とりあえずは。
ここまで来ました!
「それでは脅迫ではないかっ!?」
「その通りだっ!銀行の預金封鎖など脅迫以外の何者でもないだろう!!」
シロエが”ギルド会館を購入した”と言い放って数十秒が経ち、やっとその言葉の意味が理解できたメンバーの信じられないといった気持ちが飛び交う。脅迫、という言葉を使ってシロエを糾弾したのは、アインスとグランデールのギルドマスターであるウッドストックだった。今、この阿鼻叫喚とも言えるような状況で笑っているのはミルだけである。それほどまでに衝撃的な発言であったのだ。
エルダー・テイルがゲームであった頃にはギルド会館を購入することなどできなかったため、そんなことはありえない、不可能だと思われた。しかしこの場でギルド会館のステータスを確信すると、確かに所有者名には”記録の地平線 シロエ”と明記してある。つまりシロエの言葉はハッタリなどではなく、あくまで事実を述べただけだった。
ギルド会館はギルドホールや会議室として利用でき、何より銀行の役割を果たしているなど冒険者にとってはあって当たり前であり、なくてはならないものだとも言えるものだ。
重要なアイテムや使用しない装備、クエスト等によって稼いだお金などはギルド会館に預けるのが一般的だ。そうしなければ、もし戦闘中にHPが0となり死んでしまった場合、冒険者自身は大神殿で復活するが、その際使用していた装備や持っていたアイテムなどは付近に散らばってしまうのだ。運が良ければ回収して再び使えるが、もしPKなどでロストしてしまった場合はまず間違いなく奪われてしまう。そうならないように、余計なものや高価なものはできるだけ持ち歩かないようにするのが常識だ。
そんな重要な、本来なら公共の設備をたった一人が独占し且つ好き勝手に使用制限や入場条件を設定できるとなってはたまらない。言う様に、これはシロエ以外の冒険者たちにとっては脅迫に他ならない発言だった。
ただ、その様な重要建造物を購入するには莫大な資金が必要となる。一冒険者の貯金では到底購入など出来る筈がないのだ。そこでシロエは三日月同盟に協力してもらい、味のするハンバーガー、通称”クレセントムーン”を販売し、その売り上げ金を融資してもらった。
「僕はアイザックさんの質問に答えただけです。その質問は“例え会議が成立したとしても、案件次第では大手ギルドが拒否権を発動して戦争になるのではないか?”というものでした。その質問に対する答えとしては、戦争は起きません。戦争を起こすということはつまり、アキバにおけるギルド会館の使用権を失うことと同義ですので。そんな愚行を冒すような人物が、ギルドマスターを務めているはずがありません。」
「だから、それを脅迫だと「つべこべ五月蠅い。」っ!?」
シロエに向かって投げられる厳しい言葉を遮ったミル。また機嫌が悪くなっているようだ。自分のギルマスを、旧友であるシロエを言葉の刃で傷つけるなど看過できないと思うのは当然だ。
「シロエが言ったことが脅迫なら、さっき黒剣が言ったことだって脅迫だろうが。”都合が悪い提案をされたら戦争起こす”と”戦争を起こすのならギルド会館は使用できなくなる”はどう違うんだよ言ってみろ。さっきから頭の中でギャーギャー喚きやがって喧しいんだよド畜生ども。少しは考えて喋ったらどうだ。…あ?誰だお前。」
地を這うようなかすれた声。円卓を囲む11の席に座るメンバー、そのほぼ全ての表情が凍る。今の言葉は誰が?いや、解っている。だからこそ息が止まる。だって、その顔でその言葉遣いは。えぇ…。
恐らく一番ショックを受けているのはマリエールだろう。花のような笑顔が固まり、顔からだんだん血の気が引くように青白くなっていっているのが見てとれる。マリエールは、セララ救出作戦成功の祝賀会でミルと初めて会った。その時、『妹(会った当初はミルを綺麗な女の子だと思っていた)にしたい!』と抱き着いた過去がある。無論そんなことは許さないと直継とにゃん太に断られていたが。それからと言うもの、マリエールはミルのことを”
