生まれ変わったら魔王の兄だった   作:ジーザス

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入学試験③

夕食後のティータイムを過ごしてから、俺はミーシャを自宅まで送ることにした。アノスには入学試験のことを、父さんと母さんに話してもらっている。内容のある話ではないが、2人も興味があるだろう。何より俺たちの無双を知らせることができる。2人には何よりのご褒美になるだろう。

 

「騒がしい両親で悪かった」

「楽しかった。愛情が家にあるのが伝わってきて好き」

「そう言って貰えると俺も嬉しいよ」

 

初めて会った頃より、幾分か表情が柔らかくなったミーシャの言葉も弾んでいる。ミーシャの父も両親に似て元気だから、家では意外と似たようなものなのかもしれない。

 

「騒がしいのには慣れてる」

「ミーシャの父も元気だったしな」

 

ここでは騒がしいなどとは言わない。オブラートに包んだところで、ミーシャには見透かされるだろうが。オブラートに包むことで空気も和むし、ミーシャも気にせず色々と口にできるだろう。

 

「本当の家族じゃない。親代わり」

「死別したのか?」

「親はいるけど…忙しい。お姉ちゃんは騒がしい」

「仲がいいのか?」

「…わからない」

 

家族関係はあまり踏み込まない方がいいかもしれない。何か理由があって、姉妹が別々に生活することは特別珍しいことでもない。【二千年前の神話の時代】なら、生まれたばかりで養子に出されることなどざらにあった。生まれた直後に魔法の素質を計られ、適性のある魔法の一族に預けられる。血の繋がりがありながら他人として育つなど、当たり前のように繰り返されてきた。

 

戦争で家督を継ぐべき者が死に(本当の意味の死ではない)、他に弟・妹がいないがために、適性のある子供を迎え入れる。この時代では少ないと思われるが、完全になくなったわけではないらしい。

 

「気になる?」

「ミーシャの状況にか?」

「お姉ちゃん」

「あるともないとも言えないかな。聞いただけで会わせろなんて言われても困るだろ?」

「うん」

 

話を聞いただけで興味を持つのは、特に悪い事だと言うつもりはない。世の中に興味を持つ理由の中でも、他人から聞いた話というのは一定数存在する。いや、むしろそれが過半数を占めることもありえるだろう。人の話であっても不思議な性格や面白い発言をする者ならば、一度会ってみたいと思うことだってあるはずだ。今回は、ミーシャが大人しいのでそのミーシャが言う騒がしいというのは、どの辺りまでのことを言うのかという意味で興味がある。

 

「やっぱり優しい」

「クスッ、俺がか?」

「おかしかった?」

「いや、そんなことを言われたのはアノス以外で初めてだったからね」

「じゃあ、何て?」

「髪色と戦果も相まって、酷い呼び名を与えられていたよ。血潮だの悪鬼だの。散々の言われようだった」

 

俺の髪はこれでもかというほど紅い色をしている。戦場では血飛沫が上がるのは当然であり、返り血など溺れそうなほど浴びるものだ。実際、俺の周りには血溜まりができることなど日常茶飯事だった。魔法の無効化地帯などでは、肉弾戦や剣技で戦わなければならない。特に本陣や自身の種族にだけ加護が与えられる陣地などだ。

 

そういった場所では、四方を敵に囲まれながらの戦いだ。敵を斬り殺せば足元には血が溜まっていく。戦意を削ぐほどにまで命を奪えば、血の池ができるのは誰にでもわかる。特攻隊長として戦場を駆け回った俺は、いつしか魔族を含めた四種族から、〈最強の存在〉とは別の異名を与えられた。

 

血塗れの魔族。すなわち〈鮮血の闇〉と。

 

魔族からは畏敬と羨望の意味での異名だ。人間・精霊・神からすれば、憎悪と怨恨の意味の異名。そのような言葉は〈言霊〉のように魔力を持ったりはしない。ただ、口にするのもはばかれるようなものであったのは確からしい。今はその名も語り継がれていないようだが。

 

髪色と返り血を浴びることで、血の化身のような異名を与えられた。アノスはその異名を好ましく思っていないようだ。俺への不名誉な呼称は、アノスにとって耐え難い侮辱となるとのこと。兄の呼ばれなど気にする必要も無いのだが。

 

