荒野のど真ん中に、茶色の長髪をオールバックにした、袴姿の男が倒れていた。
その男の中では声が響いていた。まだ幼さが抜けていない少年の様な声と、男勝りな女性の声。どちらの声も、聞いた事のある声だった。
その声が、男に何かを伝えている。最初はノイズがかかった感じで聞き取り辛かったが、回数を重ねる毎に、その言葉が鮮明になっていき……
『『テラ!』』
「―――アクア!ヴェン!」
男は、勢い良く跳ね起きると、誰かの名前を叫びながら、辺りを見回す。だが、名前の主達は居らず、何も無い荒野のど真ん中に吹いた風の音だけが聞こえた。
「何処だここは………俺は何故こんな所に?確か俺はヴェンとアクアと共に、闇の世界でソラの手がかりを探していた筈だが……」
彼の名前はテラ。キーブレードと呼ばれる剣を扱い、様々な世界を旅しながら、ハートレスと呼ばれる闇の存在と戦う者達の一人だ。
今回は、長きに渡る激戦を終えた後、唐突に消えてしまったキーブレード使いを仲間と一緒に探していたのだが、いつの間にかこの荒野のど真ん中に倒れていたのだ。しかも、ここに来るまでの状況が思い出せないときた。
テラは、少しの間ここに来るまでの状況を思い出そうとしたが、中々思い出せない。
「考えても仕方ないか。先ずは闇の世界に帰る事が優先だ」
彼は、何もない場所から不思議な形の剣、キーブレードを取り出すと、空に掲げる。だが……
「異空の回廊が開かないだと?!……やはり此処は、ただの別世界では無いと言う事か」
彼は掲げたキーブレードをゆっくりと降ろす。
闇の世界への侵入は難しく、極限られた手段でしか入る事が出来ない。テラはアクアとヴェンと共に闇の世界へ入ったのだ。それが出来ないとなると、残された方法は一つ。
「光の扉……これに賭けるしかないか」
光と闇の世界を繋ぐ扉。闇側と光側の強い繫がりに反応して世界の何処かに出現する、何処にでもあって何処かにある扉だ。
今度はキーブレードを目の前に掲げる。すると、キーブレードの先端から光が飛び出し、荒野の奥へと真っ直ぐ進んで行った。
「鍵が導く心のままに……待ってろよ、アクア!ヴェン!」
左肩にあるガードを叩き、全身を鎧で包む。そして、キーブレードを乗り物へと変形させると、それに乗り込み、鍵が導く場所へと向かって行った。
「なんだアレは?」
キーブレードライドで鍵が示した場所へ移動して数日。何日走っても変わらない景色と、次第にキツくなっていく空腹に、そろそろ限界に近づいている事を直感で察していたテラ。光の扉もまだ見えない中、闇の世界を旅する前提の装備だった為、食料もほとんど積んでいない。コレでは光の扉につく前にポックリ死んでしまう。
そんな事を思い、数日前から何処かに町とかが無いかと探しながら移動していたテラ。だが簡単には見つからず、キーブレードライドのスピードを限界まで上げようとしていた所で、変な物体を見つけたのだ。
テラは、キーブレードライドのスピードを上げ、その物体へと近づいていった。
「臓器の異常陰影は無し、血液中源石密度も規定範囲内。非感染者です」
「よし、通って良いぞ」
「あ、あぁ……」
テラは困惑していた。いやまぁ、別に何か揉め事があったとかでは無く……いや、鎧を纏ったままで検問までキーブレードライドで来たので、鎧をガードに収めるまでちょっと怪しまれてた。まぁそんな事よりも、テラが近づいて行った物体の大きさに驚いていたのだ。
遠目だったので、大きさはグミシップ程の大きさしか無いだろうと思っていたのだが、いざ近づいたらこれまたビックリ、まさかの移動する都市だったのである。これはまた一段と凄い世界だな、と思うテラさんであった。
検問を通り抜けると、賑やかな町並みが目に入る。この移動都市、名前を龍門と呼ぶが、テラが見る限り、この移動都市は光に包まれている。物理的な意味じゃないぞ。
だがそれ以上に、この移動都市の周りには濃い闇で埋め尽くされている。ハートレスの被害も相当な筈だ。筈なのだが……
「ハートレスの気配が一切しない。どう言う事だ?」
闇ある所にハートレスは必ず現れる。こんな闇に囲まれた町であれば、被害は大きい筈なのだ。だがしかし、ここの住人達を見る限り、被害を受けている様子は無い。だからこそ、この世界はおかしいとテラは改めて認識すると共に、闇の世界に戻るのは難しくなりそうだと察した。
取り敢えず、数日間何も食べていないのでご飯を食べる事にしたテラさん。何故かこの世界にいるモーグリショップでご飯を買い、それを食べる。久しぶりのご飯は凄く美味しかった。
それにしても、いつも思うのだが、このモーグリという生物は何者なのだろうか?テラの弟子的な存在であるリクの話では、狭間の世界にもいたらしい。商売根性が逞し過ぎやしないだろうか?と思ったテラさん。
