移動中の刺客を、尻を犠牲にしながら切り抜けた「旅狼」一行。しかし刺客はまだまだ存在している。その中には彼らと因縁深い連中もいた。
「レイ氏ぃ、生きてる……?」
「な、なんとか。ふふっ」
デデーン サイガ-0 OUT
「あっ」
「あっ、きゃっ痛っ」
……ダメだ。玲さんが壊れた。
移動馬車が終わり城門へ入ろうとしたときに見た寸劇がサイガ-0の腹筋を破壊してしまった。
そこにいたのは彼女の実姉にして廃人思考の汚染個体・サイガ-100だった。
周回での不手際を糾弾するサイガ-100に、糾弾されていたのは草餅と……名前何だっけ、リブステーキ? 小さな理由で集中できない草餅は甘やかしつつ、リブロースが「弟が手術で……」と深刻そうに言うと全力でぶんなぐっていた。いやそこでは俺は笑わなかった。あまりに迫真の演技過ぎて笑えなかった。俺とオイカッツォは互いに尻をつねりあって耐えた。京極だけ大爆笑してたなんて外道だ。
だが、問題はそのあと。さんざんリベリコ豚を殴って満足したサイガ-100がかっこいいこと言って去ろうとしたら、彼女は三歩目で落とし穴に落ちていった。ズボォ! といい音がした。その時からレイ氏はすでに5回お尻を叩かれている。
なんでも姉の落ちていく姿が面白すぎたとか。デデーン あ、また。
いやあ確かに見事な仁王立ちのままの落下だった。ついでに助けに行こうとした草餅と、ざまぁみろ的なことを言って逃げようとしたリンボーダンスも別の落とし穴に落ちていったが。
「さて、諸君! まずは受付をしようか。そしたらちょっと休憩だよ」
おぉ、終わりではなくとも休憩が見えてくれば心も休まるというものだ。
「レイ氏、もうちょっとだから頑張ろう? ほら立って」
「ふひゅてててててて──ふ、醜態をさらしました。ですがもう私に笑顔は戻らないと思って構いません」
「え、なにそのキャラ」
想定お前だよほうれん草。それはそれとして、レイ氏を立ち上がらせながらちょっとつぶやく。
「それはもったいないよ? 玲さん笑顔綺麗なんだから(無自覚)」
「ぼひゅーーーーーーーーーーーーーーーーーーーほあわちゃひべらほわははは!!!!」
デデーン サイガ-0 OUT
え? え? なんかレイ氏アバターがありえないぐらいがっくがっく揺れてるんだけど!?
とりあえずしばかれて落ち着いたレイ氏を伴い、俺たちはサードレマ大公の城へ入る。
「よ、ようこそさーどれまたいこうかっかのおしろへ!」
ん? この舌っ足らずな声は……。
「んぇ!? なんであんたが!?」
「こっちのセリフなんだが。……なんでここにいるんだよ、ウィンプ」
そこにユニークモンスター『無尽のゴルドゥニーネ』の八番目、通称ウィンプがプレイヤーの女と並んで受付嬢の格好をして立っていた。
「……新大陸から連れてきたのか。ご苦労な」
「まったくよ! いきなりこんなところで『うけつけしろ』って!」
──ん? 何か今違和感がよぎったが、今途中経過の部分が抜けてなかったか? ワープでもしたのか? まぁいいや。運営が手を貸してたらそういう横紙破りもあるだろう。
「で、隣のプレイヤーさんを相方に受付か。災難だったな、えーと」
なんか見たことがあ……世界が違う、お前はどっちかっていうとweb版サンラク、この子の顔は見ていないし存在も知らない……ユニバースが違げぇんだよという言葉を思い返しなさい。──無いな。はて、今俺は何を見たのだろうか。仏?