逆に、キラキラとしたエフェクトをまき散らしながら尊敬の眼差しでミルを見つめる少年が1人。元茶会の一員にして西風の旅団のギルドマスター、ソウジロウ・セタだ。ソウジロウはシロエとミルを心から尊敬していた。シロエの
そして意外というべきかこの男、海洋機構のミチタカ。彼は仕方がないとばかりに溜め息をつき腕を組んだ後、ニヤりとニヒルな笑みを浮かべた。ミチタカはゲーム時代から交流があったために、ミルにそういった一面があることを知っていたのだ。いつまでその堅っ苦しい言葉遣いがもつかという好奇心を燻らせながら、会議の行く末を寡黙に見守っていた。
そしてやはり、会議における話し合いの軌道修正を行うのは主催者であるシロエの役目。ひとつの咳払いの後にゆっくりとした口調で話しかける。
「僕は、“会議を設立して話し合いたい”と言っているだけなんです。都合が悪い言葉を無視するつもりもありません。どちらが常識的な申し出か、考えてみてください。」
室内は静まり返り、重く押し殺したような空気となる。突然召集されて、訳の分からない話を聞かされ、罵倒を浴びる。質の悪い悪夢を見ているようなものだ。
「ど、どこからそんな金を手に入れたんだっ。ギルド会館は一般ゾーンだぞ!?そんな大金が一個人で、5人だけの小規模なギルドで賄えるはずが…!」
「我々が融資した。」
ミチタカは、やっと出番が来たかと言う様に名乗りを上げた。そしてその後に、心当たりがあるとばかりに同生産系ギルドのギルドマスターであるロデリックとカラシンもため息混じりに手を上げる。
この3人には、1人金貨150万枚で味のする料理の作り方を売っていたのだ。クレセントムーンの売上金額は金貨50万枚程であり、ギルド会館を購入するには450万枚の金貨が足りなかった。そこでミルとシロエは話し合い、生産系3大ギルドから調達することを決意した。
3大ギルドと呼ばれるほどに規模が大きいその3つであれば、即決で金貨150万枚を支払うことは難しいことではないと踏んだ。また、ミルは個人的にミチタカと知り合いであったために、話を持ち掛けやすいと思った。融資元は、流石に額が大きすぎるため全く知らない相手は選出しずらいと思ったが故のミルの判断だった。
因みにシロエはその時点では3つのギルドのどのギルドマスターとも交流は無く、ましてやフレンド登録もしていない状態だった。自分が居なかったらどこに相談していたのだろう、いやシロエなら同じように生産系ギルドへ打診していたはずだ、初対面でも。そう思ったミルは、改めてシロエのしたたかさを認め、すごいやつだと感心したのだった。
金銭の融資元が判明したことでまたもざわつくメンバーを、ミチタカの力強い言葉が一括する。
「騒がしいぞっ!静かにしてくれっ!!」
手元に配られた資料に目を通す。そこにはミルとにゃん太が発見した調理法の秘密と、現在三日月同盟で販売しているクレセントムーンの調理法が記載されていた。それは元の世界と同じ調理法であり、アイテム作成メニューに新しい完成アイテムを登録する特殊アイテム「レシピ」ではなかった。
海洋機構・ロデリック商会・第8商店街のギルドマスター3名は、今日の朝早くにシロエとミルに呼び出され、この資料を直接手渡しされた。そしてその資料を読んでみれば、至極単純。味のするハンバーガーは、特殊な調理法による新たなレシピなどではなかった。
知的探求心を裏切られた気持ちになり、機嫌が降下した3人。ミチタカは2人ほどではないにせよ、どういうつもりだ説明しろと言わんばかりにミルをじっと見つめていた。
そんな3人に対し、シロエとミルは一切の謝罪をしなかった。なんならミルは、いつもの悪戯っ子のような笑みをミチタカに向けて煽ったりもした。当然ミチタカはミルにアイアンクローとヘッドロックをかましたが。
痛がるミルを無視して、シロエは『どうしてその資料の価値が金貨150万枚以下だと思うのだ』と問いかけた。
