聖グロ戦記   作:キームン

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三羽烏は、お馬鹿トリオ

「私が車長席だと思うのですが?」

 

金髪のギブソンタックの少女。ダージリンがいう。この場面で格言なんて出そうものなら顔面に右ストレートをお見舞いしようと思っていたのでそうならずに済んで良かったと思った。

 

「私が車長席にぴったりだろう。なぁ、キームン」

 

ピンクの髪を三つ編みにした少女。ウバが私に問う。少し男っぽくてファンクラブまで出来つつあるのだが、本人は知らないしファンクラブの会長が私だということは絶対に秘密だ。

 

「バレンタインと同じでいいと思いませんか?」

 

黒髪ツインテールで、他の二人より可愛い少女が私、キームンだ。可愛い上に性格も家柄も格上の私が一番異性にモテる。と心の片隅で思っている。

 

「キームンの意見は最もだが、やはり私に任せて貰えないだろうか?」

 

「キームンは、私の味方よ。ニ対一で私が車長席よ」

 

「私の意見無視しないで欲しいのですが」

 

ギャハハと淑女らしくない笑いが聞こえた。この場にいる唯一の上級生であるアールグレイ様だ。相変わらずカベナンターの砲塔に座り込んでいる。

 

「あー面白い。早くしないと日が暮れちゃうよ。それとキームンは監督不行き届きで減給処分だから」

 

カベナンターに乗らなきゃ帰れません。をやらなきやいけないのに、その前段階で躓いているのだアールグレイ様に雇われた事実は無いのだが、やはり私が主犯だと思われているじゃないか。

 

アールグレイ様が、「車長席は操縦席より暑さがマシになる」

 

なんて、言い出すしたのだ。アールグレイ様が、こんな事を言い出すのはいつもの事たが、この二人が踊るのは珍しい。私はただ適当にのって一周回るだけのこの罰をさっさと終わらせたいだけだ。

 

 

 それは4日程前のこと聖グロの無駄に豪華な学食(超高級レストランみたいなと形容詞を付けたい位な場所)でお昼を食べていた。

 

「ダージリンもウバも次の紅白戦でないんだ」

 

「あら、キームンもそうなの」

 

「二人もなのか」

 

 今度の週末にある一年のみの紅白戦の話になった。私はダージリンとウバが両組の隊長だと思っていた。そして残りの二人も同様に二人が両組の隊長だと思っていたようだ。後で知ったのだが隊長はディンブラとプアールの二人だった。

 

「我々の実力を見せつけるべきではないか?」

 

「面白くないという意見には賛成ね」

 

「じゃあセイロン様かアールグレイ様に掛け合わなくてはいけませんわ」

 

 セイロン様というのは、聖グロリアーナ戦車隊隊長なのだが、生まれつき体が弱く入学してから7度も会っていない先輩なのだ。普段はアールグレイ様が隊長代理としてアレコレと指示してくる。

 

「それは反対ですわ」

 

「私もだ」

 

「せめてアールグレイ様に話を通してからの方がよろしいと思いますが」

 

 ダージリンとウバは時々団結する。いつもは喧嘩というか言い争いをしているのだが、持ち前の負けん気から共闘を選んだ時、私じゃ制御出来ない程の大きな岩となり転がり落ちていくのを待つことになる。本当に私の話を聞かなくなる。

 

「3人乗りですと、クルセイダーやバレンタイン等があるがどうする?」

 

「クルセイダーは試合に出る可能性が高いですし、ここはバレンタイン一択ですわ」

 

「なら私は操縦手をやろう」

 

「でしたら装填手をやりますわ。キームンは車長兼砲手ですわ」

 

「え?私が主犯っぽくなってません?ダージリン?ウバ?」

 

「「気のせい(ですわ)」」

 

 入学当初から期待され、三羽烏と持て囃され三大銘茶のティーネームを貰ったが、二人のお目付け役のようなポジションになり貧乏くじばかり引かされてきた。今日こそはガツンと報連相を叩きこんで私の苦労を軽減します。

 

「ダージリンにウバも報連相って知ってます?」

 

「野菜ですわ」

 

「そうだな。なんだ?食べたいのならそういえばいいのに」

 

 ほうれん草のお浸しを食べさせようとする天然お嬢様。リアルあーんを経験するとは思わなかった。美味しいが、私が頼んだサンドイッチセットには余り合わないようだ。だが、ウバのBセットボルシチにお浸しにナン。味覚・組み合わせがイギリスレベル!

 

「あら、胡麻和えも食べさせてあげますわ」

 

 食べるけど、サンドイッチとは以下略!ダージリンが今日食べてるのはSセット。数量限定のスペシャルなセットなのだが、今日は琉球料理のようだ。ゴーヤ―チャンプルーにチラガーモズクの酢の物等々。ほうれん草が異彩を放つレベル。謎ののほうれん草押し!

 

「お浸しと胡麻和えどちらが美味しかった」

 

「お浸しの方が美味しいだろう」

 

 はぁ?笑顔で何言ってるの?ダージリンの馬鹿。ウバも何だかんだで乗っちゃったし。本当にめんどくさいぞ。聞かなかった振りして最後のサンドイッチをパクリ。

 

「ほうれん草だし」

 

 パンとほうれん草とジャム。イチゴじゃなく柑橘系のジャム。何なの?嫌がらせ?殺意湧くレベルじゃん。栄養士とか本当にいるの?もしかしたらマーマレードかも。ってそっちもダメじゃん

 

「ん?サンドイッチにほうれん草か。美味しそうだな。少し分けてくれ」

 

「そうですわね。私も貰いますわ」

 

 ほうれん草サンドイッチが一番美味しいということに落ち着いた。めでたしめでたし。ほうれん草ショックで忘れていた4日後の紅白戦は、バレンタイン乱入事件と永らく語られることになる。おひたしおひたし。


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