サードレマ領主にして大公、ウェザエモン・アマツキの朝は早い。
臥所に正座した姿勢の寝姿から、錆びついた音を立てつつ立ち上がり、亡き恋人の位牌に手を合わせる。悔恨、後悔、懺悔。全てを込めた背中が、数時間止まる。その背を伸ばしたときには、その視線には全てを込めた上でなお──真っ直ぐに前を向いていた。
その後は朝飯前に愛馬騎驎に乗り遠乗り(200km)。途中エインヴルス王国の民をモンスターから守り、母子であった2人を近隣の街まで運んだ。
「たいこーさまありがとうー!」
大きな声で感謝を述べる幼子に、ウェザエモンは騎驎を大きくいななかせて去っていった。
大公城に戻れば、爵位に見合わぬほど質素な朝餉ののち、朝儀が始まる。
錆が浮いたような、しかしあまりにも甘い声が響く。
「──報告せよ」
「はい、まずは今晩の晩餐会について2、3確認をお願いいたします」
さまざまな報告が続く。鋭い質問と、容赦のない、だが慈悲に満ちた指示が飛ぶ。良き治世、その始まりが此処にあった。
「それで、大公閣下、本日は裁判の案件が入っております」
「ふむ」
「街の裁判長も匙を投げた案件です。どうか大公閣下の裁断を、とのことでした」
「法は──、守らねばならぬ。だが法は人を守ってこそである。和を以て尊しと為す。うむ、この卑小なる手にどれほどのことができるかわからぬが、力を尽くそう」
「ご立派です」
なお言っている秘書はアーサー・ペンシルゴン相談役である。
デデーン 全員 OUT
「果てしなく嘘臭え!! ぼみっ!」
お白洲。
城の建築様式に全くそぐわない作法の吟味の場に、二人の女性……否、ひとりの
「御領主、ウェザエモン=アマツキ様の、おなーりー!」
ガチャリガチャリと音を立ててウェザエモンが入場する。
より深く平伏した二人は、
「──面をあげよ」
この声に、身を起こした。
ひとりは偉丈夫。脳筋の星、マッシブダイナマイト。
ひとつは立体映像。2号人類の母、バハムート2番艦ベヒーモス管理者『象牙』。
互いの目には、隠しきれない情熱がたぎっていた。
「訴えを改める。双方、己こそがとある開拓者の母であると主張し争い、サードレマの市街地の1割を灰燼となしたこと。相違ないか」
「はい」
『その認識で間違いありません。ウェザエモン将軍』
決然たる二人の主張に、ウェザエモンは頷く。
「では双方の主張を述べよ。嘘、偽りあらば即刻罰するものとする」
一瞬視線が交錯し、スッとマッシブダイナマイトが顔を伏せて少し下がる。
それだけで察した『象牙』が膝をすすめる。
『では僭越ながら私から──あの子は私がお腹を痛めて産んだ子でございます。2号計画の目的上、一度は手放しましたが、それでもあの子は私の元へ辿り着き、ママと呼んでくれました。バハムートの法、およびこの現生人類の街の法に照らしても私が母であることは100%間違いありません』
ウェザエモンは軽く『象牙』に頷き、次はマッシブダイナマイトに顔を向ける。
「主張、承知した。ではマッシブダイナマイト。その方の主張を述べよ」
「はい──」
白装束……死装束を着た偉丈夫が顔を上げた。
「あの子は私が育てました。あの子はたしかに、夫が年甲斐もなく若返ったかのように
デデーン サンラク オイカッツォ サイガ-0 京極 ルスト モルド OUT
「その顔と声でハッスルとかやめてくれますぅ!? 秋津茜の耳が腐っちゃうんでぇ!!」
秋津茜の耳を手で塞ぎながら叫ぶ。言外にそれ以外のメンバーの耳は腐っていると言っている。わざとである。
「え! 私の耳腐っちゃうんですか!? ど、どうしましょうサイガ-0さん!!」
