音撃戦士譚 護神鬼   作:大ちゃんネオ

7 / 7
切り裂く鬼

 屋敷を出て歩いて半刻(一時間)ほど。

 十歩ほど前を歩くキリサキさんの背中をずっと見ている。

 紫色の布に巻かれた何かを背負って歩いているが全く疲れている様子はない。

 

「あの、キリサキさん……」 

「なんだ」

「その、少し休憩を……」

 

 都から少し離れた村への道中。

 私は膝に手をついて立ち止まった。

 背負う荷物が重いのだ。

 それに近くに茶屋もあるし休憩にはちょうどいい。

 熱いお茶とお団子……。

 

「駄目だ。一秒でも惜しいからな」

「そんなぁ」

 

 少しぐらいいいではないかと抗議を目で訴える。

 が、逆にキリサキさんの涼しげな目が私を捉えた。

 

「俺達鬼でなければ魔化魍は倒せない。だから急がねばならんのだ」

「え……?」

「一人でも多く救いたい。あんたも、そうは思わないか?」

 

 一人でも多く。

 あの夜のことを思い出す。

 魔化魍に殺されかけたあの夜を。

 私は助けてもらったからこうして生きているが、もしも間に合わなかったら……。

 

「そうですね。頑張ります!」

 

 そう意気込んで荷物を背負い直しキリサキさんに追い付く。

 きついけど、人命がかかっているのなら……!

 

 

 

 

 

 あれから一刻(約二時間)ほど歩いて到着したのは小さな農村。

 村の人達はみんな笑顔で迎え入れてくれたので良い空気の村だ。 

 なんならキリサキさんのことを村の人達は知っているようだった。

 

「あの、キリサキさんこの村は?」

「ここは()の村だ」

 

 歩?

 また将棋の駒が由来だと思うけれど一体何をする人達なのだろう?

 

「歩は猛士の協力者達だ。情報収集や鬼に宿泊場所を提供する。特にこの村は歩の村と言われる。村全体が歩なのだ」 

「へぇ。あ、あれはなんですか?」

 

 私と同じか少し年下と見られる少年達が五人ほど列をなして走っている。

 そしてその少年達の列に並走する壮年の男性。

 男性は時折大声で少年達に声をかけているようだった。

 

「あれは()()。鬼となるための修行を積んでいる者達で男の方は師匠だな」

「すごい大変そうですね……」

「鬼になるには生半可な鍛え方ではいけない。厳しい修行を乗り越えた者だけが鬼となるのだ」

 

 なるほど。

 確かに鬼になるなんて普通ではないので本当に想像以上の修行を積むのだろう。

 一生懸命に走る少年達を眺めながらそんなことを考えているとキリサキさんがいつの間にか私を置いてすたすたと歩き去っていたので慌てて追いかける。

 こちらは重い荷物を背負っているのに!

 せめて声をかけてほしいと思うのは私だけではないはずだ。

 小走りで走り出した瞬間であった。

 女性の悲鳴が村を駆け巡った。

 

「なに!?」

 

 声がした方を振り向いた瞬間、風が通り抜けた。

 いや、風だと思ったのは駆けるキリサキさんであった。

 あまりの速さに呆けてしまったが私も後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 赤い鎧武者のような魔化魍【火焔大将】は異形な剣を振り上げ、今にも女を斬らんとしていた。

 

「だ、誰か……」

 

 女は赤子を抱いていた。

 赤子だけは守りたい。

 だが、どうしようも出来ないという諦めが女を蝕んでいた。

 だが、ここには既に()がやって来ていた。

 

 火焔大将が剣を振り下ろす。

 だが、その刃は女には届かなかった。

 

「やらせるわけにはいかんな」

「ッ!?」

 

 魔化魍の剣を受け止めたキリサキの刀。

 白刃が太陽の光を反射し、火焔大将の目を眩ませた。

 その隙を見逃すような真似を精鋭護神鬼の鬼であるキリサキが見逃す真似はしない。

 火焔大将の剣を弾き、がら空きとなった胴を蹴り飛ばす。

 

「早く逃げろ」

「は、はい……」

「静女、その女性を頼む」

「分かりました!」

 

 追いついた詩織にそう指示を飛ばすと、キリサキは刀を鞘に納め、火焔大将と睨み合う。

 背負っていた荷物を近くの小屋に立て掛けると懐から変身音叉音角を取り出し、鯉口を切った。

 鞘から覗く刃に音角を当て、響かせる。

 清らかな音が、村に鳴り響く……。

 

「────切裂鬼(キリサキ)」 

 

 音角を額の前に掲げ、自身の鬼名(おにな)を紡ぐ。

 額に音角に象られた鬼の顔が浮かび上がり、キリサキは白い光に包まれた。

 