「虐められてた?」

「そういうわけじゃないよ。実際、そんなふうに振舞っていたからね。そもそもの原因は俺にある」

「嫌じゃないの?そのあだ名」

「嫌悪の対象じゃないから気にしない。それに誰がなんと言おうと俺は俺だ。俺が俺である限り、どんな異名も呼称もただの飾りでしかないさ」

 

呼称には良い意味も悪い意味も含まれる。親しみを含めた呼び名や、皮肉を込めた呼び名。それらを気にしながら生活していれば、自分自身を見失うことになりかねない。嫌ならば無視すればいい。気に入ったなら受け入れて笑い合えばいい。結局、その呼び名をどうするかは自分次第だ。

 

「それより歩いて帰るには、ミーシャの家は少し遠いんじゃないか?」

「食べすぎたから少しでも抑えておきたい」

「なるほど。ダイエットか」

「ダイエット?」

「…ごめん。古代の言い方が出てしまった。痩せるための運動と捉えてくれればいい」

 

どうも気が抜けると前世の言葉が出てしまう。この世界での言葉は汎用語と魔法名の古代語だけだ。俺の世界の言葉は意味を成さない。時々使われることもあるが、それは古代語に近いので例外的だ。

 

「そんな言葉があるんだ」

「〈失われた言葉〉と言えるかも。ミーシャは特に痩せる必要は無いと思うけどな」

「栄養の摂りすぎは後からくる」

「そういうものか」

「そういうもの」

 

転移(ガトム)》を使えば、あっという間に送れるのだがな。女の理想体型と男の理想体型は異なるという話と似たようなものか。といっても好みは人それぞれだから、何が平均なのかは知らないが。

 

「「「《創造建築(アイリス)》」」」

 

話していると、どこからともなく複数人の声が聞こえてきた。気がつけば俺たちは何者かの魔法によって、その場に閉じ込められてしまった。前方から何者かが歩いてくるのを感じて、ミーシャを庇うように前へ出る。もちろん背後の警戒も怠らない。暗がりから姿を現したのは、長身で長髪のブライドがやけに高そうな男だった。その隣には勝ち誇ったような顔をした、思い出すのも煩わしい奴もいる。

 

「逃げようとしても無駄だ。ここら一帯は、我が意を受けた衛兵が封鎖した。魔大帝リオルグ・インドゥである。貴様に似た男に弟が世話になった」

「ゼペス・インドゥの兄が俺たちに何の用だ?俺はそいつの恨みを買った記憶はないのだが」

 

権力を利用した情報操作と家族愛故の憂さ晴らしと来たか。本当にこの国の権力者共は腐っているな。お灸を据えてやらねば、目を覚ますことは永遠にないだろう。

 

「〈デルゾゲード〉じゃ少しばかり力があっても、混血は皇族に勝てねぇんだよ。何故だと思う?」

「試合で勝てば今のように闇討ちされるからか?」

「その通りだ!覚悟しろ。兄貴は俺より遥かに強い。お前が倒した皇族の奴らが束になっても勝てないぐらいにな。お前はこれから死ぬんだよ!…え?」

 

威勢のいい言葉を発した後に、隣で立っている兄に胸ぐらを掴まれている。兄は強いという言葉が癇に触ったのだろうか。何にせよ心の狭い男なのは確かだ。

 

「もう喋るな恥知らずが。惨めな負け姿を晒すような弱者は、インドゥ家に不要である」

 

自分たちこそ最強だとでも思っているのだろうか。他の皇族がどれほどの力を持つのか知らないが、どうせ似たような実力しか持ち合わせていないのだろう。

 

ゼペスを掴む右腕に黒い稲妻が走る。どうやら魔力を使用して亡き者にしようとしているらしい。負ければ死以外に道はないというわけか。皇族として生まれながら、死ぬ時はボロ雑巾のように捨てられる。これならば皇族に批判されながらの生活の方がよっぽどマシだ。

 

「ウガァァァァァァ!」

「弟のために動いたのではないのか」

 

焼死体と成り果てたゼペスに視線を向けながら問いかける。

 

「言ったであろう。惨めな負け戦を晒すような者は不要だと」

「負けることなど世の中では常について回る。誰であろうと敗北の可能性からは逃れられない」

 

【二千年前の神話の時代】、アノスは〈暴虐の魔王〉と恐れられた。何者にも侵されないその強靭な肉体と強大な魔力で魔族の一部を除き、総てを甘さず我が物とした。だがそこに敗北や苦境がなかったことなどない。

 

