ずいぶんと大きな馬車だ。「旅狼」メンバー全員が乗ってなお余裕がある。
そう、余裕がある。二人か三人ばかり追加で乗れる程度には。
「……痛かった」
「だ、大丈夫ですかサンラク君?」
「あぁ、うん、大丈夫。痛いのは一瞬だけで腫れとか痛みが残ったりはしないみたい……」
俺を心配するレイ氏。いい人だなぁ廃人だけど。ルストとモルドは、というかモルドは青い顔をしている。
「……大丈夫? モルド」
「だ、大丈夫。笑わなければいい。笑わなければいい。笑わなければいい……」
無理じゃねぇかなぁ生態(笑い袋)的に。秋津茜は……オールウェイズ笑顔だから、頑張って狐面を深くかぶってごまかしてる。さすがに普段の「にこにこ」くらいはサイナも見逃してやっているようだ。ちょっと違うけどあれも生態みたいなもんだろうしな。あれを抑える様になったら世界が滅ぶ。というかノワルリンドが滅ぼしそうで困る。
「はーいこちらにご注目ぅ!」
「おせーぞペンシブフッ」
「なにやってたんだかボブハッ」
デデーン サンラク オイカッツォ OUT
「いや似合ってる! 似合ってるからの笑いであって、ゲッここでもかよ狭いぞンぬあっ!」
「STRで対抗……あ、できない? そっかーあははンヒィッ!」
ペンシルゴンは、バスガイドの格好をしていた。いや似合ってる。似合っているのだがその清楚な姿が俺とカッツォには決定的にツボにくる……! なまじ本性をより深く知っているがゆえに、真逆の格好が俺たちにツッコミという名のリアクションを強要する。
あかん。これは、アカン。
見ないようにしよう……とプルプル震えながら下を向く姿が面白かったのか、
デデーン モルド OUT
「えっ、あっ、ルストおしりを押さないでちょっとヤダこんな調子じゃ僕ひゃんっ!」
野太い声からのかわいらしい悲鳴に、女性陣(ルスト除く)は口元を抑え、俺とカッツォとルストは吹き出し、ペンシルゴンは遠慮なく笑いやがった。
デデーン 全員 OUT
いい声で鳴くじゃねぇかモルドよぅ……。
案内役の登場だけで死屍累々のメンバーたち。しかし笑いの刺客たちはすぐそこまで迫っていた……。
「……死んだ富嶽おじいさまの好きだった、前世紀のバラエティで見たことがある。たいがいこういう移動シーンでは、変なキャラクターが乗り合わせてきてターゲットを笑わそうとするんだ」
龍宮院富嶽がバラエティ好きだったって話だけでモルドしそうな俺。でもこの話題で笑えるのは俺だけなので、道連れがいない以上笑ってやるものかと気合で耐える。ぼくたちはとってもなかよしなので、地獄に行くのも一緒に決まってんだろオラ逝くゾ!
「『年の終わりと始まりを笑顔で迎えてこそ良い年が来る。笑顔なしに明日はなし。なので新春初笑いを見るべし』って言ってたよ」
それ良いこと言ってるようで年始のチャンネル争いに勝ちたかっただけじゃねぇの? と喉元まで出かかったがみんなしんみりしているので黙る。
と、馬車が止まった。
「なんだ? 企画中止か?」
「あー、ごめん。どうしても乗りたいって客がいてさ。ちょっと詰めてくれる?」
来たな。
「ふぅ、すまないね諸君。年の終わりの挨拶回りは、年齢を重ねるほど多くなる。この時ばかりは、面倒なものだ」
乗ってきたのは魔法少女……ライブラリの主催、キョージュだ。
小さな体に裃を付けた姿はミスマッチながら風格を漂させる。
ん? いや待て。キョージュが裃(男の格好)をしているということは……!
「みんな!! 『覚悟』キメろォォ!!」
その言葉に反応できたものは、残念なことに誰もいなかった。
予想はできた。できたのだ。キョージュは妻帯者。ここにいるメンバー全員が知っている。
だが、だけれどもっ。
「あらあらまぁまぁ、皆さんお揃いで。昨年は本当にお世話になりました。ごめんなさいねぇうちの主人が『今日の君を外に晒して歩くなんてできない』なんて言うから」
惚気ながらのっしのっしと入ってきたそれは、
「ぬふぅ」
「ぶほっ」
「ぷピッ」
「わぁ、お綺麗ですね!」
「くひひひひひひ」
「ぬぶっ」
「……!!!」(悶絶している)
デデーン サンラク オイカッツォ サイガ-0 京極 ルスト モルド OUT
卑ッッッ怯だろそれは! プロレスラーも真っ青の筋肉モリモリのマッチョマンが! 正月仕様の着物(留袖というらしい)着て! 唇に紅さして! 簪までつけてるってどうなってんだ! 解説するためにまじまじと見たらまた笑いがこみあげブフォ!