「眩しッ!?」

 

 女を安全な所まで送った詩織はその眩しさに思わず顔を隠した。

 キリサキの周囲が見えなくなるほどの強烈な光。

 小さな太陽が地上に現れたかのようだった。

 

「─────はッ!!!」

 

 居合が光を切り裂き、鬼は現れた。

 白い身体。

 紫色の隈取と腕。

 上半身を襷掛けしたように走る弦の色は返り血のような赤。

 そして、刀の(きっさき)のような紫色の一本角が陽光を反射して煌めいていた。

 

 切裂鬼。

 名の如く、魔を斬る鬼である。

 

 刀の鋒を火焔大将に向ける切裂鬼。

 じわり、じわりと間合を互いに見合い……同時に踏み込んだ。

 異形の刀と斬り結ぶ切裂鬼の刀。

 魔化魍の剣と比べると貧弱そうに見えるが鬼のために鍛えられたこの刀は見た目こそ普通の刀ではあるがその強度、切れ味は正に業物。

 それも()()()()()()()()

 鬼刀 魔切守白鶴(きとう まきりのかみしらつる)と言えば鬼の中では知らぬ者はいないほどの名刀であった。

 そしてそれを扱う切裂鬼は鬼きっての剣の腕前。

 鬼に金棒ならぬ切裂鬼に刀と謳われるほどであった。

 

「はあッ!!!」

 

 火焔大将を押し返し、神速の突きを繰り出す切裂鬼。

 しかし火焔大将もまた鬼になどやられてたまるかと間一髪、刃が顔を掠めはしたが避けることは出来た。

 

「!?!?」

 

 だが、それで終わりのはずがなかった。

 繰り出される弐の突き、参の突き。

 いや、それ以上。

 刃の嵐が赤い鎧を削っていく。

 これ以上はまずいと牙の生える異形の口から吐き出した炎で切裂鬼を牽制する。

 目の前に広がる炎を後退して回避する切裂鬼。

 それを逃さんと火焔大将。今度は剣ではなく、両腕についた斧を用いた肉弾戦で切裂鬼に挑む。

 近い間合にやりづらさを感じる。

 確かにこれは切裂鬼にとっても苦手な間合である。

 しかし、そんな間合だからこそ研究し、対策を講じるのが一線で活躍する鬼である。

 

鬼幻術(きげんじゅつ) 鬼蛍(おにぼたる)

 

 火焔大将の拳、斧の連撃を回避した切裂鬼は一瞬の隙を突き、火焔大将の眼前で自身の両拳を殴り合わせた。

 すると、そこから強烈な光が発せられる。

 それを間近で見てしまった火焔大将は自身の光を失い、暗い闇の底を彷徨うこととなった。

 

「終わりだ、魔化魍」

 

 刀を握り直し、構える切裂鬼。

 白刃が真白の光を発すると次の瞬間には切裂鬼は火焔大将の背後にいた。

 

「ァ……」

 

 色を失い、土へと還る火焔大将。

 

 『鬼剣術(きけんじゅつ) 光輝刃(こうきじん)

 

 切裂鬼の得意とする技が火焔大将を切り裂いた。

 残心。

 火焔大将が確実に倒されたことを悟って、切裂鬼は変身を解き刀を鞘に納める。

 そして足下の火焔大将だった土を見下ろす。

 

「キリサキさーん! 大丈夫ですかー!」

 

 詩織がキリサキに駆け寄り無事を確認する。

 問題ないとだけ伝えて、キリサキは再び視線を戻した。

 

「火焔大将。戦場だった土地の土が魔化魍となったものと伝えられている」

「戦場だった土地……」

「この辺りは歴史上戦乱が多かった土地故に火焔大将やそれに近しい魔化魍が多い。魔化魍についても学ぶのだな」

 

 詩織にそう告げ、キリサキは踵を返した。

 再びキリサキの元へ駆け寄り、並んで歩く詩織。

 彼女は目の前で起こった戦いのせいか若干興奮した様子で話を切り出した。

 

「魔化魍も一瞬でやっつけちゃいましたしこれで仕事終わりですね! 思ってたよりも早くて驚いちゃいました」

「いや、今回の任務はあれを倒すことではない」

「え」

 

 キリサキの言葉に固まる詩織。

 てっきりあれが今回の任務で倒すべき魔化魍なのだと思い込んでしまっていたのだ。

 

「行くぞ。思わぬ闖入者だったが任務はこれからだ」

「そ、そんな……」

 

 項垂れる詩織。

 だが、姉である紫苑のことを思い起こせばなんてことない。

 まだ、全ては始まったばかりなのだからと自身を奮い起たせた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。