生まれながらにして才能を持ち合わせていても、それを使いこなせるようになるのは別の問題だ。才を見せようと、使いこなすまでには敗北を味わう。俺はアノスを魔王にするために、何度も命を奪うつもりで鍛錬してきた。転生させることなく、本当の意味で殺すつもりでだ。

 

俺がアノスを殺せなくなるまで上達するには、数え切れないほどの敗北を味わっている。〈暴虐の魔王〉と畏怖された男でも、非公式な敗北神話は存在しているのだ。だというのにこいつらは、1度の敗北でさえ許されないことと判断している。

 

「先程の言葉からして、俺を殺そうとした〈皇族派〉5人を誑かしたのはお前のようだな」

「混血が皇族に意見するでない。貴様がインドゥ家を辱めた男の血族であることは、既に調べがついている。貴様と後ろの小娘を処罰した後に、本人共々親も殺してやる」

「まるで犯罪者のような扱いだ。いつ俺たちが罪を犯したというのか」

「皇族の名を穢したこと以外に何がある。皇族とは〈暴虐の魔王〉が転生されるための器なのだ。始祖の血を完璧に受け継ぐ我々純血が、混血などという雑種に侮辱されたままではおれんのでな」

 

周りを取り囲んでいる奴らも、インドゥ家とやらの息子が死んだというのに顔色ひとつ変えていない。これがインドゥ家の考える当然の結果なのか。はたまた皇族全体が当たり前のように敗北者を切り捨てているのか。

 

どちらにせよ命は粗末に扱うものではない。

 

「くだらないな。混血だの純血だの皇族だのと煩わしい。聞いているだけで反吐が出る。お前たちには余程、血への強い思い入れがあるらしい。だがそれは単なる言葉であって事象ではない。魔王とは、己の力で総てをねじ伏せる者のことだ。混血であろうと純血であろうと関係ない」

「今の言葉、我々の始祖の偉業を軽視する発言である!」

「何故俺が俺と同じ血を受け継ぐ者を語ることが、偉業を軽視することに繋がる?」

「戯言を。何を言おうと我々の言葉こそが正しいのだ。貴様の発言は万死に値する」

 

余計なスイッチを押してしまったようだが、これはこれで丁度いい。俺自ら攻撃するより、自らの攻撃を跳ね返された方が、状況理解するのに苦労するだろうからな。リオルグ・インドゥの合図で、周囲の衛兵たちが魔法を行使し始めた。どの衛兵からも米粒のような魔力しか感じない。ミーシャの方がよっぽど強力で大量の魔力を有している。

 

だというのに、目の前の男はこの周辺の魔力としては遥かな高みにある。言葉だけでなく事実としてそれが己の自信へと繋がっているのだろう。それに関しては異論を唱えるつもりは無い。だがその自信と傲慢さが故に、見えるはずの事柄が見えなくなっている。

 

「反逆者には、見せしめとして嬲り殺しがお似合いである」

「この程度のことで衛兵まで使用するか。雑魚と見なすならば、貴様1人でくればいいのではないか?」

「混血の散り様ほど心地よいものはない」

 

まったく、笑えてくるほどに頑固だ。魔法を行使するための術式に細工したことさえ気付かないのか。これでは、何もしなくとも自爆してしまう。

 

「もっと《魔眼()》を凝らして深淵を覗いてみろ」

「あ、手元…」

 

相変わらず良い《魔眼()》をしている。言われるまで気付かなくとも、ヒントを与えた瞬間に理解している。真っ当な教育機関で勉学と修行に励めれば、あいつらのような皇族さえ軽く凌駕する存在になりえるかもしれない。

 

「魔法陣がっ!」

「暴走している!?」

「抑えきれない!」

「さっさと制御しなければ跡形もなく吹っ飛ぶぞ。それはそれで自業自得だが。自分自身の未熟さを呪うがいい」

 

己の力に自信を持つのは悪いことではない。自信がなければ何をするにしても失敗しか起こりえない。だが、自信の持ちすぎも身を滅ぼすことにもなる。

 

驕りは自分を酔わせ他人を侮る。本来であれば、勝てるはずの戦いにも負ける。それを相手のルール違反だと言い訳をする。幾度となくループを繰り返した先はもう破滅しかない。そんな存在を俺は嫌というほど見てきた。そのような存在ほど、周囲から蔑まれた視線を受けることはない。罪を犯すよりも重い枷を背負うことになる。僅かに数秒後、制御できなくなった術式が爆発した。

 

