翌日、図書館から帰ると、丁度鳴がリビングに居て本を読み終える所だった。
凄く大量の漫画を持っているのは知っているけれども、本を持っている姿は珍しい。
台本以外はゲームのコントローラーを持ってるイメージしか無いから、ちょっと新鮮な気もする。
「鳴、丁度読み終わったみたいね」
「朝遅かったから、今読み終わった……。それにしても、この本……」
「悲しい物語ね」「意味が分からないでしょ?」
「「え?」」
思わず鳴と顔を見合わせる。
確かにこの主人公の少女は死んでしまったから、悲しい結末ではある。
けど、今の鳴の言い方だと、結末じゃなくて、この本の内容そのものが悲しいと言っているように聞こえる。
悲しい話、ではなく悲しい物語と言ったのだから。
「確かに、彼女、亡くなったものね……。結局何が原因だったのかしら……?」
「え、事故じゃないの?」
思考回路が停止する。あれ、病気のような描写しか無かったけど、事故なの?
いや、事故とは一言も書いていなかったと思うけど……。
「何で事故だって思ったの?」
「普通ベッドが隣同士なら小さな病院でも有り得る話だけど、病室が2部屋以上あって、面会用のロビーがあるなら、大きな病院だと思って。大きな病院なら、多分松葉杖を突いてたお兄さんが居たところは整形外科。その隣が内科や消化器科と言うのは考えられないと思って」
「でも、それじゃあ……」
「エリカさん、記憶障害も起きてたから、多分外傷性健忘症併発で入院を余儀無くされてたんじゃないかな? 後は手足の痺れだから、多分頭部強打による慢性硬膜下血腫、脳動脈瘤破裂、脳挫傷、脳梗塞……ここら辺が出て来てたなら怪我と言うより病気の扱いかも」
鳴、貴女は医者なの……?
それにしても、彼女はただ病気だと言ってたけど、それが具体的に何かは書かれていなかった。
にも関わらず、鳴は彼女の病気の原因と症状を推測した……。
そうなると、利恵の言っていたあの言葉も、鳴には分かるかも知れない。
「ねぇ鳴。この本、マネージャーさんも読んでたんだって」
「そう」
「それで、これは利恵が気付いたんだけど、マネージャーさん『読んでも意味分からないよね。中身がすかすかになった本だし、男は勝手だし、変な本だよ』って言ってて、「中身がすかすかになった本」じゃなくて、普通は「中身がすかすかの本」って言わないか、って」
「利恵……他にも何か言ってたんじゃない?」
「えっと……「もしも『すかすかになった』経緯を知って居たら、最初の『読んでも意味わからないよね?』って発言も意味が変わって来る」って。でも、それ、本当なら「マネージャーがこの小説になんらかの形でかかわっていることに他ならない」んじゃないの?」
「聡里さんも本当は分かってるでしょ。多分利恵も」
もし、すかすかになった経緯を知っていたならば。
もし、読んでも意味が分からないと言ったのが、同意ではなく問いかけならば。
もし、私達が考えて居る様に、マネージャーの正体が、この小説に出て来る「お兄さん」の正体だったならば……。
私達は、これからマネージャーにどんな表情で接することが出来るのだろう……。