空木、悟り   作:悪霊の遊佐

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本編で聡里さんが手に取ったノンフィクションエッセイ(劇内)、その中身の概略です。最初に読み、本編を読んで、再度読むと変わった見方になるかも知れません。ちなみに概略なので、本編で聡里さんが言ったセリフに「そんなシーンあったかな?」と思う様な部分があると思いますが、それはあくまで個人的感想で本編には何も関係無い部分の感想です。逆に言ってしまえば、本編に関わる部分のみを抜粋しているので、流し読み程度で十分ですので宜しくお願いします。


『空木、悟り』

[前書き]

 皆さん初めまして、『空木、悟り』手に取って頂きまして、誠にありがとうございます。

 この本が皆さんの手にある、と言う事は、私は既にこの世に居ないのだと思います。

 と言うのも、脳の病気の一種で手足が上手く動かせず、最近では喋る事もままなくなり、ここまで書くのにも30分以上掛かったりしています。

 とは言っても、それは私の人生の終盤に差し掛かったからと言うので、最初の内は症状も酷く無いので、普通に書いています。

 空木エリカの最期の一ヶ月、ある人にだけ向けたこの日記、最後まで読んでくれたら嬉しいです。

 そして、どれだけの月日が経っても、この日記が、中身が、ある人に届いてくれたら、それ以上の幸せはありません。

 ……手に取ってくれた皆さん。辛い人生もあるかも知れませんが、どうか、私の分まで生きて下さい。

 

[本編]

 もしも突然、意識が遠くなって、目が覚めたらそこは病院でした! ってなってたら、みんなはどうする?

 いや、そりゃビックリするよね! 私もびっくりしたし!

 けど貧血とか、立ち眩みとかって感じで直ぐに退院出来ると思うでしょ?

 だけど、そうはならないって言うのが分かっちゃったんだよね、私の場合。

 だって、片頭痛って言うのかな、妙に頭が痛いし、手足に痺れがあるし……。

 それで私、空木(うつぎ)エリカは思ったのです。入院になれば、暫く勉強サボれるひゃっほい! って。

 だけど、お母さんやお医者さんは直ぐに良くなるとか、安静にすれば大丈夫とか言うけど、具体的な病名も退院時期も教えてはくれなかったんだよ?

 直接「私って何かの病気なの?」って明るく聞いても「病気じゃないから安心して」としか言われないし、でも検査検査だったし。

 まさか、癌!? って思ったけど、癌で手足のしびれとか、あるのかも知れないけど聞いた事無いな~って思って、けど結局教えてくれないから分からずじまいで。

 そんなベッドの上での生活にウキウキしつつ、点滴のせいでやることが余り無くなった私はこうして日記を書くことにした。もしも何か有った時の為に役に立つかも知れないと思ったと言うのもあるけど、どちらかと言えば、そんな事もあったね、と思い出にする為に。

 そんなある日のこと、私はいつも廊下の椅子に座ってスマホに日記を書いているのだけれども、今日は運動がてらロビーに来る。

 他の患者さんの面会で何か所か埋まっていたけど、割と空いている一角に私は外を眺めながら座っていた。

 特に何か目的があったわけじゃない、同じ光景にただ飽きていただけなのかも知れない。

 そんな時に彼は声を掛けて来た。

「君、一人なの?」

「そうですよ」

 精一杯の笑顔を向ける二人。けれども、なぜか彼の笑顔は何処かぎこちない。

 それが、私と彼の初めての会話だった。

 

 彼は私よりも年上みたいだったけど、お兄さんっぽく無くて、割と気弱な感じの人だった。

 圧しに弱そうと言うべきか、ずっと愛想笑いと分かる様な笑みを浮かべている。けれども、私はそんな彼が好きだった。勿論、人としてだ。

 どうやら怪我で入院しているらしく、怪我だから当然元気だ。と言うか、言われなくても松葉杖突いて居たら見ればわかるのだけれども。

 病室も隣だからか、それから彼は毎日私の所に通うようになった。

 そう言えば一時期からかい目的で「私の事好きなの~?」とか言ったら、顔を真っ赤にして否定していたのは可愛かったな。

 私達はお互いに名前を知らないけれども、それでも態々名前を呼び合う必要も無いから別にそれはそれで構わなかった。

 いや、もしかしたら彼は私の名前を知っていたのかも知れない。いつも彼から私に会いに来るから、病室のネームプレートで「空木エリカ」の名前を見付けるだろう。

 まぁ、私の名前を一発で「空木(うつぎ)」と読める人はそんなに居ないとは思うし、もしかしたら彼も間違えて覚えてるかも知れないが。

 とは言え私が死んだらその名前を間違って覚えていても、呼ぶ機会は永遠に来ないんだろうと、ちょっぴり寂しい事を考えてしまう。

 

