音撃戦士譚 護神鬼   作:大ちゃんネオ

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選択の岐路

 護神鬼の屋敷に来てから四日が経った。

 明日か明後日には返事が来るだろうと言っていた源治さん(金岡源治さんという。あとで知った)であったがその予測は現状外れていた。

 

「おかしいねぇ。急ぎで返事をくれと頼んだんだけど……」

 

 いつも皆さんと食事をする居間で源治さんと手紙のことについて話す。

 源治さんも返事が来ないことを訝しんでいた。

 

「いえ……。返事が来るまで待ちます私」

 

 そうは言ってもだ、いつまでもここで皆さんの厄介になるわけにもいかない。

 掃除、洗濯、炊事と皆さんのお手伝いをしてはいるがやはり日毎に居心地は悪くなってくる。

 皆さん優しいので気にするなとは言ってくれるが……。

 

「源さん。ちょっといいかな」

 

 イタダキさんが源治さんに用があるようでやって来た。

 室内にいた私を見つけるとイタダキさんはちょうど良かったと仰ったので返事が来たのかと期待したが違ったようであった。

 しかし、全てが全て違ったというわけでもないらしい。

 

「明日から吉野で会合があるのでこれから発つんだが、紫苑さんのことを聞こうと思う。まあ、返事が遅れてるだけかもしれないがね」

 

 優しく微笑みながらイタダキさんはそう言った。

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 もうここに来てから何度目かの礼。

 本当にこの人達には頭が上がらない。

 

「まあまあ頭を上げて。当然のことをしているまでさ」

「いえ!もうどうお礼すれば……」

「礼なんてとんでもない!ここ数日詩織君のおかげで旨い飯が食えている。それで充分さ」

「ですが……」

「いいからいいから。本当に気にしないで」 

 

 本当に、本当にここの人達は優しい。

 ひとしきりお礼を言うと、イタダキさんは源治さんと共に部屋を出た。

 明日の会合のことで至急確認したいことがあるという。

 ……それから三日後のこと。

 

「どういうことですか、それ……。教えられないって……。」

「紫苑君について教えることは出来ないとね……。それの一点張りでどうしようもなかった」

 

 イタダキさんですら教えてもらえなかったなんて……。

 

「本当にすまない。君との約束を果たすことが出来なかった」

「そんな! 頭を上げてください……。イタダキさんは何も悪くありません」

 

 三日前とは逆転して今度は私が頭を下げられる立場になってしまった。

 それも、謝罪。

 

「吉野がそう言ったなら仕方ねぇ。言えないとは言え生きてるってことだろう。それだけ分かったなら充分だ。だからさっさと江戸に帰れ」

 

 イバラキさんのその言葉に私はとうとう堪忍袋の尾が切れた。

 

「帰れません! ちゃんと無事なのか確認出来ないと……。私……」

「なにか、紫苑さんにあったのかい?」

 

 イタダキさんが優しい声で問いかける。

 私は肌身離さず持っていた姉様からの最後の手紙をイタダキさんに渡した。

 封の中から手紙を取り出し目を通すイタダキさん。

 手紙の内容はこうだ。

 

『お元気ですか。 寒くなってきましたね。京では雪が降りました。江戸はどうですか。この冬は寒くなるという話ですから詩織も気を付けてくださいね。ちゃんと暖かくして過ごしてください』

 

 ここまでなら、よくある手紙。

 だが……。

 気になるのはここから続く最後の一文。

 

「叶うのであれば、もう一度貴女に会いたいです……。なるほど、これは気になるな……」

「はい……。どうしても心配になってしまってすぐに返事を出したんですがこれ以降の返事がなくて気が気でなくて……」

 

 そうしていよいよ居ても立ってもいられず江戸を出て京を目指した……。

 

「……詩織君。正直なことを言うと、今お姉さんと会うことは厳しいだろう。だから江戸で帰りを待っているのがいいかもしれない」

「そんな! 諦められません!」

「イタダキさんがこう言ってんだ。大人しく帰れ」

 

 ッ……。

 無理だ、諦めきれない。

 だったらもう最後の手段だ。

 

「分かりました。ここから出ていきます。お世話になりました。ですが江戸には帰りません。京に残って姉様を探します!」

「なっ!? てめえ言っただろうが京はいま危ねえんだ! 攘夷浪士どころか魔化魍だっているんだぞ! 分かってんのか!!!」

「姉様を見つけるまで死んでたまるものですか! とにかく出ていきます!」

 

 立ち上がり部屋を出ようとする。

 もうこんなところいられるかと。

 しかし、そんな私を源治さんが呼び止めた。

 

「まあまあ落ち着いて。詩織君も一旦座って聞いてほしいんだ。なあどうだろうイタダキさん。詩織君をここで働かせるというのは」

 

 その言葉に私も含め全員が驚いた。

 それも当然だろう。

 まったくの予想外だったのだから。

 

「しかしだな源さん……」

「俺は源さんの意見に賛成だぜ。飛車がいれば助かるしな。それに詩織ちゃんの飯は旨い」

 

 ツラヌキさんが早速賛成の声をあげると続いてタツマキさんも賛成した。

 

「確かに飛車がいてくれれば助かるが一人だけでは負担が大きいだろう」

「まあ、飛車が必要そうな任務につけて他のことはいつも通り俺達でやる。それでいいだろ?」

「俺は反対だ。今までだって俺達でなんとかなってんだ。それで充分だ」

 

 イバラキさんはやはり反対した。

 だが、思わぬ言葉が飛び出たのだ。

 

「でもさ、お姉さんを探すとか言ってあちこちうろちょろして嗅ぎ回られるのも面倒でしょ? だったらこっちである程度手綱を握るということでここに置いてもいいんじゃない?」

 

 ランキさんが理由はとにかく賛成を表明。

 意外過ぎてビックリしてしまった。

 

「まあ、一人雇うくらいならわけか……」

「おいイタダキさん……」

「そういえば、イバラキさん小姓が欲しいとかなんとか言ってませんでした? ちょうどいいじゃないですか」

 

 ランキさんがイバラキさんに対して追撃する。

 何処と無く今のランキさんは楽しそうに見えた。

 

「キリサキ。お前はどう思う?」

「……イタダキさんの決定に任せる」

 

 悩むイタダキさん。

 というかそもそも……。

 

「詩織君はどうしたい?」

 

 私の意思は……。

 

「ここで働かせてください。お願いします!」

 

 やはり、一人で探すよりも姉様と関係ある人達と行動を共にするのが良いだろう。

 

「決まりだな。こんな形ではあるがよろしく頼むよ詩織君」

「はい! 精一杯働かせていただきます!」

「それじゃあまずは研修だね。キリサキ君の任務に同行して魔化魍との戦いというのがどういうものか見てくるといい」

 

 魔化魍との戦い……。

 途端に緊張が走る。

 気を引き締めていかないと。

 

「それじゃあキリサキ君よろしく頼むよ」

「承知」

 

 傍らに置いていた刀を取り立ち上がるキリサキさん。

 行くぞと言われ、後を追った。

 ここからが、ここからが本当の始まり。

 皆さんのお手伝いをしていけばきっと、姉様に繋がる何かが得られるはずと信じて。




次回「切り裂く鬼」お楽しみに
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