唖然とする3人。
チャンスとばかりにミチタカの豪腕から抜け出したミルは、『その方法は何も料理に限った話ではない。生産系のサブ職業に就いていれば、そのレベルに応じたありとあらゆるものを創ることが出来る。』と宣言し、自分が刻印したアイテムを3人に見せつつ丁寧に説明した。
『生産系3大ギルド。そのギルドマスターともあろう御参方が、この方法を知って黙っていられる筈がないだろう?冒険者は自由なんだ。君たちが何を創ろうとも、君たちの自由だとそう思わないか?』
―なぁ、ミチタカ。
その言葉で創作意欲と好奇心が大いに焚きつけられた3人は、先ほどの機嫌が嘘のようにウキウキとした、どこか幼く感じる楽しそうな笑顔を浮かべた。早く試したい、こんなものが創りたい。そんな思いがひしひしと伝わるような笑顔だった。
「シロエ殿にはまだ言うべきことがあるのだろう?」
ミチタカは苦笑を浮かべつつ、チラりとミルに視線を投げながら、シロエに中断された話の続きを促した。その言葉にソウジロウが相槌をうつ。
「そうですね。シロ先輩が何を言っても、現状脅迫可能な立ち位置に居るのは間違いないですから。そして人は相手が脅迫可能だと知るだけで、脅迫されたと勘違いしてしまうこともある。でしょう?」
その言葉に頷き、シロエは話を再開する。
「もっともです。僕だって、こんな強権をたった1人が握っている街は理想的だとは思いません。そこで最初の話に戻ります。皆さんはこの街の、果てはこの世界における冒険者が本当にこんな有り様で良いと思いますか?僕の方から出す方針提案は2つです。ひとつは街に住む全ての人々、引いてはこの世界に活気を取り戻すこと。もうひとつは、少なくともこのアキバの街に住む冒険者を律するための”法”を作り、施行すること。この時点で強く反対する人はいらっしゃいますか?」
応えは沈黙。この場に居る誰にとっても、シロエが言っていることは正しかった。街に活気を取り戻すことも、自分たちを律する法を定めることも。それはミルの話を聞いていれば、なおさら必要だと思えることでもあった。
「判った。そこまで言うのであれば、この会議に提案する記録の地平線の具体的な方策とやらを聞かせて貰おう。」
前条の最前線で敵の攻撃を一身に引き受けるが如く、黒剣のアイザックが言葉を切り込んだ。その発言を皮切りに、席に座る面々の視線がシロエに集まる。
ここに来て会議は加速する。
シロエは小さく息を吐き、今までより一層熱を込めて自分の想いを伝える。
「僕の方から提案する基本的な方針は2つです。地域活性化と、治安の向上はさっき説明した通りです。それについての具体策は、まずは活性化の方の説明から。これは既に幾つかの関係者には話を通してあります。…マリ姐。」
シロエの呼びかけに対し、マリエールは意を決して起立する。
「知ってる人もおる思うけど、三日月同盟は”軽食販売店クレセントムーン”いう店をやり始めたんよ。有難いことに、結構繁盛しとる。」
少し緊張気味に、しかしはっきりと力強く言葉を発するマリエールに、ヘンリエッタが後ろから無言でエールを送っている。女は度胸ですわ、とでも言っているようだ。
「クレセントムーンでは今までにない、ちゃんと味がして美味しいと思えるハンバーガーを中心としたテイクアウト専門の店や。あちこちで色んな噂が出とるんは、うちらの方でも重々わかっとるつもりなんよ。その秘密は、未知のゾーンから発見される91レベル以上のまったく新しいレシピ―ではないんや。」
既にこの事実を知っていた生産系3大ギルド以外のメンバーは、マリエールが言った言葉に驚きと困惑の表情を浮かべる。
「仕掛けはこうや。ごく普通に食材を用意して、現実世界とおんなじように調理する。けど、その調理する人間はサブ職業が”料理人”でなきゃあかんのや。それから、調理スキルが足りんと見なされた場合も失敗する。そんだけのことやねん。種も仕掛けもないのが、種っちゅーわけや。」
