重っ。
俺がオルケストラルームから出てきた後始まった「社畜勇者ロード・ジョージの冒険」、重っ。
誰のこっちゃと思っていたらカローシスUQだった。さらりと本名バラされたなあの人。シャンフロ風中世文化的世界へ異世界転生した
しかし、いちいち重い。
いやかっこいいんだ。魔法と剣技の融合は見事で、人心掌握して村一丸となっての野盗退治、美しいエルフの姫君を助ける手腕、しょしんしゃのもりと呼ばれる割に生息するモンスターが軒並みやばい森で、どういうわけだか自分を猫と言い張る人間嫌いなエンペラードラゴンと交渉したりすごくかっこいいんだ。
でも、
「大丈夫です、24時間あれば人間なんでもできる!! ほら村をぐるりと囲む柵だって武器訓練だってできたでしょう!? さぁ次は24時間耐久攻勢だ!! 働いて働いて働き続ける、そのうち相手は寝る、その間また攻める! そしたら勝てる!!!」
「森が燃えたからって落ち込むことはありません姫君! 私の同僚に、家を買うために40年ローン組んで契約もして地鎮祭までした翌日に海外栄転支社長職を命じられた人もいるんです! しかも契約上マイホームを十数年は売却できない!! それに比べれば貴方達は、100年住めただけマシじゃないですか!!」
「猫の竜殿。徹夜にご興味はおありかな?」
とか、いちいちセリフに社畜ワードが魔法の言葉のように挟まるので腹筋が痛い。かわいそうだし本人大真面目に言っているからケツにも痛い。社畜は……っ、自分がされていることが当然だと思うから、それを人にも強いてしまう……っ! 負の再生産、ああ、あの厳しくもどこか牧歌的だったあの世界も今や「72時間働けますか!?」という、教科書で見た昭和の高度経済成長期のような標語がまかり通るディストピアになってしまった。
まぁそんなふうに世論がなるようフリップ出したの俺だけど。
カローシスUQは止まらない。
超宇宙からやってきた、根源的破滅招来構造体とかいう正体不明の存在と戦うため、彼は宇宙へ飛び立つ。
まぁその宇宙いくってフリップ出したの俺だけど。
世界の飽和、さまざまな可能性が増殖することで可能性世界全体に掛かる負荷を軽減するために生まれた根源的破滅招来構造体を、カローシスは抱き締める。
「君も、仕事をしていただけだったんだね……」
社畜は社畜を理解する。呉鉄という名の武器を捨て、カローシスUQは根源的破滅招来構造体の手を取った。
「したくない仕事もあるだろう。だったら、俺と、新しい仕事をしよう!!」
社畜に武器はいらない。
社畜には時間と、体力と、気力と、健康と、共に戦う
カローシスは、明日へ。すなわちベンチャービジネスへ飛び込んだ──!!
そんな希望に満ちた明日へ向かったところで会場はスタンディングオベーション、拍手の嵐。精魂尽き果て出てきた主役は一言、
「嘘だ、あれ、夢だったの……!?」
と叫んで気絶した。
デデーン 全員 OUT
◆
カローシスUQ主演の、明るい未来などなく明日も仕事という悲しい現実の社畜物語が終わり、11次元宇宙まで再現して精神的に疲弊したらしいオルケストラさんのために謎のカラオケ大会が始まったが、大公が歌う間にこそっと出てきてデュエットを始めた謎の「
歌ステージということでか、次はサイナ達征服人形がアイドルステージのように出てくる。
ステージ上には特に異常はない。
あるのはそう、
『素晴らしい!!
ドール詰め込んで心中した奴に逝ける天国なんてねぇよ。
椅子に置かれた立体映像装置から遠隔で見ているドルオタがいた。
その隣では男性プレイヤーがうんうん頷いている。
……誰だかよくわからんが、俺の知っている変態どもに匹敵するポテンシャルを秘めている感じがするぞ、あの「ふぁんふぁにどl」ってプレイヤー。
「これがオルケストラがやりたかった紅白歌合戦ってことか?」
「だ、だったら終盤、ということですかね?」
サイナ達に混じってミニスカで踊っているウィンプに保育園のお遊戯会で親御さんが娘に向ける感じの笑顔で手を振っておく。泣きそうなのは見なかったことにする。
おっとあの顔は笹……笹、笹寿司さんかな?
