生まれ変わったら魔王の兄だった   作:ジーザス

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アニメを見返して書いた作品です。更新がどうなるかは未定となっています。


兄ですが何か?

転生。

 

それは死した魂が、新しい肉体や命を得て再び生活することを意味する。宗教的な意味合いが強いかもしれない。新生や生まれ変わりとも言われる。

 

俺の人生は、そういったものと無縁ではなかった。むしろ当たり前のようにあるものだったのだから。といっても俺の世界に、それが普通に起こっていたわけではない。小説や漫画などのファンタジーにおいて、とりわけ人気のあるジャンルであっただけだ。有名どころでは、人間世界で突発的な事故や病気で死んだ者が、神によって別世界に転生される。もしくは気がついたら異世界にいる。そういった設定が多いのが特徴だ。かく言う俺も、その小説や漫画などでよくある転生で新たな命を得たわけだが。

 

よくある設定として、チート能力保持者・無能力者からの叩き上げ・主人公の友人・家族・悪役・最強の存在など多くが存在する。

 

そしてこの俺も、その例に漏れることなく転生した。

 

主人公の家族というよくある設定だ。それに加えて〈最強の存在〉という2つ名的なものが与えられている。本来であればその2つ名は、俺ではない者に与えられるべきだ。だが案の定というかそういう設定があったが故に、その2つ名は俺に与えられてしまったらしい。

 

別段、嫌なわけでも拒否するつもりもない。前世においては、特にこれといった特徴のある人間ではなかったし、順風満帆な人生とは言い難いものだったからだ。とはいっても、純粋に2つ名を与えられたことは嬉しい。2つ名があるだけでそれなりに権力は持てるし発言力も強まる。俺の望まない方針になるときには、それなりの発言力で変えることも可能だからだ。2つ名があろうとなかろうと主人公の家族という時点で、かなりの権力を有しているのは事実なのだが。

 

要約すれば、俺は第2の人生を〈暴虐の魔王〉アノス・ヴォルディゴードの兄として送ることになったのだった。

 

 

 

 

 

【二千年前の神話の時代】

 

『敬愛なる我が兄よ』

 

椅子に座って記録結晶で過去の戦闘映像を見返していると、後ろから重苦しい声で問いかけられた。椅子を回転させて振り向くと、いつになく悲しげな顔をした弟がいる。

 

『どうした?珍しく浮かない顔をしているが』

『兄はこの戦いをどう思う』

 

突然の問いかけに、アルファス・ヴォルディゴードは片眉を吊り上げる。先程の言葉は、〈暴虐の魔王〉の異名を持ち、他種族から恐れられ恨まれている男が発する言葉ではない。彼の言うこの戦いとは、今勃発している他種族との戦争のことだ。

 

永きに渡る戦いで多くの命が失われた。だが一部の魔族は魔王やその兄によって、本当の意味での死を迎えていない。《蘇生(インガル)》によって何も無かったことになるからだ。そもそもこの世界における死という概念は、魔力の源である〈根源〉の崩壊や消滅を意味している。たとえ肉体が滅びようとも、〈根源〉さえ無事ならば何度でも蘇る。

 

『いきなりだな。突発的な質問であるが答えるのは造作もない。俺の立場での意見としては、どちらでも構わないというのが本音だ』

『つまり俺が決定したことに関しては、口を出さないということか?』

『〈暴虐の魔王〉の決定だ。参謀である俺が口出しする権利はない』

『何を馬鹿なことを。参謀である前に俺の。いや、〈暴虐の魔王〉の兄だ。誰よりも発言力を持つというのに。だがその意味は理解した。邪魔をしたな』

 

それだけを言って去っていった。まったく配下に対して情が深い男だ。いや、同族だけでなく他種族に対しても高いと言うべきか。自ら争いは望まず、危害を加えられるから反撃する。

 

〈アハルトヘルンの森〉の時に関しては、自ら乗り込んでいたから何とも言えないが。まさか数日後に目的を話して、勇者カノン・大精霊レノ・創造神ミリティアを、〈魔王城デルゾゲード〉に集結させるなんて思いもしなかった。

 

 

 

 

 

『和睦だと?今更そんな言葉を信じられると思うのか?』

 

魔王が発した言葉に剣を構えた青年は噛み付く。

 

