そこは地の
いわれなき罪により地獄に落とされたサンラク(青聖杯)、そして京極(青聖杯)。
彼らはそこで、1人の先達、あるいは絶賛被害者たるバケツロットを名乗る男と出会う。
彼は何故ここに囚われているのか、そのバケツの意味は!?
全ての謎が解決する「笑ってはいけない『旅狼』」が開幕する……!
◆
まぁ全てペンシルゴンが悪いよね(スピード解決)。
俺はこの地獄のような監獄について教えてくれているオルス、ではなくバケツロット君を眺めながら心の中で独りごちた。
『サンラクくんなんかスゴイバケツ持ってるらしーじゃん貸して貸してーアハアハアハアハハー』
と言う邪智棒逆なるペンシルゴンからシャンフロ世界の最新の情勢を聞くことと引き換えに貸し出しているあのカイザーバケット(スペア)がこのような使い方をされているとは。草葉の影の皇帝陛下がギャン泣きしてるぜ。まぁ「あのバケツ被らせて剣でガンガン叩けばどんな
つまり実行したペンシルゴンが悪い。
「つまり──ここは監獄で、お、アタシたちは囚人、と言うこと、ですわ?」
「ああ、そうだ。リカースティール、ケイキョク、アンタら2人がどんな罪を犯してここにきたのかは知らないが、ここではあのバカあn……アーサー・ペンシルゴンが管理する地下監獄だ。ここでは奴に逆らった者、奴が気に食わなかった変態が、おぞましい刑罰を受け続けている」
咄嗟にGH:Cでのアカウント名を名乗って良かった。どうやら俺がサンラクであることや京極が
バケツロット君の学習到達度にそこはかとない不安を抱いた時、重苦しい金属音がして牢獄の扉が開いた。扉の向こうから、豪奢な看守服を着た女が歩いてくる。
「
ウチのサイナさんだった。
「なんだその看守服!?」
「紹介:シュテルンブルームの裏チーム、『スレイヴ・レイヴンズ』のコスチュームです」
『説明しよう! 『スレイヴ・レイヴンズ』とはシュテルンブルーム内でも異色の「恐怖」を歌い上げた特設チームだ。悪とそれを縛り上げる社会制裁の恐怖を謳う彼女たちの姿は悪魔的な熱狂を呼び、当時の検挙率を89%上昇させたという! もちろん普通の監獄なので看守姿のシュテルンブルームはいない。その事実に気づいた囚人たちが残した『盗んだもの返させて!!』と言う叫びは当時の裁判記録を埋め尽くしたという──』
デデーン サンラク OUT
サイナの背後から隔て刃のマスクをつけた看守服を着た男たちがゾロゾロと現れた。
そいつらはコモナの実で出来た警棒を大きく振りかぶると──、
「──天誅!!」
「なにぃ、貴様らまさか幕末からの追手ぐあぁ!!」
クリティカルでケツを叩かれた。なにこれめっちゃ痛い!!!
「さんら、リカースティール!? 無事!?」
「あ、あぁ、大丈夫ですわ……くそ、幕末の流儀を
「──え?」
……おい、なんでそこで意外そうな顔をするんだ。まさか京極お前、幕末不文律『幕末しぐさは
あれはあまりに恐ろしい。一度やらかしたアホがいたと聞き、ちょうどゲームシステム的に気になっていたゲームだったので即購入して行ってみたら、初心者用の装備でチート使用疑惑もあった超上級者を滅多クソに翻弄する『アイアンマシュマロ』氏がいた。心と装備をズタボロに、アイテムを根こそぎ奪ってマネーを捨てさせたのち、「白洲に明日の夜10時」とだけ告げてアイアンマシュマロ氏は去っていった。
言葉どおりの時刻に幕末にインしてみると、幕末の全プレイヤーがいるのではないかと思えるほどの志士たちが白洲を取り囲んでいた。引っ立てられた馬鹿野郎は殺されない程度にボコボコにされており、天誅に慣れていない、リスキル現場から連れ出した震えるニュービーに天誅させる屈辱付き。
行かなきゃいいじゃんって? ハハハ、それができたら幕末志士なんてやってないし、やれば2度とあの世界に浸れないだろう。
「まぁ、京極が市中引き回し打首獄門晒し首マサカド天誅くらうのは別にいいとして──」
「いやよくないよ!! ナニソレ!?」
気にするなよ有名になれるぜ? まぁ終わった後ニュービーどもによってたかって経験値タンクにされる有名税の取り立ては厳しいが。
