私も思いました。
というわけで初投稿です。
◇
モルドが目を覚ますと、そこはリスポーン地点に更新された待機場所のベッドだった。
「うわぁ、怖かったぁ」
裁判即切腹、いかにゲームとは言え首を切られた感覚に、モルドは背筋を寒くする。
「ううっ、戻るの怖いなぁ」
だが戻らなければそれ以上の辱めが待っている。それも自分を生まれた時から知っている相手も含んだ状態で。それがわかっているのでモルドはそそくさと立ち上がり、会場へと向かっていった。
──その背後で、「ガコン」という何かギミックが動いたような音がしたが、モルドは気が付かなかった。
会場に戻る。
その最中でも単独になったモルドを狙い撃ちに、何故か廊下で「俺たちの世界の命運は、この
「な、長かった……みんな怒ってないといいけど」
執事服を着込んだシンシア型征服人形に開けられた扉の向こうでは、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああああああああああ!!!!!!!!!!」
サンラクが吠えていた。
「ぴぇっ、ご、っごごごごめんなさい!! ……あれ?」
「
壇上全てを埋めるような大きさの「箱」の中で、どう見ても地球生物にありえないほどの大きさの『キリン』とサンラクが戦っていた。
「────えぇ?」
いったいなにがあったのか。
◆
しまった。ついノリと勢いでモルドを処刑してしまった。いややったのは京極なので俺は無罪。レッドネームは? ついてない。OK OK。
「──騒ぐな、客人たちよ」
知らない人の死とモルドのあまりにも早すぎる処刑にざわつくプレイヤーたちの動きが止まる。「墓守のウェザエモン」、今度こそ本物の登場だ。
「先ほどの男は我が影武者。我はこのように壮健なれば、何を騒ぐことがある。かの暗殺者は既に捕らえて牢獄に入れている。早急に尋問し真相を明らかにすることをここに約そう」
あー。
「我らの
いつの間にか手にしていたグラスには、これはまさかライオット・ブラッド!? マジかよついにシャンフロとコラボですか!? 先に大型デパートとかスーパー銭湯やらカードスリーブが来ていたような気がするが気のせいだな!!
グイッと一息に鳥頭の奥に流し込めば、おぉ、回る回るエナドリのカフェインが電脳内を駆け巡る。あっはーこれならウェザエモンにもソロで勝てるぜ! とテンション上がる……はず、なのだが、まぶたが、おも、くな、あれ?
「──あれ?」
そして俺は、どこかで見たことのある、いや、親の顔よりは見た回数の少ない、しかしかなりの回数「周回したことのある」天井を見上げていた。
◇
『さぁ始まりました! 晩餐会余興第一弾! 『クイズ!
ペンシルゴンの掛け声で会場が盛り上がる。
オーディエンスが見つめる壇上には、大きな「箱」が設置されており、その一面には「ごく一般的な家屋の一室」が映し出されていた。シングルベッドに勉強机。置いてある家具から、男子高校生の部屋に見える。
「おやおや、これはサンラクくんのリアルお部屋かな〜?」
「──いえ、家具の配置が違うので違いますね」
「……」
なんでレイちゃんそんなこと知ってるの? という疑問を喉奥に飲み込んでペンシルゴンは脱線しかけた説明を復帰させる。
『は、はいそのとおりー! これはサンラクくんの記憶から作り出されたこの箱の中だけの異空間! ユニークモンスター『冥響のオルケストラ』協力のもと、彼が過去体験したゲームを再現しています! ちなみに技術的には前世紀のスニークミッションゲームで、超能力敵キャラが当時の
それって全部クソゲーになるのでは? オイカッツォは戦慄した。
『今モルドくんがいませんが、回答者の皆様には特定のタイミングで『これからどんな展開になるのか?』を答えていただき──、サンラクくんには「そのとおり」に行動してもらいます! 判断基準は私の琴線に触れるか否か! さぁ私の心を動かすのは誰?」
◆
そんな説明を俺はベッドに寝ながらオルケストラから聞いていた。
え、判断基準鉛筆のタナゴコロとか破滅願望あるのオルケストラさん。
──そこまで言いますか、ときたか。
言うよ。なんなら星が潰れるところまで覚悟しとけよオルケストラ。唯一の救いは鉛筆本人が回答者じゃないところだけだ。
「この部屋は……嘘だろ……!?」
──あなたの記憶から浮かび上がった、過酷な経験。
──そう、愛とは時間。タイム・イズ・ラブ。
──ラブ・クロック。
「ここで来るかよ、ピザ留学……!!」
──さぁ、めくるめく恋愛文化の真髄を……なんです?
