①
私立希望ヶ峰学園。あらゆる分野の超一流高校生を集め、育て上げることを目的とした、政府公認の超特権的な学園。『この学園を卒業すれば、人生において成功したも同然』とまで言われている。国の将来を担う“希望”を育て、才能の研究をする場所だ。そこには、現役の高校生で、何かにおいて超一流の、スカウトされた人物しか入学することが出来ない。
「それにしても、クラッカーやら不良やら、そんな才能育ててどうするって感じだよなぁ……。まあ、せっかくスカウトされたんだし、断る理由もないけど」
そう。俺はその希望ヶ峰学園に“超高校級のハッカー”としてスカウトされている。ハッカーと言いつつ、俺はクラッキングもするため、どちらかと言えば“超高校級のクラッカー”だ。
俺が入学するのは次年度で、今はまだ所属している訳ではないが、同じ学年になるはずの奴らの才能はなんとなく噂で耳にする。“超高校級の吹奏楽部”や“超高校級のディーラー”、“超高校級の催眠術師”なんかもいるらしい。あと、毎年才能を持たない普通の奴らの中から抽選で選ばれる、“超高校級の幸運”という奴も。
天才は変人が多いと言うし、天才の集まる学校とは、つまり変人の集まる学校ではないのか。という不安もあるが、俺も人のことは言えないので、一応覚悟だけはしておくようにしよう。
ふと気が付くと、何故か見覚えのない教室に居た。本当に、気が付いたらここにいたので、どうやってここに来たのかも思い出すことが出来ない。
仕方がないので周りを見渡すと、正面の黒板にぽつんと1枚貼ってある紙を見つけた。
「えっと……『この度は、希望ヶ峰学園への入学おめでとうございます。新入生は8時までに玄関ホールに集合しましょう』か……。入学? 新入生?」
もう一度言うが、希望ヶ峰への入学はまだ先であるはずだった。なのに何故、もう入学したことになっているのだろうか。そもそも、どうしていつの間にか学校にいるのだろうか。
しかし、ここが希望ヶ峰学園であることも、疑った方が良さそうだ。人の気配を感じないし、全体的に暗い。それに、見える範囲に
とりあえず、ここの教室には他に注目すべき物は無さそうだ。状況を理解するためにもこの教室から出て……。と、考えていると、突然ドアが開き、制服を着た女が1人入ってきた。
「……人!」
「……まぁ、見ての通り人だね」
「あ、ごめんなさい……。気が付いたら知らないところにいて、私1人だったから心細くて……」
どうやら、こんな状況になっていたのは俺だけではなかったらしい。
「あなたも玄関ホールに行くように言われてますか?」
「うん。君も?」
「はい。あの、怖いので、一緒に行ってもいいですか?」
「いいよ」
そう言うと、女は大きく肩を撫で下ろした。よっぽど緊張してたんだな。
「えっと、私は
「俺は、
「うーん、何処かで聞いた名前……。あ! もしかして、“超高校級のハッカー”の方!?」
「あぁ、知ってるんだ。そうだよ」
「なんだ、同い年だったんだ……」
そして、女の喋り方が敬語でなくなる。俺は明らかに上の立場な奴じゃなければ大抵敬語使わないけど、律儀なやつなんだな。
「そうだ。私は、“超高校級の幸運”で、暗堂くんと同級生だよ」
「……ってことは、ここが希望ヶ峰学園っていうのは本当なのか……?」
「うーん、どうなんだろう。玄関ホールに行って、他の同級生も居たら、それっぽいよね」
やはり、ここで話していてもなんの情報も得られなさそうだったので、俺たちは大人しく玄関ホールに向かうことにした。
途中の壁に貼ってあった案内を見ながら玄関ホールにたどり着くと、そこには5人の人影があった。変な格好だったり変なものを持っていたりするが、見たところ歳は近そうだし、おそらく全員同級生だろう。
そして、もう1つ。入り口と思われる場所は、厳重すぎるような見た目のドアと、パスワード式のロックがあった。ただの学校に、こんな入り口があるのか……?
