口悪召喚術士の異世界冒険譚   作:millseross

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手がかじかんでてタイプしにくい。。。


救援と再会、そして戦闘

場所はススキノ、とあるビルの一棟にて。セララは、はるばるアキバの街から自分を助けに来てくれた冒険者を見つけると、大きな声でお礼を言うとともに深くお辞儀をした。

 

「あの、この度は助けに来ていただき、ありがとうございます!」

 

「三日月同盟のセララさんですね。無事で良かった。」

 

その様子を物陰から伺っていたにゃん太は、セララを助けに来た冒険者が"シロエ"と名乗った瞬間、安心したように姿を現した。

 

「おやおや、セララちを助けに来てくれたのはシロエちでしたかにゃあ。随分と早いものだと思っていましたが、シロエちなら納得ですにゃ。」

 

「班長!?にゃん太班長じゃないですか!じゃあ匿ってくれている優しい冒険者って班長のことだったんですか!」

 

マリエールから、セララは優しい冒険者たちに匿ってもらっていると聞いていたシロエは、その人物がかつて自分と同じ”放蕩者の茶会(デボーチェリ・ティーパーティ)”のメンバーであったにゃん太だと知り、大層驚いていた。

 

かく言うにゃん太も、見知らぬ相手であるはずのセララをわざわざ危険を冒してまで助けに来るようなもの好きが誰かと気になっていたことは確かである。

 

「班長、ここに来たのは僕だけじゃないんだ。外で直継が待ってる。あと、アカツキっていう女の子も一緒だよ。腕の良い暗殺者(アサシン)なんだ。」

 

「それはそれは、会うのが楽しみですにゃあ。こちらも吾輩だけではないのにゃ、ミルも一緒なのにゃあ。」

 

「えぇ、ミルも一緒なの!?あ、そうか。そういえば、冒険者たちって言ってたっけ。」

 

マリエールから伝えられた言葉を正確に思い出したシロエは、ではそのミルはどこに居るのかと疑問を抱いた。きょろきょろと周りを探してみても、それらしい影は見当たらない。背が低いから見つけられないといった理由ではなく(これを本人に言ってはならない)、この場には居ないようである。

 

「あのぅ、にゃん太さんとミルセロスさんとシロエさんってお知り合いなんですか…?」

 

セララの疑問はもっともである。自分を助けてくれた人達が皆、まさか昔からの知り合いだったとは。類は友を呼ぶとはよく言ったもので。遠くから自分を助けに来てくれた親切なシロエは、優しくて頼りになるにゃん太とミルセロスと知り合いだったのだ。驚くのも無理はない。

 

「シロエちとは一緒のパーティで活動していたのにゃ。参謀役で、とても頭の良い子なのですにゃあ。昔はよく吾輩を膝に乗せて、ノミ取りをしてくれていたのにゃあ。」

 

「そんなことをした覚えはありません。どちらかと言うと、そういうことするのはミルの方でしょう。あんなに動物が好きなんだから、班長のノミ取りなんて喜んでしそうですけど。」

 

「ミルのブラッシングは気持ち良くて好きなのにゃあ。ただ、ミルの膝に乗ってしまったら中々解放してくれにゃいのにゃあ。動物好きも行き過ぎてしまっては毒にゃのにゃ。」

 

そんなジョークを混じえつつ(後半は冗談ではない)話を膨らませる2人を見て、セララは少し羨ましさを感じた。自分もにゃん太を膝に乗せ、癒し癒されたいと思ったのだろう。それから、ミルの長くて綺麗な白い髪を梳かしてみたいとも。2人なら頼めばさせてくれそうだが、いささか勇気が足りなかった。

 

「そういえば、ここへ来る前にススキノの街は荒れているって聞いてましたけど、思ったほどではありませんね。もっとずっと暗くてじめっとした雰囲気を想像してたけど、アキバの街と同じくらいかこちらの方が良いくらいだ。」

 