「「「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」

「うん、中々良い苦痛の悲鳴だ」

「悪趣味」

「ごめん」

 

非難めいた言葉と声音に謝罪しておく。傍から見れば頭の可笑しい行動なのは事実だ。

 

「…何を、した!?」

「ほう、両手が吹き飛んだはずだが?とっさに片手へ術式を移動させていたのか。褒美としてお前の質問に答えてやろう。術式の暴走は誰にでもできる単純なものだ。魔力とは〈根源〉から生み出されるもの。格が違う存在に対して、自由に干渉することが可能だ」

「…だとしても私は負けられぬ。皇族として、断じて雑種如きに負けるわけにはいかんのだ。特別に見せてやろう。皇族にしか伝えられぬ禁呪である!」

 

先程とは違う禍々しい魔力を含んだ術式だ。怪我をした状態での魔力行使は身体への負担が大きい。強力な魔法を発動させるならば尚更だ。過去には自らの命を削って、相手を攻撃する魔法があったという。それとはまた違う形だが、命をかけて使用する魔法は、使用者の覚悟を証明することを意味する。

 

「貴様と私の格の違いをこの魔法を以て思い知るがいい!くらえ《魔黒雷帝(ジラスド)》!」

 

リオルグ・インドゥの右手から放たれた紅黒い稲妻の魔法が、防御姿勢をまったくとっていない俺とミーシャを直撃する。土埃が舞う場所での呼吸は苦しい。もちろんその程度で身体に支障をきたすような鍛え方はしていないが。

 

「ミーシャ、大丈夫か?」

「少し煙っぽいケホケホ」

「そいつは結構」

「何!?」

 

防御魔法でミーシャを守ったのだが、どうやらミーシャはその事に何も言わなくとも気付いているようだ。とは言ったものの、イオルグ・インドゥの驚き様はややオーバーではないだろうか。

 

「お前は今、己と縁が深い二千年前に神々さえ殺した存在から絶大な魔力を借りた」

「それがどうした!」

「〈起源魔法〉。己と縁の深いものから魔力を借りることで、魔法の威力を数十倍から数百倍に引き上げるものだ。だが〈起源魔法〉は、〈起源〉そのものに影響を与えることができない。つまりその〈起源〉と深い関わりがある俺には効かない」

 

アノスから力を借りたのだ。その兄である俺ほどアノスと深い関わりがあるものはない。故に俺は〈起源〉そのものであるアノスと、まったく同じ存在という概念になる。

 

「魔法知識の未熟さが裏目に出たな。だが、命の危険すらある魔法を行使したのだ。その覚悟に免じてチャンスをやる。弟と共闘して俺に挑め。俺が納得できるだけの力を見せてみろ」

 

自分が骸骨にしてやるとのたまっておきながら、自身が消し炭にされた哀れなゼペス・インドゥを見やる。

 

「弟は死んでいる!共闘などできるわけないだろう!」

「蘇生することなど容易い。さあ、どうするリオルグ・インドゥとやら」

「断る!」

「ならば、俺が相手をしてやる。安心しろ俺は魔法を使わない。その代わりにこれ(・・)を使おう」

 

右手の親指と中指を見せつけながら、彼との距離1mまで接近する。これほどの近距離ならば、魔法より物理攻撃を行使するほうが速い。仲間を集めようとしているのか視線を周囲に走らせている。残念だが、衛兵は全員が術式の暴走でダウンしている。助けを乞うことはできない。

 

「バケモノめ!」

 

魔法以外にも習得しているらしく、拳や脚の攻撃が飛んでくる。皇族ならば魔法と剣の英才教育は必須科目だろう。それに加えて体術となると、リオルグ・インドゥはそれなりに才能に恵まれた存在なのかもしれない。それに比べてゼペス・インドゥはそれほど恵まれていない。魔法力は庶民より遥かに高いが、皇族としては中の下程度。家柄に縋っただけの言動。甘やかされて育ったことで、外界のことを紙の上だけの情報でしか知らない。

 

皇族という狭い社会で生きてきた彼らには、混血や庶民の生活がどのようなものなのか知る由もないだろう。攻撃の隙間を縫って、親指で力を込めた中指を弾き出す。

 

「プギャッ!」

「ふむ、この程度で死ぬか。肉体の強度は大したことないな。《蘇生(インガル)》」

 

所謂デコピンで消し飛んだリオルグ・インドゥを、自らの血を一滴垂らすことで蘇生させる。五体満足で復活したリオルグ・インドゥは、何が起こったのか理解できていないらしく、消し飛んだはずの自分の身体を触りまくっている。