「終盤か。そこんとこどうなんだよ京極」
「うーん、確かに後半戦開始の合図っぽいね。今のところこの紅白歌合戦に笑う要素あんまりないけど」
そうか? シュテルン・ブルームに混ざってミニスカで踊り始めた聖女ちゃんに「S! E! I! J! O! 聖女ちゃああああああああぁぁぁぁん!!!!!」一糸乱れぬオタ芸コールを始める親衛隊とか、それ以前にウィンプが混ざったあたりから『シュテルン・ブルームの統一性が乱れる!!』と騒ぎ出し、「スィエラ・ラ・ボカ!!」と叫ぶふぁんふぁんにどlと涙の殴り合い(どちらも当たらない)を始めたドルオタとかそれなりに面白いが。……スペイン語で最上級の「黙れ」だっけか。
デデーン モルド OUT
ほらモルドも笑ってるよ。ケツ叩かれてかわいそうだね。
「でもそうなると、『アレ』がまだなんだよなぁ」
「『アレ』?」
京極いわく、この「笑ってはいけない」という企画には、決して外せない名物があるという。その内容を聞こうとした、その時、
「──宴もたけなわではあるが、緊急の案件である」
◆
大公、ウェザエモン。
先ほどまで歌合戦で「……セツナの気配を感じる……」と感傷に浸っていたが、どうやら気力を取り戻したらしい。
なおその嫁さんは見えないのをいいことにウェザエモンの隣で寄り添って休憩している。『絵になる……。尊い……』と呟いてる湿気った鉛筆はどうでもいいが、どうやら京極の言う「決して外せない名物」が始まるのかな?
「先ほどの影武者襲撃、その協力者を特定した。今から其奴を裁判にかける」
随分と仰々しい。
スッと言ってスパッと切ればいいのに。
そう思った俺の手首に手錠がかかり、俺は証言台に立たされていた。
……。
「……うおおおおおおおおおお!!! 俺には弁護士を呼ぶ権利があるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」
「さっき僕をスピード処刑した人がなんか言ってる……」
デデーン オイカッツォ 京極 OUT
「くそっ、こんなので……!」
「意外に刺すよねモルドって」
ちまちましたギャグをしている馬鹿どもを尻目に、ウェザエモンは至極真面目を貫いていた。セツナさんそんなウェザエモンの肩の『謎のボロ紐』を可愛らしいリボンに……!?
デデーン 全員 OUT
「無論、裁判は行う。まだ容疑者でしかないゆえに」
嗚呼、セツナさんやめて! ウェザエモンの背中に『リヴァイアサン』って書いた勇魚印の大漁旗掲げないで!? 何想定だよそれ!
デデーン 全員 OUT
「では、サイバンチョウ入廷」
「やぁやぁ諸君、厳正な裁判を保証するよー」
ペンシルゴンがガベル(あの『静粛に!」の時ガンガンぶっ叩くアレ)を握っていた。
なるほど確信した、──詳細は省くが俺は死ぬ。
「重要なのは死に方だ……!」
できることならこの場にいる全員巻き込む死に方がしたい。
「検事入廷」
「確実な有罪を約束しよう」
デデーン サイガ-0
オゥ、ユアシスター。
何でか貴族みてーな豪奢な服を着て鞭を握ったサイガ-100がいた。えぇ? あのコンビ相手にすんの? 弁護士に同情するわ。
「弁護士入廷」
「被告人の無罪を主張します、ってできるのこれ?」
いつの間にか移動させられていたモルド……いや、目を凝らせば『モルホドくん』と表示が出ている。
くっ、ここでさっきのノリと勢いを悔やむことになろうとは!
「……さっきはすまなかったモルド。頼む、助けてくれ」
「サンラク……」
「助からなかったらまたお前キルさせるから」
「えぇ……?」
デデーン オイカッツォ ルスト 京極 OUT
まぁ無罪などは期待していない。せいぜい刑を軽くするか、鉛筆がノって爆殺刑を選んでそこに可燃物を追加でぶち込んで爆発オチにするくらいだ。こうなりゃみんなで仲良くリスポーンしようぜぇ……?