「その調理方法を発見したのは、僕の後ろに立っているにゃん太という料理人と、ミルの2人です。彼らから許可を受けた上でその調理法を三日月同盟に教え”軽食販売店クレセントムーン”を立ち上げました。」
ざわめきが収まらない中、静かに席に座るマリエール。シロエは他の議論が始まる前に、畳みかけるように言葉を挟み込む。
「これはずいぶん多くの示唆に富んだ発見だと考えます。この発見自体はミルとにゃん太班長が行なったものだけれど、この発見がなければ、僕はこの席を設けませんでしたし、設けようとも思わなかった。」
そこでミルは、ミチタカを見て問いかける。いや、それは問いと言うよりは確認と言った方が正しいのかもしれない。応えは既に知っていると言わんばかりの楽しげな笑みだ。
「それで?研究の結果は出たのかな、ミチタカ。」
「当然。」
それに対するミチタカの声も、表情も、ミルと同じようなものであった。誇らしげに胸を張り、この事実を知ってからの半日の成果を発表する。
「我が海洋機構は、ロデリック商会及び第8商店街と協力してではあるが、先ほど蒸気機関の開発に成功した。」
これは大いに驚愕すべき事実であるのだが、ここでざわめきは起きなかった。何故か。それはここにいる誰もが、次はどんな突拍子もない真実を聞かされるのだと真剣に耳を傾けていたからに他ならない。
「正確には試作型だ。問題は多いが、理論は実証された。なんだったら、ミルの助力があれば今日にでも完成に至るだろう。こいつの刻印魔法はそれほどの価値と可能性を秘めている。」
「それは絶対に嫌だ。僕の負担が大きすぎる。」
「っち。」
仕返しをするようなミチタカの発言に対し、いきなり何の冗談だとミルは無視しようとした。ただ、ロデリックとカラシンまでうんうんと頷いていたため、慌てて(傍から見れば淡々と)一刀両断する。解っていたとミチタカは舌打ちで返した。この2人の仲の良さが気になり始めた人物が数名ほど居ることに、ミルもミチタカも気づいていない。
「半日足らずで、素晴らしい成果ですね。」
「基本的な部品は作成メニューで作り出すことが出来る。道具や工具もだ。部品を流用するって言うアイデアは秀逸だったな。コストパフォーマンスが良い分費用対効果が高い。作成時の時短にも繋がる。」
自分たちの研究結果をまだまだ語りたいのであろう生産系ギルド3人の盛り上がりをアイザックが遮る。
「おい…、蒸気機関はすごいがよ。つまりそれは、いったいどういう事なんだ?」
素朴な疑問に対して、今度はロデリックが応える。そしてそれにミチタカが補足説明を加える。
「判りませんか? アイザックさん。つまりはこういう事です。先ほどの発見は調理スキルや”料理人”に限ったことではありません。“生産の職人スキルを習得したプレイヤーが、作成メニューを使わず実際に正しい手順を踏んで作成すれば、作成メニューに存在しないアイテムを作り出すことが出来る”事が証明されたのです。元々のエルダー・テイルの仕様には、蒸気機関に関連したアイテムはひとつたりともありませんでしたからね。新しい食料アイテムのレシピは存在しなかった。しかし、『存在しない』という事実が、レシピなどという小手先ではない、新しい次元を切り開いたのです。事はもはや、美味しい食事などというレベルの問題では無い。」
「この世界の文明レベルが跳ね上がるってことだな。原理を知ってさえいれば、自動車だろうがパソコンだろうが作れることが解った。まぁ最も、これが料理に限った話じゃないってことは自分たちで気づいた訳じゃないんだが。」
ミチタカが言った最後の言葉に、ではどうやって知ったのだと新たな疑問が皆の頭によぎる。しかしその疑問は一瞬で解決した。答えはミチタカの視線の先。獣狂いのミルセロスがミチタカからあからさまに目を反らし、舌を出して可愛くバカにした表情で立っていたからだ。
危うく絆されそうになった面々は、ミチタカの言葉の裏に隠された思いに気づくことが出来た。
今までの話し合いの中で、この少年の名前は一体いくつ飛び出してきた?