セララはシロエの言葉を聞いて、ススキノよりも悪い雰囲気の街なんてあるのかと血の気が引いた。なぜなら自分はこの街で追いかけ回され、時には捕まり監禁されたことだってあったからだ。

 

そんなセララの思考を中断させるべく、にゃん太が真実を語る。

 

「それはミルの頑張りのおかげですにゃあ。セララちを助けた後、ミルは同じような状況の冒険者や大地人が居ないか、寝る間も惜しんで従者を召喚して、ずっと調べていたのにゃあ。街の中だけでなく街の外にも警戒網を張って、大地人の商人を陰ながら護衛していたのにゃ。だから最初の頃とは打って変わって、今は随分穏やかになっているのにゃあ。」

 

にゃん太の話を聞いたセララは、自分を恥じた。セララにとってミルセロスは、自分を救ってくれたにゃん太の仲間であり、悲しんでいた自分を慰めてくれた優しい人といった印象だった。しかしミルの普段の生活は、セララの見た限りでは、家の中でずっとソファにうつ伏せになってボーッとしているといったものであったのだ。

 

もしかしたら、街で自分と同じような目に遭ってしまって、外に出るのが怖くなってしまったのかもしれないと心配もしていた。もしそうであったなら、今度は自分が勇気づけてあげなければと思っていた。

 

そんな自分の考えは、全くの見当違いであったのだと知ったのだ。それはもう、ミルセロスは自分と同じなのだと考えてしまった申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいになった。

 

そしてシロエもまた、ミルに畏敬の念を抱いていた。シロエはマリエールから、セララ救出の際はアキバに残った三日月同盟のメンバーの面倒を見てやって欲しいと言われた。しかし直継とアカツキの後押しがあって、結局は自分たちが行くことにした。ただ、そう判断するまでに大いに迷ったのも事実である。よそのギルドの問題に、そこまで口を挟んで良いものなのかと。

 

そんな中ミルは、この街の雰囲気改善のために自分ができることをやっていた。いや、今も尚し続けている。誰に頼まれる訳でもない、感謝されるかも分からない。報酬なんてあるわけも無い。そんな無い無い尽くしな状態で、それでも自分でこうしたいと判断し、選び、尽くしていた。流石と言わざるを得ない。

 

そんなことを話しながらビルの外へ出ると、直継が待っていた。にゃん太と直継が再会できたことによる喜びを露わにし、言葉を交わしている。その間も、やはりミルの姿は見えなかった。

 

「班長、ミルは何処にいるの?」

 

「何っ!?末っ子もいるのかっ。そりゃ会うのが楽しみ祭りだぜ!」

 

茶会時代、ミルはパーティメンバーの誰よりも歳が下であった。茶会創設メンバーのひとりではあったものの、見た目と声の幼さも相まって、メンバーの皆から末っ子と呼ばれ可愛がられていた。面倒見の良い直継は、その筆頭であった。

 

「ミルは今、街のどこかにいる筈ですにゃあ。なんでもやる事があるからと言って、ひとりで家を出て行ってしまったのにゃあ。そのうち来るはずですにゃ...。」

 

シロエと直継、そしてにゃん太の3人は、視線だけで合図を行い辺りを警戒する。恐らく隠れて近くにいるであろうアカツキも、3人と同様に最大限警戒しているはずだ。

 

なぜなら街を歩く4人に対して、悪意ある視線を隠そうともしない冒険者が大勢いるからだ。狙いはセララだろうが、邪魔する輩は容赦しないとばかりの視線を3人は感じていた。そしてその悪意の標的であるセララは、今にも泣きそうな表情で隣を歩くにゃん太の裾をつまんでいる。いくらなんでも、相手の数がこんなに多いのであれば、戦っては負けてしまう。それなのにススキノの街を出ようとしているシロエたちを見て、不安が込み上げてきたのだろう。

 