「あ、いや、その、いえ。名乗るほどのものではっ」
わたわたとプレイヤーネームを隠そうと反復横とびをするプレイヤー……アリノ、までしか読めなかったが、まぁこんなアホ企画で名前が売れてもかわいそうだなとそれ以上の注目をやめる。……なーんかこの「別天津の隕鉄鏡」、俺の視線というか注目度に合わせている気がする。俺が見たものを放送しているというかなんというか。まぁ俺以上に注目すべき存在が出たらそちらを見るんだろうが。
「で、えーっと受付嬢ウィンプ。お前の仕事は?」
「それはもちろんうけつけとしてきびしいしれんをあたえるの! はや、はやくち……なんだっけ?」
「──早口言葉対決、ね(こそこそ)」
「そっ、そう! はやくちことばたいけつ、よ!」
おおなんだか息の合ったいいコンビだ。脅かしたら一発で逃走を始めるヘタレさのようなものを双方から感じる。
しかし早口言葉、ね。
「レイ氏、『隣の客はよく柿食う客だ』3回お願い」
「ひゅいっ……。いきます『隣の客はよく柿食う客だ隣の客はよく柿食う客だ隣の客はよく柿食う客だ』」
さすがレイ氏。早口言葉マスターだね。サムズアップしてほめたたえた後、ウィンプに向き直って、
「はいウィンプ」
「え、え? 『と、となりのきゃくはよきゅかきくうきゃくだとなりのかきはよくきゃくくうきゃくだとにゃりのきゃくうきゃくうきゃくう』?」
はい判定。
デデーン ウィンプ OUT
「え、え、え?」
ガタン! と受付の机を跳ね飛ばして黒づくめのプレイヤーが現れた。
「ごめんね、ウィンプたそ。これでも私達、精一杯やるから……!」
「ああ、涙こらえて、アタシ達は断腸の思いで君のお尻を叩くっ!」
さっきからウチの女子メンバー(カッツォ含む)のケツを叩いていたお姉さんたちだ。着せ替え隊には信じがたいことに女性プレイヤーも存在している。ゅぅゃっていたなぁ鯖癌に。ウィンプの手を優しく握っていたくなーいいたくなーいと言いながら拘束する姿はまごうことなく幼児に予防接種するときの看護師さん。
「せいっ!」
「にぎゃーーーーーーー!!!! かきってなによーーーー!!!」
「植物だよ。でも客を食う牡蠣は遠洋漁業で手に入る。いつか、行こうな……」
かわいい子でもコモナの実をフルスイングするその姿勢、プロ意識を感じます。
ところでこれ受付って言えるの?
受付の刺客を難なく乗り越えた英傑たち。
しかし刺客は話の通じる者ばかりとは限らない。
物言わぬ者たちこそ、刺し穿つ刃となりうる。
「さ、ここが待機場所ね。隣室にはリスポーン用のベッドもあるから寝ておくこと。全員揃うか一時間したら休憩終わるからねー」
はーい、と皆で仲良く返事をすると、ペンシルゴンは満足げに出ていった。
俺は三十分ばかりセーブポイント更新からのログアウトと休憩を行い、戻ってきていた。
部屋を見回してみる。
大きくて鈍色に輝くオフィスデスクもどきが七つ、部屋の中央におかれており、それ以外には壁に『マナーを守って楽しくシャンフロ』だとか、『大公主演・愛と刹那の
「いやしかし、なんでまたこんな企画に協力してんだユートピア社……」
理解しがたい。
理解しがたいが、まぁ楽しくはある。お祭りのようなものだ。普段とは違う姿を見て、それを笑うのも笑顔には違いない。 文化と言っても過言ではないだろう。
ケツを叩かれあひんあひん言ってるカッツォや京極を思い出しふと笑ってしまった。
「くくっ、あっ、しまっ! ……おや?」
あの恐怖のBGMが鳴らない。そうか休憩中だもんな今は。と納得し大笑いしてみる。
「あっはっはっはっは!」
……。鳴らない。いや本当にユルいなこの企画。次休憩があったら誰かに教えてやろう。
