口悪召喚術士の異世界冒険譚   作:millseross

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雪が降ってます...!ここはススキノの街なのか!?冒険者の体って寒さとかにも強いんですかねー?だとしたら裏山!


森呪遣いの少女

後に大災害と呼ばれる事件より数日が経ったある時、いつものようにカーバンクルを街へ放ち情報収集を行なっていたミルは、焦った様に横たえていた身体を起こした。次いで、掃除を終え優雅に寛いでいたにゃん太へと言葉を投げる。

 

「にゃん太!紅髪の女の子が冒険者達(ゴミども)に追われてるっ!急いで助けに行って!場所はここから一番近い武具屋の路地裏!」

 

それを聞いたにゃん太は、自身の武器である二振りのレイピアを確認し、すぐさま玄関へと向かう。扉が閉まる直前にミルを振り返り、ここから出ないようにと念を押すように視線を投げる。

 

「分かってるよ。僕はここから出来ることをやるさ。」

 

にゃん太が出ていった事を確認し、宙に浮かんだメニュー画面からにゃん太のステータスを確認する。ミルとにゃん太はパーティを組んでいるため、お互いのステータスとある程度の位置情報を知ることが出来る。

 

ミルは召喚術士のスキル"幻獣憑依(ソウル・ポゼッション)"を使用した。これは契約した召喚獣に乗り移り、召喚獣の体を直接操ることが出来るようになるスキルである。

 

エルダー・テイルがゲームであった頃は、このスキルを使用するプレイヤーは殆ど居らず無用の長物と化していた。しかし今となっては、"幻獣憑依(ソウル・ポゼッション)"を使用することで召喚獣の体を借りて偵察や先駆けを行うことが可能となるため、ミルにとっては使い勝手が良いスキルであった。

 

カーバンクルの体に乗り移ったミルは、建物の屋根の上から初心者と(おぼ)しき紅色の髪の少女を見つける。少女は涙目になりながら、必死に薄暗い路地を駆けている。いや、逃げていると言った方が正しい。なぜなら後方から、数人の男が自分を追いかけて来ているからだ。男達は汚らしい声で何かを叫びながら、少女を捕まえようと躍起になっている。少女は恐怖に震える足を懸命に動かし逃げていた。

 

「気色悪い...。」

 

ミルは心底嫌そうに、まるで汚物を見るかのような視線を向ける。カーバンクルの愛らしい外見に全く似合わない言葉を吐き捨てたミルは、少女が角を曲がった瞬間を見計らい、屋根から飛び降り先頭を走っていた男の顔面に華麗に着地した。

 

「何処へ逃げるってんだァー!?ぎゃはははははっぶへら!!」

 

今の今まで卑下た笑みを浮かべながら先頭を走っていた男は、突然顔に衝撃を受けることとなる。男は自分の身に何が起きたのかも分からず混乱し、おかしな声を上げ転倒する。倒れた自分の顔の上で何かが落ちるように、跳ねるように感じた。

 

狙った位置に綺麗に着地できたミルは、着地の結果に満足しつつも、そのまま男の顔の上で2,3度ジャンプする。やりきったような充実感を得た後、フンスッと鼻を膨らませ、スタコラと少女の後を追う様に路地の角を曲がっていく。

 

たった今目の前で起きた一瞬の出来事を、男達は暫し呆然とした様子で見届けていた。倒れた男が起き上がり、怒声とも疑問とも言えるような叫び声を上げた瞬間、漸く理解が追いついたらしい。

 

品性の欠片もない罵倒の言葉を大声で叫びながら、少女と小さな獣の後を追いかけようと角を曲がる。しかし曲がった先には細道が入り組むように伸びており、最早獲物を見つけることは不可能だった。

 

遠くから聞こえる男たちの叫び声が耳に届いた頃、ミルは物陰にうずくまる少女に追いついていた。そしてミルが少女の元に辿り着いた少し後に、にゃん太が壁や屋根を軽やかに飛び越え颯爽と姿を現した。

 