そんな事を思いながら、一ヶ月の食料を買い込み、龍門を出る準備をする。このまま移動都市に乗ったまま、光の扉があるであろう場所へ行くのも良いのだが、正直言ってキーブレードライドの方が速い、とテラは思っている。現に龍門は停泊中なので、急いでるテラにとっては都合が余りよろしくないのだ。
そう言う訳で、テラは検問所に向かって足を進めた。途中、消えてしまったキーブレード使いの事も聞きながら検問まで向かって行き…………見事迷った。
「コレは……不味いな」
そう呟きながら、彼は頭で必死に考えた。キーブレードライドを使って空から行くのが一番手っ取り早いが、正直言ってアレはデカ過ぎる。今彼がいる狭い裏路地の様な場所ではキーブレードを乗り物にする事も出来ないし、もし出来たとしても、飛行する謎の物体なんて悪目立ちするのは目に見えている。世界の秩序の為、必要以上に悪目立ちはしたくないのだ。
鍵が導く心のままに、とも思ったが、恐らく状況は変わらないだろう…………アレ?ひょっとしてヤバいのでは?と言う結論に至った。
「いや、だからといって諦める訳にはいかない」
テラは考え事を止め、前を見据える。如何なる困難にぶつかろうとも彼は諦めなかった。今回も同じ事をするだけだ。自分を信じ、仲間を信じて進むのみ。
そう思いながら、彼は走りだそうとして、目に入った光景を見て足を止めた。
「この悪者!離せ!はーなーせー!」
「言え!奴は何処へ行った?!」
子供達がガラの悪そうな大人数人に襲われていたのを見たテラは、躊躇する事無く大人達を止めに入った。
「オイお前達、その子供を離すんだ」
「あ?なんだコイツ」
男達は子供達を地面に放り投げると、テラの方へ歩いて行く。放り投げられた子供達を見たテラは、苦い顔をした後、男達を睨む。
「オイ見ろよ、コイツ非感染者だぜ」
「おぉ、怖い顔してんなぁ」
「へっ、正義の味方気取りか兄ちゃん。痛い目に遭いたくなきゃさっさと帰りな」
男達はテラの前に立つと、見下した様な口調で口々にそう言った。
「感染者だかなんだか知らないが、いい歳して子供に手を出すと言うのは、大人として恥ずかしく無いのか?」
「んだとテメェ……」
「殴られてぇなら最初からそう言えよ」
テラの軽い煽りに簡単に引っかかった男達。その内の1番大柄な男が手を振りかぶり、テラの顔面に向かって思いっ切り拳を振るった。
「っ何?!」
「言っておくが、やると言うのなら俺は手加減しないからな」
拳を片手で掴み、強引に下に持って行くテラ。彼は正義感の強い人間である。その為、困っている人がいれば簡単に手を差し伸べ、悪を働く人には純粋に怒りをぶつける、それがテラさんである。そしてテラさん、今は凄くお怒りであった。
「コ、コイツ……」
「おい、もう行こうぜ」
「………チッ、お前の顔覚えたからな」
テラさんに気圧された男達は、ヤンキーみたいな事を言いながら去って行った。テラさんはそんな男達が見えなくなるまで睨み続けた後、子供達の確認をしようと振り返り、そこに兎耳が生えた少女が立ってるのを見てちょっとビックリした。
「えっと……怪しい者じゃないぞ?」
「あ、いえ大丈夫ですよ。さっきのは見てましたから」
「見ていたのか……」
「はい」
まぁ、別に見られて欲しくない事でも無いし良いか、と思うテラ。ふと少女の後ろを見ると、これまた色々特徴的な男女が数人と、黒ずくめの怪しい人が一人。滅茶苦茶怪しいが、闇も確認出来ないし悪い奴では無さそうだ。
「そう言えば、子供達は?」
「子供達なら、貴方があの人達を引き付けている間に安全な所に」
「そうか、それはよかった」
子供達がいないと思ったが、安全な所に行ったと言う少女の発言を聞き、安堵する。
「さて、俺はそろそろ行くよ」
そう言って振り返り、テラは歩いて行った。
「それにしても、非感染者がここにいるなんて珍しいわね」
「確かにそうね。見た感じじゃ観光客みたいだけど、こんな所に来ようだなんて普通は思わないんじゃない?」
兎耳の少女、アーミヤの後ろにいた狐耳の女性、フランカはそう呟く。そして、フランカの横にいる角が生えている女性、リスカムが言葉を返した。
「まぁ、こんな所に来る奴は怪しい奴か迷子になった奴位じゃないか?」
黒ずくめの男、ドクターがそう口にする。
「さっきは子供を助けていたので、怪しい人じゃ無い筈です」
「と言う事は……」
そこにいたみんなが、一斉にテラへと視線を向ける。歩いていた筈の男は立ち止まっており、ゆっくりと振り返ると、申し訳無さそうな声でこう言った。
「申し訳無いが、道案内…してくれないか?」
「フフッ、やっぱり」
「えっと…………はい、良いですよ」
クスクスと笑うフランカの横で、アーミヤは少し考えた後、道案内を引き受けた。
舞台が龍門ばっかやな