ちょっと満腹度がやばいかな、と思い冷蔵庫を開ける。こんな企画で自分のマーニを使うとか逃げ出すぞまったく、と思わせないよう準備は万端にしているであろうペンシルゴンを信頼してのことだ。
がちゃり、と魔法式らしい冷蔵庫を開け、食い物と飲み物を取り出し、
「……」
扉を閉めて食べ、飲み干し、
「……」
空いた器をきちんと洗って棚に戻して、
「……なにやってんだおまえ?」
改めて扉を開いて、冷蔵庫の中でよく冷えていた
ニ十分後。
「戻りました!」
「あれ? サンラクが一番乗り? ……何か仕込んでないよね?」
「んな暇も無ぇよ」
慌てて椅子に座ってさも「ずっと座ってました」体を装う俺。残念ながら発言は真実で、部屋を捜索することすらできなかった。いやなんだったんだ。なんかこんな企画に利用されてかわいそうだったから慌てて街の外まで走って行って逃がしてやったけど。大冒険だった。街の外まで行ってみたら何故か親御さんたちがいて幼体は無事引き取られていった……。ついでに殺してもらったのですぐ戻ってくることができたのだ。
その間、ずっと「別天津の隕鉄鏡」はついてきていたけど何か警告されることはなかった。──これも企画の一部なのか? 詮索されるのも面倒なので話題を変える。
机とは物を収納する場所である。それと同時に、公共の場における自分だけのスペースだ。ならばそこにあるのは、自分だけの笑いの胤。
「まぁ、こんな事務所じみた場所にネタを仕込むとしたら……」
「そうだよサンラク。机ネタだ」
もう古代テレビ事情解説役と化している京極が説明してくれた。机の引き出しに手をかけながら、自信満々に言う。
「みんな机にウェルカムボードがあって座る席指定されてるよね? こういう休憩場所の机には何か当人にちなんだネタが中に仕込まれ」
ガラっ。
空っ。
「「「「……ぷひっ」」」」
デデーン サンラク オイカッツォ 京極 モルド OUT
「無いじゃねぇか京ティメットてめぇうあっち」
「いや違っ、僕のやつにネタが入ってなかっただけあうっ」
気を取り直して、
「……誰から行く?」
「時々ルストは場をギスギスさせるよね」
「すいませんウチのルストが……」
「じゃあ私行きます!」
「秋津茜さん、ステイ。君はなんかこう、オチがいいと思う。さあ、レッツゴーサンラーク!」
「なんで英語だよ……まぁいいけど」
即死トラップとかではないだろと高をくくってがらりと開けてみると、そこには一枚の……、
「なんだこれ。映像ディスク?」
親戚のじいちゃんが大量に集めていたから見たことがある。たしかこれ一枚で128ギガバイト
「こっちに再生デッキありましたよ。教科書でしか見たことなかったですけど」
「……テレビもある」
「不思議に至れり尽くせりだね。冷蔵庫に飲み物や食べ物も入ってた」
モルドの何気ない言葉にぎくりと背筋が凍るが、これで表情の変化を見せたら負けだ。努めて冷静に、初めて知ったかのように、
「──おお、そうなのか。知らなかった」
「ペンシルゴンらしい手回しだねぇ。ここで俺たちが自分のリソース使うと『こんなめんどいことさせて手弁当かよ』って思って逃げちゃうかもしれないから、色々用意してくれてるんだよ」
へぇ、と感心する俺とカッツォ以外のメンバー。よし、ばれてない。
「まぁなんにしても見てみないと他のも見れないよ? ちょっと貸して入れてくるから」
そういうことで、謎のDVD観賞会が開かれた。
SunLuck Channel
おや動悸が。
オル検証
息切れもしてきた。
『冥響、張り合うに遜色なし! こちとら星に響く華の歌! さぁオルケストラ、紅白歌合戦しようぜ!!!』
帰らせて。
────。
恥辱、あまりに恥辱ッッ!!
