『残火の太刀』る   作:たわーおぶてらー

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ユーハバッハテイストの書いてたら更新遅れました謝りません、勝つまでは




面倒事②

 

 

 

 

 

 

 

 半人半魔。今代の『白龍皇』ヴァーリ。本名をヴァーリ・ルシファー。

 

 古き悪魔の血筋と強力な神器の組み合わせはこの上ない才覚と可能性を彼に与えたと同時に、一つの制限を生んでしまっている。

 強力だからこそ存在するデメリットではなく、彼の頼りとする力が力であるが故の欠点。

 

 すなわち、『禁手』を行わなければ全力で戦闘出来ないというこの一点。

 

 世界の均衡を破壊するほどの力ではあるが、必然発動までにほんの僅かだがラグがある。

 その隙間、僅かな間隙に入り込むようにして腕が伸びた。

 

「なん……ッ!?」

 

「緩いぞ、童」

 

 伸ばされた右の掌が顔を掴み、ヴァーリは上空へと放り出された。

 その時点で膂力の差を認め、空という半魔にして白龍皇に有利な場所へと己を放り出した愚かさを突きつけてやろうとする。

 

 空とは翼あるものの領域。飛行の術はないことも無いが、翼を持つ種族の方が優れているのは道理。

 それ故に僅かな緩みが生まれるが、躊躇なく空中に追撃してきた拳に顔を撃ち抜かれた。

 

「ぐ、ゥ……」

 

「手緩いと言っている」

 

 まともに受けるのはギリギリで回避したが、無傷では済まなかった。

 距離を瞬く間に詰める速度に驚嘆したヴァーリだが、体勢を立て直して直視した空中に立つ男が視界に映る。

 

「───」

 

 翼あるものの有利など関係ない。

 まるで大地に立つが如く空を踏み締め、刀を抜く素振りすら見せない男は明らかに手を抜いている。

 

 致命的な隙を晒したヴァーリを葬らず、致命となる一撃もない。

 今もこうして追撃せずに待っている様は、手緩いと言われるのはどちらかという話である。

 

 故に、彼は心の底から憤怒した。

 

 

「──『禁手化(バランス・ブレイク)』!!!」

 

 ──『Vanishing Dragon Balance Breaker』──

 

 十三の『神滅具』の一つ、『白龍皇の翼(ディバイン・ディバイディング)』。

 二天龍の片割れ、白き龍の封じられた『神器』。半減という特異かつ強力な能力を保有するそれは、触れたものの力を半分にして獲得するという凶悪な性能を誇る。

 

 その禁手、『白龍皇(ディバイン・ディバイディング・)の鎧(スケイルメイル)』の能力は当然その延長線にある。

 半減という特性をそのままに、対象への接触という制限を取り払い、半減対象の上限も底上げされる。

 

 その気になれば空間すら半減によって圧縮可能なそれは、人間を相手にするには明らかに過剰。

 

 増してや、ヴァーリは魔王ルシファーの血を引く者。その最大出力は過去最高であり、当然のように重國の肉体を捻じ切らんとヴァーリを中心として空間が縮小する。

 

「──効かん」

 

「ああ、そうだろうさ!!」

 

 だが当然のように半減の枷を引きちぎり、外部へと出力された白龍皇の力を重國は霊圧で捩じ伏せた。

 そこには些かの痛苦もなく、あるのは悠然と佇む人の姿。圧倒的な力を放つ、高すぎる壁。

 

 なにせ、半減して減ったから増やして対応しているのではなく、そもそも干渉仕切れていないから減っていない。

 それはつまり、ヴァーリの干渉成し得ぬ神の領域に重國があるということであり、厳然とした実力の差が横たわっているということ。

 

「だがそれでこそ、挑む価値があるッ!!」

 

 その程度で衰える闘志はなく、即座に音を置き去りにして突撃。

 目視困難な速度までノータイムで加速した拳を正面から叩き付け、差し込まれた掌に受け止められる。

 

 直接接触したことにより半減をより強く作用させるが、膨大過ぎる総量と干渉を許さない制御力によって無視される。

 次いで、重國が動作を行う前に側頭部へと爪先を叩き込み、半身をそらして回避された。

 

 伸びた足を掴まれ、引き寄せられる。

 抵抗するヴァーリだが、膂力の差は歴然だ。そのまますれ違うように引かれ、交差の瞬間に離された腕がヴァーリの顔面を交差した腕の上から殴打した。

 

