空木、悟り   作:悪霊の遊佐

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[後編]

「うわ……」

 

 レッスン終わり、ロビーでキュイッターを見ていた宮路さんが、眉間に皺を寄せていた。

 思わずと言った様子で声も出ている辺り、余程衝撃的な内容を見てしまったのだろう。

 

「宮路さん、お疲れ様。何か心無いリプでも来た?」

「聡里、お疲れ。いや、その程度のことで、まほろは声上げないんだけどさ……」

 

 上げないんだ……。まぁ、芸能界の歴も長いし、珍しく無いのかも知れないけど。

 

「じゃぁ何?」

「う~ん……直接見て貰った方が早いね。これなんだけど……」

 

 私は宮路さんに向けられたスマホの画面を見せてもらい、その内容に目を通す。

 宮路さんのいつもの自撮り写真のツイート、場所は何処かの町の一角だ。

 数あるリプ、その中の一つのリプに目が留まる。

 

「宮路さん、この場所、何処?」

「え? えっと、ここは――」

 

 宮路さんから場所を聞くと私は直ぐに事務所を後にした。

 こんなの、普段の私らしくないのは分かってる。けれども、気にせずにはいられない。

 

§

 

「もしもし、鳴? 言われた通りの事をしたら、聡里、血相を変えて事務所を飛び出したよ?」

『それで良いよ。だって、多分これは、二人だけでは解決出来ない問題だから。その問題に、横槍を入れることが出来るのは、多分聡里さんしか居ないと思う』

「ふ~ん? なんか、アンタの手のひらの上みたいな感じだね」

『事情は後で説明するよ。事が終わってからじゃないと、この物語は幕が閉じるかも分からないから』

「……『空木、悟り』か。事情は聞かなくても、大体分かるよ」

 

§

 

 私は、マネージャーが休みの日を目掛けて、電話をする。会って話がしたいと。

 場所は、特にお店とか建物とか、待ち合わせに相応しい場所を指定してはいない。

 けれども、私の示した場所に、苦虫を噛んだ様な表情をしたことは、電話越しにも分かった。

 

「……また、此処に来るとはね」

「お待ちしてましたよ、マネージャーさん。いえ、今日は敢えてこう呼びましょう。空木マネージャー」

「よく自分の旧姓を調べられたね。事務所にも、自分の名字は現在の名字で申請したと言うのに」

「ウチには優秀なハッカー(コンピュータやネットワークの知識と高度なスキルを持った人)が居ますから」

「括弧書きで正しい語句の意味を書いても、やってることは多分俗称の方だろうけどね」

「そんなメタなことは言わないでください。冗談です」

「けど、なんで自分の名字が空木だって分かったのかな? そんなきっかけ、あの本にだって無かったハズだけど?」

「この本の男の人がマネージャーさんだと言うのは、この本を読んだ事あってこの本の真相を知っているかの発言をした時点で分かっていました」

「だろうね。あの発言は失敗したと思ったよ。ま、なぜか気付いた利恵じゃなく、聡里に指摘されてるけど」

 

 そんな事を呟きながら、マネージャーさんは交差点の方へ視線を向けた。

 そう、私達が待ち合わせに選んだのは、大きな事故があったとされる交差点。

 

「当時のニュース調べれば、誰が事故に遭ったか載ってますからね」

「空木エリカと、この自分と。でも、事故の被害者の名前が分かっても、あの本には全くの他人が会話している様に書かれていたはずだ」

「当然じゃないですか、エリカさんは記憶を失っていたんですから。幾ら貴方がエリカさんを知っていても、筆者が他人だと思ったなら、本にはお互い他人であるかの様に書かれるのは必然でしょう」