裁判開始ィ。サイガー100が手元の資料を指の背で叩きながら話し始める。
「まず被告にかけられている嫌疑を説明しよう。外患誘致……すなわち
デデーン 全員 OUT
「完全に私怨入ってますよね?」
「何を言う。この中で一番重いのが半裸罪だが」
リュカオーンが悪いよリュカオーンがよー!
「頼むぜモルド、いやモルホドくん! 俺の無実を勝ち取ってくれ!」
「そうだよモルホドくんっ、ここで一発ギャクテンだねっ!」
きゃぴきゃぴした声。一体どこの
「そ、そうだね、マヨイ……カッツォ、ちゃん……?」
デデーン サンラク サイガー0 京極 秋津茜 OUT
何やってんだよカッツォ!?
謎の数珠がジャラジャラついた和服っぽい服を着たカッツォがモルドを応援していた。
「さぁ、サイバンでサンラクの罪を洗いざらいはらわたごとブチ撒けよう!!」
「可愛らしい容姿で言ってることが物騒すぎる!?」
だってよ、カッツォなんだぜ!? そりゃ口を開けば出てくるのは外道台詞だろうよ。
ガンガン!! とガペルを叩いてペンシルゴンが神妙な声を出す。
「静粛に。検察側の冒頭陳述は終わったね? では弁護人、反論を」
「──まずはサンラクの無実を主張しようモルホドくん! サンラクにはアリバイがある」
「そうなの?」
そうなの? 我ながら俺のアリバイなんて「ゲームしてた」以外なんも無い気がするが。まぁ生体認証記録を採取すれば立派なアリバイだよな。それを利用したアリバイトリックがある2時間サスペンスに笹かまぼこさんがご出演なさっていたので覚えている。温泉入ってその後すぐに死体役だったけど。
「さぁ、そのポケットに入っている写真を『くらえっ!』って相手に突きつけて! ダイジョーブ、サイバンで死にはしないよっ!」
「さっき僕その裁判で死んだんですけど」
デデーン 全員 OUT
モルホドくんが、ポケットから一枚の写真を取り出し、ペンシルゴンがその証拠の提出を認める。
「く、くらえっ!」
投げキッスをする水着装備の青聖杯サンラク。
デデーン 全員 OUT
「なんだそれそんなもん撮った覚えねーぞ俺マーメイッ(悲鳴)!!」
「わぁ、サンラクさんそっちだとやっぱりおっきいですね!?」
「……ほんと大きい」
「くっ」
「うわぁ写真がモルホドくんの涎でべっとべとー」
「異議あり!! 笑った時の飛沫だから! ルスト目、怖っ! 人殺しそうなその目をやめて!」
「……」
あー、わかったぞ。JGEの時の、キャラ読み込みプリントマシンみたいなもんか。ははぁん、勝手な写真を捏造して俺を辱めようって魂胆か。ふっ、甘いなペンシルゴン。俺は品行方正(自社発表)なプレイヤーを自負(社内比)しているサンラクさん(別名:げどうとりポケ◯ン)だ。そんなものには決して屈しない! と断言させてもらおう。というか自キャラの水着グラビア程度でドギマギするような……いやしかしたしかに秋津茜の言うように大きいな? 修正でもした? 後ろの海と雲、歪んで無い?