 鎧は砕けこそしないものの尋常ならざる衝撃が彼の腕を貫き、広範囲に張られた結界に衝突するほど吹き飛ばされて漸く停止した。

 

『……ヴァーリ』

 

「っ、問題ないさ」

 

 余りの規格外に『神器』に宿る龍が口を挟むが、何を言わせるでもなく黙らせた。

 元より格上であることは承知している。これを超え、さらなる高みへ至るのだと闘志を燃やして彼は飛ぶ。

 

 未だ刀を抜く気配のない重國を必ず本気にさせるのだと奮起する。

 その気配を察知したが故に、彼はそれを手折ろうと踏み込んだ。

 

「速いッ──!?」

 

 何らかの歩法か。視認すら能わぬ速度を以て懐へと踏み込み、拳骨を腹部に当てる。

 

 ただの正拳突き、あるいは拳骨。

 しかし発生するのは砲弾の如き轟音と大気を震わす衝撃。

 

 

「『一骨』」

 

「──────!!?!?」

 

 痛みによる叫びすら溢れない。

 強過ぎる衝撃がヴァーリを鎧越しに打ち据え、呼吸を無視して息を全て絞り出させた。

 

 鎧は砕け、内臓は破裂さえしなかったものの、幾つかは傷ついたのだろう。

 フルフェイスの内側は血の味と匂いで満たされている。もし鎧がなければ、今の一撃で死んでいた。

 

「存外に頑丈だな、小童」

 

「……そういう、君はっ、ずいぶんと……手緩いじゃないか」

 

「半殺しにすると言った。捕らえて吐かせるんだ、死なないように気をつけろ」

 

 アザゼルとバラキエルを瀕死にした炎は、その片鱗すら見せていない。

 ヴァーリは鞘で殴打されることも無く、ただ片手で払われているだけだ。

 

 多少は戦うという行為を行っているが、もはや真っ当な戦闘として成立しているかも怪しい。

 本気になられればその時点で敗北が確定する。

 

 そして、今のヴァーリではその本気を引き出すことは出来ない。

 皮肉にも、彼はこの場でそれを誰よりも理解していた。

 

 鎧で直接接触し半減を作用させようとしたからこそ、山本重國という人間の内側にある力の総量を感じ取ったヴァーリは、彼我の差を正確に把握出来ている。

 

 三大勢力の悪魔に当て嵌めた魔王級などという枠組みでは測れない。

 四大魔王程度では測れないと、身近にそういう存在がいるヴァーリは痛感している。

 

「ああ、堪らない。忌々しいほど強く、清々しいほどに圧倒的だ」

 

 今も泰然とヴァーリの動作を待ち受ける姿は、聳え立つ山の如く。吹き出す力は火山を思わせ、押し潰されそうな重さと焼け死んでしまいそうな熱さを感じる。

 アザゼルを相手にしてもこうはならない。重國はヴァーリの記憶にある誰よりも強烈で、鮮烈だった。

 

「我、目覚めるは───」

 

 だからこそ、傷ついた肉体での行使は確実に後に障ること理解しながら、ヴァーリは奥の手を行使することを決意する。

 全霊を尽くし、命を振り絞って戦わねばならないと強く思う。せめて、刀を抜かせる程度は成してみせると。

 

『やめろ、ヴァーリ! 徒に命を削るだけだ!!』

 

「覇の理に────!?」

 

「それを使われるのは困る」

 

 止めてくれるな、と相棒たる白き龍のアルビオンへと心の内で言いながら詠唱を紡ごうとしたヴァーリだが、それはさせんと脚部に突き刺さった拳によって強制的にそれを中断させられる。

 

「きさ、ま……!」

 

「練られる力を見たところ、かなりの技だ。結界が壊れてはいけないから、禁止にさせてもらおう」

 

 それはヴァーリに全力を出させないと宣言したのと同義だった。

 ドラゴン系神器の持つ奥の手。命を対価として一時的に莫大な力を得る『覇龍』は、黒歌の張った結界程度であれば発動の余波で破壊しかねない。

 

 そう判断した重國がそれを使用することを許すはずはなく、そうなれば最後、ヴァーリは死力を尽くすことすら許されない。

 