元々ススキノにいた事は分かる。だが、大災害直後は誰しもが混乱し、困惑し、狼狽え絶望していた。そんな中、たった独りでススキノの街を無法下の悪意から護っていたという事実。そして、アキバに来てからもそれはなお続いている。
更に、これはもう1人の記録の地平線のメンバーと協力してではあるが、味のする料理の調理方法の確立。そしてそれを並行展開させたことによる、生産系サブ職業の重要性の発見。
確かな正義心と、その正義を貫くことが出来る純然たる戦闘力。そして何より、柔軟な思考回路とこの世界への適合性。
誰かが思った。それは戦闘系ギルドの1人であったのか、もしくは生産系ギルド含めた複数人であったのか。確かではないが。
ー是非とも、この少年をうちのギルドに。
そう思った瞬間、ゾクリと悪寒が走る。
シロエとにゃん太の鋭い眼光が、周囲の面々を威圧した。シロエは目じりのつり上がった三角眼で周囲をじろりと見渡し、にゃん太は顔に影を作りながら黒い笑みで前を見つつ、ミルの肩を抱く。
誰がやるものか。
無言の圧に耐えきれるものは、この場には居なかった。
こほん、と軽い咳払いの後。第8商店街のカラシンが、少し興奮したように発言する。
「これからは、作成メニューにはないアイテムを作り出すことが可能になりますよ。しばらくの間は発明ラッシュです。いきなり複雑なものは難しいですが、そうですねぇ...。ラジオ程度なら、作れるんじゃないですか?」
その言葉を受けて頼もしく頷くミチタカとロデリック。そんな3人に対し、当然とでも言うようにミルが声をかける。
「あ、無線機っぽいものならもう作ってるよ。ススキノの大地人にいくつか売ったけど。」
「「「...は?」」」
「え?いや、この耳飾り。先に付いてる赤い宝石に音声を対象とした転送魔法を刻印してるんだよ。この耳飾りが親機で、売ったのは子機。子機は親機へ、親機は子機へ送受信ができるように設定したから、僕としか音声通信出来ないけど。」
空いた口が塞がらなかった。いつも小難しい顔をしたロデリックでさえ、大口を開けてミルを凝視し固まっている。これが如何に重大な事であるか、生産系ギルドでなくとも分かるというもの。知らぬは本人ばかりである。因みにシロエもにゃん太も、無線機(魔法具だが)については今初めて知ったようだ。とても驚いている。
本当にこの少年はどこまで...と思いつつも、カラシンは軽く笑みを浮かべ言葉を続ける。
「このように新しい発明が増えれば、新しい需要が出てくるでしょう。当然お金を稼ぐ手段も、稼ぐ必要性も増える。つまり活性化です。幾つかの配慮は必要だとは思いますがねぇ。経済的な暴走が起きる可能性はありますから。―でも、それは克服できる可能性のある混乱です。絶望に向かう停滞ではないでしょう?この世界では、中世の基本的なアイテムや手持ちできるような工具は作成メニューで作成できる。道具もお手本もある以上、進歩の速度は速いと予測できます。」
「俺達生産系ギルド3つは、それらの事実を確認し、そこから得られる利益についても、新しく湧き出してくるやる気や活気ってのにも注目している。期待している。この一事を持って、シロエ殿を筆頭とした記録の地平線を支持しても構わないと思うほどにな。」
「では生産者ギルドはっ...!」
「あぁ!俺達は"円卓会議"の設立を支持する!」
遂に生産系ギルドを代表して、ミチタカが立ち上がり宣言する。釣られるように、ロデリックとカラシンが活き活きと立ち上がった。
ミルは横目でミチタカを見て、無言でパクパクと口を動かす。ミチタカはそれを見て、にかっと笑う。
それからシロエは、生産ラッシュに伴うクエストやその他お金を稼ぐ方法の増大という可能性を名言した。これにより生産系ギルドのみならず、販売としてのサポート系ギルドの活躍やアイテム採取時の護衛としての戦闘系ギルドの活躍は大きなものとなることが理解された。もちろんアイザックもうんうんと頷いている。