ガンガンガンガン!!! とガペルを叩きペンシルゴンが冷厳な声を上げる。
にわかに活気付く傍聴席のプレイヤーたちは、己の
「静粛に! 静粛に! ──では、10万マーニから!!」
競り始まっちゃったよ。
長く苦しい戦いだった……。
一気に3億マーニまで値段を釣り上げた謎の七色の声を持つ変態と4億を血走った目で出してきたネカマゴリラがペンシルゴンサイバンチョの、
「キモいから死刑」
で足元に出現した穴に落ちていったのを尻目にスッと5億を出して俺は俺自身の写真を競り落とした。嬉しくない。傍聴席のレイ氏がこの世の終わりのような雰囲気を出しているが気にしない。
「はぁ、なんだったんだ今の茶番」
「時にサンラク、今の、5億マーニもの金銭はどこから手に入れた──?」
「はい? それはもちろんマブダチの水晶群蠍を換金して──」
瞬間、走る悪寒。
サイガー100の手の中の鞭が閃いた。急な破裂音に、盛り上がっていたオークション会場が静まり返る。
「聞いたかな、傍聴席の御一同。水晶群蠍をマブダチと発言した。モンスターをだ。モンスターに親しみを持つなど、それは彼らの味方である何よりの証拠だ」
「異議あり!! 彼の友人曰く、サンラクは『利益率の高いモンスターを積極的に友と呼ぶ変態』とのことです。水晶群蠍はその欠片だけでも五万マーニは下らない高額素材、それをマブダチと呼ぶのはサンラクが変態なだけで彼が犯人である証明にはなりません!!」
反論ありがとうモルホドくん。てめーは後で殺す。なんならネフホロに行って地獄ジェットで仮想上の脳みそシェイクして殺す。
だが確かに。俺はあの蠍たちを愛してはいない。素材や経験値、そして売っぱらったあとの金額的には愛してやまないが。
いったい何が狙いだサイガ姉……?
「ふむ、ではここで証人を呼びたい。サイバンチョウ、許可を」
「許可します。証人をここに」
ガラガラガラ、と黒剣のメンバーがずいぶん大きな立方体を運んでくる。布を被せてあるので中身は窺えない。
「箱?」
「これが、我々の切り札──貴様がモンスター側だと証明する証人だ!!」
くらえ!! と翻された布の奥。
きらりと光る水晶あり。
小さな鋏を所在なさげに動かすそれは、
「お、お前は、さっきの休憩の時の水晶群蠍の幼体──ッ!?」
「そうだ。先ほどサンラクが城内から運び出し、水晶群蠍に引き渡したところを『偶然』映像に収めている。幼体を渡された後、水晶群蠍はこの城を襲撃。サンラクがなんらかの干渉をした可能性が高い」
ん? ふふふふ、そいつぁ失言、ってやつじゃないですかねぇサイガ−お姉さん。
「状況証拠だけじゃねーか。推定無罪の原則はどうした? それでも法治国家か、あぁん?」
「法を盾にしたヤクザそのものの言動してる……」
法が良いって言ってんだから良いんだよ、悪法も法! 法治国家万歳!
「俺はその幼体を城からひき離しただけだ。むしろ城を救おうという意思でやっていた。そもそも! 俺は蠍と仲良くなんか、ない!!」
愛と蠍だけが友達さなんて寂しい人生は送ってないぞ俺は。しかし、意外になんとかなるかもしれないな?
「さぁ、手錠を外して俺を解放しろ。なんせ無罪なんだからよぉ〜?」
手錠を掲げてジャラジャラと鳴らす。不当逮捕への報復に燃え始めた俺のメンタルは、
「──そうか、末期の言葉はそれで良いな?」
圧倒的な自信を持つサイガー100の威圧に脆くも崩れ去ろうとしていた。
「な、なに?」
「サイバンチョウ、証人に証言の許可を」
「許可します」
証言? 蠍に!? 何を言っているんだこの人は、と思う間も無く、水晶群蠍の前に、幼児用アルファベット積み木が置かれる。AからZまで、26種類が数個あるその積み木を前に、幼体は少し身じろぎをした。
「さぁ、お前にとってサンラクはどんな存在だ?」
──カチャ、カチャンと積み木をつかみ、水晶群蠍が文字を紡ぐ。
幼い彼にはわからない。なぜここにいるのか、なぜこんなことになっているのか。