「いやぁ、見ながらご本人に向けてコメントできるとか、良い時代になったものだねぇ」
カッツォが尻を叩かれた後も笑う。ごめんなさいねぇ着せ替え隊のお姉さんたち。反復横とび並みの勢いで出ては戻って出てきている。
「ぐぐぐぐぐ、ころへぇ……!」
「いやあのそのっ、か、かっこ、や、やっぱり凄かったですよ?」
「うぅ、ありがとうレイ氏。それはそれとして編集した奴見てるかー? 水晶巣崖連れて行ってあげるからその後映像データ下さい」
「逆では?」
他メンバーは感心したように映像に見入っていた。いやほんともう勘弁してください……。
「じゃあここからは指名制でいいな。次カッツォ!」
「げ、俺かぁ……っていってもサンラクみたいなアホなゲームライフしてないからね」
「さっすがぁ、ユニーク自発できないマン様は堅実でつまらないゲームライフを送っていらっしゃる」
「ハハッ、
デデーン オイカッツォ OUT
全裸じゃねーよ半裸だぞ、と言い返しつつ尻叩かれて戻って来たカッツォの手元を見る。願わくば机の引き出しからボクシングのグローブが出てアイツのあごをカチあげてほしいところだが……。
ガラッ
「なにこれボード? 『タイキック』?」
デデーン オイカッツォ タイキック
「は? え? 笑ってないよ? しかもOUTじゃなくて?」
プァ~ラピャ~ポゥワ~
カッツォが机に収められていたボードを取り出し、書かれた文字を読み上げた瞬間、天井から東南アジア系の民俗音楽っぽいものが流れ始める。うーんなんかこうリングに上がる前の盛り上げ曲みたいな?
音楽と同時にガラッと勢いよく扉が開いた。俺たち全員の視線が其方へ向く。そこから出てきたのは、
「ハァイケッツォ~!」
「げっ、シル……アージェンアウル……!」
太ももを大きく上げるウォーミングアップをキメてる蹴り技の神だった。いや違った。全米一位だった。
真っ暗な背景の元。
パイプ椅子にふてぶてしそうな態度で座った、豊満なバストを誇るアバター、アージェンアウル。
字幕が躍る。
──初のムエタイだが、自信のほどは?
「私は勝つための努力を惜しまないわ。ムエタイも、VR教材でだけどもちろんマスターしてる。抜かりはないわ」
──今回運営が予想する最初の犠牲者はあなたのフレンドであるオイカッツォだが、蹴ることにためらいは?
「け、ケッツォのお尻を蹴ればいいのよね? 何度だってやって来たわそんなこと(ゲームで)。それと彼には個人的にちょっとお仕置きが必要だし、本気でやるわよ」
──最後に一言
「……時が来た、それだけよ。(以下小声)──なんでメイド服特集に私じゃなくて他の女を呼んだのかしら、懲らしめなきゃ、ね」
なんだ今の強制ジャック放送。
リアルでギスってるのオンラインに持ち込むんじゃないよ馬鹿。と言いたくて顔をカッツォに向けたが、カッツォの顔は完全に青ざめていた。あかんこれログアウト寸前だわ。生きろカッツォ、死ぬために。
「落ち着けカッツォ。何も死ぬわけじゃない」
「死ぬほど痛いに決まってんだろぉ! あれだぞ、タイキックって鞭みたいにしなったキックで衝撃全部打撃点に行くからめちゃくちゃ痛いんだからな!」
「タイキックが左側ですねわかります」
カッツォの肩が掴まれる。それはもうガシッと。
「ケーッツォォ……、さ、罰ゲームは甘んじて受けるが
「俺はプロゲーマーだ! コメディアンなんてサンラクにやらせりゃいいだろ! あーーーー、放送するならここピー音入れてくださいねお願いですよスタッフさん!」
立ち上がって両手を×印に交差させて慌てるカッツォがずるずると広いスペースに引きずり出される。ああ、部屋の大きさの割にこじんまりとしていると思ったらそういう……ま、それはそれとして誰がコメディアンだコラ。
「アージェンアウルちゃんさんちょっと待って。──モルド、たっぷりバフかけて差し上げろ」
藍色の聖杯でLUCをSTRに変換、がっしりとカッツォの腕を捕らえる。目を閉じて精神統一するアージェンアウルの姿はまさに必殺技を放つヒーロー。カッツォにとってはさしずめ死刑執行人かな?