 

「どうだ?殺されるという気分は」

「貴様、何をした!?」

「死んだお前を生き返らせた。お前たちが混血にしてきたことが、一体どのようなものなのかその身を以って知るがいい。死ぬ直前の恐怖と死ぬことの意味を」

「何をっギャッ!」

 

デコピンで消し飛ばし、《蘇生(インガル)》を繰り返す。基本的に魔法の行使は、使用者の魔力が底をつくまで使い放題だ。〈暴虐の魔王〉の兄として生きた俺の魔力量は、自分でさえ推し量ることさえできない。

 

蘇生(インガル)》だけなら、数万回は繰り返すのは余裕だろう。その間にリオルグ・インドゥの精神が崩壊するだろうが。死んでから3秒以内に蘇生させれば、リスクなしの完全蘇生が可能だ。アノスはこれを「3秒ルール」だと鉄板のジョークとして愛用していた。俺やアノスなら数分・数十分・数時間でもリスクなしで蘇生はできる。さすがに数日ともなると、理や摂理に反してくるので不可能だが。

 

「そうそう。《蘇生(インガル)》を使用して思い出したことがある」

「ピャッ!」

 

話を続ける間にも殺害と蘇生を繰り返す。

 

「《蘇生(インガル)》についての哲学だ」

「ナピャッ!」

「《蘇生(インガル)》で生き返った人間は元の人間なのか」

「アキャッ!」

「それとも全く同じ性格・記憶・身体を持った別人なのか。さて、お前はどっちだと思う?」

「ピキャッ!」

「《蘇生(インガル)》。答えるまで俺はお前を何度でも殺すぞ。貴様が弟と共に俺に立ち向かうというのなら時間をやる。生きたいのならば、死にたくないのならば弟の名を呼べ」

 

皇族であるやら血であるやらにこだわるから、大切なものを見失って自分までも殺す。自分の命ほど惜しいものはないだろう。皇族であるならば尚更だ。だが今ここにいるのは皇族のリオルグ・インドゥではない。ただ1人の魔族のリオルグ・インドゥである。

 

「地位でもなく血でもない。家族の立場として過ごした時間が日々が。かけがえのないものがお前らにもあったはずだ。呼べ、弟の名を!」

「あぁぁぁぁぁぁ、ゼペェェェス!」

 

リオルグ・インドゥの喉から絶叫が放たれる。生存本能からの叫びか。それとも家族としての記憶からの叫びか。俺にはその両方からの叫びのようにも感じた。

 

その声に耐えかねるかのように、衛兵たちが作り上げた《創造建築(アイリス)》が崩壊し始めた。どうやら俺はなかなかに遊びすぎたようだ。数分前に術式を破壊したことで、《創造建築(アイリス)》はその効力を失った。今の今まで何故か持ちこたえていたのは、奇跡に近い代物だ。

 

外部からの補強があったのか。それとも使用者たちの熟練度がそれなりに高かったからなのか。

 

「この時代の絆はこんなものか。殺したら死ぬ。魔法知識を問えば間違える」

 

あまりにも馬鹿丸出しな時代に転生してしまったものは仕方がない。この時代でもすべての魔族が。すべての種族が笑えるように変えていくのも悪くないだろう。2度目の修正だ。一瞬で全てを改善するのではない。1つの種族の内側から、少しずつ今の在り方を変えていく。

 

「まったく…世話の妬ける奴らだ」

 

焼死したゼペス・インドゥと発狂死したリオルグ・インドゥに対して《蘇生(インガル)》を施しながら、崩れてくる瓦礫からミーシャを守る。《創造建築(アイリス)》の崩壊後、蘇生してから何故か正座している2人に説教を喰らわせる。

 

「俺たちの子孫は、2000年の間にすっかり弱体化したようだな。このようでは、人間・精霊・神のどれかに攻められでもしたら即滅亡だろう。強くなれ。皇族が強くなれば、それに立ち向かう混血も強くなる。自信がついたらいつでも相手をしよう」

「…貴様らは一体、何者なのだ」

 

名乗る者でもないと言って消えるのもいいだろう。だが〈失われた魔法〉を使う俺たちのことを、何も知らずにいるのは適当ではない。

 

「よく訊け、愛しき子孫どもよ。お前たちの始祖は帰ってきた。その名はアノス・ヴォルディゴードだ」

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