だが、ただひとつだけわかることがある。
「なにをする気だ」
暗く冷たい場所に置かれて、寂しかった。心細かった。
だから扉が開いた時、嬉しかった。
「やめろ」
親達のところに返してもらって、恩を感じた。
だから、この気持ちを言葉にするなら、きっとこう、伝えるのだろう。
SANRAKU MY FRIEND
「マイフレンド〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
鳥の目にも涙。被告人席を飛び出し、俺は蠍とハグをした。
冷たい外皮、だがその奥に宿る熱い友情を感じずにはいられなかった。その感情は俺の首筋からどくどくと脈打ち……どくどく? 針刺さっとるやないかい!! さてはさっきの回想と挙動オルケストラだな休憩で引っ込んだから油断してたわクソが!! おごごごごごご毒が回る回る──ー書物によれば、水晶群蠍の針から出る毒液は厳密には毒ではなく、彼らにとっての消化できる食品化、すなわち『水晶化毒』である──ー。まぁ
つまり、俺の上半身は中からゆっくりと水晶化していた。
ふ、脳が無機物化していくこの感覚、もうちょい過激にすると鯖癌の百目ドゥーサバジリスクの石化魔眼だぜ。あの時はみんな死亡までの数秒を利用して思い思いのポーズとったスタチューになってやがったな。へっ。懐かしいぜ。
だがしかし、俺の変異はそこまでだった。なんだよマイフレンド、
「罪は確定した。刑を確定すべし」
大公ウェザエモンの下知に、サイバンチョウが頷く。
「主文、罪状を鑑みて後述します。被告人サンラク、外患誘致及びその他諸々半裸罪により──有罪、『ビンタの刑』に処す!!!」
視界の端で京極が小さくガッツポーズするのが見えた。
「執行人、前へ!!」
なになに? なにが起こる? ビンタ? ビンタってあれか? 子どもが喧嘩してるんじゃないんだから──、
「がっ、がっでーむ!!」
響き渡る小学生女児の声。無理して出した精いっぱいの吠え声は、俺の脳裏にサバンナで日向ぼっこする子ライオンを想起させた。でもあのライオン、ゴリライオンラインのやつだわ。
「し、しっこ、しっこうにん王我星、ただいまサンジョウ!! けいをしっこうします!」
この場にサバイバアルとディプスロがいなくてほんっとーに良かった。
筋骨隆々の王我星は、必死な様子でモストマスキュラーを決めている。まぁ本職の方が見たら顔を真っ赤にして怒り出すレベルの稚拙さだが、幸いここに本職はいない。本職はいないので、皆ただキャラメイクで得られた筋肉の造形美にただ見惚れるだけだ。うーん切れてる、板チョコ!
まぁとはいえ、ここで死んではずっと観客席で笑ってしばかれてるだけの我らがクランメンバーに不作法というもの。
ハイ青聖杯使ってー。鳥面外してー。鉛筆式ぶりっ子術で涙目作って声震わせてー。
「ひぇっ、や、やめてくださいっ!」
「あぇ? サンラクさん女の子?」
「そうだよー女の子だよー。弱々しい(当社比)女の子を殴るとか、しませんよねーできませんよあぶぇっ!!?」
俺はビンタされて頭を砕かれて死んだ。
(1カメ)横向きのサンラクの顔がパァン!! と破裂するスローモーション映像。
(2カメ)王我星視点。ビンタが直撃した瞬間頬が波打ち唇から空気が漏れ端からポリゴン化していく変顔したサンラクのスローモーション映像。「あぶぇっ!!」の声もスローモーションで「あ゛」「ぼぅ」「ドゥエッドゥエッ」とエコーがきいている。
「だいじょぶ! ケンカよくやってるから!!」
デデーン オイカッツォ サイガー0 秋津茜 京極 ルスト モルド OUT
◇
『
粉々に砕け散ったサンラクの間抜けヅラに笑いすぎた一同は、ようやく治まった笑いの衝動に息を整える。
「あ──、女子同士の方が遠慮なくなる時ってあるよね……僕もよくわかる」(よくやってた京極)
「姉同士の喧嘩とかホント血を見る勢いだったなぁ」(魚臣家名誉三女)