「愛と怒りと悲しみの──」
全身をしならせ、物理法則はあらゆる力をその足先に籠め、
「──タイキック!!」
ケッツォのケツでさく裂した。
「──!!!」
すげぇ、悶絶してその場で
この矛先が自分じゃなくてよかったと心から思う。そしてカッツォ~、生きてるか~?
「……すごく痛い。しばらくこのままでいさせてください」
「おぉ、キャラが変わるくらい苦しんでる」
デデーン サンラク サイガ-0 秋津茜 京極 ルスト モルド OUT
いやぁ、もっとひどいものを見ると今のケツを叩かれる現状すら楽しいと思えてしまうね。いけないいけないその思考は堕落の第一歩だ。だから尻を叩かれたあと俺は言う。
「おのれカッツォ、体勢マグロのくせに」
デデーン モルド OUT
「……サンラク、モルドが死んじゃうからやめて」
なお全米一位はすごく満足げな顔をして帰っていった。
さて次。痛みが残らない仕様で助かったオイカッツォは、レイ氏を指名。まぁ京極のネタがまだ残っていたら京極を指名していたんだろうけどな。
「……行きます」
意を決し、ガラッと開いて──目にもとまらぬ速さで閉じた!!
「だ、誰ですかこんにゃ、こんにゃのひれたの!?」
視聴者にだけ見える『提供者は私です』と書かれたボードを持っている、目線を隠された日本人形のような女性。
いや見えなかった。このサンラクが
「……ふ、ふふふふ、全く問題ありません。見せるのではなく開くことが条件、ならば一切問題ありません。ね? みなさん」
またバグり始めたレイ氏は、有無を言わせぬ断定口調で言い切った。まぁ企画側のミスだな。人が本気で嫌がることをしてはいけません。──ペンシルゴンにしてはずさんな気がするが……。
「やぁやぁ諸君! 特に0ちゃんには申し訳ない! 0ちゃんの机の中私のチェックすり抜けちゃってさー」
慌てた風にペンシルゴンが入って来る。嘘か真かはわからないが、レイ氏はもう開かなくていいということを伝えに来たようだ。うん、まぁ空気読んでない京極が鯉口切ろうとしてたからな。お前この状況でレイ氏と争ったらあれだぞ、えーと、たぶんお前が死ぬ。二重の意味で。
「いやー申し訳ない! で、お詫びと言ってはなんだけど0ちゃんこれあげる」
「──これは、ありがとうごじあいます! 家宝にします!!」
なんだなんだと首を突っ込もうとした俺の鼻先に槍が付きつけられる。
「女の子の秘密に首を突っ込むのは野暮ってものだよサンラククン」
「──あい」
くそ、また見えなかった。また肌色多かったが、なんだったんだ?
視聴者にだけ公開。
〔狂信者より提供いただいた水着・陽務楽郎(小5)。後ろでは父親が釣り、母親が岩の下の虫漁り、妹が海の家で水着の物色をしている中、一人黙々とゲームで見た城を砂で再現しようとしている。誰かが手伝ったのか死ぬほどクオリティが高い〕
親戚(砂アートが趣味)が撮影。
「で、では次は……すいません、ルストさんで」
「……ん、はいどーん」
机に手をかけガッと、気負うでもなくさらっと開ける。こいつの思い切りの良さはほんとすごいな。さっきからちょこちょこ笑ってはいるがそれも口角がちょびっと上がっただけだ。サイナ判定実は結構厳しいな。平均というより公平を目指している気がする。
いったい何をすればこいつが『笑った』といえるような顔にできるのだろ、
「うわぁ」
ルストが笑み崩れた!!
以前ネフホロ2発表になってもここまでの顔はしなかったぞほっぺたドゥルッドゥルのエビス顔じゃねぇか!