将来確定された地獄を予感し震えている京極はさておいて、俺たちの他に悲鳴をあげる人がいた。
「──ぐあぁっ!!」
バケツロットさんだった。打首獄門の如く振りかぶられた剣が、黄金のバケツにぶち当たる。痛そう。でも痛みないんだよなあれ。バケツが強すぎて。
「えっ、バケツロットさんも参加者……?」
「
「うぅ……」
呻くバケツロットさん。しかしここで俺は、彼の黄金の精神を知るのである。
彼は、確固たる意志をもって、
「──姉のネット検索履歴の2番目は『胸 垂れない マッサージ』……!」
「「おばぶっ」」
デデーン サンラク 京極 OUT
秘技・
俺は京極を見る。京極も俺を見ていた。
つまり──
「俺たち──」
「僕たち──」
「「きょうだい喧嘩に巻き込まれてる──!!」」
◆
「
こいつ鼻で笑った上になにその異聞帯!? 早く切除しなきゃ。
ルール
①この監獄でお前たちは獄内を見学・体験して罪の精算をしてもらう
②笑ったらケツ天誅
③君たちが笑ったら愚弟も連帯責任でバケツに天誅
バケツロットさんがただただ可哀想になるルールだった。
「だが俺は負けねぇ……天誅? されるたびに、あのクソ姉の秘密をバラしてやる」
「
打ち合わせ済みかよ畜生!! そして乳の垂れ可能性を気にする情報を、出してもいい扱いのいの一番に上げてくるなデリカシー!!!
しかし——と俺は考察する。このルール、「罪の精算」がそのまま脱出・カッツォたちとの合流を示すのかは疑問だ。言葉の定義は重要だ。何より、あのペンシルゴンとのやり取りの場合は。何せテニスゲームで「共に戦おう!」と言ってペア共闘と思ったら俺の後頭部に全力全開スマッシュぶち込んだからなヤツは。その姿に相手のプレイヤーペアがドン引きして勝ったが。何が「忍法・自刃ドン引きの術」だよ自陣がドン引きだよ。
許せないッ……肉親をなんだと思っているのだヤツは。俺たちは怒りに震えた。この怒りは決して消えないだろう。
「
「「「わーいご飯らー」」」
一瞬で消えた。ノリがいいなオルスロットくん。え? 姉の暴虐には慣れてる? 今心底この子可哀想って思えた。
◆
移動の途中、ギャグボールかまされて存外居心地のよさそうなディプスロと、王我星のつたない手で分解掃除されている銃器を血を吐きながら叫び助けようともがく
食堂は待機場所と同じくリアルから見れば一般的なものだった。水を流してモップで拭けばきれいになるリノリウムのような床、片付けやすさと設置面積の都合に合わせたような、簡素な丸椅子。
そしてそこに腕を組んでふんぞりかえる、傷面の女アバター。
「──よう、来たなバケツロット。それに新入りども……!」
「……その声は。気をつけろ2人とも。ヤツはサバイバアル。かつては俺の部下だったが、今は変態どもの親玉をしている」
知ってますし、なんなら貴方より深く知ってる。でもせっかく勘違いしてくれているのでありがたく「へー、そうなんですわ」と返しておく。事情は説明されていたのか、サバイバアルのアホは俺たちにだけ見えるようにウインクした。
いやスッゲェぎこちなくて唇歪んでる!! 変顔すんなボケがうぶぷっ。
デデーン サンラク 京極 OUT
「み゛っ」
「も゛っ」
「ざっ。──うちの姉、大学行ってる間もお年玉もらってた」
デデーン サンラク 京極 OUT
「当時の時点であげるくらい金稼いでただろあのモデル顔……!!」
「さて、看守さんよぉ。今日のメシはなんなんだ? 俺様の舌を満足させてくれるようなモンを頼むぜぇ……?」
人肉すらモシャモシャしていた野人がなんか文化的人類なことゆってる……。
とはいえリヴァイアサン攻略の際に確認したがヤツも称号【美食舌】保有者。つまり味覚制限は解除されている。
「
食堂の片隅、壁と柱の間に挟まれた板の上にある、なんつーかこう場末の頑固一徹で飲食店評価で「机が油でギトギトする」から星3つ付けられてそうなラーメン屋にありそうなモニターが光る。
どじゃあ〜〜〜〜〜ん!!!