「よくわかりませんが、なるほどっ!」(一人っ子秋津茜)
「思い当たる節が、イエ、ナイですよホント」(範馬〇牙世界姉妹喧嘩斎賀)
「……くっ、頭が……(ネフホロラストイベント時の母親の拳骨)」
「ルストんちの喧嘩ってほんと先手必勝だからねぇ」
和やかな空気が流れる。
「京極ちゃ……ティメットさん、さっきガッツポーズしてましたけど、これが例の『合図』なんですか?」
サイガ-0の問いに京極がうなづく。
むくつけき大男のビンタ。それがこの『笑ってはいけない』の後半戦開始の合図。
「ああ、でも──サンラクがあっさりビンタされちゃったから、あんまり盛り上がらなかったなぁ」
本当ならこういう痛いイベントは、やられる側が無様に命乞いをしてその様を楽しむものなのだが、と京極が自慢げに講釈を垂れる。
「まぁ、ああいうところであーだこーだ色々言い訳を言い募るのは滑稽だよね。潔くないと」
その講釈が佳境に入ろうとした時、壇上に立つウェザエモンが言った。
「ところで──、先頃、本城にて盗難が起こった」
曰く、ジークヴルムを撃退したことへの褒賞だったメダルがひとつ、どこかへ紛失したという。
「──貴重な品だ。あの色はこの世にふたつとない」
その背後に映し出される、赤い褒賞メダル。旅狼メンバーの視線が、サイガ-0に向いた。
「……それ、もしかしてこれ、ですか?」
インベントリアから取り出された褒賞メダルに、その場にいた全員の視線が向いた。
壇上に上がったサイガ-0に、疑惑の視線が向けられる。
「え、私──ですか?」
──真実を明らかにする裁判が始まった。
身内ということで外されたサイガ-100に代わり、その辺を歩いていた『最近好きな女の子がゲームで人を弓でスナイプするバーサーカーだと発覚したんじゃがあれ世界線の違いだけで放置していいのか』とでも言いたげなレイジ氏を検察に据え、弁護士モルドと互いに仮説と反証を繰り返す。
サイガ-0にはアリバイがあった。この勲章はプレゼントとして置かれており、本人も出所は知らない。証人として呼び出された秋津茜が証言する。現にサイガ-0はそのアクセサリを装備していなかった。『自分のものではない』と認識していた証拠だ。格納鍵インベントリアに入れていたのも、損失を恐れてのこと。全ては本人に返すために──。
大公ウェザエモン、そのふたつの腕がギギギ……と上へ上がり……、
「◯」
両手で大きな丸を作った。
「無罪なり」
アクセサリの無事な返還。時間を取らせたことへの詫び。
それで全てが平和に終わる、はずだった。
「──では、この勲章を受け取るべき正しい者を、こちらへ──」
(そういえばこんなに色々やってるのに、サンラクくん戻ってきませんね。これが終わったら探しに──)
意識もそぞろだったサイガ-0。その意識が会場の入り口に向いた時、
「それは違う!! その勲章は、龍を撃退したサイガ-0、正しくアンタのものだ」
会場に響く
「犯人は──真犯人は、まだこの会場にいるぜ!!」
蝶ネクタイをしてどでかいメガネをかけたエターナルゼロがパラパラを踊りながら入場してきた。
デデーン オイカッツォ 京極 モルド OUT
「……え、みんな見たことない? 黒服で遊園地遊んでるいい歳した二人組男性を見張っていたら薬を飲まされてちっちゃくなっちゃった高校生名探偵の漫画!! まぁ俺も劇場版仕様の再現推理ゲームの勉強で見たくらいだけど」
「……友達が持ってる映画見たけど、毎回最初に『俺は高校生探偵の──』って自己紹介から入るから導入が楽なんだよねあれ」
「サンラクが映像化されたら毎話『クソゲーをこよなく愛する高校生』とか紹介されちゃいそう──んん゛っ、『俺は高校生クソゲーハンター、ヒヅトメラクロウ。人が忌避するクソゲーばかりプレイしていた俺はある時気の迷いから神ゲー「シャンフロ」をプレイすることになり──気がつけば俺は、半裸鳥頭になっていた!』」(カッツォによる声真似)
「ぬぶふっ」
デデーン 京極 モルド OUT