そしてその顔に俺たちもやられてしまった。
デデーン 全員 OUT
「わた、私は……ぬふぅ幸せぇ」
「な、なにがあったのさルスト! そんな顔僕も見たことないよ!?」
長い付き合いのモルドで見たことないって相当だな。いったい何を見たんだルスト。空いたままの机の引き出しをみんなで覘く。
「あー、これは……」
重厚なロボットのバストアップ……胸から上が映ったCGイラスト、銃を構えたロボットのイラスト、剣を構え対峙するロボットたち、そしてタイトル部分にはまだ手書きの荒々しさが残る、『Nephilim Hollow2』の文字。
なるほど、
「ネフホロ2のパッケージ案イラストか……いいのかこんなところで公開して」
「ブラックドール社とイラストレーターさんには許可取ってあるよー。そんでルストちゃん」
「……私は選べない、このイラスト全部ほしい」
「あげるけどさ(この時点でルスト倒れる)。ちなみにそのイラスト案は全部コンペ負けの物だから、『期待しててください』ってさ(この時点でルスト泣き始める)。モルド君、泣きやませといて」
「は、はいっ。よかったねぇルスト、よかったねぇ」
背中をさすってやりながらモルドが喜びを分かち合う。
感動的だな。
「あ、ごめん、僕の机のやつサンラク開けてもらえる?」
「おう、でもこれで変なのきても俺を怨むなよ?」
「あはは、この喜びようの前じゃ誰も怒らないよ」
デデーン モルド OUT
風情がねぇなサイナ。でもケツ叩かれても本当に怒ってないモルドは立派だと思った。
……ところで彼の腕の中のルストが『やべぇ』って顔してるのが気になるんですがね?
机の中身は、また謎のDVDだった。再生再生。
お、ルストが出てきた。俺でもわかるくらいおめかししてるな。
『……撮れてる?
……今回はこんな機会を用意していただき、ありがとうございます』
いつになく丁寧な挨拶。そこから始まったのは、二人の軌跡だった。
『モルド、私達いつもいっしょだったね。楽しいことも、悲しいことも、全部一緒に過ごしてきた』
あれ、これ結婚式とかで見るものじゃないの? 俺たちが見ていいの? レイ氏とか女性陣のきなみ興味津々なんだけど。ルスト顔真っ赤なんだけど。モルドも真っ赤だよ。青春だよアオハルだよ。自分の青春の無さが恥ずかしくなってきた。カッツォも? 一緒に隅っこにいようぜ。肩身狭い俺たちはその小さな肩を寄せ合って鳴いた。あったかいね。
『……小学生の時、上級生に絡まれたときのこと、覚えてる? モルドは勇気を振り絞って、私を上級生からかばって、じっと耐えていた。その姿を、私は忘れたことなんてない』
背伸びをしていた幼少期、肩車してくれた思い出。
ともに歩んだ。ともに笑った。ともに泣いた。
たくさんの思い出が、二人をここまで歩ませた。
『私はあなたの隣にいて、あなたは私の隣にいた。緋翼連理も、あなたがいたからどこまでも飛べたの。私が翼だと言うのなら、あなたは風だった』
映像はクライマックスに至り、これからもずっと一緒にいたい事、その感謝を伝えて映像が締めくくられる。
もはやモルドは滂沱のごとく涙を流している。
彼の脳裏には楽しかった思い出がぐるぐると渦巻いていることだろう。
走馬灯のように。
『これまでありがとう。これからもよろしくね……御清聴、ありがとうございました。モルド……これからも、タイキックね』
デデーン モルド タイキック
「」
うわすげぇモルドの表情が死んでる。完全に死んだ表情で涙流してる。
プァ~ラピャ~ポゥワ~と死神行進曲が鳴ってアージェンアウルが入ってきても動こうともしない。
「……」
んしょんしょとさりげなく、いや確実にモルドの腕の中から逃れようとしているルストを、モルドは逆に抱きしめた。STRで負けてるはずなのに逃げられないのは執念のためか。
「ルスト……うそだよね? ぼくをうらぎったの? きみがぼくをうらぎったの?」
初めて裏切られたかのような顔してるけどあれだぞ、割とよく切り捨てられてるぞお前。まぁモルドも分かってやってる感じがするけど。
「モルド……」
諦めたのか、ルストは花が咲くようににっこりと笑って、
「初めから敵対しているんだから、裏切りじゃない」
ごめんその裏切りムーヴ笑うわ。
デデーン サンラク オイカッツォ サイガ-0 秋津茜 京極 ルスト OUT
おれたちはなかよくケツを叩かれ、モルドはひとりアージェンアウルのタイキックを食らった。
ルストが誠心誠意謝ったら許した。ほんとモルド様はできた男やでぇ……。
「じゃあトリは私ですね!」
「鳥頭は俺だがな!」
デデーン オイカッツォ サイガ-0 京極 モルド OUT
「細かいギャグで人をおとしめるんじゃないよ」
「協力! 仲良くしましょ! ね!」
秋津茜先生が言うなら矛を収めてやる。ペッ、助かったな京極。俺が本気を出せばお前の腹筋は八つ裂きになる……!