「次に人権問題です。自由権はきちんと保証しましょう。死が絶対的な終着点にならない以上、監禁や拉致などは元の世界よりも重い犯罪だと考えられます。ギルドの入会や脱退なども、本人の自由意志に任せるべきです。本人の意志を無視した人材の囲い込み、脅迫。これらは禁止して罰則を設けるべきです。言うまでもないですけど、異性に対する性行為の強要は極刑です。」
ギルドの入脱退の部分でシロエはチラりとミルに視線を流した。先程のことを根に持っているのだろう。その視線に気づいたメンバーは気まずそうにコクりと頷いた。
「いや、"異性に対する性行為の強要は極刑"という部分は撤回させてもらう。」
ミルの言葉で場が騒然となる。当然だ、先ほどミルは街中で行われようとしていた性的暴行を未然に防いだと言っていた。にも関わらず、なぜそのような発言ができるのか。だが皆が抱いた幻滅ともとれるその感情は全くの誤解であった。
「"異性に対する"では無く"性別問わず"だ。異性だろうが同性だろうが、嫌がってる相手に無理やりなんてゴミは見つけ次第粛清対象として処理する。今までだってそうしてきた。」
(((あぁ...。)))
どこか同情や不憫といった感情を滲ませる面々の視線がミルに集まる。今の発言によって、この世界にもそういった趣味の人物が一定数以上いることが認知された。そしてミルは対象になったことがあることも。
「あ、それ僕も賛成です!」
ミルの言葉にソウジロウが笑顔で同意する。確かにミルと雰囲気やタイプは違うが、ソウジロウでも納得できる。少年らしい愛嬌と声に柔らかな笑み。女性から絶大な人気を誇るソウジロウであったが、ミルの言葉に思うところがあったようで。...今のソウジロウの笑顔は、一体どのような感情からくるものであるのだろう。誰も怖くて聞けない。
「僕の配慮が足りませんでしたね、すみません。それでは最後になりますが。この人権問題については、冒険者だけではなく大地人にも適用されるべきです。」
ノンプレイヤーキャラクターである大地人にも?
なぜ?
意図が読めない。
そのような発言がチラホラと上がったことで、ミルは小さくため息をついた。それは、やっぱりとでも言うような落胆からくるものだった。
「シロエの発言に理解が及ばなかった者たちは、大災害後に彼らと交流を持たなかったのだろう。シルバーソードと同じようにな。君たちがNPCと呼んでいる彼らは、ゲーム時代のそれとは大きく異なる。一人ひとりに人格があり、意思があり、感情がある。僕らと同じように夢や希望、悩み事や愛情を抱いて生きている。家族がいて、友人がいて、当たり前に生活している。彼らは自分たちを大地人と呼び、僕らを冒険者と称する。彼らは、この大地に住まう歴史ある人間たちだ。いい加減それを認識しろ。」
ミルのその言葉を聞いて、感心するように頷くものと顔を青く染めあげるものに別れた。流石に今の事実は無視しようにもできないものだ。今までただの声を発する人形だと思っていた者たちが、実際は自分たちと同じように感情を持って生活しているだなんて。
「はっきりさせるために言いますが、この世界の本来の住人は彼らで、僕たちの方が寄生虫なんです。アキバの街は元々〈冒険者〉の街ですから、比較的〈大地人〉が少ないですが、世界全体で云えば〈大地人〉の方がずっと多いはずです。世界に対する役割として、〈冒険者〉と〈大地人〉は違いますけど、このままではまともな関係を築くことも出来ない。大地人は冒険者が居なくても生きていけますが、冒険者は大地人が居なければ生きて行けません。」