◇
「おお──っと再現されたのは『ラブ・クロック』! 『ラブ・クロック』です! わかっていたけどクソゲーだぁ!!」
「げ……! やばいね、うまいこと誘導しないとサンラクの脳が死ぬ」
なにあれ、と視聴者役のプレイヤーたちが囁く。その声を聞き逃さなかったペンシルゴンは声を張る。
「今オルケストラが中のサンラクくんに説明しているので、こちらでは『ラブ・クロック』の説明をいたしましょう。基本的には「コミュニケーションとイベント回収」という普通の恋愛ゲームですが、この作品は『時間がシビア』! 1秒、いや1フレーム遅れただけで好感度駄々下がりドミノ倒しバッドエンド直行なのです! そしてバッドエンドはヒロインたちが皆なぜかピザに執着しイタリアへ留学するというもの! 途中でセーブデータ削除も出来ないのでプレイヤーは延々とピザの話で盛り上がるヒロインたちを眺めることしかできない……っ!」
ついたあだ名が『ピザ留学』。
「へぇー、サンラクって恋愛ゲーもするんだぁ。……へぇ〜」
「クソゲーだからだけどね」
意外に思われたゲーム遍歴に京極が驚き、オイカッツォが補足している裏で、サイガ-0は葛藤していた。
(もしかしたら、楽郎くんのこ、こっこここここのみがわかったりとかしちゃったりとかするのでしょうか!!!!????)
このゲームは自分もやったことがあるが、心情理解や楽しむ以前の問題だった。一瞬迷えばバッドエンド、というのは優しい方。1人のヒロインに絞って関わっても、そのヒロインがピザ屋のチラシを目にした瞬間バッドエンド。世界からピザ屋を消せばいいのかもしれないが、とりあえず玲が試した「ピザ屋に不良集団を率いて
「さぁ、一度はクリアしたこのゲーム、サンラクくんは一体どのようなプレイを始めるのかぁー!? ここでクエスチョン!!!」
そこで、箱の中の世界の時が止まった。
オイカッツォ、サイガ-0、秋津茜、京極、ルストにフリップが渡される。
お題は『サンラクはどういうプレイをするか?』。
「む、むむむむむ……」
サイガ-0は葛藤する。
『一番好きなヒロインにアタックする』とか書けば、目的は達成できる。楽郎はどんなヒロインが好きなのだろうか、確かこのゲームにはリアルの自分に近い容姿のキャラがいたから、もしそれを選んでくれたら──、いや、どうなんだ? それは良いことなのか? 自分と似ているとは言え楽郎が女性と一緒に歩いている姿なんてそんな羨まそんな光景見たら見たら見たら見見見見見見見見見見見見見──、
「待つのは、死──あるのみ……!」
隣の京極がビクッと跳ねた。
「はい、けっかはっぴょーぅ!」
◆
指示は聞いた。納得もした。なぜならその指示は、このゲームの最適解……!!
「正解は、これだっ!!」
──はい、よーいスタート。
オルケストラの合図で俺──このゲームの主人公、メカクレ系無個性男子「漬鮪サンラク」は腕を振り上げ枕の上で後転三点倒立! そこから床に体ごと落ち家を揺らす!! その勢いを利用して、
「正解は、『最初にガラスをぶち破れ』────!!」
部屋の窓ガラスを頭からぶち破り、俺は一階の屋根へ飛び出した。
◇
「えぇ……?」
会場がドン引きする中で、ゲラゲラ笑いながら鉛筆が実況する。
「はい、というわけで採用されたのはサイガ-0ちゃんの『窓から脱出する』でしたー。いやあのクソゲー脳は意訳しやがりましたけどね、しかしなぜ0ちゃんはそんな回答を?」
「え、ええっと、実はこのゲーム、プレイしたことがありまして。このまま布団の中にいると幼馴染ヒロインが部屋に入ってきて、部屋に落ちているピザ屋の広告紙を目にしてバッドエンドになるので、部屋を早急に出るのが最適解、なんです」
幼馴染に起こしてもらうというお約束が地雷なことに全国の幼なじみ好き(リアル幼馴染はいない)は激怒した。
「なんと!! 意外も意外、
このわざとらしい驚き方!