榎木が先陣を切り、5人に声をかけた。
「あの! 皆さんは、次に希望ヶ峰学園に入学する予定の人たちですか?」
それを聞いた5人はすぐに集まってきて、口を開く。
「そうだよ! よかった、他にも仲間が居たんだ……!」
「わ、私もです!」
「じゃあ、お前らも“超高校級”なのか?」
「ちょ、ちょっと待って、みんな一斉に喋ったら聞こえないよ……!」
と、榎木は言って、まとめ始めた。こいつがいるとまとめてくれて便利だな……。
そして、1人ずつ軽く自己紹介をすることになり、俺と榎木が先にした。そして次は、状況から考えたらかなり明るい女。
「私は、
噂で聞いていた、“超高校級の吹奏楽部”はこいつのことだったのか。えっと、ユーフォってどんな楽器だったけな……。
「あの、ユーフォーってなんですか?」
「ん? ユーフォーじゃなくて、ユーフォね。ユーフォニアム。ちっちゃいチューバみたいなやつで、吹奏楽だと客席側から見て右の方にいるよ」
やっぱUFOみたいな名前だな。
次は、俺たちが同級生だと分かってからも敬語を話している、女。
「私は
猫か。特に興味もないな。
次は、背中に大きい楽器を背負っている男。ギターかベースのどちらかだろう。
「俺は
次は、さっきからあまり喋らない2人の片方で、手にはタブレット、耳にはイヤフォン……ではなく、補聴器をつけている男。耳が聞こえないのか?
「……僕は
「笹薊……ってもしかして、“超高校級の作曲家”の?」
名前を聞いた橘が割り込んで聞くと、笹薊は一度タブレットに目をやってから答えた。
「……うん、そうだよ」
なるほど。あのタブレットが、周りの声を文字にして表示しているのか。補聴器をつけていてそれということは、結構聞こえないみたいだ。でも、喋ることは出来ているから、先天性では無いんだな。
それにしても、耳が聞こえないのに曲を作れるなんて、流石の“超高校級”だな……。
最後は、変な服を着た女。こいつも、さっきからあまり喋っていない。
「私は
「あれ、思ったよりたくさん喋るんだね」
「話したくない時に話すのはめんどくさいんだよねー。話したくなったら話すよ」
「そ、そっか……」
かなりの自由人……なのか?
そんなことより、こいつの着ている服が気になる。なんと言う服なのか知らないが、俺の知っている言葉で表すなら、ゴスロリとミリタリーの組み合わせ……だろうか。
「なあ、そのコスプレって、なんなんだ?」
「コスプレじゃないよ! 私がこの服を好きで、着たいから着てるの。これは軍服ワンピっていって、名前の通り軍服のデザインを使ったオシャレなの」
ロリータやらを普段着にしてる奴だっているのは知ってたけど、実際に会ったのは始めてだな……。
ここにいた5人との自己紹介は一通り終わった。俺の懸念通り、やっぱり“超高校級”の奴らは個性が強い変な奴が多いみたいだ。俺も、散々昔から変だって言われて来たが、こいつらはどうなんだろうな……。
「えっと……玄関ホールに集まるように言われてましたけど、これからどうしたらいいんでしょう?」
「そういえば、特に変わりないよな」
「あ、そうだ! 私たち同級生って全部で32人いるらしいし、その全員が集まるまで待ってなきゃ行けないんじゃない?」
「いや、でもこの異常な状況に、そんな大勢を巻き込んでるってことあるのかな……?」
異常な状況。確かにそうだ。ここが本当に希望ヶ峰学園なのかはますます怪しくなってきた以上、これはまた別の何かによって起こった事態の可能性が高い。でも、俺みたいな奴はともかく、部活やらに所属してたり、普通に生活してる様な奴まで、全員ここに連れて来るなんて出来るのか? そもそも、ここまで来た記憶どころか、怪しい奴に会った記憶すらないのは何故なんだ……?
と、考えていると、玄関ホールに複数人が固まって入ってきた。先頭にいた男が、少し驚いて口を開く。
「あれ? もうこんなに居たのか……」
「こんなにって?」
「いや、俺は気が付いたらここに居たんだが、他にもたくさん居るみたいだったからな。とりあえずみんなに声をかけて、一緒に来たんだ」
じゃあ、こいつらも同級生か……。そろそろ名前が一度に覚えきれなさそうだ。
「俺は、“超高校級のサッカー部長”、
「“超高校級のサッカー部員”、
柏木の方は人と接するのが上手そうだけど、平川の方は騒がしいバカの様な雰囲気がする。ジャージだし。
「部長と部員で分かれてるんだね?」
「颯は部長として戦略立てたり、チームをまとめたりってして、俺はそれを実行するんだ! 俺たちは最強コンビなんだぜ?」
元から知り合いの2人が同時にスカウトされることもあるんだな……。こいつらの場合は特に、2人揃ってこその“超高校級”って理由もありそうだが。
ふと横を見ると、榎木が驚いたように固まっている。
「榎木さん、どうかした?」
「りょ、りょ、りょうくん……あ、違う! りょうさん!」
りょう……って誰だ? 知り合いなのか……?