にゃん太は怯えてうずくまる少女を徐に抱き上げる。そしてカーバンクル(ミル)が肩に乗ったことを確認し、来た時同様に壁や屋根を伝い自身の部屋へと急ぐのだった。

 

 

&&&

 

 

「やぁやぁおかえり、初めまして!危ないところだったね!」

 

幻獣憑依を解除したミルは、本来の自分の身体で少女へ話しかける。カーバンクルの体に入っている間も話すことは可能だったのだが、このまま話しかけても状況整理と情報処理が追いつかないだろうと声を発することを控えていた。その代わり、にゃん太が移動している間はずっと、抱き上げられて微動だにしない少女の顔に頬ずりしたり、しっぽを使って癒しを与えていたのだった。少しでも少女の恐怖が和らぐようにと願いながら。

 

そしてその少女はと言うと、先程からずっとピクリとも動かず固まってしまっている様子だった。ミルはどうしたものかと考え、はたと気付く。そういえば、にゃん太が抱き上げた時からこんなだったなと。そして今も尚、にゃん太は少女を抱き上げたまま心配そうに、どこか不思議そうに少女の顔を覗き込んでいる。

 

「うんおっけー。とりあえずにゃん太はその子を下ろしてあげなよ。」

 

きっとその子が動かないのは、にゃん太が原因だと思うから。喉まで出かけたその言葉をぐっと飲み込み、当たり障りないようにそう告げる。にゃん太は言われた通りに少女を床におろし、安心させるように問いかける。

 

「大丈夫でしたかにゃ?ここはもう安全ですにゃあ。ゆっくり深呼吸して、落ち着くと良いですにゃあ。」

 

にゃん太は小さな子供に言い聞かせるように、ゆっくりと丁寧に話しかける。目の前の少女のことを最大限気にかけた、大人の対応であった。

 

それを受けた少女は、とうとう耐えきれなくなったのだろう。

 

「ひゃぁーっ!!はわわわわっ!!」

 

という意味の無い奇声を上げながら、顔を真っ赤にして床をころりころりと転げ回る。少女からしてみればにゃん太という存在は、絶体絶命の大ピンチに愛らしい小動物と共に舞い降りた王子様(美中年猫)なのである。そんな人物に抱き上げられ(ただし小脇に)、自室に連れ込まれ(絶対に安全という理由で)、大人の色気溢れる美声で言い聞かせるように言葉を紡がれては、照れるなと言われる方が無理な話であった。さらににゃん太は少女に寄り添うように、耳元で甘く(少女にとって)囁いている。最早どうしようも無いのだ。

 

そして都合が良いのか悪いのか、そんな状態の少女の目と耳ではミルを認知出来なかった。つまり少女の頭の中(りそう)では、プライベートルームで素敵な王子様(くどい様だが美中年猫である)と2人っきり。心拍数が上昇し、顔どころか首まで真っ赤になっているのが自分でも分かる。

 

にゃん太はとりあえず少女を落ち着かせようと、気が休まるようにハーブティーを作ることにした。ころりころりと転がる少女をミルに任せて、キッチンへ歩いてゆく。

 

そしてそんな状態の少女をにゃん太に無言で頼まれた(おしつけられた)ミルはというと、我関せずとでも言うようにカーバンクルの頭や耳を撫でていた。今日も一日お疲れ様、と働き者の召喚獣を労うのは、主人として当然の行為なのである。

 

 

&&&

 

 

「しゅ、すみませんでした!」

 

少女が正常な状態に戻るまで、いくらかの時間を要した。意識が戻った少女は、これまでの自身の行動を省みて反省すると同時にとても恥ずかしい気持ちになった。そんな少女に対して、2人は微笑ましいとでもいう様な視線を向ける。

 

「あのっ!三日月同盟のセララと言います!この度は助けていただいて、ありがとうございますっ!」

 

やっと名前を知ることができたと嬉しくなった2人は、セララのお礼になんの、と答える。

 

「吾輩はにゃん太ですにゃあ。宜しくお願いしますにゃ、セララち。落ち着いたようで良かったですにゃあ。」

 