「ブリガンティアの目論みとしては、戦闘行為禁止区域から多少離れたところでの包囲PK戦闘。優先目標は協力者、つまり僕らですね。セララさんにとっての希望である協力者を殺し、セララさんの意志をくじいた上で云うことを聞かせる。この路線でほぼ確定したと思われます。」

 

"ブリガンティア"。それがセララに執着しているギルドの名前であり、ススキノの街に蔓延る悪質プレイヤーたちの総称だ。

 

ゲーム時代から良い噂は聞かず、そういったプレイヤーたちの集まるギルドとして比較的有名であった。それは今となっても変わらない。むしろ大災害を経て、冒険者のみならず大地人も略奪や暴力のターゲットとなってしまっている始末。

 

ブリガンティアはギルドマスターであるデミクァスを筆頭に、手当たり次第に卑劣な行為を繰り返していた。自分たちよりも弱い存在から奪い、痛めつけ、時に殺す。そうやって、浅はかな欲求を満たしていた。本来であれば、その筈だった。

 

しかしそれを予見していたミルによって、ブリガンティアの思惑は悉く断たれていた。そういった悪質な行為を見つけては召喚獣で妨害し防ぐか、時にはミルが自ら赴き、理不尽な悪意から街を護っていたのだ。

 

当然ブリガンティアにとっては面白くない。溜まりに溜まったフラストレーションが今にも爆発しそうになったいた時に、セララとその協力者を見つけた。彼らは今、抑え切れようもない下劣な感情を孕んだ視線を、シロエたち4人へ向けていた。

 

「班長。」

 

「はいですにゃ。」

 

「ブリガンティアのギルマス、一対一なら。」

 

「愚問ですにゃー。久々に、食い散らかしますかにゃ。」

 

真剣な表情で問いかけるシロエに対し、飄々とした笑みを崩さず応えるにゃん太。恐らくにゃん太も真剣ではあるのだが、どこか愉しそうでもある。

 

そんな2人の会話を聞いていたセララは心底驚いていた。相手はベテランで、人を人とも思わないような輩。いくらにゃん太が強いからと言っても、勝てる保証などどこにもないのに。

 

不安になっているセララに向かって、にゃん太はパチりとウインクする。そして直継もまた、大丈夫だ、俺たちを信じろと勇気づけている。

 

大丈夫。その言葉で、セララの心配は少し解消された。彼女にとって大丈夫という言葉は、今や特別なものとなっていた。特別であるが故に、決して軽々しく口にできない言葉にもなっていた。多少の不安を抱きつつも、足を前へ進ませる。

 

 

&&&

 

 

4人がススキノの街から出て開けた場所に辿り着いた瞬間、シロエの予想通り大勢の冒険者から包囲された。その全員がブリガンティアのギルドメンバーであり、一様にニヤニヤとした悪意と殺意のこもった目をしている。

 

そんな中何を思ったか、シロエが大きな声でどこからどう見ても挑発と取れるセリフを吐く。

 

「あのー!ブリガンティアのデミグラスさんって、どなたですか〜?」

 

「やぁやぁシロエち、そんな大きな声で名前を尋ねては失礼なのにゃあ。吾輩が知っているのにゃ。あそこでふんぞり返っている肉達磨がそうなのにゃあ。おーい、デミクァス〜。」

 

にゃん太がバカにしたようにそう呼びかけた瞬間、当の本人がシロエたちの前に躍り出る。背が高く、筋骨隆々の男だ。レザー製の軽装防具を身に着け、両手には虎の爪を模した武器。武闘家(モンク)だ。

 

「セララの周りを飛び交ってたハエはお前ら3人って訳か。で、召喚術士はてめぇだな?白メガネ。てめぇは万回神殿送りにしてやる。覚悟しとけよォォォ!!!?」

 

どうやら魔法使い風の見た目をしているのがシロエのみであった為、シロエのことを自分たちの邪魔をしていた召喚術士と勘違いしているようである。

 

ミルのやっていた事は誰がどう見ても良いことであるのだが、それが原因で自分に火の粉が降り掛かってくるのは堪らない。そう思ったシロエは冷静にツッコミをいれる。

 