大銅鑼が鳴らされ、豪奢な肋骨服を着たキョージュが映し出された。
『──私の記憶が確かならば。『スープ』こそ料理の始まりである。先史時代、土器が発明され、以後肉や野菜を茹でることでその汁を活用する術が生まれた。火を通すことで肉汁として失われる細胞や骨髄の中身に眠る旨味をこぼさず煮出す! それを全て余さず入れたスープは古代ギリシアでは薬としても扱われたという。食べやすさ、それでいて高い栄養価! スープこそ料理の始まりの一! ならばスープを極めれば即ちそれは、料理の極みに至ったと言っていいだろう。ところでわたしは女房の麻婆が好きでね』
地獄のように辛そう。脳内のキョージュがハフハフモムモグっと玉のような汗を搔きながら食べている。匙を差し出して、言う。「食うか?」食うか——!!
『さぁ、ここに『最高の食材』を用意した! 料理人たちよ、存分に腕を振るい、聖杯を勝ち取りたまえ……!!』
キャラ変わってない? あなた、背後からウェザエモンと同じ声をしてる優雅たれおじさん刺したりしない? マジカル八極拳と時速60キロで走ってきてロケットランチャーで襲ってこない?
テンションが異様に高いキョージュが両手を広げると、画面左端から料理人っぽい格好をしたプレイヤーが出てきた。あとついでにウィンプも出てきた。そーいや料理人設定にしてたなそういえば。
『白チーム、クラン『ライブラリ』所属、ジョブ料理人。──オリオン』
『あっ、ああああかチーム『へびのあおりんご』しょぞくっ、ウィんにゅ! ……ウィンプ』
京ティメットが笑いそうだったが堪えた。しかしオリオン、確かクターニッド再戦チーム(別名:自主積極的遭難チーム)の一番最初にいたような気がする。
だとしたら実力は折り紙付き、いや、ライブラリに所属している以上知識では最上級に違いない。ウィンプ、どう勝つ……? というかこれ勝ち負けあんの? 勝ったらどうなるの? そこの説明はない、無いまま画面向こうのテンションだけがヒートアップしていく。
案の定、オリオンは新大陸樹海産鹿肉と王国産野菜をコラボさせた「新旧大陸の融和を願うスープ」の作成を始めている。料理のテーマといい手際といい、洗練されたそれはプロのものだ。料理に疎い俺でも聞けばほぅ、と頷かされるだけの凄みがある。
対して、ウィンプ。
『きいたことがある』
落ち着いていた。
『にんげんって、したがにぶいから、『うまみ』はおにくとおさかなとおやさい3つあるうち、1つのりょうりでは2つまでしかかんじられないって』
マスターの教育がウィンプの中に確かな形で残っていた。
『──むこうは、おにくとおやさい。おなじじゃいけない。おなじじゃかてない。ならこっちは、おにくと、おさかな──!!』
ダァン、とまな板の上に乗る巨大なマグロ。ウィンプは、そのマグロを掴んで──、
『──そぉい!!!!』
ドラム缶風呂かってくらい巨大な寸胴鍋に突っ込んだ!!!!
デデーン サンラク OUT
「いや何も学んでねぇ!!!」
「うぐっ、──料理にちなんで。姉が家庭科で作ったクッキー食べて寝込んだことがある」
デデーン サンラク 京極 OUT
そっちはそっちで何入ってたの!?