「いやー、ルストちゃんの「窓から巨大ロボが手を伸ばして掴んでくる」とか、京極ちゃんの「突如として壬生狼の集団が抜刀して襲ってくる」も面白かったのですが、まぁまずは『クイズ! サンラクェスチョン』のシステムを視聴者に理解してもらおうとね、まだ優しいものを選ばせてもらいました! でもカッツォくんの「部屋のポスターが海鮮丼になってヒロインが板前修行に行く」は面白くなかったので次頑張ろう」
あ、これどんどん無茶振りがエスカレートするやつだ、とその場にいた全員が悟った。
◆
なぜ窓を破るのか、それは幼馴染ヒロインがピザ屋のチラシを見る以上に意味がある。俺はこの朝の段階で4人のヒロインとフラグを立てるのだ。
まず窓を破ると屋根の上で戯れていたスズメ3匹が飛び立つ。実はこのスズメが幼馴染ヒロインが我が家のチャイムを鳴らすタイミングだったりする。だからベッドから出る時でかい音を立てる必要があったんですね。ガラスを破るより一瞬速く鳴らされたチャイム、だがすぐに鳴り響いた破砕音に幼馴染ヒロインが外に飛び出してくる。ピザポイント上昇なし。
「さ、サンラクくん!? なにしてるの!?」
「なぁに、今日は待ちに待った入学式だろ。待ちきれなかったんだ!」
キーワードは「入学式」、「待ちきれない」。この二つのワードを絡めたセリフで好感度アップ。幼馴染ヒロインは赤面しながら、
「そ、そうだね。──ねぇ、私たち、ほんと昔からずっと一緒だよね。きょ、今日のクラス発表も、一緒だと嬉し」
だがカットだ。
この「幼馴染ヒロインの昔語りイベント」、主人公の背景やこの街の基本情報を教えてくれるという意味では有用なのですが、部屋で発生させるとこの長い説明をずっと床に置かれたピザ屋のチラシを見ながらされることになります。もちろん以降3年分バッドエンドルートです。初手罠は罠というより呪いでしかないということがよくわかりますね。なお聞き続けるとそれはそれで主人公の(そういえば最近はどこぞの料理人が開店したピザ屋が盛り上がっているな)というモノローグが入ってピザポイントが爆増するので詰みます。
空を見上げれば桜吹雪。吹雪? 雪降ってるじゃなーい、寒いと思ったわぁ(義務)。
その桜吹雪の中を、ホップ、ステップ、ジャンプ! 空中で回転! 10.0! 10.0! 10.0! 世界最高得点! 世界初の7回転成功! 明日のスポーツ紙の一面だぁ!
屋根から飛び出して道向こうの家の植え込みにダイブ!! つまりはケツが車道に向いた状態で顔は隣の家(新築)に向いています。訳がわかりませんね。
「きゃあああああああああああ!?」
はい、ここで2人目のヒロイン登場です。転校生ちゃんです。
本来なら数日後の登校途中にパンを咥えている彼女とエクストリームごっつんこするのですが、既に設定上引っ越ししていることから不法侵入で出会えます。不法侵入ということで犯罪者ポイントが上昇するはずですが、ケツが出ているので判定はシロです。このゲーム、視線や対応は顔が判定にあたりますが、実は主人公の主軸はケツにあります。下半身が主人ってか。ははは、下ネタじゃねーよ!!
つまり今なにが起こっているかというと、
「あ、あんたねぇ! 覗きなんてサイテーよ!!!」
はい、後半空き教室で発生するはずだった『着替え覗きイベント』が発生しました。
「わ、わざとじゃねーよ!」
「じゃあどういうつもりでこんなとこきたのよ!」
紛れもなく正論ですが、庭で着替えているあなたが言えたことではないですよ。
フラグが変なことになって、こんな露出狂一歩手前の状況になっていますが、その分この場での転校生の好感度は高い状態です。ここで会話をして好感度を稼ぎましょう。明日また学校に来てください。好感度が高いのに初対面の挨拶をする謎の転校生を見せてあげますよ。ループ物かな?