「いえ、僕は付与術士(エンチャンター)ですけど。」

 

「御託は良いのにゃ。デミクァス、お前はやり過ぎたにゃ。どうせPKで襲いかかってくるつもりにゃんだろうから、手間を省いてやるにゃ。若造の高く伸びた鼻をへし折るのも大人の務め、胸を貸してやるから一対一で掛かってくるのにゃ。」

 

それは、普段温厚なにゃん太からは考えられないほど苛烈且つ辛辣な言葉だった。それだけブリガンティアがこれまでしてきた所業に怒りを抱いているのだろう。ふつふつと煮え返るような怒りを冷静に抑えつつ、作戦通りにことを進めなければならない。勝つために。セララを本当の意味で助けるために。

 

「はっ!バカが、なんで俺がわざわざお前らに付き合ってやらなきゃならねぇんだ。全員でかかりゃ終いだろうが!」

 

「あ、お話中すみませんデミ...デミバーグさん?。別に此方としてはあなたでなくとも構わないんですよね。むしろそちらの、灰色のローブの。そう貴方。」

 

デミクァスの言葉は正しい。割と冷静なんだなとシロエは思いながら、にゃん太とデミクァスの会話に口をはさむ。

 

「それって『火蜥蜴の洞窟』の秘法級アイテムですよね?武闘家じゃなく貴方と戦った方がどちらも納得できるでしょう?にゃん太班長、あの魔法使いとやり合おうよ。あっちの方が強そうだ。」

 

「それもそうですにゃー。」

 

「俺が“灰鋼の”ロンダーグだと知って云っているのか。」

 

「へぇ、“灰鋼の”ロンダーグさん。二つ名持ちでしたか。ではやはり、貴方の方が良さそうですね。強い者同士でやり合った方が、お互い不満もないでしょう。こちらはこのにゃん太班長、盗剣士(スワッシュバックラー)が相手です。勝負と行きましょう、逃げるつもりはありませんから。」

 

「その装備ならお前も一流の術者なのにゃ?戦闘で白黒つけるのが、お前達のやり方にゃんだろう?我が輩のレイピアが怖くて一斉攻撃にこだわるデミクァスは放置して。さっさとやるにゃー。」

 

「そこまで言うなら良いだろう!俺の拳でテメェを神殿に送ってやるよぉ!!」

 

にゃん太の挑発が起爆剤となった。自身を貶された怒りと嘲りを露わにしたデミクァスは不意打ちでにゃん太に殴り掛かる。

 

「おっと、すごいパンチだにゃ!当たったら痛そうにゃのにゃ~!」

 

「当たってないので大したことは無いですね。それよりデミウルゴスさん、援護頼まなくて良いんですか?」

 

盗剣士であるにゃん太の武器である二振りのレイピアと、武闘家であるデミクァスの拳が交差する度に、辺りに凄まじいほどの衝撃波が生まれる。どちらの攻撃も、並みの冒険者では躱すことさえ難しいだろう。

 

「この猫爺をぶっ殺したら、テメェもなぶり殺してやるよぉ白メガネ!!」

 

「まぁまぁ、少し落ち着くのにゃ。まずは吾輩と踊るのが先なのにゃ。ご婦人の前ゆえ、かっこ悪いところは見せられないにゃん。手加減して欲しかったら早めにいうにゃん?」

 

「ほざけっ!!」

 

ひらりひらりと軽やかな動きでデミクァスの攻撃を躱し、隙あらば刺突をお見舞いするにゃん太。セララの眼には、にゃん太の言う通り踊っている様に見えていた。

 

しかしデミクァスも決して負けてはいない。武闘家のスキルを駆使し、一瞬でにゃん太との距離を詰め大きな拳と脚を叩きつける。

 

迫り来る砲丸と見まがうような攻撃を避け、時にはレイピアでいなすにゃん太のHPが、少しずつ削られていく。元々にゃん太のHPよりも武闘家であるデミクァスのHPの方が圧倒的に多いのだ。