 諦めて投降するか、戦意を消失するまで嬲られるか、意識を失って囚われるかの三択である。

 

「いい加減に分かったか、半魔の小童」

 

 勝ち目などない。彼の求める戦いなど成立しない。彼我の差を覆すような覚醒などありはしない。

 万が一、億が一を起こす奥の手など使えない。

 

 内臓を直接掻き回されるような痛みに苛まれながら、ヴァーリは体力を失って倒れる時まで甚振られる。

 

「まだ……!」

 

「哀れな」

 

 吐き捨てると同時、拳がフルフェイスの兜を砕いて顔面を殴打する。その場で堪えたが、顔面を鷲掴みにされて結界に投げつけられた。

 

 未だ意識を保つヴァーリを見て、鳩尾に拳を捻り込む。

 それも、ただ当てるのではなく抉り込むように。

 

「──ぐ、ぅ」

 

「終いだ、眠れ」

 

「俺、は…………」

 

 失血と痛みによってヴァーリの意識が飛ぶ。呆気なく終わったが、しかしよく保った方だろう。

 嬲り殺しのような状況でも諦めない精神には重國も感じるものがある。

 

 鎧が消滅して脱力し、落下していくヴァーリの服を掴んで屋敷へと向かう。

 彼は衣服に解れすらなく、肌にかすり傷の一つもなかった。

 

 

 

 

 

「捨ててきなさい」

 

 ヴァーリを連れ帰った重國を見た黒歌は、開口一番そう言い放った。

 犬猫じゃあるまいし、と返した重國だったが、犬猫じゃないんだから拾ってくんなよというのが黒歌の主張だった。

 

 ド正論だった。反論の余地が欠片もなく、捕虜にして情報を取ろうと言えば、土蔵に押し込んで封印しとけばいいと返される。

 捕虜の扱いとしてどうなんだろうと悩んだ重國だったが、まあ放り捨てるよりは戦果有りの方がいいかと、気絶したヴァーリを土蔵に叩き込んで封印させた。

 

 一応、死なないように多少の治療は施されたので死ぬことは無いだろう。

 次に土蔵を開けた時に死体になってたらやだなぁ、と思う重國だったが、その懸念が翌朝に訪れる堕天使によって解決されるとは夢に思っていない。

 

「……ねぇ、なんで殺さなかったの?」

 

 そして当然、初めて敵を生け捕りにして帰ってきたことに黒歌は疑問を抱いている。

 これまでの敵対者は黒歌の結界の範囲に誘い込むか相手の誘いに乗るかして、例外なく殺してきた。

 

 それをいきなり覆すのにはそれなりの理由があるのは間違いないのだが、今度はその理由がわからない。

 とはいえ、こんなことで隠し事をするような仲ではない。重國は真面目な表情で口を開く。

 

「あの『白龍皇』は悪魔かどこかの陣営に所属しているはずだ。身柄を使えばお前に関することで役に立つかもしれない」

 

 白龍皇が襲ってきたタイミングは奇妙という他ない。アザゼルとの戦闘を悪魔に察知された可能性も高いが、それにしてはこれまでと毛色が違った。

 

 そうなれば考えられるのは野良かどこぞの勢力の所属というところだが、強大な『神滅具』である『白龍皇の光翼』の所有者の身柄を渡すといえば多くの勢力がそれを欲するだろう。

 

 その対価をせしめることも決して不可能ではないし、悪魔にも会話ができる存在はいるにはいる。

 なんなら堕天使に売りつけてもいいな、と重國は考えていた。いずれにせよ、黒歌の為になにかしてやれるだろう、とも。

 

 出会ってから数年経って、ひっそりと二人で暮らすことに慣れてきても重國が黒歌の為に悪魔とすら交渉するつもりだと分かって、彼女はなんとなく居心地が悪くなった。

 

 決して嫌では無いのだけれど、なんというか顔を見れない。そんな心境で口を開く。

 

「…………別に、いいのに」

 

「ただのお節介だ。受け取ってくれ」

 

 微妙な表情をする黒歌の頭を乱雑に撫でたので、彼女は拗ねたようにそっぽを向いた。それに彼は苦笑しつつも、撫でるのをやめようとしない。

 

 無言で頭を撫でる光景は重國の腹が音を鳴らして空腹を訴えるまで続いた。

 

 

 

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