「ぐふっ、——一緒に入ってたクラスメートの人が作ったクッキーは美味しかった」
『ここから5じかんにこむ』
だから録画なのか。
ここからはカットかな、と思うと同時に、カメラがパンして上を向く。声が、そこから響いたのだ。
『──あの子はここにいると聞いた』
む、この鈴を転がすような幼女の声は──。そして目に見えてサバイバアルが挙動不審になった訳は──。
「てっ、てててててててててぃ——あすたん!?」
「おいどうしたサバイバアル──ぐあっ!!」
見えないために、あまりの声の挙動不審ぶりを心配したバケツロットが肩に手をかけるが、サバイバアルはしゃらくせぇとばかりに振り解いた。その裏拳がバケツに当たる。
「くっ、──酒に酔った姉には近づくな。ウワバミ名乗ってるけどテンションが上がっててめんどくせえ」
知ってる。というか今のを笑った打撃と勘違いしたのね。──殴ればいくらでも鉛筆のネタを吐き出すマシーンになるなこの子。
『これが今日の料理? 湯で踊り食い? いいしゅこう』
『いやまだゆでてるだけ……ひぅっ、ど、どうぞ、おはいりください』
ウィンプ弱い。
なんの抵抗もできず右衛門掛けのようにビキニアーマーを腕にかけられていく。
「あっっがががががががががががががががてててててててててぃーあすたんがぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
「おい見えねぇけどホントに大丈夫かサバイバアル! お前うちのクランにいた時もだいぶおかしくはあったが、そんな声出さなかったろ!?」
その頃は
『うん。いい湯加減。マグロも生からいい具合に茹でられてる』
「あびゃっびゃぼはだかかかかかかかかかかかかかかかかかかか」
「サバイバール!!! しっかりしろ! 強制ログアウト寸前だぞ!!」
なお声が聞こえるだけで、幼女師匠の影も見えない。声だけで興奮そして痙攣するとかレベルたけー変態だなオイ。
そんな、料理を食べる前からサバイバアルのリアクション芸に腹筋を鍛えられつつ、ついに料理は完成した。ちなみに映像の中で幼女師匠は「いいお湯だった」と髪をタオルで拭きながら去っていった。
「
並ぶ料理。片やテレビでしか見たことのない高級感あふれる、しかしお高くとまるのではなく確実においしいことが伝わるシカ肉料理。
片や、マグロ。頭やステーキなんてチャチなもんじゃねぇ、
心を平安呪術界に飛ばしているうちに、サバイバアルが料理を選ぶターンになっていた。言うまでもなく、
「俺は、ウィンプたんの作った料理をいただくぜッ」
ですよね。
マグロにかぶりつき、サバイバアルは喜色満面、語りだす。
「うむ、この味! この火の通り具合! 最高だ!! しかしマグロ以外に感じるこの甘みはなんだ、野菜じゃない、ほのかなエグみを帯びた甘み……これがティーアスたんの甘み……? ウサギに近い、さすがティーアスたん、味すら一級品だ!!」
怖い。
何が怖いってサバイバアルが一心不乱にマグロにかぶりついている
画面にはわざわざ※印をつけて、こう注意書きを載せている。
【現在映し出されている映像は、ユートピア社の特殊な技術によってプレイヤー名:サバイバアルには表示も、音声も認識できなくなっています。ご承知おきの上、お楽しみください】
「うぅ……、ひとがはいっちゃったらさすがにたべさせられない……これは、はいき」
ひょいと持ち上げた寸胴鍋(マグロ1㌧入り)を奥に片づけて、新しい寸胴鍋で新しいマグロを煮込み始める。
ああ、道理でマグロが一尾まるごと、傷一つなく食卓に並べられたわけだ。というかおかしいと思わなかったのかサバイバアル。
「うん、にこみはじゅんちょう……じゃあ、しょくざいさん、おねがいします」
「——おぅ、ようやっと俺等ぁの出番かぁ」
食材と呼ばれて、異常なまでにドスのきいたダンディな声が答える。
「こっ、この声は……!!」
俺だけが驚愕する。いやウェザエモン、ジークヴルム、オルケストラ、リュカオーン、クターニッド、ゴルドゥニーネ(ウィンプだが)ときたらどっかで来るだろうとは思ったけど!!
「食材、ヴァイスアッシュ罷り越した……いい風呂じゃねぇか?」
「兄貴ぃ!?」
デデーン サンラク OUT
そして俺たちは、サバイバアルの食事会を眺めながら、笑いをこらえ続けるのだった。
「なんて官能的な甘みだ……」
デデーン サンラク 京極 OUT
そうだな、ユニークモンスターに味があるのかは俺ですら知らないが、ウサギの出汁が出ているなら旨いのかもしれないな。——あれ? 生きてる細胞からは出汁は出ないんじゃなかったか? 海が昆布やわかめ味にならない理由をそう聞いたことがある。まぁいいか。
「少し桃のような味もする……これは脇のあたりだな。俺は詳しいんだ」
デデーン サンラク 京極 OUT
兄貴が脇を洗うシーンでそのコメントはやめろぉ!!