これで転校生の初期状態はクリアです。もちろんこの間にも転校生を外に出さないよう外を盆か正月かと疑いたくなるくらいビュンビュン走り回っているピザ屋の宅配車を見せないように配慮しています。
おっと車道に突き出たケツに衝撃が。
「おいテメーどこ見てんだよ! 目ん玉ついてんのかぁ!?」
ついてませんよ、ケツですもの。
はい、3人目のヒロイン候補、不良ちゃんです。
彼女は学校の風紀検査が嫌で、登校は非常に早いです。真面目なんだか不良なんだかよくわかりませんね。本来なら出会い頭に殴ってきますがケツですのでダメージは貫禄の0です。
「な、なんだよ、なんて目で見てやがる」
見てませんよ、ケツですもの。
「くっ、あんたが初めてだよ、あたしが殴っても平気そうな顔してんのは」
顔はないです、ケツですもの。
本来ある程度体力と勇気のパラメータを上げることでクリアできる『認められイベント』です。それをケツで対応します。なお、本来の形の時パラメータが足りないと、「あたしが殴っても大丈夫なもの、見つけたよ。……ピザ生地!!」となってピザります。もっとサンドバッグとかなかったんでしょうか?
さて前門の転校生、後門(シモネタにあらず)の不良ちゃん。それでは会話開始から1680フレーム経過しましたので、
「な、なんだぁ、やんのかっ」
足を上げます。
そうすると、甲高いクラクション音が鳴り、主人公がピザトラックに撥ねられます。
体をピンと伸ばした状態で撥ねられましたので、俺に体はまるでピザ生地を跳ね飛ばして回すように華麗に回転します。大人の事情によりそばにいた不良ちゃんは無事です。
さぁこれで主人公1日入院ルート、お見舞いからの担任女教師攻略へ……。片手ビルクライミング病院ダブルデートのお時間です。いやぁあれは
「おぉサンラクよ、死んでしまうとは情けない」
は?
◇
「いつまで謎のピンボールしてるんですかねぇこの鳥頭。ということでクエスチョン! 『トラックにはねられたサンラクくんはどこへ行く?』、はいけっかはっぴょ〜ぅ!」
◆採用内容:秋津茜「やま!」
「おああああああああああああああああああああ!!!!!」
山を越え、谷を越え、川を泳ぎ鳥頭がやってくる。いつのまにか漬鮪サンラクから、シャンフロのサンラクに戻っていた。
「そうだったこれラブ・クロックそのものじゃなくてオルケストラだった!! しかもなんだこの山、普通に強いクマと……」
山が震える。比喩じゃない、誇張でもない、本当に、山が物理的に震えている……!
「山よりデカいやつがいるって、なんだ、なんのゲームだ!?」
該当するものが多すぎる!
誰がどんな指示しやがったんだこれぇ!! ははぁん危険なモンスターとか辺りで京極だな、オ→ノ↑レぇ↓!!
走るうちに、畑が見えてくる。
畑、農家、危険生物。
「危牧か!」
スリリング・ファーム! だとすればこの野菜たちを
ピーナッツ、枝豆、つまりは……豆類……!!!
俺が育てた訳じゃない。思い入れなんてなにもない。だけど、だけども!
「俺の豆類は奪わせねぇぞゴミどもォ〜!! かかってこいやぁ!!」
武器! 武器どこ!? 小屋あった! 小屋の陰にあるあれはまさしく、
◇
「サンラクくんが発見した武器は? 結果はっぴょ〜ぅ!」
◆採用内容:オイカッツォ「キハダマグロ」
「──マグロ、ご期待ください。ってできるかボケェ!! カッツォだなこれもしかしてさっきから魚ネタだけで攻めてたのかテメェ!! 採用される訳ねぇだろ! されたわ!! せめてカジキマグロにしろどうしろってんだこんなもん!」
ビタン!! とマグロを地面に叩きつける。
マグロの死んだ目が俺を苛む。
俺は弱気になった。や、やめろよ、冗談だよ。痛かった? 俺、お前のこと嫌いになった訳じゃないよ。毎晩世話になってるしさ。晩飯的意味で。美味しかったよ。あれ彼女? いい味でした。
マグロの頭を撫でた。
森が揺れる。
何かが来る。
「……行くか、
マグロを担ぐ。それはまるで大剣のように。
◇
「ここで出てくるものは?」
◆採用内容:秋津茜「たぬき!」
「なんだ……子狸か……」
ちょっぴり赤毛の混じった小さな子狸。
森を抜け、よちよちとこちらへ歩いてくる。こいつが敵なのか? いや、こんな気迫もなくおどおどしているような生き物が敵のはずがない。よしんば敵だとしてもロクな攻撃方法はない、
◇
「この子狸の攻撃手段は?」
◆採用内容:ルスト「オールレンジ攻撃」
子狸が、前足をちょいと突き出す。
「……子狸ぃ!!!」
ビームが四方八方から飛んでくる。反射的にかわし、いなし、マグロで弾く。
ヒュンヒュンと子狸の周りを浮遊するどんぐり。これは、ルスト辺りだな。11個のどんぐりが俺を取り囲む。
「……ハッ、この程度で俺が止められると本気で思ってんのか? なぁ相棒! ……相棒?」
もっちゃもっちゃ。
なんの音か分かる? これね、子狸がマグロを咀嚼する音。いつのまにか俺に接近していた子狸が、俺の手の中にあったマグロを齧っている。
「……子狸ぃ」
俺の殺気に気付いたのか、子狸が前足をくっつけて目を潤ませる。「美味しかったんです、仕方なかったんです」と訴える瞳。
「──わかったよ、しゃーねーな。……食った分は手伝えよ」
子狸が なかま に なった !