「じゃーあけますよー……なんでしょう、これ?」
ガラッと開けた机には、ひとつのスイッチ。レストランなんかで店員さんを呼び出すときの奴みたいだな。何の変哲もないかと思えば、上にはでかでかと『絶対に押すな』の一文が。皆に見える位置に置いて、観察する。
「なんだこりゃ。おい京極、これは?」
「スイッチだね。基本的に押したら何か起こる」
ゲーム的な説明を求めてるんじゃない過去どんなことが起こったのか知りたいんだよ。
「えーと、押した奴がアウトになったり、誰が押しても他の誰かがアウトになったり……まちまちで何とも言えないんだよ」
なるほど。
──ここで俺だけが気付いた。
スイッチの側面。俺にしか見えない位置に貼ってある小さなシールに『オイカッツォ』の文字。
ほほーん? レイ氏のこともあったし、スタッフのミスかな?
「秋津茜。押せ」
「ええ!? それもしかしたら私がおしり叩かれるってことですよね!?」
そうじゃないかもしれない。考えてもみろ。確率は2分の1だ。お前が叩かれるか、他の誰かが叩かれるか。だがここに第三の選択肢がある。それはお前が選ぼうとしている『押さない』という選択肢だ。それは確かに甘美な選択肢だろう。お前は傷つかず、誰も傷つかない。良い選択肢だ。感動的だな。だが先ほどのモルドのDVD並みに無意味だ。進まない、進まないんだ秋津茜。それではゲームが進まない。ゲームでよくあるが『どう考えても地雷行為』を、強制させられる、もしくは強制させられていると感じたならそれはダメなゲームだ。脚本家は足を洗った方がいい。俺たちは選べる。地雷原だと分かっても突っ込むことも、安全な道も選ぶことができる。そしてこれはゲームだ。ゲームなら、現実でやれないこともできる。恨みを買うこともあるだろう、だがそれはゲームのルールの中でやる事ならば、覚悟さえあれば乗り越えられる。それとも、終わらせるのが惜しいのか? その気持ちは俺もよくわかる。ラスボス手前でセーブした後なぜか手が伸びなくなる現象、俺も経験がある。ゲームの楽しみ方は人それぞれと主張する俺もあれはいただけない。ゲームはクリアしてもらうために作ったものだ。手を止めるのは侮辱だ。作った人への感謝という意味では料理も同じだ。いただきますとごちそうさま、二つがセットだからこそ食事は尊い。ゲームもさ、せっかく購入してソフトを入れて名前を入力する『いただきます』を言ったんだ、じゃあ最後にエンドロールを、『ごちそうさま』と言いながら眺めてやらないとな。だから押せ。押すんだ秋津茜。
「サンラクお前ゲームの話題になると早口になるのな」
茶化すなカッツォ。俺はクソゲーで見たようななんかいいセリフを言い募る。
「だからいいんだ秋津茜。他の誰が怨もうと、俺はお前を怨んだりしない」
「サンラクさん……はいっ、秋津茜、押します!」
カチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッカチッ
いやそんな勢い付けて連打せんでも……。
デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック デデーン サンラク タイキック……
(秋津茜お前ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!)
口に出さなかった俺を誰か誉めてほしい。
扉が開く。
プァ~ラピャ~ポゥワ~
死神の入場曲が聞こえる。
スイッチの側面にある『オイカッツォ』の文字シールがはがれ、その下から『サンラク』の文字が現れた。