「お、落ち着いてください。慣用句ですから……!」
微笑ましさすら感じるやりとりはともかく尻が痛い。だがそんな他人の尻の痛みなど己が心を裂かんとする痛みを上回ることはないと、マッシブダイナマイトは訴える。
「それを、産んだだけで、外に放り出して……! 大きくなり立派に育った後に母と名乗り出るなど、恥を知りなさい」
『ですが、生物学的な事実は揺るぎません』
「詩のひとつでもアーカイブに入れているなら、心を解しなさいと申し上げているのです」
『地球のロシア文学だけでも10億ほどアーカイブしております。ドストエフスキーでも暗唱しましょうか?』
「アーカイブを読み上げるだけのものをbotと言うのですよ?」
背景に巨像と龍が見えた。
「──あいわかった。両人の思い、しかとこの耳で聞いた」
「その兜のどこに耳あるんです?」
デデーン モルド OUT
「集音マイクである」
デデーン 全員 OUT
「答えるなや!!! 真面目か!!!」
“死んでも”真面目だったから墓守なんぞ数千年やってるんだった、と思い出して自分の思考に負けた。
デデーン サンラク OUT
「両人の思い、優劣あらず。また、それを断ずる権利は我に無し」
ゆえに、
「子を以て判ずることとする」
「──そこで俺の出番ってことさ、ママたち」
ショタなエタゼロが立っていた。
「エタゼロちゃん!!」
『エターナルゼロ、なぜここに?』
「ママたちが悩んでいる……ならば子が頑張らねば誰が頑張るんだ?」
夫じゃねぇかなぁ。
「うむ。母が子を想うなら、子が母を想うもまた道理なり。ゆえに」
ガッシとマッシブダイナマイトの巨木と見まごうほどの巨腕がエタゼロの右手を握り、
グオオォォと駆動音を立てリヴァイアサンの鼻マニピュレーターがエタゼロの左手に巻き付いた。
「両手にママか。──ここは天国か?」
「白洲である。では両人、子どもへの想い込めて全力で引き合うべし」
エタゼロが
「なるほど、俺の体が真っ二つになる案件だな」
悔いなしと、男は笑った。
なんか無駄にかっこよかったので吹いた。
デデーン 全員 OUT
──本来、この裁きは「2人の母親を名乗る女がいて、時代は江戸八代将軍吉宗公の名奉行・大岡越前守忠相が上記のように子どもの片手ずつ引っ張らせ、子供が痛がると手を放した方を真の母親と認めた」という話だったはずだ。まぁ元ネタは海外にあるとかなんとか、歴史教師が喋っていたような気がする。
だが、しかし。
エターナルゼロは莞爾と笑っていた。笑顔を続行していた。このままではエターナ|ノレゼロになりそうなのに笑顔だった正直怖い。
母親2人に両手を握ってもらって帰る夢を叶えた男だわ。いや母親2人ってなんだよ。
鋼の弾ける音がした。いや、筋肉が躍動する音だった。
「うおおおおおおおおお!!! ママたちの温もりが両手にある限り!! 俺は泣かねぇ、泣かせねぇ!!」
気合いは認めるが物理的限界は如何ともしがたく、刻一刻とHPは減っていく。
その数字が1の数字を刻んだ刹那、ウェザエモンが立ち上がった。
「──その覚悟やよし!! ならばこの剣が応えよう──!!」
手に持った剣を大上段に。
風を断つ刃にて、
悪縁を断つ。
残るは晴天。曇りなき空。
ゆえに──
「天 晴」
大岡ウェザエモン裁きは今日も快刀乱麻を断風す。
「ふたり」の母に1人の子ども。お釈迦様でも解けぬ難問断つは必殺「天晴」!!
デデーン 全員 OUT
「おいエタゼロが2人に増えてるんだけど!? 2人とも自立稼働してるしそれでいいのかマダムズ!!! なに? ドッペルゲンガー? それともスワンプマン!? どっちにしろ怖いんだけど!!」