 彼は時々変な事を言う、或いは抜けているのだろうか? それとも誰かと勘違いをしているのか。

 彼が話をする時は、なぜか決まって私が知ってること前提の、私の知らない話をするのだ。

 それも、恰も昨日話していたかの様に。

 いやいや、確かに昨日だか一昨日だかに話はしていたけど、そんな進んだ話はしていなかったハズなんだけど……。

 とは言え、全くの支離滅裂な会話をしているわけでもなく、確かに私が言いそうな言葉を言うのだから、少し不気味だ。

 何かエスパーめいたものを感じる、なんて感想を言ったら「そんな訳ないよ」なんて真顔で返された。

 それにしても、と思う。彼は聞き上手なのか、私がお喋りな性格だからかなのかは分からないけれども、話はいつも私から一方的にしている事が多かった気がする。

 けれども彼は嫌な顔一つせずに私の話を聞いてくれた。私が思うに、彼はとても良い人だ。

 ちょっと頼りない所はあるかも知れないけれども、それでも良い人、素晴らしい人だ。

 けれども、そんな楽しい時間は長く続かなかった……。

 関係は変わらなかったけれども、舞台が表の長椅子に隣り合って座っていた場所から、私のベッドに切り替わる。

 足腰に力が入らないし、起き上がっているのも薬の影響からか、辛くなっていたからだ。

 最初は彼の前でそんな気弱な部分は見せられない、なんて思って無理もしてたけど、2,3日で見破られてしまった。

 だから、私はか弱く病弱で、繊細な女の子を演じている。そんな私の演技を笑ったから一発頭は叩いたけれども。

 けれども、彼は痛く無いのに、とても辛そうな表情をしていた。私の手足に力が入らないことを知っているから、痛いのではなく、痛感したのだろう。

 彼は私の手をそっと握って、微笑んでくれた。けれども、その笑みは今にも泣きそうだ。

 全く、なんで病気の当人よりも、そんな悲しそうな顔をしているんだ……。

 

 彼はどうやら明日退院らしい。怪我が治った様で何よりだ。それは喜ばしい事だったけれども、それでも胸に穴が空いたかの様に切ない。

 それから私は寝る事が増えた。痛み止めの影響なのだろう。

 そしてその日から彼は来なくなった。それは本人も言っていたのだが、休んでた分を取り返すのに残業が増えて面会に来れる日が減るかもしれないと。

 2日経ち、3日が経ち、気付けば私は元の生活に戻っていた。一人寂しくベッドの上で、日記を書くだけの毎日。

 その日記も、今では同じ量を書くのに時間がどんどん掛かってしまう。

 あぁ、どうやら、そろそろらしい。誰も何も言わなかったけれども、私はきっと死ぬのだろう。

 彼が居たから元気でやってこれた。彼が居たから、毎日楽しかった。

 けれども今は彼が居ない。居ないけど、これが正しい結末なのだろう。

 彼が一体どんな仕事をしているのかは分からないけれども、きっと苦労しているだろうな。

 私が思うに、色んな人に使われてそう。あと面倒見が良いから、割とこき使われてそう。

 だけどちゃんと差し入れたりとか用意したり、そういう小まめな所はちゃんと見て居そうだ。

 彼の名前、なんて言うんだろう? どうせだったら、最期に聞いておけば良かったな。

 ありがとう、名前も知らないお兄さん。私はあの世で、しっかりやってるか見させて貰うよ。

 

[後書き]

 この作品は娘のエリカが手記と称して書いていたものをほぼオリジナルのままに書き上げたものです。

 とは言え、文面は後半彼女自身上手くペンを持てない事もあり判読不可能な部分もありました。

 その為、ここに記されている事が彼女の全てではありません。

 一人でも多く、また、その中の一人が、あの子が感謝していた人に届けば良いと願いながら……。

 

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