「僕はミルセロス。宜しくね、セララ。」

 

自己紹介を終えた3人は、情報の交換を行うべく言葉を交わす。

 

「早速で悪いんだけど、何があったか教えてくれる?」

 

「私...最近始めたエルダー・テイルをしてたんですけど、気がついたら外に居て。それでここはススキノの街だって分かって、どうしようって混乱して。」

 

それからセララは自身に起こった出来事について説明した。

 

直前までエルダー・テイルをプレイしていたこと、大災害に巻き込まれてからはずっと1人で居たこと。そして、そんな自分に親切な男の人が話しかけてくれて、フレンド登録をしてくれたこと。その人からギルドに入るよう誘われたが、もう三日月同盟に入っていた為断ったこと。それから優しかったはずの男の人が豹変し、怒ったような表情で詰め寄ってきてたこと。怖くなって、慌てて逃げて。にゃん太に助けられるまでずっと逃げて隠れてを繰り返していたことなど。

 

説明していくうちにセララの表情がだんだん暗くなっていき、顔も俯きがちになり、声が震え小さくなっていった。何故、こんな事になったのだろう。なにか自分が余計なことをしてしまったのだろうか。家に帰りたい。自分の部屋が恋しい。家族に会いたい。セララの中で今まで押えていた、いや、逃げ隠れることに必死で忘れていた恐怖と不安が溢れ、涙となって零れてくる。

 

セララの様子を伺っていたミルとにゃん太の表情は、話を聞くうちにどんどん険しく厳しいものとなっていった。

 

話が一段落した頃、にゃん太は自身のケチーフをセララに渡し、涙を拭うように促した。これまでさぞ怖い思いをしてきたであろうセララを慰めるように、ミルも優しくセララの頭を撫でる。

 

「話してくれてありがとう。怖かったね、よく頑張ったね。もう大丈夫。ここならいくらでも泣いていい。」

 

「セララちを怖がらせるような悪者は、ここには来ないのですにゃあ。大丈夫ですにゃあ、ここは安全ですにゃ。何かあっても、吾輩とミルでセララちを護りますにゃあ。」

 

2人がそう言ってもなお、セララは決して声を洩らさないように唇を噛み締め、耐えるように涙を流す。もしここにも追手が来たら、自分を助けてくれた優しい2人に迷惑が掛かってしまう。そう思うと、どうしても声を出せない、出す訳にはいかない。

 

ミルとにゃん太は、ぽろぽろと涙を零すセララを安心させるべく、大丈夫、大丈夫と何度もその言葉で慰める。

 

服の裾をぎゅっと掴んで堅く握りしめた小さな手を、にゃん太は上から包み込む。少しでも多くの安心をセララが感じとれるようにと願いながら。

 

自分に妹が居たならばもっとちゃんと励ましてあげられるのにと、少しの悔しさと不甲斐なさを感じながらミルはセララの頭を撫で続ける。背丈は同じくらいだが、それでもセララは自分より年下で、エルダー・テイル初心者なのだ。自分が愛したエルダー・テイルを、これが原因で嫌いになってほしくないと思う。本当はもっと楽しくて、わくわくして、時間を忘れてしまえるほどに面白い冒険と仲間で満ちた素晴らしい世界。それがエルダー・テイルなのだ。

 

セララは、自分の心に張り付いた冷たい膜がだんだんと2人の優しい言動で融け、内側からじんと暖かくなっていくのを感じた。この2人なら、もう何も心配は要らない。出会ったばかりであるのに、セララは不思議と安心できた。この世界に来て初めて人の心に触れた気がして、まるで自分の部屋のベッドに潜り込んだような懐かしさを感じ、そのまま意識を失うように眠りについたのだった。

 




にゃん太とセララの2人が一緒に過ごしてるのほんわかしますよね。暖かい目でセララを見守ります。アニメしか見てないから原作でどうなってるのか知らないけど!

誤字修正しました。ご報告ありがとうございます!
少動物→小動物(2021.01.21)
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