 

「”ファントム・ステップ”!!”ワイヴァーン・キック”!!おらおらどぉしたぁ!そんなもんかよ、あぁ!?」

 

「く、ぅっ!」

 

武闘家(モンク)とは戦闘系3職のひとつであり、戦闘の最前線に立ち敵を引き付けることに特化している。ただ、他の2職と違って武闘家は最大で皮鎧までしか装備することが出来ない。その代わりにスキルの再使用規制時間(リキャストタイム)が短く、複数の技を組み合わせたコンボが強みとなっている。そしてそのスキルの中には、敵の攻撃を躱したり瞬時に距離を詰めると言った効果のものも存在する。武闘家は防具に頼らず自身の身体能力やスキル、第六感を駆使して前線を維持する。戦士系3職の中で、最もバランスの良い職業といえるだろう。

 

「防戦一方ってか!?はははははっ!!」

 

にゃん太の防御をデミクァスの攻撃が上回る。距離を取ろうとも一瞬で目の前まで追いつき、何をしても無駄だと言わんばかりに左右の連打を叩きこまれる。デミクァスは本来蹴り技である筈の”ワイヴァーン・キック”を、その長い射程距離を利用して接近兼牽制の移動用スキルとして使用していた。これにより、にゃん太は自分の有利な距離を保てずにいる。

 

2人の戦闘を見ていたシロエと直継は、周りに散らばっている冒険者たちに目を光らせつつ冷静に分析するとともに、予想以上に戦闘能力の高いデミクァスに感心していた。

 

目にもとまらぬ速さで2人の攻撃が交差する。距離を取っては詰めて殴り、蹴り、反らし、突き刺す。そうしてしばらく打ち合ううちに、戦況が傾き始めた。

 

デミクァスの大振りのフックを躱したにゃん太は、すれ違いざまにレイピアの切っ先で皮鎧に守られていない関節部分を斬りつけ、デミクァスの大きな背中に蹴りを叩きこんだ。その反動で大きく距離を取ることに成功する。にゃん太の繰り出す斬撃により、デミクァスの鎧は所々が裂け、血がにじんでいた。

 

盗剣士(スワッシュバックラー)であるにゃん太は、二振りの細剣(ツイン・レイピア)を用い闘う。両手の武器によって目にも止まらない連撃と回転を活かした広範囲攻撃を得意とする。武器攻撃職において、一撃の与ダメージは暗殺者に大きく劣る代わりに攻撃の手数で総合的なダメージを稼ぐスピードファイター。

 

更に盗剣士は、様々な付帯効果付きの剣戟という特徴も兼ね備える。自身の武器で相手を攻撃することによって、”攻撃速度低下”や”回避性能低下”、”防御性能低下”など様々な効果をもたらすことが出来る。時間が経つごとに、対象の長所を奪い短所をより致命的な弱点とする。

 

「”ヴァイパー・ストラッシュ”!”ブラッディ・ピアッシング”!おやおや、動きが悪くなったみたいだにゃん。疲れてしまいましたかにゃ?」

 

「ぐぁあっ!クソがっ、正々堂々と闘いやがれ!!ひらひら躱してんじゃねぇ!!」

 

「お前が正々堂々なんて言葉使うんじゃにゃいにゃあ。言葉の方が汚れてしまいそうですにゃ。」

 

にゃん太の残存HPは残り3割程度に対し、デミクァスは5割強ほど。HPのみで言えば、デミクァスの方が優勢なのは間違いない。しかし、デミクァスは自分の攻撃がだんだん当たらなくなってきていることに焦りと苛立ちを感じていた。にゃん太のふざけたような態度が、その苛立ちを助長させる。現在戦況を支配しているのは、誰がどう見てもにゃん太の方であった。それが分かっているからこそ、デミクァスの中で余計に焦燥感が募る。

 