ついでに俺は倉庫にあったクワを手に入れた!
「さぁ、初期装備からオールレンジ攻撃とか最強すぎだろうし、ちゃっちゃとこの山を震わせてるモンスターを……倒し、え?」
山が震える。
空が震えた。
そうだ。これは危牧、ならば出てくるのは間違いなく、
「──きやがったな、ゼピュラ・ジラ……!!」
山を踏み越えて、超天災規模キリンが迫る……!!
◇
「おーっとここで現れたのが超級災獣、ゼピュラ・ジラ! 元のゲームでも倒した報告が公式には無いという災害です! さぁサンラクくんはどのような装備でこの困難を乗り越えるのか──クエスチョン!!」
オイカッツォ「カツオブシ」
サイガ-0「核爆弾」
秋津茜「サンラクさんのいつもの装備!」
ルスト「超巨大拠点型起動兵器攻略用超高速強襲殲滅型ブースターパック」
京極「150m斬艦刀」
「んー、もう全部のせで行こっか!!」
そういうことになった。
◆◆
どういうことだよこれは。
父さん、母さん、妹よ。俺は今、半裸鳥頭の状態で腰に拘束型アタッチメントがついてその背後に全長数十メートルにもなる月ロケットばりのプロペラントタンクがついたブースターをいくつもいくつもくっつけられ、左手には背後から伸びたアームで固定された百数十メートルの日本刀を握らされ、右手にはミサイルが搭載されている。うーん、マークを見るにニュークリア。
そして子狸は俺の頭の上でふんすっと息も誇らしげに、前足でカツオブシを刀のように掲げている。そこはエムルいわく特等席だぞ。
いやほんと、どういうことだよ。
「──まぁ、なんだ」
こちらを認識すらしないクソキリンを見上げ、口の端が上がる。
「
行くぞ子狸、いざ鎌倉────!
そんなわけで冒頭に戻る。
「くそキリンがあああああああああぶっ殺してやる、ぶっころしてやるああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!」
プロペラントタンクは一機自爆させて囮にした。一度のぶつかりで、長大な刀は折れ刃先が地に突き刺さっている。……御大層な刀の割には1ミリも役に立たなかったなアレ。パワーローダーが欲しい。
子狸は撃ち落とされた子機を悲しげに見つめている。もしかしてあれにも重い設定がついてるんですか?
「──」
風が凪いだ。狂騒の中で一瞬生まれる、思いがけない静寂。
「いくか、子狸」
ポフポフ、と頭が叩かれる。
敵は公式で一度も倒されたことのない最強災獣、味方はたった一匹の子狸。
「はっ、心強すぎて釣り銭を支払いたい気分だっ!!」
飛び上がる。降りかかる雨が心地良い。狙うは首筋、今持てるだけの火力を叩き込み、隙を見て核をぶちこむ。打てる手はそれだけだ。
ゼピュラ・ジラが唸る、嵐が吹き荒ぶ。嵐の中に紛れて飛んでくるゴミ、人、岩、サメ、鯨を紙一重で避けていく。
「嵐を──」
抜けた。
一瞬の空白、
「全火力、一点集中──フォイエル!!」
ビームが、ミサイルが、質量弾が首へ飛ぶ。盛大な爆発を背に受けて、俺たちは上空へ。上へ、上へ!