強い言葉を使ってメンバーの認識を改めさせるシロエに対し、まだ理解が及ばないといった風の人物が少し。それも当然と言うべきか、どうしてもこの世界はエルダー・テイルとそっくりであり、ゲーム時代に重ねて考えてしまうのだ。こればっかりは、実際に会話したり共に行動した方が判りやすい。
そこで、マリエールがおずおずと挙手し発言する。
「あんな、"クレセントムーン"は確かに大人気やってん。でもな、買いに来とったんはプレイヤー、つまり"冒険者"だけやないんよ。"大地人"もぎょーさん買いに来てん。つまりな、なんてゆうたら良いのか判らんけど。うちもまだ、判ってへんのやけどな。あの人らもな、みんな美味しいもの食べたいんよ。」
水を打ったかのように静まり返る一室。ハンバーガーを食べにNPCがやってくる。余程信じられなかったのだろう。しかし最早、信じられないでは済まされない。この世界において大地人とは、紛れもなく人間であるのだということを。しっかりと頭に刻まなければならなかった。
「僕は、ススキノでは大地人との交流を主軸に行動してた。
「彼らは人間だよ。この世界で誰よりも、ずっと人間らしいんだ。大きすぎる力に酔ったりしない。自分が生まれた土地で、慎ましく日々を生きている。元の世界の僕らと一緒だ。彼らはとても、きれいなんだ。」
ミルが呟いた言葉が、すとんと胸に落ち着いた。それは正しく、自分たちと同じ。元の世界の、ファンタジーのかけらも無いあの現実の自分たちと。動物は撫でたくなるし、可愛がりたい。助けて貰ったらお礼を言う。買い物に来ていた子供を見かけたら、微笑ましいと癒される。あぁ、それはなんと、当たり前のことなのだろうか。
「元の世界に帰るのを諦めるべきだとは言いません。言いたくもない。…でも、ここが異世界だって事は認めましょう。もう飛ばされて二ヶ月近くになるんです。“我が儘なお客”でいるのは限界です。このまま、この世界で自分たちを律する事も出来ないまま、毎日を勝手放題に過ごしていたら。取り返しのつかないことになります。」
もう一押し。そう思ったシロエは最後に言葉を紡ぎ、ゆっくりと腰を落ち着ける。ほっと一息。ミルとにゃん太は、シロエを労うようにポンポンと肩を叩いた。
「シロエ君は、大地人と戦争の可能性があると示唆しているのか?」
丁寧な言葉遣いで、シロエを見据えたクラスティが静かに尋ねる。
「それは僕が今考えることではなく、"円卓会議"が考えることだと思います。」
個人で判断するものでは無い。皆で考えるべきことだ。そのために、この円卓会議という組織が必要である。そういった思いは、言葉にせずとも伝わっていた。
クラスティはそれを受け、フッと笑みを零す。この会議室で初めて見せる、心からの笑みだった。静まり返った周囲を見渡し、流麗に立ち上がり、高らかに言い放つ。それはまるで誓いを立てる騎士の如く、神聖で清らかな宣言だった。
「我らD.D.Dは、アキバの街を自治する組織として"円卓会議"の設立に同意し、これに参加する。」
次の言葉は、楽しそうな笑顔のソウジロウからだった。
「僕たち西風の旅団も同意します。流石は"茶会の双鍵"ですね。御二人はいつまでも僕の憧れだ。やっぱりうちに欲しかったですね。シロ先輩もミル先輩も。」
「アキバを割るわけにゃいかねぇだろ。黒剣騎士団も参加だ!」
続く黒剣騎士団。戦闘系ギルドが出揃ったことで、ホネスティも同意の意を示す。そして生産系ギルドの3つが当然自分たちもと席を立つ。三日月同盟のマリエールも、向日葵のような笑顔で、心から嬉しそうに参加を宣言する。またひとつ、またひとつ...。
そして遂に、全11席の参加宣言をもってして、"円卓会議"が誕生した。
お気に入りがだんだん増えててほんとに嬉しいです!
バーが赤い...っ!?これはっ!
どういうことだ??
もう嬉しすぎてニヤニヤですな〜( ´﹀` )