デデーン サンラク モルド OUT
「あらまぁサンラクさん大丈夫?」
唇に指当てて心配そうにすんな女子高生かぷぷっ。
デデーン サンラク モルド OUT
「……落ち着こう。俺は落ち着いた。アイムソークール」
尻の痛みが俺にクールを取り戻させてくれた。
「さっきから連続でくらってるのサンラクとモルドだけだけどね」
「ユーアーフール」
「やんのかこら」
どうもケツコモナしている間は演技が止まるようで、キョージュもマッシヴダイナマイトも笑顔のまま黙っている。正直怖い。
「ところであ・な・た。さっきの言葉、もう一度言ってくださる?」
おや、台本にない展開だったのか、キョージュが挙動不審になったぞ。
具体的には赤くなって咳払いした。
「……ウォッホン! さて諸君、この笑ってはいけないだが、文化人類学的に見れば馬鹿の語源のように笑うことで災いを招いた事例はごまんとある。より有名なのが「王様の耳はロバの耳」などの童話に代表される」
「ねぇあなたってば」
「……代表される「言ってはいけない」たぐいのタブーだ。権力者が主だが世間的には嘲笑の対象であっても笑うことでなんらかの不利益を被ることは現在でも多い。例えば上司や役職持ちの男性にままあるカツラの着用や……」
「あ・な・たってばぁ」
しなを作るな恐怖でしかない。声だけ聞けば老年夫婦の微笑ましい一幕だから尚更タチが悪い。
「やめなさい、皆の前だよ?」
「あなたが相手してくれないのが悪いのですよ? そんな悪い人には……!」
あ、読めたわこれは笑わない自信あるわ俺。
マッシヴダイナマイトの大きな両手がレモンを抱えるようにキョージュの顔を掴む。むにっと柔らかく歪んだキョージュの顔が、恐怖に歪んだ。
そうそうそのままぶちゅっと行くんだろテンプレテンプレ。
俺の予想通りマッシヴダイナマイトの分厚い唇が勢いよくキョージュに押し付けられ、おやスキルエフェクト。
キョージュの頭がポリゴンとなって砕け散った。
「死んだーーーーーーーーーーーーー!!!!」
デデーン 全員 OUT
「いや無理だろキスで人を殺すってどんだけウォッチャ!」
「頭突きのスキル使用してとか殺意マシマシじゃないかワッチュア!」
「あれが、愛……! 痛っ」
「愛、すごいですね! きゃんっ」
「いや、あれはちょっと違うっきゃあ!」
「……!」
「ル、ルスト大丈夫? ほにゃあ!」
全員がケツを叩かれたのを確認した後、マッシヴダイナマイトがぐったりした自分の旦那(首無し)を抱えて嘆く。
「ああ、貴方! 誰がこんな酷いことを!」
全員が、お前だよというツッコミを我慢している気配がした。
「神様、神様ー!」
巨漢の嘆きに、天は答えた。
「はい。神ではありませんが、聖女はいますよ。出張聖女サービスの聖女です」
唐突に現れた聖女は、良かったいつもの服装だ。これでジョゼット監修のエロ服着てたらシャンフロのレーティングが上がっちまう。
「あらあらこれは大変。お返事できますか?」
頭ないのに返事できるわけないだろ。
「そうですか……わかりました」
そういえば瀕死で喋れないノワルリンドと心で会話してたわ聖女ちゃん。流してたけど聖女ちゃん起用するとかすごいなこの企画。
「聖女様、私の夫を生き返らせてください! あとついでに若返らせてください!」
「わかりました」
強キャラ感ぱねぇっす聖女様。って、なんかいま不穏な願いが……。
聖女ちゃんの手から伸びた、蔓草のような光がキョージュを包む。その光が収束した後には、生き返ったキョージュがマッシヴダイナマイトを抱き抱えている光景があった。
デデーン 全員 OUT
「え、何これ」
「諸君!」
あ、心なしか声が若返ってる。
「妻が迷惑をかけたね! では私たちはこれで! さぁ帰ろう! 愛の巣へ」
「あぁ、貴方、ステキ!」
ちんちくりんの幼女が、髭面のおっさんを抱き抱えて走り去っていった。
いつの間にか消えていた聖女ちゃんがいたところには、一台のベビーカー。
「……」
今まで目立ってなかったペンシルゴンが、おもむろにそのベビーカーの赤ん坊を抱き上げた。おや随分と将来筋骨隆々のマッチョマンになりそうな赤ちゃんですね。
イケメンの赤ん坊は、バチーンとウィンクして、
「で、俺が生まれたってわけ」
デデーン 全員 OUT
エタゼロてめぇ!!