「あははは、言いそう言いそう。──あだっ」
カッツォの声真似に屈託なく笑ってしまった京極の顔は、
「そう、赤い勲章は確かにサイガ-0の物……。ジークヴルムを撤退させた俺が拝領するはずだった勲章は……この『青い勲章』だ!!」
自分の胸に付けた青い勲章と、壇上でエタゼロの提示した絵に示された勲章を見比べて固まった。
「つまり、犯人は──」
「……僕ぅ!?」
デデーン 全員 OUT
「──犯人が判明した。潔く壇上に上がるべし」
ウェザエモンの声に、京極の脇に現れた屈強なプレイヤーが彼女の肩を掴む。
「ちょ、ちょっと待って!! 僕にも裁判の機会を──」
「罪は確定した。そして勲章を与える大公の事業、その邪魔をするは国家反逆罪に当たり罪は先のサンラクと同等である。ならばその罰もまた、同じであらねばならない」
ゆえに、
「ガッデ────ム!!!」
「マッシブダイナマイトママ!!」
先ほどの比ではない筋肉が現れた。
◇
「ちょ、ちょっと待った」
京極は思考をフル回転させる。瞬く間にはじまった弾劾は、いつのまにか自分をビンタする方向で進んでいる。わからない。全く訳がわからない。サンラクがビンタされ、それで終わりではなかったのか? わからない。わからないまま、
「じゃ、じゃあこの勲章を返却します!! それでいいよねっ?」
「京極ちゃん」
静かな。あまりにも静かな声に、ピン、と京極の背筋が伸びた。
「なによりもまず、言うべきことがあると私、思うのだけど」
「ご……ごめんな、さい?」
よくできました、と言わんばかりに和らぐ空気。京極の背筋が少し曲がる、
「なら、償いをしなければいけないこともわかるわね?」
ことを許さず、マッシブダイナマイトは京極の肩を掴んで背筋を強制的に伸ばす。万力のような指が、肩よ歪めとばかりにめり込んでいく。
「えっ、えっ?」
もはや京極は半泣き笑いである。
デデーン 全員 OUT
「え、僕返しましたよ!? あっちの玲さんと一緒じゃないですかっ」
「何故、どこの誰からともわからないものを、身に付けたのかしら?」
秋津茜はビデオメッセージで贈り主がわかっていた。
サイガ-0は、インベントリアにまで入れて、劣化を防いだ。
京極だけが、勲章のアクセサリ性能に目が眩んで身につけていた。
「──」
「分かったかしら。罪には罰を。だからね、パワーしかないの」
剛腕が振りかぶられる。開いた手は鉄塊のように重厚で、そこから生み出されるパワーは一体如何程か。
「あのっ、マッシブダイナマイトさん!」
「何かしら、京極ちゃん」
「や、優しくお願いします……!」
デデーン サンラク オイカッツォ サイガ-0 秋津茜 ルスト モルド OUT
「卑怯だぞ京極──! しおらしく言ってないでさっさとやられなよ!!」
「うるさい!! 幕末と違ってなんかゆっくりやってくるから怖いんだよ!!」
尻を叩かれすぎていい加減ストレスが溜まってきたオイカッツォのヤジに、京極が叫び返す。その顔は必死だ。
多少素が出て優しい声音になったマッシブダイナマイトが、包み込むような声で嗜める。
「京極ちゃん。注射や歯医者さんと一緒よ。早く済ませましょう」
振りかぶる。
「やっ」
京極がビクッと跳ねて逃げようとするが、肩を掴まれているので海老のように跳ねるだけだった。
マッシブダイナマイトが腕を下ろす。
京極が落ち着く。
また振りかぶる。
「やっ、ヤー!?」
また跳ねる。
デデーン サンラク オイカッツォ サイガ-0 秋津茜 ルスト モルド OUT
「もうやられろよー!!」
「潔くしないとねって言ってましたよね、京極さん!」
「京極ちゃん、今度の新年のご挨拶でおじさまとおばさまにご報告しておきますね?」
非難轟々。半泣きを通り越して泣き顔になっている京極。
「いくわよ京極ちゃん、歯を、食いしばりなさい──!!」
その意識の間隙をついて、ついにマッシブダイナマイト渾身のビンタが振るわれた──!!