最初の勢いが無くなっているデミクァスを見据えたにゃん太は、レイピアで正確な突きを繰り出す。陽の光を反射させ銀色に輝く細い線が、空中にあらゆる軌道で美しい線を描く。

 

最早デミクァスには本来の速度や攻撃力は無い。全身に散りばめられた数えきれないほどの切り傷から、ダラダラと血が滴り落ちるとともに、HPとMPも目に見えて減少し続けている。

 

「ッくそがぁ!!ヒーラーっ!!回復しろ!!暗殺者部隊はこのクソ猫をぶち殺せぇ!!」

 

突然の怒声。命令されたブリガンティアのメンバーたちは一瞬その意味を理解できなかった。そして理解してもなお、この命令に従って良いものか戸惑いが生まれる。なぜなら普段からデミクァスは「女子供の武器」とレイピアをバカにして蔑んでいたのだ。そのレイピアを使った相手に良いようにあしらわれ、あまつさえ相手との約束を破棄しようとしている。それでは女子供の武器に自分は負けた、勝てないのだと宣言したようなものではないか。そんな奴の言う事を聞くのか?と。

 

「何をしているっ!早く回復しないか!!攻撃職は一斉に攻撃を開始しろっ!!」

 

ロンダークの声が響いた途端に、ブリガンティアの全員がはっとしたように動き出した。

 

そんな敵が戸惑っている隙をシロエたちが見逃す筈もなく。にゃん太に殺到する暗殺者たちの前に颯爽と現れた直継が、やっと自分の出番かと言わんばかりに威圧するような声でスキル使用を宣言する。

 

「”アンカー・ハウル”っ!!!」

 

それは範囲内の敵全てを自身に引き付ける、前線の城塞”守護戦士(ガーディアン)”のスキルである。絶対ににゃん太を殺させない。そんな気概を持って、直継は仲間に背を向け立っていた。

 

足止めをされたブリガンティアたちはターゲットを切り替え、直継に攻撃を仕掛ける。

 

それを見たシロエが、セララに指示を飛ばす。事前に打ち合わせをしていたため、セララも瞬時に対応する。

 

「セララさん!回復開始っ!」

 

「は、はいっ!”ハートビート・ヒーリング”っ!!」

 

セララは自らの持つ最大級の回復呪文の詠唱を開始する。しかし足りない。セララのレベルでは、圧倒的に回復が間に合わない。不甲斐なさに涙が出てきそうになるのを堪え、必死に回復をかけ続ける。

 

「ダメですっ!耐えきれませんっ。私のレベルじゃあ…!」

 

「前衛の戦士は無視してにゃん太班長を集中的に回復!落ち着いて、味方のHPを監視するんだ。出来ないことはやらなくて良い。出来ることを見つめてっ。」

 

パニックになりそうになるセララに対し、シロエは冷静な声を掛ける。セララは自分の出来ることを探し、言われた通りにゃん太の回復に専念する。それでも、やはり足りない。直継のHPは見る見るうちに減っているし、にゃん太のHPもごくわずかしか回復出来ていない。ついに、セララの瞳から涙が一滴こぼれる。

 

誰かが気づいた。魔法や剣戟が飛び交うこの戦場に、見る者の心を穏やかにさせてくれるような、純白な羽根が舞い散っていることに。そして、にゃん太と直継がその羽根に触れた瞬間、少なかったHPが大幅に回復した。

 

シロエと直継、にゃん太の3人の口角が上がる。戸惑いを見せているブリガンティアを無視して、直継が空に向かって嬉しそうに声を荒げる。

 

「主役は遅れて登場ってかーっ!遅すぎ祭りだっつの!!」

 

つられる様にして、その場に居る全員が空を見上げる。その視線の先には、天馬(ペガサス)に乗ったミルセロスが戦場を見下ろしていた。

 




シロエも直継もすき!
原作のペガサスがどんなタイプの召喚獣(従者)なのかわかりませんが、この小説では回復兼攻撃能力を有しているものとして取り扱います。

次回、ついにミルが参戦...!
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