 私、シャーリーと申します! 気軽に呼び捨てで結構ですので! 末永くよろしくお願いします!」
……さっきから圧がすごい。なんというか、この辺もパーティーを組めなかった原因ではと感じてしまう。
「えっと……俺はジョウジって言います。現段階では、一応俺がリーダーってことになってます」
出来れば誰かに代わってほしいが。というか、もしこの女の人が入った場合、リーダーをやってもらうのも考えている。おそらく年上だし、やっぱり経験を積んだ人にやってもらうのが一番だろう。
「えっと…………………………
「おい女、合コン行きたきゃよそ行け」
「えぇ!?」
随分驚いた様子だが、なんでだ? まさか今の名乗り、本気でやったのか? だとしたら随分とコケにされたな。
「ちょ、ちょっとジョウジさん! なんてこと言うんですか!」
シャーリーに責められたがそんなん知るか。俺は間違ってねえ。
「うっせえ! いきなりあだ名、名乗るような頭アッパラパーな奴に使う時間はねえ! だいたい、何だくーたんって! せめて身の丈に合った、あだ名にしろ!」
なんだ、
「ち、違うの! 私、本当にくーたんって言うの!」
この女、まだ言うか。いっそのこと《クヌム神》でビビらせてやろうか。百々目鬼あたりなら、なんとか再現できるしな。
顔に手を当てて《クヌム神》を使おうとしたら、シャーリーから待ったがかかる。
「ジョウジさん! 多分この人
「……紅魔族?」
なんだそれ? シャーリーはそう言うが、俺はこの世界については全く分かっていない。
「すまん、紅魔族ってなんだ?」
「あれ、ご存じないです? 紅魔族っていうのは、生まれつき高い魔法使いとしての適性を持って生まれる人たちです。特徴としては、紅い瞳と変わった感性を持っていて、えっと…………独特な名前をしています。ですが、それも一族特有のものです。決してふざけているわけではありません」
…………日本人と外国人で文化が違うみたいなもんか。まあ、世界が違うといっても、そりゃ文化の違いぐらいあるわな。
……………………つまり俺は自分とちょっと違うというだけで、人の名前を勝手にふざけていると判断して貶したのか……。
「本当に申し訳ありませんでした…………」
「えぇ!? ちょっ、ちょっと!? やめて!」
くーたんさんが土下座をする俺に驚いている。やめるようにも言ってきてるが駄目だ。そんな簡単に許されちゃあいけない。
「本当にすいません……。どうぞ好きなだけ蹴ってください……」
「お願いだからやめて! ね、もういいから! シャーリーさん、何なんですかこの人!」
「あはは……。すみません、ちょっと感情の起伏が激しい人で」
くーたんさんとシャーリーは、もう気兼ねなくコミュニケーションできている。そりゃそうだ。シャーリーはずっと丁寧な態度だったしな。
それに引き換え俺は……。
「お願いします、蹴ってください……。踏んでください……。あなたにそうしてもらわないと、俺はこの先、生きていけません……」
「ちょっと、もういいから! お姉さんもう気にしてないから! さっきから周りから変な目で見られてるから! お願いだから顔を上げて!」
更新が遅れてしまい、本当に申し訳ありあせんでした!
これも全て、評価バー赤色となり作品更新するのに緊張してしまった、作者のクソ雑魚メンタルが悪いのです!本当に申し訳ありませんでした!
別に書くことをやめるわけではありませんので、応援してくれていた方々は、できれば今後も楽しみにしていてください!
どうかこれからも、よろしくお願いします!