「もしかして、僕のこと知ってくれてるの?」
「は、はい!」
どうやら、榎木が一方的に知っているだけらしい。2人だけで話が進んで行っても困るし、割り込むか……。
「あの、とりあえずみんなに自己紹介してくれないか?」
「あ、ごめんなさい。……僕は、
なるほど、ネットで配信者をやってるやつなのか。そして、榎木はそのファン……だろうな。あぁ、配信者の場合の言い方はリスナーだったか?
「う、うぅ……。りょうくんが“超高校級の配信者”として入学するのは知ってたし、対面しても落ち着けるように心の準備もしてたけど……。やっぱり実際に会ったら落ち着けない……!」
と、榎木はぶつぶつ独り言を言っている。本人に聞こえてもいいのか? というか、かなり熱狂的だな。
すると、椎柴の隣に居た女が前に出てくる。
「やっぱり、りょうくんのリスナーもいるのね……。まぁ、人気者だししょうがないか」
その女はそう言った後、咳払いをして自己紹介に入った。
「あたしは、“超高校級のMIX師”の、しゅりなこと
「あのさ、MIX師って何をやってるんだ?」
「うーん。色々あるけど、簡単にいうと、歌声を補正したり加工したりして、伴奏と合うように調整する……って感じかな」
「へぇー。そんな作業があるのか」
柏木が連れてきた奴は、あと2人。まずは男の方が話すみたいだ。
「僕は
こいつが例の“超高校級の催眠術師”か。催眠術師と聞くと、もっと怪しげな奴を想像してたけど、思ったより普通なんだな。
乃木の自己紹介が終わっても、女の方は口を開かなかった。しかし、話を聞いている素振りはあるので、無視でもなさそうだ。何なんだ?
「えっと、自己紹介を……」
「…………」
返事がない。ただの屍のようだ。……と、ふざけてる場合じゃないか。どうしていいか分からずに戸惑っていると、乃木が話しかけた。
「名前だけでも教えてくれませんか?」
「……
物凄い無口・無表情キャラだな……。そんなんで生活できるのか?
これで、ここにいるのは13人になった。まだ、希望ヶ峰学園に入学する予定の同級生全員が集められているのかは分からないが、これでだいたい決まった様なものだろう。これだけの大人数、しかも天才たちを突然連れて来ることが出来る何かが、この状況を作っているはずだ。
しばらくすると、1人、2人とまた別の奴がやって来た。
「うわっ。こんなに人いたのかよ……」
「あなたは?」
「なんで教えなきゃいけないんだ?」
「私たち、気が付いたら突然こんな所にいたんだよ。あなたもでしょ?」
「まぁそうだけど……。名前くらいはいいか。俺は
「あ、“超高校級のディーラー”の人だよね」
榎木がそう言うと、なんで知ってるんだよ、と言いたげに顔をしかめた。
最初はディーラーと聞いて、なんのディーラーか分からなかったが、調べた所カジノディーラーらしい。海外のカジノで活躍していたが、丁度日本に帰ってくるため、そのタイミングで希望ヶ峰学園に入学する予定だとか。
そして、もう1人の方の女が近づいてくる。
「私は
「何をやってる人なの?」
「……闇医者」
と、目を逸らして言った。闇医者か……。そんな裏の奴も居たんだな。
その後、今度は2人の女が入って来た。そして、その1人が口を開く。
「あなたたちも新入生?」
「え、新入生って……あれを信じてるの?」
「半分くらいね。あ、申し遅れてごめんなさい。私は
「“超高校級の記憶力”……?」
「ええと、俗に言う完全記憶能力のことね」
「えー、凄いねー!」
完全記憶能力なんて、アニメなんかでしか見たこと無いな……。
そして、もう1人の女も話し出した。
「私は
「サバイバーって、生き残りってこと? なんの?」
すると、箭倉井ではなく、和夏園の方が答えた。
「そのサバイバーじゃなくて、サバイバル力が“超高校級”って意味よ。無人島サバイバルとかのサバイバル」
「あ、そっちだったんだね」
サバイバルの“超高校級”なんて居たのか。まぁ、たまに変な才能でスカウトされてる奴もいるし、そこまで変ではないが。
これで全員なのか、まだ居るのかは分からないが、だいぶこの玄関ホールも人が多くなってきた。いつまでここに居ればいいんだ? と、考えていた時。突然、学校のチャイムの音が鳴り響いた。
「あー、あー……。校内放送です! 校内放送です! 新入生の皆さん、今から入学式を行います! 至急、体育館までお集まりください!」
それだけ言って、声は聞こえなくなった。
「えっと……どうしようか?」
「とりあえず、行かない? ここが希望ヶ峰学園ならそれでいいし、悪い人が言ってるなら、行かないと何されるか分からないし……」
それを聞いて、みんなも行くことにしたようだ。これは、何のために、何が、何をしようとしているのか。分からないけど……せいぜい楽しければいいんだが。