「ヒ、ヒャあぃびゃッッ!!」
(1カメ)マッシブダイナマイトの真後ろから撮影する、ビンタされ吹き飛ぶ京極のアップ。
(2カメ)京極の後ろからの映像。衝撃で若干首が伸びながら吹っ飛んでいるのがわかる。
(3カメ)直上。首が240度捻れている。
(4カメ)京極のアップ。スローモー。顔の肉がたわみ歪みひょっとこのような形をして、同じくスローモーになった悲鳴がエコーがかかって「アイヤイヤ、アイヤイヤー」と歌っているかのように聞こえる。
そして今、音速を超えた速度のビンタが直撃、京極の頭部を粉砕し、ポリゴンの花吹雪に変えた。
デデーン サンラク オイカッツォ サイガ-0 秋津茜 ルスト モルド OUT
◇
「ヒィッ……げ、ゲームでよかった……、あ?」
恐怖から体を捩らせた京極は、一瞬、反応するのが遅れていた。
自分は休憩場所のベッドで起き上がるはず。しかし、そのベッドは今、上下をひっくり返され、『真下に向かってその上面を向けていた』──!
異能を持つプレイヤーといえど、準備もなく空に放り出されれば如何ともし難い。
見える先は全て闇の、奈落の底。
「きゃああああああああああああ!!」
思わず常にはあげない悲鳴をあげ、京極が落ちる。
闇しか見えない落下中、『青い光』が見えた。
「──餞別である──」
何か声を聞いたような気がするが、京極はよくわからなかった。
サンラクやサイガ-0、オイカッツォなどが聞いていれば、こんな言葉を言ったに違いない。
「何やってんだクターニッド!?」と。
…………。
京極は数秒落ちて、柔らかいところに着地した。
「痛ててて、地下? あー、でも地下牢がどうのって言ってたなそういえば」
見回すと、蝋燭の火の灯りで周囲が見える。
煉瓦造りの堅牢な地下牢。ベッドは三つ。ひとつは自分、もうひとつに何故か女体化したサンラクが座っていた。
そして──、
「また新入りか……」
くぐもった声が、牢に響く。片膝を立て、こちらを見据え、見据え、見据えているはずのその姿に、京極は思わず吹き出しかけて堪える。
「あの、えっと、あなたは……?」
「名を知りたいならそちらが名乗るのが先だろう、後輩。……いや、すまない。こんな牢屋にいる仲だ。上下や立場に意味はないな」
「ええ、私もそう思いますですわ」
妙にしおらしい……いや、身振り手振りで京極に『話を合わせろ』と訴えているサンラクが、京極に促す。訳を一瞬で飲み込んだ京極は、居住まいを正して、声音を普段より低めに落として名を名乗る。だがそうせずとも、京極の声はいつものものではなく、バリトンボイスのいい『男』の声になっていた。
「初めまして、先輩。き、じゃなかった。
牢屋の先達は、京極の声に反応してそちらを向いた。向いた、はずだ。
何故ならその男は、黄金色に輝くバケツを被っていた。あれでは自身の足元しか見えないだろう。
皇金桶カイザーバケット。
京極は知らないが、サンラクが腐るほど余っていた“皇金世代”の素材から量産して、ペンシルゴンがなんやかんや交渉してねだられたので貸している一品である。
ペンシルゴンはそれを、ある意味シャンフロの全鍛治職垂涎のその品を、ある男に被せて外せないようにした。前も見えず、ただ拷問で情報を吐き続けることをこの男に強いた。
その男の名は、
「俺は、オルス……いや、ちゃんとした名を名乗るのもおこがましいな。もう俺は、終わった男だ。だからそう、俺のことは、
敵中に捕まった少年は、実の姉から責め苦を受ける。
妙に豪華なバケツをかぶらされ、足元しか見えない状況で毎日ガンガンと頭をたたかれる。
心も折れ、脱獄を諦めたその時、上から妙な女と男が降ってきた。
次回、『笑ってはいけない旅狼 地下大監獄脱獄編』始まります。
なお残ったメンバーは控室で人生ゲームをやっている模様。
・上流階級ルートを驀進するが一度も恋愛マスを踏まないサイガ-0
・恋人フラグを5個も貯めこんでいるオイカッツォ
・初期は病弱ルートを進んで可哀そうだったが、すぐにハッピールートを驀進することになる秋津茜。
・同じマスに5回一緒に止まると恋人扱いになるんすよ。まさか生まれて5ターンでそうなるとは。ルスト&モルド。