「そうだね。流石だ。賞賛を送るよ」

「いえいえ。それで、此処までは『空木』の話です。『()()』の本を見せて頂いても宜しいですか?」

「……何?」

「この本のタイトルは『空木、悟り』。でも『悟り』に当たる内容は何処にもない。つまり、この本はタイトルが決まった後にタイトルを喪った本になります」

「タイトルなんて後で変えれば良い。それを自分が持っているとは限らないんじゃないかな?」

「そうですね。タイトルなんて後で変えれば良い。ですが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ならば?」

 

 流暢に言い訳をしてのらりくらりと逃れていたマネージャーさんの言葉が遂に止まる。

 意味が分からないのか、それとも荒唐無稽と思ったからか。

 それでも、いや、だからこそか。私は追撃の手を止めない。

 

「なぜタイトルを変えなかったか。それは、内容と共に()()()()()()()()()()()()()()()

「タイトルに意味? 一体どんな意味が?」

「決まってるじゃないですか。『()()()()()()()と言うことを知らせる意味ですよ」

「………!!」

「悟りに該当する部分が貴方に取られていたことをエリカさんは知っていた。或いは最初からあなたに向けて書いたものか。それは分かりません」

「………」

「この物語はまだ終わっていない」

「終わりだよ。何せ自分は、妹から逃げたんだからね。弱る彼女から目を背け、苗字も変えて住む場所も変えた。新たな人生を歩もうとしていたんだ」

 

 そうしてマネージャーは何かに気付いたように、奥の方に視線を向けて懐かしむ様に頬を緩ませる。

 

「そんな中で陽菜に会って、気付けば君たちのマネージャーをやることになった」

「……」

「未練がましく昔の写真と、悟りに該当する部分を持ってるのは認めるけどね」

「マネージャーさん、言ってましたよね。『ノンフィクションと謳って、実はフィクションなんじゃないのかな?』。そうです、これはフィクションですよ」

「フィクション?」

「人間、自信無く後ろ向きな時は、筆もそう言う方向に向くものです。けれども、結果は変わらない」

「そうだね、結果は変わらない。エリカと言う妹を喪った――」

「エリカさんの手術が成功し、こうして貴方に会えると言う」

 

 マネージャーさんは私の言葉に、思わずと言った感じで顔を上げる。

 そこでマネージャーさんは、私の隣に立つ女性を見て涙を流す。

 

「いやぁ、相変わらず泣き虫だねぇ、お兄さんは」

「エリカ……何で……」

「手術は成功していたんです。けれども、それをマネージャーさんに伝える手段が無かったんですよ。誰かさんが苗字を変えて、逃げてしまうから」

「そんな……いや、でも、だったらなんで……」

「何で本を出版する時に、真相を書かなかったか? そんなの、本が出版される頃には死んでると思って、実は生きてるなんて思わなかったから、早めに原稿を渡して本にしてたからね。私が本当に死ぬよりも前に少しでも売れるのを見たかったから」

「だから、この本の絶対数は実はそんなに多く無いんです。直ぐに販売中止にしましたから」

 

 そう言って私は『空木、悟り』をマネージャーに私、後は久々の家族水入らず状態で離れた。

 

 

 

 寮に戻った私は直ぐに、鳴の部屋を訪れる。

 

「……何?」

「次フォローするなら、もう少し分かり辛くしてもらえる?」

「十分分かり辛かったと思うけど」

「自然過ぎるのが逆に不自然よ」

「分かった。次から気を付けるよ」

 

 その言葉を聞いて私は鳴の部屋を後にした。

 なんてことは無い。宮路さんが見ていたキュイッターの話だ。

 宮路さんが撮って居た写真は、街中の自撮り。けれども、普通街中で自撮りはそもそもしない。

 つまり、その写真に何か意味があると言う事だ。

 そして数あるリプの中に、一つ。「あれは、嫌な事故だったね。二人の兄妹が事故に遭って、本にもなってたよね」なんて書かれれば、不自然さは増す。

 自然過ぎるとは言ったが、事情が分かれば逆に不自然にしか映らない。

 まぁ、今の会話からも分かる通り、鳴には隠す気はサラサラなかったように見えるけど。

 

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