『このようなことを戯言として口にすると思うか?魔族の頂点たる魔王が』

『誑かすための言葉だと受け取る。その言葉は信用するに値しない』

 

どうやらこの男は、アノスが嘘で相手を油断させることを目的としていると勘違いしているらしい。アノスはまったくの本心だというのに。種族の違いと過去の怨恨を考えれば仕方の無いことなのではあるが。

 

勇者カノン。〈人間界〉における最強の剣士にして、この世で唯一〈根源〉を7つ持つ存在だ。たとえ〈根源〉を破壊されようとも、1つでも残っていれば復活する。これこそチート能力というべき代物だ。

 

対して〈暴虐の魔王〉の2つ名を持つアノスは、確かに強大で畏怖するほどの力を持っている。それなりに対抗できるのは勇者カノン・大精霊レノ・創造神ミリティアなど片手で数えられる程度だろう。

 

『何故信用することができない?俺はこうして姿を晒し、魔王城の〈玉座の間〉で敵である勇者・大精霊・創造神を迎え入れているというのに。本来であれば、此処に入ることはおろか見ることもできないというのに』

『〈魔王城デルゾゲード〉、それ自体が強力な魔法だ。その気になれば、俺たちを殺すなど造作もないだろう?』

『さあ、どうだろうな。こちらには我が兄と俺がいるわけだが。そちらには勇者・大精霊・創造神がいる。良くて五分五分、悪ければそちらが勝つのは当然だろう』

 

アノスの言葉に勇者カノンは黙り込む。いくら魔族最強の魔王であったとしても、それぞれの種族における最強の存在たる3人を同時に相手して勝つことは簡単ではない。そのことを理解してはいたが、納得などしたくなかったのだろう。首を縦に振れば、何かが壊れるとカノンは恐怖したのだった。

 

『その気になれば、自滅魔法でも使うのがお前だ』

『そのような無粋なことはせん。こんな所でそんな魔法を使えば、《ディルヘイド》はおろか《ミッドヘイズディルヘイド》が跡形もなくなるだろう。同胞を巻き込むような魔法は使わぬ』

 

自爆魔法はあるにはある。だがそれを使うということは、本当の意味での死を意味する。〈根源〉を元に爆発させることで、莫大な魔力を魔法に変える禁呪だ。

 

魔力の強大さと〈根源〉の強さは比例する。〈根源〉が強ければ強いほど魔法は強力となる。そんな存在が自爆魔法を使用すれば、地形を変える程度では済まない。よくて地形変化。悪くて地殻・天候変動にまで至ることだろう。発動させるつもりがないことを仮定しても意味はない。

 

『その言葉を信用しろと?貴様はこれまでどれだけの人間を殺してきた魔王アノス・ヴォルディゴード』

『逆に訊くが勇者カノン、お前はこれまでどれだけの魔族を殺してきた』

『っ!』

『人間は俺たち魔族(・・・・・)を殺せば、世界が平和になると信じて疑わないらしい。だが果たしてそうだろうか。人間と魔族、どちらかが根絶やしにされなければこの戦いは終わらない。たとえ魔族が全て滅びようとも、人間は新たな敵を作り出すだろう』

 

人間は欲にまみれた生き物そのものだ。欲を叶えようとすることで、文明を発達・発展させてきた。だが欲全てが悪いわけではない。欲は時に生きる希望や活力ともなりうる。何が正しい欲で何が正しくない欲なのか。それは誰にもわからない。

 

『精霊・神々、そして最後には人間同士で争い始めるだろう』

『…確かに人には弱い部分もある。だが俺は人を信じたい。人の優しさを信じたい!』

『魔族にも情があると思うか?』

『何を…』

『勇者なら一度くらい俺を信じてみよ。俺は疲れた。先の見えぬ終わりのない戦いに意味があるとは思わん』

 

配下に見せる微笑みとは違う。穏やかな平和を望むその笑みを見て、勇者カノンは敵意を薄めた。少なくとも先程の殺気は薄まり、言葉の真意を探るように口を開く。

 

『…何をする気だ』

『種族を分断させ、戦争の火種を断つ。〈魔界〉・〈人間界〉・〈精霊界〉・〈神界〉を壁で隔て、1000年は開かぬ扉としよう。我が兄と俺の命の全てを魔力に変え、お前たちと力を合わせれば大魔法を発動できる』