対象が大きすぎてよくわからないが、巨大キリンが身じろいだ。
「効いてるぞ子狸ィ!! これで注意を引いて──ッ!!」
振れ幅が大きい。
首が、巨大な壁、いや地球そのものが迫るような圧迫感と速度、避けきれない──? いや、
「しっかり掴まってろ子狸ぃ!! 照準、相対直下!! 爆風で跳ねる!!」
足元で発生した爆風にブースターだけで作られた飛翔装置が揺れる。おごごごごごご、固定されていなかったらすっぽ抜けて嵐に飲まれそうだ。だが、
「うおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
子狸の頭をチリチリと嵐の内壁が掠めながら飛ぶ。
もう少し、もう少しでゼピュラ・ジラの鼻先にこの核爆弾を叩き込める。そう、顔を、口をこちらに向けている今なら……ちょっと待て、口が、開いて、おくからあかいなにかが──。
その時、飛翔装置の左半分が「消失」した。
不可視、ではない。赤黒いその柱は、舌である。
大木を何本束ねたとて届かない、片側4車線をおさめられるトンネルからそのまま抜き出したような大質量。
俺はそれを、宙を
「なにやってんだ……」
呻く。
叫ぶ。
「なにやってんだよ、子狸ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
飛翔装置の上で、もうあと3個になって小さなバリアしか貼れないビットで虚勢を張って、小さな小さな子狸が立っていた。
舌が突き出る瞬間、子狸は俺を固定するアタッチメントの基部をビットで破壊。俺を逃した。逃してくれたのだ。
かぽん、とどこからか取り出した安全ヘルメットを被り、子狸は俺を一瞥する。
その意味は、「止まるんじゃねぇぞ」なのか、「これは犠牲ではない」なのか。
わからない、わからないまま、
「やめろ、いくな、それは俺がやることだろ!!」
子狸は、カツオブシとすっかり骨だけになったキハダマグロの二刀流を構え、核爆弾のスイッチを入れた。
「子狸ィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!!!!!!」
嗚呼、子狸がいく。舌という最終攻撃手段を使ったゼピュラ・ジラの隙を突いて、奴の口内に核爆弾を突っ込んでいく。
閃光と、爆発と、衝撃に、俺の意識は一瞬掻き消えた。
目が覚めると、俺は最初の部屋にいた。
「おはようサンラクくん!! 今日は入学式だ、よ? え、ど、どうして泣いてるの!?」
「ああ……おはよう。いや、悲しい夢を見てさ」
こんなに悲しいのに、体は周回時のメンタル不調を誤魔化す台詞を吐いている。
頭の中で思い出が駆け巡る。
子狸との出会い。一緒にマグロを食べた思い出。花火を見たあの夜。雨の中殴り合った河川敷。将来の夢を語り合ったあの夕日。
ほぼ全て捏造という些細な問題に目を瞑れば、俺たちは、
顔を上げる。すると、
「お、お前、それ……?」
「あ、
幼馴染ヒロインの腕の中にちょこんと大人しく収まっているのは、ちょっと焦げた安全ヘルメットを
被った、見知った子狸。
「こ、子狸……!!」
くあ、と顔を上げた子狸は、もぞもぞと自分の背中からプラカードを取り出した。
『ドッキリ 大成功!!』
テッテレー
気の抜けるような音楽とともに、ヒロインが微笑む。俺も涙を流しながら笑う。
そして子狸はプラカードをひっくり返した。
『サンラク タイキック』
デデーン オイカッツォ サイガ-0 秋津茜 京極 ルスト モルド OUT
デデーン サンラク タイキック
『人は笑顔でケツを叩かれることもある』
『その涙は痛みか、喜びか』
『御観覧、誠にありがとうございました』
『演者一同、心よりの感謝を』
『続きまして、『社畜勇者ロード・ジョージの冒険』をご覧ください──』
『社畜勇者ロード・ジョージの冒険』
楼堂丈二は社畜である。五徹目のある日、椅子に座った瞬間気絶した丈二は異世界に転移していた。
訳も分からずとにかく人里に降りた丈二は、野盗に襲われていた村を助け、フルネームで名乗る。そう、「ロード・ジョージ」と。
「故郷が焼けたからって何です! 俺の同僚なんて家を建てる契約とローン組んで支払いをした次の日に海外転勤の辞令がでたんですから、住めただけマシです!!」
※書きません。
それでは良いお年を。