デデーン
「このふくよかな香り……まっ、まさかくちびる……? うぉおおおかん、間接キッス……!!」
※ヴァイスアッシュが顔を洗ってるシーンでの発言
デデーン
「……あまりの美味さに、少し酔ったみてぇだな……それだけうめぇ」
※ヴァイスアッシュが飲んでた升酒をうっかりこぼしました
デデーン
デデーン
デデーン
…………
………………
「このスープは俺んだ! 誰にも渡さねぇぞ!!」
どうぞどうぞ、と俺たちは快くウィンプ謹製スープを譲り、非常においしいオリオン製スープを配布されたスプーンで食べた。いや美味いなこれ。肉というのが嬉しい。臭みがなく、それでいてパワーを感じる。うん、肉だね。柔らかくておいしい。きっと臭み消しとしてショウガやニンニク……あと、なんだっけ、キノコ、そうキノコを入れると、肉の筋がこう、こう、いい感じになって……ラードが、固く、いや溶けて、肉がこう、うん。ほかは……野菜かな、シャキシャキしてる。ちょっと甘い。体が嬉しい味をしている、気がする。
そんな浅い感想しか出ないが非常においしかった。
◆
「確認:食事は終わりましたね? では新囚人どもは施設見学の続きです」
どうやらここからはバケツロットさんとは別行動になるらしい。俺たちは即座に視線を交わし、スプーンをバケツロットさんに託すべく、自分のスプーンを手品のように隠す。
「
「おいおいサイナさんよぉ、マスターを信じないってのかい?」
「無論:マスターだから、ですよ」
「もっと雰囲気のあるシチュエーションで言ってほしい、ねっ」
俺は両手を挙げて降参のポーズをとる。もちろん男アバターより少しばかり布面積の多い女アバターとはいえ、ブラはぴっちり。隠す隙間もない。今はスプーンを指の隙間に挟んでサイナからは見えないように持っているが、すぐに京極に向けて自然な手首のスナップだけで投げる。
受け取った京極は二本のスプーンを袖に隠し、バケツロットさんの検査が終わり次第、彼に向かって投げるだろう。これで三本のスプーンが彼に託される。やることはひとつ──古式ゆかしく、脱獄だ。
そうこうしているうちにサイナのボディチェックが京極に迫る。さぁ、そのままボディチェックをすり抜けつつバケツロットさんに渡してもいい、なんなら一度俺を経由してもいい。いっぺんやってみたかったんだこーゆーノー打ち合わせでの
悦に入りながら京極の行動を待つ。
サイナが京極の背中に回った瞬間、京極はスプーンを袖の中をくぐらせ、袂から落とした。サッカーのリフティングの要領で足の親指にスプーンを直立させ、ボールを相手のバケツにシュウウウウウウウウウウト!!!! エキサイティング!!!
「じゃねーよ馬鹿!!!!」
「ごはあっ!! 姉の好きなタイプは自分の言うことを聞きながらそれでも──」
ガゴォン!! と盛大な音を立ててバケツが鳴る。バケツロットさんが机を巻き込みながら倒れる。音を立ててこぼれる、机の上の食器類。極大のダメージを受けても姉の秘密を話そうとしたバケツロットさんには申し訳ないが後半何も聞こえなかった。なんなんアイツの男の好みロボットなの?
「なにやってんだ馬と鹿のアルティメット・シング!! バケツはゴールじゃないんだぞ!?」
「まぁ待ちなよサンラク。あんな大きなスープスプーン、ちょっと隠したくらいじゃすぐバレる」
「……まぁ甘い見通しだったのは認めるが……」
「
「……」
人もロボも、『策を見抜いた』時ほど油断するものだ。
スープスプーンという極大の脅威を排除したサイナは、気が付かない。
バケツロットさんがすでに『スプーン』をその手に握っていることを。
俺たちのグランドイリュージョンは囮……! ブラフ……!!
サイナのバケツロットへの認識はすでに『被害者』……! これだけされても俺たちの仲間のままだとは考えることができない。それだけの仕打ち。だがだからこそ、意識の盲点! 三国志演義の黄蓋しかり、苦肉の策まで把握はできまいよ。
「
「……ああ、うん」
「……『部屋の片づけ』、お願いするよ。バケツロットさん」
「──まかせておけ」
バケツロットさんが去っていく。
俺たちに背を向けて、サイナがこちらを見ていないことを感じ取り、『戦利品』を掲げて。
……俺と京極は顔を見合わせる。
頬が膨らむ。
顔が赤くなる。
かっこよかった。逆光の中消えていくバケツロットさん。
かっこいいんだけどさぁ……!!
デデーン サンラク 京極 OUT
そのスプーンは、俺たちの希望は。
──ヨーグルト買うとき付いてくる紙製の柔らかいスプーンだった。
「すまねぇみんな……俺たち、帰れないかも……!!」