『…平和のために死ぬというのか?』

『完全に滅びるわけではない。次に転生できるとしたら2000年後といったところか』

 

いくら魔王とその兄とはいえ、肉体全てを魔力に変えるともなれば、簡単には転生できない。器となる肉体に宿るための力までも失うだろう。

 

魔王・勇者・大精霊・創造神が協力して発動できる大魔法。この先二度と使用されることはないであろう。記憶に残るのはこの場にいる5人だけだ。だが逆に言えば、2000年間眠るだけでいつまで続くか分からない戦争を、今すぐに終わらせることができる。それだけの代償を払う価値があると兄弟は判断したのだ。

 

魔王とその兄が玉座から歩き出す。

 

『カノン、俺は疲れた。このつまらぬ悲劇を終わりの見えぬ争いをお前はまだ続けたいか?』

『…わかった。お前を信じてみよう』

『ありがとう』

 

今まで敵対していたとは思えぬほど、穏やかな笑みを浮かべる。まるでかつての旧友に再会したような雰囲気だ。

 

『魔王にお礼を言われる日が来るとは思わなかった』

『勇者に礼を言う日が来るとはな。では始めよう』

 

魔王とその兄が全魔力を凝縮させ、巨大で強力な術式へと変換していく。それに向けて、大精霊と創造神が魔力を分け与える。魔族・精霊・神の魔力が混合した術式が輝きを放ち始めた。

 

魔王とその兄が列を作り、その胸元に術式を浮遊させる。

 

『はぁぁぁぁぁ!』

 

裂破の如く吐き出された気合いと共に突き出された《霊神人剣エヴァンスマナ》が、術式と2人の身体を貫いた。2人の身体から大量の鮮血が吹き出す。だが2人は痛みを全く感じさせない穏やかな笑みを、勇者・大精霊・創造神に向ける。

 

『勇者カノン、改めて礼を言う。もしお前が2000年後に生まれ変わることがあるとすれば…』

『その時は友達として…』

『ああ…』

 

その瞬間、2人の身体は魔力へと変化し、強大で巨大な壁を〈魔王城デルゾゲード〉から四方へ吐き出していく。

 

大魔法《四界牆壁(べノ・イエヴン)》発動。

 

 

 

かくして四種族の永きに渡る戦争は、この時を以て終焉を迎える。壁に隔てられたことで攻めようにも攻めることができなくなった種族たちは、次々と戦うことをやめていった。そしていつまで経っても開く様子を見せない扉によって、いつしかそれぞれの種族はかつての怨恨を忘れていった。戦争があったという事実を、未来に残していくことは変わりなく。

 

 

 

 

 

【魔法の時代】

 

「見て、わたしたちの赤ちゃん」

「ああ」

 

目を開ければ、そこには見下ろしている夫婦がいる。どうやら無事に転生できたようだ。穏やかな笑みを浮かべる母親、それを労わるように座っている父親といったところか。今回は愛情を惜しみなく注ぐ当たり前の両親らしい。

 

「よし、お前たちの名前は…」

「アルファス・ヴォルディゴードだ」

「アノス・ヴォルディゴードだ」

「「喋ったぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

やかましいな。この近距離で大声を出さないで欲しい。だがまあ、正常な反応だろう。なんせ生まれたばかりの赤子が、自身の名前を名乗ったのだから。

 

転生すれば記憶と魔力は引き継がれる。そのことを知らないのか?いや、知らないだろうな。なんせ転生したのは過去から2000年後だ。魔法は【二千年前の神話の時代】と比べて著しく低下しているはずだ。

 

かつて使われ、今は使われない魔法は〈失われた魔法〉として語り継がれている。物によっては、それさえ伝えられていないものもあるようだが。だがまあ、特に問題はない。存在さえ知らない魔法を使うことで、魔王復活の事実を知らしめることに繋がるだろう。

 

横を見れば、あの頃と何も変わらない眼を持った赤子がいる。まさか、この時代も兄弟として生きることになるとは。

 

まったく因果な話だな。




アルファス・ヴォルディゴード・・・本作の主人公。〈暴虐の魔王〉アノス・ヴォルディゴードの兄として転生する。全てにおいて才を示す万能の魔族。兄・参謀・右腕などあらゆる立場を兼用してアノスを支えている。アルファスがいなければ、魔族は戦争初期に全滅していたと謳われるほど他種族からも恐れられている。
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